●なぜか竹書房から刊行されたブライアン・オールディスの「寄港地のない船」。久々にSFらしいSFを読みたくなって、手に取ってみた。1958年の作品ながら、ようやく邦訳が出たということのよう。舞台となるのは世代宇宙船。つまり、何百年もかかる恒星間宇宙旅行を実現するために、自給自足可能な巨大宇宙船を建造して、乗組員たちはそのなかで何世代もかけて生き続けて、最初の乗組員の子孫たちが目的地に到達するという宇宙船。先例としてはハインラインの古典「宇宙の孤児」がある。
●しかし、長い年月を経て、乗組員たちはすでに自分たちが宇宙船の乗組員たちであることを忘却し、テクノロジーや科学知識もすっかり失い、半ば原始的な生活を送っている。宇宙船の内部にいくつかの部族や種族が共存し、どうやらなんらかの進化と適応が船内に起きていることが察せられるが、その全貌はわからない。主人公となる狩人の若者は自らの居住区を離れ、仲間たちとともに船内の未知の領域へと旅立ち、少しずつ真実へと近づいてゆく……。
●なにしろ半世紀以上前の作品なので、さすがに古びているし、粗削りな印象も受ける。読者対象も若年層向け。しかし根幹となるアイディアは秀逸で、ミステリー仕立てでたどりつく真相がなかなか味わい深い。あと船内に猛烈な勢いで繁殖する植物という設定が、後の「地球の長い午後」を連想させる。「ジャングルに覆われた宇宙船」というイメージの喚起力が最大の魅力か。
Books: 2015年7月アーカイブ
July 27, 2015
「寄港地のない船」(ブライアン・オールディス/竹書房文庫)
July 1, 2015
「美しき廃墟」(ジェス・ウォルター著)
●名作の予感がして手に取った一冊。「美しき廃墟」(ジェス・ウォルター著/岩波書店)。実在のハリウッド映画を軸としながら、1960年代のイタリアと現代のアメリカを舞台に、多彩な登場人物たちによる大小さまざまの物語が交錯する。なにもない辺鄙な農村にホテル経営の夢を見る男、運命に翻弄される新人女優、野心家の敏腕プロデューサー等々。60年代と現代を行ったり来たりしながら、読み進めるうちに次第に過去と現在がつながってゆく。大きなテーマとなっているのは、時の移ろいということになるだろうか。若さがもつ輝きや純粋さというのは、後になって振り返ってみて初めて気づくものでもあるが、同時にその小ささ、頼りなさも際立つというか。切なくて、可笑しい。