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Books: 2019年5月アーカイブ

May 17, 2019

「モリアーティ」(アンソニー・ホロヴィッツ著/角川文庫)

●ようやく読んだ、アンソニー・ホロヴィッツ著の「モリアーティ」。モリアーティとはシャーロック・ホームズの宿敵として登場する悪の親玉。「最後の事件」でライヘンバッハの滝にホームズとともに転落する。実はオリジナルの「シャーロック・ホームズ・シリーズ」では、モリアーティは唐突に出てきて、あっという間に消える。というのも、このキャラクターは、もうホームズ・シリーズを書きたくなくなった作者コナン・ドイルがホームズを死なせるためにひねり出した人物。まったく投げやりに出てきたキャラなんである。ところが、コナン・ドイルはホームズ人気に負け、「実はホームズは生きていた」ということにして、結局シリーズの続きを書いてしまう。一方、モリアーティは原典での言及が少ないことがかえって想像力を刺激するのか、後世の人々が再創造したホームズ・シリーズで大活躍している。このホロヴィッツ著の「モリアーティ」もそんな一冊。ストーリーは「最後の事件」の直後から始まる。なんと、コナン・ドイル財団公認作品だ。
●ワタシは同じ著者の「カササギ殺人事件」に感銘を受けて、この「モリアーティ」を読もうと思ったのだが、だったら原典となるホームズも読んでみようとしたところ、すっかり原典のほうにハマって全部読むことになってしまったんである。やたらと長い迂回路を通って、やっと本来の目的地にやってきた。
●で、これが期待にたがわぬ傑作。「カササギ殺人事件」と同様にアイディア豊富で、構成は巧緻。さらに原典に登場するスコットランドヤードの警部たちが勢ぞろいするというサービス精神も吉。もちろん、原典を読んでいなくても楽しめる。ただし、amazonのレビューは一切読まないことを強く、強くお勧めする。

May 9, 2019

シャーロック・ホームズとヴァイオリン

●当欄でなんどか話題にしているが、しばらく前からコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズを新訳でちびちびと読み進めている。ドイルが書いた「正典」は案外少なく、短篇集が5冊、長篇が4冊しかない。本領が発揮されているのは短篇集のほうで、長篇はむしろ番外編的な雰囲気がある。長篇でもたしかにホームズは登場するのだが、むしろサイドストーリーのほうが主になるパターンが多いので。たとえば、「緋色の研究」では、荒野で遭難した男とその養女が、初期のモルモン教徒の集団に救われるも、年月を経て今度はその集団から逃れられなくなるというストーリーが描かれる。一夫多妻制のモルモン教が支配するソルトレイクシティで起きた悲劇が話の柱であって、ホームズとワトソンははるか遠くのロンドンで幕引き役を引き受けたに過ぎない。
●ところで、この「緋色の研究」にはホームズがヴァイオリンについて蘊蓄を傾けるシーンが出てくる。

ホームズはひどく上機嫌で、クレモナ製のヴァイオリンの話、特にストラディヴァリウスとアマティの違いなどについて、とめどもなくしゃべり続けていた。一方わたしのほうは、うっとうしい天気と、陰鬱な事件現場に向かっているせいですっかり気が滅入り、黙りこくっていた。(日暮雅通訳/光文社文庫)

ワトソンにとってはストラディヴァリウスとアマティの違いなど、まったくどうでもいい話にちがいない。一方、ホームズがこの話題に熱心なのは当然のことである。なにしろホームズのヴァイオリンはストラディヴァリウスなのだ。
●とうわけで、ホームズとヴァイオリンの関係について、ONTOMOの連載で「シャーロック・ホームズの音楽帳 その1〈ヴァイオリン篇〉」として書いた。ホームズがどうやってストラディヴァリウスを手に入れたのか、気になる方はご笑覧ください。

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