●DVDでサーリアホのオペラ「オンリー・ザ・サウンド・リメインズ」を観る。このオペラ、日本の能の「経政」(経正)と「羽衣」が題材となっている。今年6月に東京文化会館で新演出による日本初演が予定されているのだが、このDVD(ERATO)は2016年3月、オランダ国立オペラで世界初演された際のライブ。演出はピーター・セラーズ、独唱者はフィリップ・ジャルスキーとダヴォン・タインズの2名のみ。ダンサーにノラ・キンバル=メントス。アンドレ・デ・リッダー指揮オランダ国立オペラ・オーケストラのメンバーによる少人数のアンサンブルにエレクトロニクスが加わる。
●第1部が「経政」、第2部が「羽衣」という二部構成になっていて、第1部ではジャルスキーが経政(の霊)、タインズが行慶を、第2部ではジャルスキーが天女、タインズが漁師の白龍を歌う。第2部ではジャルスキーのほかに、天女の舞を表現するダンサーがいるという趣向。音楽から受ける印象は、以前に東京オペラシティのコンポージアムやMETオペラビューイングで観た同じサーリアホの「遥かなる愛」にかなり近い。一部を除いて身振りの控えめな音楽で、途切れることなく抒情的な楽想が連綿と続く。カンテレが琵琶を、フルートが尺八を思わせる響きを生み出すが、舞台そのものに日本的要素は希薄なこともあり、いつともどことも知れないアルカイックでエキゾチックな世界といった趣。繊細ではあっても、雄弁な音楽とは言えないので、DVDだと正直なところ長さを感じるのだが、舞台であればダンサーや演出面のインパクトでまた違ってくるのかも。
●「経政」は、僧の行慶が生前の経政が愛用した琵琶「青山」を仏前に据えて弔っていると、経政の幽霊が現れて、琵琶を奏で、舞に興じる……という話だと思うのだが、これはピーター・セラーズの解釈なのかなあ、なんと、行慶と経政はエロティックな関係になるのである! キスシーンあり。そ、そうだね……たしかに「経政」、能のあらすじを読めば(そうは一言も書いてないけど)そういう解釈は成立する。夜中に男ふたりが音楽と舞を楽しんでいて、しかもひとりは幽霊なんだし(本来の能にそういった含意があるのかどうかは、門外漢なので知らない)。
●「羽衣」は漁師の白龍が天女の羽衣を見つけて、家宝にしようと思うんだけど、天女から返してほしいと嘆願されるというお話。白龍は天女の舞を見せてもらうことと引き換えに、羽衣を返す(オペラ的文脈からすると「サロメ」を思い出すところ)。これは本来、穏やかな春の日のほっこりするような話だと思うんだけど、演出上は「経政」のおどろおどろしい雰囲気をそのまま受け継いでいて、やたらと悲壮感や緊迫感が漂っている。
●6月の東京でのプロダクションはオペラ「Only the Sound Remains -余韻-」と銘打たれていて、アレクシ・バリエールの演出、森山開次の振付・ダンス、ミハウ・スワヴェツキのカウンターテナー、ブライアン・マリーのバス・バリトン他。ピーター・セラーズとはぜんぜん違った舞台になるものと期待。
Disc: 2021年2月アーカイブ
February 22, 2021