●3月14日、第63回グラミー賞が発表された。昨年、「グラミー賞のクラシック音楽部門」でもご紹介したように、この賞のラインナップは日本や欧州とはずいぶん違っていて、なかなか興味深い。よく知らない作曲家の名前がこういったメジャーな賞に並ぶのを見ると、「クラシック音楽」の範疇はわれわれが思っているほど万国共通でもないのかも、という気になる。
●まず、BEST ORCHESTRAL PERFORMANCE は、ドゥダメル指揮LAフィルによる「アイヴズ 交響曲全集」。これは納得で、自国を代表する作曲家とオーケストラのアルバム。王道すぎて、グラミー賞ではむしろ保守的なチョイスにすら映る。ちなみに昨年の同部門も同じくドゥダメル指揮LAフィルによるアンドリュー・ノーマンの「サステイン」だった。
●BEST CLASSICAL INSTRUMENTAL SOLOは、クリストファー・セオファニーディス(Theofanidis)作曲「ヴィオラと室内オーケストラのための協奏曲」で、リチャード・オニールのヴィオラ、デイヴィッド・アラン・ミラー指揮オルバニー交響楽団の演奏。BEST CHAMBER MUSIC/SMALL ENSEMBLE PERFORMANCEは、パシフィカ・クァルテットによる「コンテンポラリー・ヴォイス」で、シュラミト・ラン、ジェニファー・ヒグドン、エレン・ターフィ・ツウリッヒの作品が収められている。ほら、「その作曲家、だれ?」ってならないっすか。
●BEST CLASSICAL SOLO VOCAL ALBUMは、ソプラノのサラ・ブレイリー、バリトンのデション・バートン、ジェイムズ・ブラッチュリー指揮エクスペリエンシャル管弦楽団&合唱団によるエセル・スマイス作曲の交響曲「刑務所(ザ・プリズン)」。ちなみにスマイスは19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したイギリスの作曲家で、女性参政権運動家としても知られるそう。BEST OPERA RECORDINGは、デイヴィッド・ロバートソン指揮メトロポリタン・オペラによるガーシュウィンの「ポーギーとベス」、BEST CHORAL PERFORMANCEは、リチャード・ダニエルプール作曲のオラトリオ「イェシュアの受難曲」で、ジョアン・ファレッタ指揮バッファロー・フィル&合唱団他。
●BEST CONTEMPORARY CLASSICAL COMPOSITIONは、クリストファー・ラウズ作曲の交響曲第5番で、ジャンカルロ・ゲレーロ指揮ナッシュヴィル交響楽団。クリストファー・ラウズは2019年に世を去った作曲家。通常部門に存命中の作曲家がどんどん登場するのに、現代部門が故人というのが珍しい感じ。たしかこの部門は最近25年以内に作曲された作品が対象だった。25年より前はもうコンテンポラリーとは言えないというのはもっともな話。ほかにもいくつかクラシック関連部門があるが、主だったところはこんなところ。グラミー賞は日本のクラシック音楽業界ではさっぱり話題にならないが(日本人が受賞しない限り)、ラインナップは刺激的だ。
Disc: 2021年4月アーカイブ
April 6, 2021