●新譜ではないんだけど、最近アファナシエフの弾くシューベルトを聴いている。ピアノ・ソナタ第19番~21番が入っている。第21番変ロ長調は名曲であるが長い。ただでさえピアノ・ソナタとしては長すぎだろうというくらい長いものが、アファナシエフの手にかかるとさらに強まって長くなり、CDの裏面に書いてある演奏時間を4楽章分足してみると55分を超え、1時間に迫っている。
●数字上はそれくらい長い。そして聴いているともっと長い。シューベルトの交響曲「グレート」を「天国的に長い」と評したのはシューマンで、愛読書ジャン・パウルの小説がとても長いことと並べて長いと言っており、肯定的な意味でその長さを称揚している、たぶん。が、アファナシエフのシューベルトは、交響曲「グレート」よりもさらに天国的に長い。聴いても聴いても終わらない。さっきご飯を食べて、今次のご飯を食べようとしているのにまだ終わらない。キックオフの笛が鳴って、ロナウドのゴールがやっと決まってもまだ終わらない。ジャン・パウルがどれほどのものか知らないが、こっちはメルキアデスの羊皮紙に書かれたマコンド村の創設から始まるブエンディーア一族の波瀾に満ちた歴史を読み終えてもまだ終わらない。ペリー・ローダンの第一巻から最新刊まで読んでもまだ終わらない。のび太が成人してドラえもんが未来に帰っていってもまだ終わらない。ワールドカップでブラジルが優勝して、さあ次のワールドカップがもうすぐ始まるよっていうのに、まだ終わらない。聴き終えたら「これこそ天国的な長さだ!」ってブログに書いてやろうと思って聴いているのに、いつになっても曲が終わらないし、たぶんこの録音を聴いているだれにとってもまだ終わっていない。
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●小澤征爾7月に日本で活動再開(共同通信)。音楽塾オペラ・プロジェクトから復帰すると。8月のサイトウ・キネン・フェスティバル松本のプログラム詳細及びチケット発売日も公式サイトで発表されている(→プログラム詳細とチケット発売日のお知らせ)。
●sheetmusicplus.comにてヘンレ原典版20%offセール開催中。4/27までなので御用のある方はお早めに。
Disc: 2006年4月アーカイブ
April 19, 2006
アファナシエフのシューベルト。真・天国的な長さ。
April 6, 2006
グルダのモーツァルト未発表録音~ビミョーにモーツァルト・イヤーその5
●絶句。モーツァルト・イヤーにこの録音が発掘されるのは予定されたことだったのかどうか知らないが、もうこの「グルダ・モーツァルト・テープ」一組だけでワタシのモーツァルト・イヤーは完璧に満たされたって気になった。これまで聴いたどんなモーツァルトより美しい。
●フリードリヒ・グルダが81年にミュンヘンやミラノでモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲演奏会を行っていたというのも知らなかったが(ずいぶん話題になったんだろう。当時すでにそんなクラシカルなリサイタルは開いてなかったから)、それに先立ってこの11曲のソナタを録音していたとは。ライヴ録音でもスタジオ録音でもない。ホテルのベーゼンドルファー・インペリアルでのプライベート録音。やたらマイクが近い。しかもオリジナルのマスターテープは行方不明で、カセットテープ(!)のコピーからCD化されている。だから音質はよろしくないのだが、そんな瑕疵など1ナノ秒たりとも気にならない。溢れる躍動感と生命力、微妙な陰影がもたらす表情の豊かさ、あー、あと一歩で全集になったのに、いやなにをいうか、全集録音なんていうコマーシャル・ノリじゃないからこの存在があるのかもしれん。3枚とも夢中になって聴いた。たぶん一生聴ける。ああ、こうして死んだ人間が書いた音楽を死んだ人間が弾いてる演奏を讃え続けるのか、クラシック者。でもだれがこんな風に弾ける?