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Books: 2013年10月アーカイブ

October 30, 2013

「グラゼニ」(森高夕次、アダチケイジ著)

「グラゼニ」(森高夕次、アダチケイジ著)●この「グラゼニ」っていうマンガは猛烈におもしろいっすね。日頃野球も見ないしマンガ読みでもないのだが、これは第1巻から全部読んでいる。ちょうど最新刊第12巻が出たところ。
●一応、野球マンガということになるんだろうけど、より正しくは野球業マンガというべきか。普通の野球マンガとはぜんぜん違う。高卒プロ入り8年目の中継ぎ投手という地味な主人公を設定し、野球で生計を立てる人々を描く。トップレベルの選手よりも、一軍と二軍を往復するような選手や、来季の契約があるかどうかわからない選手、引退して懸命に「次の仕事」に取り組む元選手、あと一歩でプロに入れなかった人、入ってもすぐに辞めた人、メディアで働く人たちに光が当てられた職業人マンガ。厳しい世界が描かれているんだけど、タッチは軽快で、笑いもあり、楽しく読めてしまう。取材力の高さといい、ストーリーテリングの巧みさといい、秀逸。
●プロスポーツの世界を仰ぎ見る感じもある一方、登場人物たちへの共感度も高い。これって自営業マンガというかフリーランスマンガ、あるいは有期雇用マンガでもあるんすよね。来年の仕事が約束されていないっていうのはこういうことなんだよなあというリアリズム満載。最新刊では戦力外になったところを拾ってもらった松浪っていう投手が出てくるんだけど、力が衰えてきて二軍にいるところで、幼かった息子がだんだん野球がわかる年齢にまで育ってきて「僕のお父さん、プロ野球選手」という意識に目覚めるあたりの話とか、実にいい。

October 23, 2013

「現代のピアニスト30 アリアと変奏」 (青澤隆明著/ちくま新書)

現代のピアニスト30 アリアと変奏●「現代のピアニスト30 アリアと変奏」 (青澤隆明著/ちくま新書)をむさぼるように読んでいる。最近、こんなに読みごたえのある演奏家論を手にした記憶がない。取りあげられているピアニストは30人。グールドは例外だが、あとは現役のピアニストたちだ。ポリーニ、アルゲリッチから、ユジャ・ワン、ポール・ルイス、エマール、シュタイアーまで。しかし、これはよくある「ガイド本」でも「入門書」でもないんすよ。そうではなく、真正面から著者が挑んだ評論集。こんな企画が今の新書で成立するなんて。そのピアニストを聴いたことがない人へのガイド機能なんて、潔く放棄されている。30人の内、大半は自分も多少なりとも関心を寄せるピアニストなので、実に興味深い(特に最近の人)。ああ、この人の音楽はこんな風に聴くことができるんだ!と発見に次ぐ発見がある。触発される。
●これまでに著者がこれらのピアニストに対して行ってきたインタビューや会話などの取材体験も大いに生かされているのだが(取材力の高さがはっきり伝わってくる)、しかし演奏家の肉声は必要に応じて適切に散りばめられているにとどまっていて、このあたりのバランスは絶妙。つまり、肉声は貴重だけど、でも普通のインタビュー集だったら本としてはぜんぜんおもしろくないわけで。で、最大の魅力は著者の文体。評論の価値の少なくとも半分は文体にあるとワタシは固く信じているので、心地よい修辞に彩られた青澤さんならではの文体を存分に味わっている。
●ちなみにワタシが著者の青澤さんと初めて話をしたのは、ナントの「ラ・フォル・ジュルネ」を訪れたとき。その際の取材経験も本書のブルーノ・リグットの項で生かされている。で、そこで知ったんだけど、氏の名前は「隆明」と書いて「たかあきら」って読むっていうんすよ!(聞いてないのに、なぜか本人がカミングアウトしてくれた)。ゴメン、ずっと「たかあき」だと思ってた。

October 18, 2013

「失踪日記2 アル中病棟」(吾妻ひでお著/イースト・プレス)

失踪日記2 アル中病棟●読んでいて魂が震えた。読み終えて、今もう一度読み返している。「失踪日記2 アル中病棟」(吾妻ひでお著/イースト・プレス)。前作「失踪日記」も傑作(などと一言では片づけられない問題作)だったが、今回は著者のアルコール依存症入院治療日記が描かれる、ギャグマンガとして。どう考えてもギャグにならないような実体験がギャグとして描かれるというのが壮絶。事実、笑えるんすよ。
●入院患者たちのエピソードが秀逸。特に心に残ったのは、小さなエピソードなんだけど、「床屋」と「歯医者」の話(ネタは割りません)。患者さんたちはみんな禁断症状で苦しみながら「酒!酒!」ってのた打ち回っているのかと思えば、そうではない。むしろ、平然としながら、どこかが普通じゃない。迫力を感じる。
●あと、絵がスゴい。濃密。著者はアルコール依存症で幻覚を見るところまで行ってしまったんだけど、それが吾妻ひでおの絵柄で描かれている。怖い。しかもどのコマも背景までしっかり描きこまれていて、なおかつ一コマあたりの登場人物数が多い。思わず絵を鑑賞してしまう。
●ワタシはお酒をまったく飲まないのに、ぜんぜん他人事のような気がしない。この話にAAの会(アルコホーリクス・アノニマス)とか断酒会の話が出てくるけど、AAの会はスティーヴン・キングの小説とか読んでるとしょっちゅう出てくるから「あ、やっぱり日本でも同じようにやってるんだ」とか思ってしまった。自分だったらAAの会に出席してどんな話をするかなあとか、いつも想像してたくらいなので。体質的に飲めないから飲まないけど、飲めたら自分もあっという間にこんな感じになったんじゃないの、とか思うもの。

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