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Books: 2014年5月アーカイブ

May 15, 2014

「オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識」(長岡英著/アルテスパブリッシング)

「オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識」●入門書とは「なんにも知らない人に初歩の初歩」を教える本ではない。本当になんにも知らない人は、その本を決して手に取ってくれない。そうではなく、「すでに興味を十分持っていてその分野にある程度親しんでいる人に、知っておくべきことを教えてくれる」のがいい入門書。その意味で、これは最良のオーケストラ音楽の入門書だと思う。「オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識」(長岡英著/アルテスパブリッシング)という書名ではあるけど、オケ奏者でなくとも非常にためになる一冊。
●ここで教えてくれる「クラシックの常識」がなにかというと、帯に「シンフォニーは開幕ベルの代わりだった!?」という惹句が載っていることからも察せられるように、実は音楽史の基礎知識。オケの入門書である以上に音楽史の入門書なのだ。交響曲がコンサートの最重要ジャンルになったのはそう昔の話ではなくて、かつては演奏会の開幕ベルのような前座の演目で、オペラ・アリアや協奏曲のほうが主役だったこと、そしてやがて時代とともに交響曲中心のプログラムが組まれるようになったこと等々が、読み進めるうちにするっと腑に落ちるように書かれている。古典派初期にはフルートはオーボエ奏者が持ち替えで演奏していたとか、ハイドン時代のエステルハージ家のオーケストラでファゴット奏者がティンパニやヴィオラも担当したとか、そういうのって単なる豆知識じゃないんすよね。当時、音楽作品を演奏するという職務がどんな性格のものだったのかについて、歴史的な視点を与えてくれる。
●ひとつひとつの章は短く簡潔で、すらすら読める。文体は「です・ます」。このわかりやすさは驚異的。平易に書かれているんだけど、中身は本格派。クリスチャーノ・ロナウドの大腿四頭筋級の力強さでオススメしたい。

May 12, 2014

グラゼニ 第14巻 (森高夕次、アダチケイジ著)

「グラゼニ」14(森高夕次、アダチケイジ著)●すっかりハマってしまった「グラゼニ」(森高夕次、アダチケイジ著)の最新刊。もう第14巻にもなるというのに、新たな展開が見えてきて、だれるどころかますますおもしろくなっている。野球マンガでありながら、試合ではなく、「職業としての野球選手」について描くというそもそものアイディアの秀逸さが、この段階になっても効いている。スタート地点に立つために並はずれた才能が求められるにもかかわらず、超絶格差があってほとんどの人は数年でクビになり、しかも辞めた後の展望がまるで見えない業種という、特殊自営業者の世界の物語として読める。
●ところで、これは自分が野球を見ないから感じることなのかもしれないんだけど、投手の成績を語る上で「何勝何敗何セーブ」といった数字が使われるのが納得できない。勝ち星は味方打線の援護や対戦投手の質に大きく左右されるし、「勝ち投手の権利」の定義もスマートには見えない。また、先発投手と救援投手を同じ指標で比較できない。これに比べると「防御率」はまだよさそうだが、自責点についての定義がもうひとつすっきりしないし、味方の野手の守備力に左右されてしまうのもどうかと思う。
●で、知ったのがDIPS(Defense Independent Pitching Statistics)という考え方。守備の影響から独立した投手の成績を評価するために、奪三振、与四球、被本塁打という野手とは無関係の数値から指標を作ろうというアイディアはなかなかいい。特にFIP(Fielding Independent Pitching)という指標はこれらの数値から防御率相当の数値を算出する方法として、実用性が高そうだ。
●さらにこの考え方を一歩進めたtERA(真の防御率)という指標もあって、これがもっとも精度が高そうに思える。本塁打を外野フライに数えてしまうという考え方がいい(一見ラディカルだが、常に外野フライの一定割合が本塁打になるものとみなしてしまう。これなら本拠地球場のサイズの大小が問題にならない)。ただ、tERAの算出のためには、打球をゴロ、内野フライ、外野フライ、ライナーで区別した記録が必要になるというのが煩雑で、理屈はいいんだけど実用性ではやや難ありか。

May 1, 2014

「運命と呼ばないで~ベートーヴェン4コマ劇場」(NAXOS JAPAN、IKE著/学研パブリッシング)

運命と呼ばないで~ベートーヴェン4コマ劇場●これは名作って呼んでいいんじゃないかな。Naxosのウェブサイトで連載されていた漫画が「運命と呼ばないで~ベートーヴェン4コマ劇場」(NAXOS JAPAN、IKE著/学研パブリッシング)として書籍化された。大変おもしろくて、クォリティが高い。ベートーヴェンの物語ではあるんだけど、弟子のフェルディナント・リースに着目して、彼の視点で描くという基本設定が秀逸。リースの「伝記的覚書」他の文献をもとに史実とギャグをバランスよく交えて物語が進められる。登場人物のキャラクター造形も見事で、「現役JK(女子貴族)☆ジュリエッタ」ことジュリエッタ・グイチャルディ嬢がJK口調(?)でしゃべるのとか、むちゃくちゃ笑える。チェルニー少年のこまっしゃれくた感じもホントに雰囲気出てるなあ。背景にあるベートーヴェンが生きた時代、つまり音楽家が宮廷の使用人から自立する芸術家になりつつある時代というのが効いている。4コマのギャグ漫画っていう形態で、これだけストーリー性のあるものを描けるというのも感動。
●実はウェブでの連載時は最初の数回しか読んでいなかったんだけど、書籍になって通して読んで初めてこの連載がどれだけ周到に作られているのかがわかった。あと、これだけ作家性の強い作品の原作者(ネーム担当者)がNAXOS JAPANっていう法人になってるところもいろんな意味でインパクトあり。

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