●ようやく読んだ、話題沸騰中の中国発本格SF小説「三体」(劉慈欣著/早川書房)。ふだんならまずSFなんて読まないような人も夢中になるという世界的な大ベストセラーで、オバマ元大統領も大絶賛とか。なにしろ、原文は中国語なのに、英訳版がヒューゴー賞長篇部門を受賞したというからびっくり。まさかアジア圏の小説が、本家本元のヒューゴー賞をとるとは。舞台は中国だし、登場人物も中国人というエンタテインメントが、アメリカでここまで受け入れられるということがスゴい。これが三部作の第一作なんだそうだが、三部作合わせて本国版は合計2100万部、英訳版が100万部以上の売上を記録しているそう。
●実は読み始めはしんどかった。なにしろ文化大革命によって科学者が粛清されたり、体制側に寝返ったりという痛ましい場面で始まるので、「そういうのを読みたいわけじゃなかったんだけどなー」と頭を抱えていたのだが、この場面を過ぎると、一気に本格SFになる。いまどき英語圏ではまず書かれないような古典的なテイストのSFで、あるところは著者が敬愛するクラークを思わせるし、あるところは奇想天外なトンデモ系の話になっている。題名は天体力学における「三体問題」に由来。三重星系における文明が出てくる。アイディア豊富で、大風呂敷の広げ方が痛快。音楽にたとえるなら、このご時世に堂々たるロマン派の大交響曲が発表されて、しかもそれがよくできていた、みたいな感じか(というと佐村河内守みたいだが、実際遠くはない)。
●ひとつ大爆笑したのが、小説内に登場するVRゲーム「三体」における、「人力コンピューター」。よくこんなことを思いつくなと思った。
●登場人物の多くは中国のエリート科学者なので、人名など日本人には読みづらいかもしれないが、読んでいる内に特に気にならなくなる。あまりあらすじを知らずに読んだほうがおもしろいはず。
Books: 2019年8月アーカイブ
「三体」(劉慈欣著/早川書房)
「救世主監督 片野坂知宏」(ひぐらしひなつ著/内外出版社)
●いまJリーグで気になる監督と言ったら、なんといっても大分トリニータの片野坂知宏監督。選手時代、広島でサイドバックを務めていたあの片野坂が、今や大分をJ3からJ2へ、さらにJ1へとステップアップさせた名将となってJの表舞台に帰ってきた。監督になって成功した元Jリーガーはそれなりにいるが、ここまでチーム力を引き上げた人はほかにいない。そして、J1にあがってきても上位に留まっている。なにより、マリノスがコテンパにやられた。ポステコグルー監督率いるラディカルなハイライン戦術が話題のマリノスだが、このマリノスを戦術面で完膚なきまでに叩きのめしたのが片野坂監督の大分。もう、ウチの監督になってください!って拝みたくなった。
●で、「救世主監督 片野坂知宏」(ひぐらしひなつ著/内外出版社)は、そんな片野坂監督を丹念に追い続ける著者による一冊。大分トリニータのファンにとってはこんなに楽しめる本はないと思うが、よそのファンにとっても大変興味深い。新しい本なので、件のマリノス戦についても書かれており、大分側からの視点を読めるのは貴重。だいたいワタシらのような一般ファンは、自分たちのチームはよく知っていても、相手チームの試合は見ていないから、日頃どういう戦い方をして、個々の選手がどんな特徴を持っているかはわからないもの。片野坂監督の戦術家としての姿だけではなく、選手たちを鼓舞する熱い姿など、さまざまな面が描かれていて、人間的な魅力が伝わってくる。ますますマリノスに来てほしくなる。
●フォーメーションについていえば、片野坂監督の出発点は師匠筋のミハイロ・ペトロヴィッチが用いる可変システム(いわゆるミシャ式)。3-4-2-1をベースとしながら、攻撃時にはダブルボランチの一枚がディフェンスラインに入って4-1-4-1になり、守備時には両ウィングバックがディフェンスラインに入って5-4-1で守備ブロックを形成する。攻撃は1トップ2シャドーの形。従来型の3バックは3人ともがセンターバックだが、このシステムでは攻撃時に3バックの選手が両サイドに張り出すのである程度攻撃的なプレイも求められることになる。2枚のボランチには屈強なタイプと組み立てができるタイプが求められることになるんだと思う。自分にとってはなじみの薄い戦い方なのだが、ペトロヴィッチ、森保一、片野坂知宏らが成功例。ただニッポン代表の森保監督は代表の基本形ともいえる4-2-3-1(あるいは4-3-3)ベース。ミシャ式は約束事が多そうで、練習時間の短い代表で採用するのは厳しそう。
●大分のエースストライカー、藤本憲明はJ3で2年連続得点王をとって、そこからJ2時代の大分に移籍して、今季はJ1で開幕戦に鹿島から2ゴールを奪うなど大活躍している。実はJ3の鹿児島に入る前はJFLの佐川印刷に所属していたのだとか。JFLはアマチュアなので、佐川印刷の社員として工場で印刷物を梱包する作業などをしていたという。ワタシはJFLの横河武蔵野FC対佐川印刷戦を少なくとも一度は観戦しているのだが、ひょっとして当時の藤本憲明を見ていたりするのだろうか。