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Disc: 2017年6月アーカイブ

June 30, 2017

ソニーがアナログレコードの国内生産を29年ぶりに再開

アナログレコード●ソニー・ミュージックエンタテインメントが日本国内でのアナログレコードの自社生産を29年ぶりに再開するとか。これまでは東洋化成や海外企業に外注していたのが、今後は自社にアナログレコード用のプレス機を導入して、いずれは外部レーベルからの受注生産も考えているという。レガシーメディアとはいえ、アナログレコードは趣味性の高さで完全に生き残っている。つい最近、ベルリン・フィルもラトルとのベートーヴェン交響曲全集をLPレコード10枚組で発売したばかり。結構なお値段なのだが、なぜかCDよりも高級感が漂っていて、そんなものかと思ってしまう。この調子だとCDのほうがLPよりも先に絶滅するんじゃないだろうか。たとえストリーム配信がどんなに広がろうとも、LPの愛好家には無関係だろうし。
●ところで、ワタシはCDが初めて登場したころの興奮を今でも覚えている。それまでずっとLPレコードには悩まされてきた。いちばん困ったのはスクラッチ・ノイズ。曲のいいところで「プチッ!プチッ!」とか鳴って、せっかく音楽に没入していたのに現実の世界に引き戻されるのが嫌でしょうがなかった。しかも高価だったんすよ、LPレコードは。そのノイズが一過性のものなのか、恒久的な傷のせいなのか、いったん気になるともう音楽なんて聴いてられない。盤面をきれいにするためのいろんなクリーナー類を買ったりしたけど、あんまり本質的な解決に至ってなかった気がする。あと、片面の収録時間が短いから、A面の終わりで楽章の途中でフェイドアウトして、続きを裏返してB面の頭から聴き直すみたいなのも勘弁してくれよって感じだった。そんなときに登場したのがCDだ。
●すごいと思ったね。レコード屋さんに行くと、CDとLPの聴き比べイベントなんかやってて、いかにCDが高音質かをアピールしている。今でも忘れられないのだが、ベルリオーズの幻想交響曲で、同じ録音をLPとCDで聴き比べるっていうのをやってくれたんすよ、近所のレコード屋さんで。もう、これは頭にガツーンと来た。うわ、CD、なんてクリアなサウンドなの! ぜんぜん違う。
●でも今になったら、LPのほうがCDよりも音がいいんだみたいな話になってたりして、あのときの頭ガツーンはなんだったんすかね。レコード屋でみんな呆然としながら幻想交響曲のCDを聴いてたはずなんだけど。記憶の捏造?

June 15, 2017

マリオ・ヴェンツァーゴのシューベルト「完成」

icon●SONYからリリースされているマリオ・ヴェンツァーゴ指揮バーゼル室内管弦楽団によるシューベルトの交響曲第8番「未完成」(ヴェンツァーゴ補筆完成版)を聴いてみた。「未完成」の補筆完成版はこれまでもいくつか録音があって、たとえばNaxosのジョアン・ファレッタ指揮バッファロー・フィルの録音では第4楽章にまさにそのヴェンツァーゴの完成版が使われていた。今回はさらにそれより一歩進めた補筆完成版ということで、ヴェンツァーゴ自身がバーゼル室内管弦楽団を指揮している。一瞬、「第3楽章から聴いちゃおうかな~」と思ってしまうわけだが、ぐっとこらえて頭から聴いてみたのだが、これは演奏が抜群にすばらしいっすね。第1楽章アレグロ・モデラートがきびきびとしている。第1楽章と第2楽章は「緩─緩」ではなく、一般的な4楽章制の交響曲と同様に「急─緩」であると認識を改めさせられる。単にテンポが速いだけではなく、生命力にあふれスリリングな演奏になっているのが大吉。
●で、第3楽章と第4楽章。第3楽章にはシューベルト自身が残したわずかなスケッチが残っているので、これに肉付けをしているのだが、トリオが2つに拡大されていて、スケルツォ─トリオ1─トリオ2─スケルツォの形になっている。第4楽章は従来の補筆版と同じように、「ロザムンデ」間奏曲第1番が活用されている。ロ短調という調性や作曲時期の近さに加えて、この間奏曲には交響曲のフィナーレを飾れるだけのドラマ性があるということなのだろう……と思ったら、ヴェンツァーゴの見解としては、もともと交響曲の第4楽章として書かれた音楽が「ロザムンデ」に転用されたのだとか。独自の工夫もあって、のけぞったのはコーダの直前に「未完成」第1楽章冒頭を一瞬回帰させているところ。これはいい! というかずいぶん控えめな再現で、もっと思い切ってやってくれてもよかったくらい。これで大作交響曲らしくなった。
●この種の未完の作に対しては、いろんな立場がありうると思うけど、個人的には「復元」じゃなくて、「外挿」を期待したいところ。つまりもともと完成した作品があってそれが失われたのなら資料に基づく忠実な復元をしてほしいが、もとからないものだったら「復元」など端からありえないわけで、補筆者の創意は大歓迎。なんならシューベルトが残した第3楽章のスケルツォ主題も使わなくてもいいんじゃないかな、なんだか前の2楽章に比べるとパッとしないし。事実、ボツ素材でもあるわけで。
●ところで完成されたバージョンのこの曲はなんと呼べばいいのか。交響曲第8番「完成」か。あるいは「既完成」か。アルバムのジャケットには The Finished "Unfinished" と記されている。
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