●ようやく読んだ、「スターバト・マーテル」(ティツィアーノ・スカルパ著/河出書房新社)。ヴィヴァルディが登場する小説として、翻訳前から話題になっているのをチラッと見かけて気になっていた。読んでみてびっくり。こんなスタイルの小説だったとは。やや長めの中篇程度なのですぐに読める。
●舞台はあのピエタ養育院。ヴェネツィアにあって孤児たちの少女に音楽教育を施し、少女たちの何人かは楽団を作って演奏した。主人公はヴィヴァルディではなく、ピエタ養育院で特にヴァイオリンの才能に秀でた少女。少女の独白という形で養育院が描かれる。あるとき、養育院に新任の司祭がやってくる。彼は前任者とまったく違った驚くべき音楽を書いた……それがヴィヴァルディ。
●著者スカルパはかつてピエタ養育院の中にあったというヴェネツィアの病院で生まれている。そしてヴィヴァルディを敬愛するというのだから、書くべくして書かれた小説なんだろう。ただし、これは小説であって、伝記的な読み物ではまったくない。ヴィヴァルディよりも少女の物語で、特に前半は陰鬱なトーンで進む。手触りはグロテスクといってもいい。著者はよく承知の上で史実とは異なる設定を用いている(もちろんなんの問題もない、小説なんだから)。イタリア最高の文学賞ストレーガ賞を受賞したというのだが、評価のポイントはどのあたりだろう。虚実ないまぜとはいえ、養育院の少女を主人公にするというアイディアはおもしろいと思った。
Books: 2011年11月アーカイブ
November 30, 2011
「スターバト・マーテル」(ティツィアーノ・スカルパ著/河出書房新社)
November 14, 2011
プロコフィエフとラヴェル
●「プロコフィエフ自伝/随想集」にラヴェルのエピソードが紹介されている。プロコフィエフはラヴェルのことを高く買っていた。ラヴェルの訃報を聞いて、ラヴェルの音楽は「現実からかけ離れすぎているというまちがった思考のせいで」ソヴィエトではあまり演奏されないが、同時代でもっともすぐれた作曲家であったと讃えている。ラヴェルとは1920年に初めて会ったそうだ。ボレロや弦楽四重奏、パヴァーヌを例に挙げ、彼の死を悼んでいる。
●プロコフィエフはパリ・オペラ座でラヴェル自身が指揮したバレエ「ボレロ」に立ち会ったという。ラヴェルは決して指揮を得意としていないが、曲の最後まで見事にオーケストラをコントロールした。で、最後の和音が鳴って、ダンサーたちがピタッと固まった姿勢をとった後、なぜか幕が下りてこない。ラヴェルは平静を保とうとしたが、いらついていた。ダンサーたちはじっと同じ姿勢をとり続けている。突然、ラヴェルは譜面台の上にあったボタンを押した。すると幕が下りた。ラヴェルがボタンを押し忘れていただけだった……。