●10日はオペラシティ内の近江楽堂でチパンゴ・コンソート(杉田せつ子vn、懸田貴嗣vc、渡邊孝cemb)へ。これまでにエンリコ・オノフリとの共演で聴いてきたアンサンブルだが、今回は単体での公演(アンサンブル名もオノフリの命名なのだとか)。コレッリのソナタop5を中心にフォンターナ、ジェミニアーニ、ヘンデルらの作品を散りばめたプログラム。ヴァイオリンの杉田さんが師オノフリばりに首に巻いたロングスカーフで楽器を固定するスタイルを披露。親密な空間で、雄弁で精彩に富んだ演奏を楽しんだ。
●そのチェンバロの渡邊孝さんのファースト・アルバム、バッハのゴルトベルク変奏曲が先月コジマ録音からリリースされて絶賛発売中。格調高く、かつ情熱とファンタジーに富んだバッハ。国内盤にしては珍しく一枚に目いっぱい詰めこんだ79分半があっという間に感じられる。奏者自身による精到な解説付き。ジャケットも美しい。
Disc: 2012年7月アーカイブ
近江楽堂でチパンゴ・コンソート
Naxos Music Libraryにワーナーミュージックが参加
●今日からNaxos Music Library(以下NML)にワーナーミュージックの3レーベル(Warner Classics、Erato、Teldec)が加わった。ついに(いや、ようやく)メジャーレーベルの一角が参加したわけだ。
●NMLは定額制のストリーミング配信サービスとして、ナクソス以外にも多くの主要中堅&マイナー・レーベルが参加している。レーベル数は500を軽く超え、CD枚数は6万枚以上。どんどん参加レーベルが増えてきた上に、最近は有名アーティストがメジャーを離れて独立系レーベルからCDを出すケースが増えてきたこともあって、このNMLさえあればかなり充実したライブラリーを手にすることができる。なによりストリームなので「所有しなくて済む」のがいい。物も増えないし、データも増えない。聴くだけ。
●CD時代から音楽配信時代への移行の着地点はおおむねこういう形になるだろうと期待していた。まだまだ新譜はCDが必要であるとは思う。コンサート会場ではCDが飛ぶように売れる。ライブの思い出の品、おみやげとしても最適。メディア向けのプロモーションにも物理媒体が必要。でも旧譜になったら、定額でストリーム配信だろう、と。
●2、3年前にナクソスの創立者クラウス・ハイマン会長にインタビューする機会があり、そのときにNMLについて「これだけ参加レーベルが増えてきたのだから、メジャーレーベルも参加しないのか?」と尋ねたことがある。なんとなく、メジャーがナクソスに乗るというのは業界的にありえないんじゃないかとか、ウチはメジャーとは違うやり方をしますよ、的な答えが返ってくるのかと予期していたら、そうではなく、「そうしたいと思っているが、メジャーは配信に関して国ごとに契約が必要になっていることが多い。一括してワールドワイドに配信できなければ困る」というような返答だった。純粋にビジネス視点だし、メジャー側も門前払いという状況ではないんだなという印象を受けた。
●今回、Warner Classics、Erato、Teldecが加わったことで、アーノンクールやバレンボイムもNMLに入ってきたわけだが、とはいえ、まだこの3レーベルのタイトル数はほんのわずか。膨大な音源があるわけで、これからどこまで拡充してくれるのか、気になるところ。
●以前購入したCDが家の棚にあるのに、同じ音源をNMLで聴くことがある。棚のどこにあるかわかならい1枚のCDを探してウロウロと時間を費やすくらいなら、NMLで検索して聴くほうが手っ取り早いから。
●とまあ、NMLは大変結構なものなのだが、残念なところもあるのでそちらも書いておこう。まず、1)ブックレットを置いていないアルバムが多い。PDFでブックレットも添えてくれるところもあるが、音源だけ置いてそれっきりというところも多い。 2)連続するトラックの間で音が途切れる。たとえば「運命」の第3楽章と第4楽章の間に一瞬の空白が入る。3) 本国版NMLには以前からEMIが参加しているのに、日本国内では聴けない。
●しかしナクソスの先見の明はすごい。メジャーの一角がナクソスが作ったプラットホームを利用するようになったわけだ。彼らが廉価レーベルとして登場した頃にタイムマシンで戻って、将来こんなことが起きると業界関係者に教えても、絶対に信じてもらえない。