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Books: 2014年11月アーカイブ

November 27, 2014

「戦術リストランテIII  ポスト・バルセロナの新たな潮流」(西部謙司著/ソル・メディア)

戦術リストランテIII●今のサッカー界の最先端を行く戦術をざっと一望できる一冊、「戦術リストランテIII  ポスト・バルセロナの新たな潮流」(西部謙司著/ソル・メディア)。良書。これを読むと、猛烈にサッカーを見たくなる。ほぼ一冊を費やしてテーマとなっているのは、近年のバルセロナが見せた究極のポゼッション・サッカーの次に来るのはなにか、という話。
●ていうか、あのウイイレ名人みたいな美しすぎるバルセロナのサッカーに終焉が来るなんて、そんな現実があるんだろうか。みんな「ポスト・バルセロナ」って言ってるけど、昨シーズンだって最後の一試合で勝ってたらリーグ優勝してたんすよね? それでもサイクルの終わりなんて言われちゃうのか。こんなに偶然性が強く支配するスポーツで、1シーズンでの勝点3なんて誤差みたいなものでは?……と思わなくもないが、「バルサの次」になにが来るかっていうテーマは抗しがたく魅力的だ。
●で、いくつかポスト・バルセロナの類型が挙げられているんだけど、そのひとつは超バルセロナ的なスタイルということで、バイエルン・ミュンヘン、パリ・サンジェルマン、そして対照的なカウンターアタック進化形が、アトレティコ・マドリッド、レアル・マドリッド、ボルシア・ドルトムント。3バックの復権についてもしっかりとページが割かれている。そのボルシア・ドルトムントに香川が復帰した今季、ポスト・バルセロナを目指すどころか降格ラインで苦戦しているのが興味深い。
●本書では現代サッカーの戦術の源流として、ポゼッションを極めるクライフ型のバルセロナと、プレッシング+ラインコントロール+コンパクトネスのアリゴ・サッキ型のACミランを挙げている。後者の進化形が今の高い位置からのプレス+ショートカウンター+ハードワークのサッカーにつながっているわけで、あらためてサッキの革新性を痛感する。両者の違いが端的にあらわれるのは、パックパスに対する考え方。クライフ型ではポゼッションが優先なので、前が詰まっていたら後ろにいったん下げるのが自然だが、サッキ型にはバックパスは自ら陣地を失う不利な選択といった価値観がある。現実の試合ではそうはいってもバックパスも少なくないと思うんだけど、サッカーを「ボールをつないでゴールに入れるゲーム」と考えるか、「ボールをより前に運ぶ陣取りゲーム」だと考えるかの違いは大きい。本質的には後者だと思うんだけど、夢は前者の側にあって、しかもその夢を現実化している(していた?)のがバルセロナ。そういう意味では「ポスト・バルセロナ」時代というのは、甘美な夢から目覚める時代といえるのかも。

November 5, 2014

「Jリーグの戦術はガラパゴスか最先端か」(西部謙司著/東邦出版)

●自分がサッカーを見始めたときにいちばん魅力を感じたのは「ゴールが生まれるまでの型がないところ」だった(ホントはあるかもしれないけど)。意図がぴたりとかみ合って複雑な手順をたどってようやく生まれる場合もあれば、ロングパス一本で簡単に訪れる決定機もある。その「型がないこと」を、今の自分の言い方でいえば「戦術が多様である」っていうことになるんだと思う。
Jリーグの戦術はガラパゴスか最先端か●で、そんなサッカーの戦術のあれこれをJリーグを例に教えてくれるのが、「Jリーグの戦術はガラパゴスか最先端か」(西部謙司著/東邦出版)。具体例満載で、読みやすくておもしろい。というか、おもしろい戦術本って、「読み物」になるんすよね。戦術本にはアマチュア指導者向けの解説書という実需もあると思うんだけど、そっちのほうではなくて。ペトロヴィッチが広島と浦和で作りあげたスタイルがいかに世界でもまれに見るユニークなものなのか。オシムがJEFで成し遂げたのはなんだったのか。結果がぜんぜん出なくて忘れ去られてしまってるけどバルセロナからやってきたレシャックが横浜フリューゲルスでやろうとしていたことがどれだけ先進的だったのか。史上最強の磐田のN-BOXとはなんだったのか。これは戦術で振り返るJリーグ史でもある。
●目ウロコだったのは、Jリーグは「戦術的に冒険しやすい環境なのかも」という指摘。個の力で圧倒できるビッグクラブなら特異な戦術を敢行するより選手の能力で戦ったほうが安全に勝てるけど、どんぐりの背比べみたいなJリーグなら独自のアイディアによる戦術で戦う価値がある、と。あと、「ゲームにおいて戦術の占める割合はせいぜい2、3割」という指摘もまったく同感で、戦術的な成熟度を深めたチームがほとんど個の力だけで戦ってるみたいなチームにコロッと負けたりするのもサッカー。この「せいぜい2、3割」っていう配分の絶妙さが、サッカーという競技の魅力の源泉なんじゃないかとすら思う。

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