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Books: 2018年5月アーカイブ

May 30, 2018

「ゴールデンゴールド」(堀尾省太著/講談社)

●Kindleというかamazonのレコメンド機能がスゴいと思うのは、普段、リアル書店であれば絶対に出会わないようなタイプでありながら、きっちり好みの本を見つけ出してくるところ。自分の場合は、長年書店のコミック売り場に近づきもしなかったのに、しつこくamazonで勧められて読んでしまったのがこの「ゴールデンゴールド」(堀尾省太著/講談社)。おもしろい。コミカルなタッチで描かれた一種のホラー。瀬戸内の島で暮らす少女が、あるとき「福の神」のような置物を拾う。これに願いをかけたことから、異形の「福の神」は命と意思を持って動き出す。この「福の神」が視覚的に不気味で怖いんだけど、こいつがなにをするかというと、人の願いをかなえるんすよ。さびれていた町が、好景気に沸き、住人たちが儲かる。そこがじわじわと怖い。願望を満たす恐怖というのが秀逸だと思った。
●最近、やっと第4巻が出たところ。約半年ごとに1冊のペースなので、続きが待ち遠しい。

May 23, 2018

「生か、死か」(マイケル・ロボサム著/早川書房)

刑務所
●先日、衝撃的な事件があった。今治市の松山刑務所大井造船作業場から受刑者が脱走したという、あの事件。脱走した囚人が逃げ回っているうちは、遠方でもありそれほど気にしていなかったが、捕まった後に明らかになった脱走理由に戦慄した。「刑務所での人間関係がイヤになった」。刑務所でも人間関係に悩まされる。これほど、悪事を働いてはいけないと固く心に誓わせる一言もない。あと半年で出所できたのに、尾道市の向島から泳いで本州に渡るという逃走劇。あれ、これって似たようなミステリがなかったっけ?
●それはずばり、マイケル・ロボサム著の「生か、死か」(早川書房)。十年の刑に服し、刑務所でも酷い目にあったらしい主人公が、あと一日で出所というところで脱獄する。泳いで逃げる場面も出てくる。うーむ、似てる。もっとも、主人公の人間像は松山刑務所の事件とはだいぶ違っていて(たぶん)、なにせ主人公はタフでクールで賢い信念の人であり、深い思慮のもとに出所日前日に脱獄を敢行したんである。少しカッコよすぎるかなとは思うが、人物描写も秀逸。スティーヴン・キング絶賛。といってもこの惹句には悪い予感しかしないって人もいるか。
●しかし脱獄モノの名作をひとつ挙げるとするならば、そのスティーヴン・キングの中篇「刑務所のリタ・ヘイワース」を迷わず選ぶ(「ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編」収録)。この小説は後に映画「ショーシャンクの空に」になった。あの映画も悪くないのだが(特に「フィガロの結婚」からの一曲を囚人たちに聞かせる場面がいい)、惜しいのは結末が大幅に甘口になってしまっているところ。原作には忘れがたい余韻がある。

May 10, 2018

「そしてミランダを殺す」(ピーター・スワンソン著/創元推理文庫)

●最近読んだミステリのなかでも、とりわけ感心したのが、ピーター・スワンソンの「そしてミランダを殺す」(創元推理文庫)。実に手際よく、鮮やかなページターナー。といっても、なにか驚くべきような大ネタがあるとか、重厚な読みごたえがあるというのではまったくない。むしろ逆。できのいい海外ドラマをカウチで寝そべって眺めているような気安さがあって、なにも身構えずに楽しめるのが吉。ぜんぜん話は似てないけど、たとえるなら「刑事コロンボ」の傑作回くらいの感じ。
●男が空港でたまたま会った美女と殺人計画を練るというのが事の発端で、男女4人の思惑が交錯して、女が浮気して、男も浮気を企んで……って、あれ、なんだか暗黒の「コジ・ファン・トゥッテ」みたいじゃないの。これってシンクロニシティ?
●話の閉じ方がうまい。絶妙。

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