●チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」のE.T.A.ホフマンによる原作は、これまでにもたくさんの翻訳があった。以前、当欄で河出文庫の種村季弘訳「くるみ割り人形とねずみの王様」を紹介したことがあったけど、大人向けで手軽に入手可能なものがイマイチないのが惜しいなあ……と思っていたら、光文社古典文庫から出ていた。「くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女」 (大島かおり訳/光文社古典新訳文庫)。しかもKindle版だと現在セール中で半額で購入可。すばらしい。
●以前も書いたけど、チャイコフスキーのバレエを見たことがあっても、これがどういう話か説明しようとすると、いまひとつピンと来ないんじゃないだろうか。原作を読むと、くるみ割り人形なる登場人物の前史がわかる。主人公の名はマリー。バレエの主人公であるクララという名は、原作では別の名前として登場する。「あれは全部主人公の夢でした」という夢オチ的な展開は原作でもあるのだが、その夢から覚めた後にもう一息、話が続くんすよね。
----------
●本日で仕事納めという方も多かったはず。当ブログも年末年始の間は不定期随時更新モードで。
Books: 2015年12月アーカイブ
December 28, 2015
「くるみ割り人形とねずみの王さま」
December 15, 2015
「ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集」(村上春樹著)
●なんでラオスなの?と首をかしげつつも、村上春樹の紀行文ならおもしろくないはずがないだろうとゲット、「ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集」(村上春樹著/文藝春秋)。別にラオスだけを訪ねているわけではなく、アイスランドやギリシャ、アメリカ、フィンランド、さらには熊本までも含めた紀行文集。それぞれの初出媒体もまちまちで、トーンの違いはそれなりにある。かつての「遠い太鼓」「やがて哀しき外国語」「辺境・近境」みたいな海外滞在本とも手触りはかなり違っていて、「これからどこへ行くのか自分がどうなるのかわからない旅」と「年輪を重ねて過去を振り返る旅」の違いというか。なので先の見えない感は皆無、ゆとりのある旅。これはこれでおもしろい。
●音楽ファンにとって興味深いのはフィンランドへの旅で、シベリウスが暮らしたアイノラ荘を訪れるくだりなんじゃないだろうか。シベリウスは92歳で死ぬまで(1957年のことだが)、この家に水道設備を入れなかったという。工事を始めるとうるさくて作曲につかえる、井戸があればそれでいい、というのだが、家族はずいぶん閉口したはず。シベリウスが亡くなると、残された家族はただちに水道設備を導入したとか。水道がない間、トイレはどんなふうになってたんすかね。先日のヴァンスカ指揮読響公演で、シベリウス後期作品で休憩中の男子トイレに発生するシベリウス行列はブルックナー行列をも凌駕するという発見をしたばかりだったが、この話を読んでまたシベリウスとトイレの関係について思いを巡らせることになってしまった。たまたまシベリウス・イヤーに読めてよかった(?)。