Disc: 2004年3月アーカイブ

March 31, 2004

サリエリ その2 - サリエリは18-19世紀の泉重千代だった

サリエリはホントはこんな顔だった●まず、昨日の激烈なサリエリへの賛辞の主についての解答である。実は引用中に「オペラ座」とあるので、パリでのことだとわかる(この時代に黙って「オペラ座」と書いたら、パリ・オペラ座のことだ)。正解はベルリオーズ。彼の「回想録」からの引用だった。
●さて、ここで「えっ!?」と思った方もいらっしゃるのではないだろうか。ベルリオーズとサリエリは時代が重なっているのか、と。重なっているのだ。グルック、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ベルリオーズ、シューベルト、リスト、以上全員とサリエリの生涯は重なっている。初めて18世紀から19世紀にかけての音楽史年表を見た方は必ず驚愕する。この時代の「西洋音楽史」では、ものすごい勢いで新しい音楽語法やスタイルが発明され、ギュンギュンと時代が進んでいたのだ。ベートーヴェンの「第九」からベルリオーズの「幻想交響曲」まではたったの6年、「幻想」からワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」までだって35年でたどり着く。21世紀のワタシたちは50年も前に書かれた作品を「現代音楽」などと呼ぶほど呑気で牧歌的だが、18-19世紀は目もくらむようなスピードで時代が動いていた!
●そして、もう一つ重要なことがある。サリエリは18-19世紀ウィーンの泉重千代だった。彼は74歳で没した。昨日からご紹介している「サリエーリ モーツァルトに消された宮廷楽長」に、こういう記述がある。

当時のウィーン人の平均寿命は男性が36歳から40歳、女性が41歳から45歳だったから、サリエーリは充分長寿者だったのだ。

ええっと、驚天動地、こりゃマジっすか。ワタシらは認識を改めねば。35歳で死んだモーツァルトや38歳で逝ったメンデルスゾーンを早世といってはいけない。平均寿命と変わらないではないか。一方、74歳のサリエリは統計的には並大抵の長寿者ではないということになる。
●どうやらサリエリ最大の悲劇はここにありそうである。この音楽史的に激動の時代にあって、これほど長生きしてしまうということは、自分の傑作が古びて時代に取り残されていくことをリアルタイムで経験するということである。大作曲家にはなったものの、地位と社会的名声より作品寿命のほうが短いという恐るべき事態。これでは作品が忘れられるのも無理はないではないか。
(この話題、明後日に続く。明日は別の話題になる)
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たった24時間限定のクイズなのに回答してトラックバックしてくださったガーター亭別館擬藤岡屋日記に深く感謝。

March 30, 2004

評伝「サリエーリ」(サリエリ) その1

「サリエーリ」(サリエリ)●作曲家サリエリの名を知ることができたのは、映画「アマデウス」のおかげである。「アマデウス」は映画だからもちろんフィクションなのだが、その主人公サリエリの人物造詣は実に魅力的なものであった。
●では史実における作曲家サリエリは魅力的だったのか。この本格評伝「サリエーリ モーツァルトに消された宮廷楽長」(水谷彰良著/音楽之友社)を読むと、彼の生涯が映画に劣らず興味深いものだったことがわかる。それは「サリエリによるモーツァルト毒殺説」のためなどでは断じてない。ワタシの知る限り、映画「アマデウス」を観てこの俗説を信じた人などいないし、それは映画のなかですら中心的なテーマではない。一言でいえば毒殺説などどうでもいい。それよりも、18世紀末から19世紀のウィーンにおいて、圧倒的な名声を得ていた大作曲家サリエリが、なぜ忘れられた存在になったのかということのほうが、はるかに興味を惹く。
●実際、この本を読んでいておもしろいのは、第一にサリエリが栄華を極めるまでの成功譚であり、次にその後、時代がサリエリからロッシーニらへ移っていく件である。えっ、サリエリなんて、単に権謀術数に長けただけのいやらしい作曲家だろうって? チッチッチッ、そりゃ違う。本書で引用されているサリエリ激賞の証言に耳を傾けてみよう。

ある晩、私はオペラ座へ行った。サリエリの「ダナオスの娘たち」が上演されていた。そこには荘厳、舞台の輝き、オーケストラと合唱団の壮大な響き、ブランシュ夫人の悲壮な演技と見事な声、デリヴィスの崇高な荒々しさがあった。(中略) 私が混乱と興奮で陥った忘我状態は言葉で表せそうにない。山奥の湖で小舟しか見たことのなかった船乗り志望の若者が、大海を進む三層ブリッジの大型船に突然乗せられたようなものなのだ。その夜は一睡もできなかった。

はい、それではここで問題です(えっ、クイズなのかよっ!) 上の尋常ではない賛辞を述べている「船乗り志望の若者」とは誰か。ヒントとしては、彼はこのサリエリ体験の後、大作曲家としてその名を歴史に残したってこと、あともう一つ、「私が混乱と興奮で陥った忘我状態」ってあたりにキャラが出てるなってこと。
●その答えは、そしてサリエリ話の続きは、また明日

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