●先日、アンソニー・ホロヴィッツの「シャーロック・ホームズ 絹の家」を読んだら、コナン・ドイルの原典を無性に読みたくなった。で、シャーロック・ホームズ・シリーズで最初に刊行された短篇集「シャーロック・ホームズの冒険」(コナン・ドイル著/石田文子訳/角川文庫)を読むことに。この短篇集が書かれたのは19世紀末。すでに著作権は切れていることもあって、日本語訳は新旧さまざまな訳で出版されている。どれにしようか迷った末に、せっかくなのでなるべく新しい訳にしようと思って、この石田文子訳を選んだ(表紙も今風だし)。
●古い物語なのに、日本語は新しい。すると、どうなるか。まず、とても読みやすい。かび臭さが皆無で、すきっとリフレッシュされたシャーロック・ホームズに再会。ホームズはいつも辻馬車とか汽車で移動していて、急ぎの要件は電報で伝えるような社会に生きている。19世紀末の時代が描かれているけど、言葉はまったく古くない。これってなにかに似てるなと思い当たったのは、名作オペラの新演出。中身は古いのに、演出のおかげで最近作られた物語として味わえる。
●英語圏のひとたちはシャーロック・ホームズを100年前の言葉でしか読めないのに、日本語圏のわたしたちは新旧さまざまな日本語訳で読むことができる。何パターンもの「シャーロック・ホームズの口調」があるという不思議な豊かさ。
Books: 2019年3月アーカイブ
March 18, 2019
「シャーロック・ホームズの冒険」(コナン・ドイル著/石田文子訳/角川文庫)
March 13, 2019
「シュトックハウゼンのすべて」(松平敬著/アルテスパブリッシング)
●やっと読み始めた、話題沸騰の一冊、「シュトックハウゼンのすべて」(松平敬著/アルテスパブリッシング)。先日の「エドガー・ヴァレーズ 孤独な射手の肖像」に続いて、また強力な音楽書が登場した。シュトックハウゼンが残したほぼ全作品を作曲順にたどるという作品解説本の体裁をとりつつも、合間合間に伝記的な内容もさしはさまれていて、これが実に興味深い。また、冒頭には第0章として、シュトックハウゼンの創作史概観が記されており、これがコンパクトなシュトックハウゼン入門者向けガイドになっているという親切設計。なので、読み物として前から順に読んでいくこともできるし、興味のある作品を思うがままに選んで、読みたいところから読むこともできる。シュトックハウゼン作品について網羅的に解説が読めるという圧倒的な心強さ。
●著者の松平敬さんは、先日の新国立劇場「紫苑物語」の平太役で超人的な歌唱を聴かせてくれたばかりだが、歌手としての活動のかたわら、よもやこんな力作が書き進められていたとは。シュトックハウゼンと間近に接し、指導を受けたこの著者にしか書けない入魂の一冊。