●以前に書いたように、グラミー賞にはすごい数の部門があり、そのなかにはクラシック音楽関連部門もある。膨大な受賞&ノミネート・リストを眺めていると、75番目の部門であるBest Orchestral Performance から82番目のBest Contemporary Classical Composition あたりがそれに該当する。日本人が受賞でもしない限り、日本のクラシック音楽界でグラミー賞が話題になることは皆無だが、たまたま2020年の受賞リストを見たところ、これがなかなかパンチが効いている。
●では、発表します! クラシック音楽部門筆頭のBest Orchestral Performanceを受賞したアルバムは~、ジャジャーン! ドゥダメル指揮LAフィルによるアンドリュー・ノーマン作曲の「サステイン」(ドイツグラモフォン)。ざわ…ざわ…。ノーマンは1979年生まれ。2018年に同じ演奏者により初演された作品なので、コンテンポラリー部門でもよかったわけだが(ノミネートはされていた)、オーケストラ部門を受賞した。
●Best Chamber Music/Small Ensemble Performance部門を受賞したのは、アタッカ・クァルテットによるキャロライン・ショウ作曲の「オレンジ」(ニューアムステルダム・レコード/ノンサッチ)。キャロライン・ショウは1982年生まれ。こちらもコンテンポラリー部門にもノミネートされていたが、室内楽部門での受賞ということに。
●他にはBest Classical Instrumental Soloはニコラ・ベネディッティが独奏を務めたウィントン・マルサリス作曲のヴァイオリン協奏曲(DECCA)、Best Opera Recordingにはトビアス・ピッカー作曲の歌劇「ファンタスティック・ミスター・フォックス」(BMOP/sound)、Best Choral Performanceにはロバート・シンプソン指揮ヒューストン室内合唱団によるデュリュフレ合唱作品全集(Signum)が選ばれた(ああ、やっと過去の作曲家の名前が出てきた)。ちなみにBest Contemporary Classical Compositionを受賞したのは、ジェニファー・ヒグドン作曲のハープ協奏曲(Azica)だ。なおこの現代曲部門では最近25年以内に作曲された作品が対象なので、たとえばジョン・ケージみたいな昔の作曲家は選ばれない。
●なんだか同じクラシック音楽界の話とは思えないくらい、選ばれる録音の傾向が違う。もちろん、アメリカの賞だからアメリカ・ローカルのものが強いのは自然なことだが、それにしても出てくる作品が新しいものばかりで、ベートーヴェンやブラームスを演奏していては受賞チャンスが少なそう。別にこれがアメリカの聴衆の傾向だとはまったく思わなくて、「録音に与える賞」としての性格を考えれば、コンテンポラリーなものが有利なのはわからなくもない。どうせ賞をあげるなら、生きてる人、若い人にあげないと。
Disc: 2020年2月アーカイブ
February 12, 2020