●ジェルジ・リゲティが死去、そして翌日岩城宏之死去。訃報のときばかり共通の話題が広がってしまうが、これはしょうがない。才能のある人、功績のある人が死んだ事実はだれもがすぐに知ることができるが、才能のある人、功績を残す人が生まれた瞬間は誰にもわからないんだから。
●で、リゲティ。20世紀後半を代表する作曲家であり、かつ一定のポピュラリティも獲得できた人として、まっさきに挙げられる一人だろう。以前はWERGOレーベルの録音でポツポツ聴くという感じだったが、晩年になってSONYとTELDECのようなメジャー・レーベルの録音によって、誰でも聴きたいときに聴けるようになったのは大きい。でももっと遡れば、スタンリー・キューブリックが映画「2001年宇宙の旅」で使ってくれたおかげで、知ってる人も知らない人もみんな「アトモスフェール」やら「ルクス・エテルナ」を耳にしている。写真はジョナサン・ノットがベルリン・フィルを指揮したThe Ligeti Project Vol. 2。これは「アトモスフェール」や「ロンターノ」が入ってる。リゲティの二大美しい音楽。精緻かつ耽美なり。
●Ligeti Edition Five Mechanical Musicには100台のメトロノームのために書かれた「ポエム・サンフォニック」が収録されている。これは電子メトロノームじゃダメっすよ。機械式のメトロノームで、ネジを巻いて100台一斉に鳴らす。最初は元気にカタカタ鳴ってて、100台あるから昆虫の大群でも飛んでるのかと思うような音がするけど、だんだんネジが切れて音の密度が薄くなって、しまいには最後の一台が止まる。作曲者の意図にはなかっただろうけど、今日聴くと死のイメージと直結する。リゲティには別途レクイエムがあるが、本日のところはこの曲で故人の冥福を祈りたい。
News: 2006年6月アーカイブ
ジェルジ・リゲティ逝く
どうしてヘリコプターなんでしょか
●先日のエントリーでちらりと言及したシュトックハウゼンのヘリコプター・クァルテット、トラックバックされたゴロウ日記のエントリーにあるように、Wikipediaにヘリコプター弦楽四重奏曲の項目が立っていて、これがずいぶん詳しい。そもそもヘリコプター4台に一人ずつ奏者が乗り込み、弦楽四重奏を空中から中継するという時点で、ありえない荒唐無稽さなわけだが、アイディアの出所が「ヘリコプターに弦楽器奏者が乗って演奏し、それが四つ輪になって旋回する奇妙な夢を見た」からっていう投げやりっぽい感じはどうなんだろか。あんたは猿が輪になってる夢を見てベンゼン環の構造を発見したケクレかよっ!
●ひょっとして猿が輪になってる夢を見てたら、「猿クァルテット」を作曲してたかもしれん。猿と弦楽器奏者が手をつなぐとか。しかし猿が手をつないで輪になる夢なんて見るかね。ワタシの夢カタログにはない。ヘリコプターもだけど。
●ドラえもんの夢を見たから「タケコプター・クァルテット」を作曲するってのはどうか。
交響曲第666番「あ、熊」
●最近、ヒットだったニュースはこれ。名は「中京女子大」、でも「男子学生受け入れ」。つまり大学の名称は女子大のままだけど、男子も入学できることに決まったと。それって、結局男子に来てほしいのかホントは来てほしくないのか、どっちなんだろ。よくわからんけど、きっとスゴい会議を経由して決定されたにちがいない。
●昨日、2006年6月6日で、666だったんすね。この日、リメイクされた映画「オーメン」が世界同時ロードショー。怖そうである。っていうか、公式サイト見るだけでも逃げ出したくなるくらい怖い。この映画(のオリジナル版)のおかげで「666=獣の数字」っていうのが日本人にも知られることになったんだと思うんだけど、最近の研究によると、獣の数字は本当は616だったらしい(Wikipedia 新説の項)。ダミアン的には「どうしてくれるのか」って言いたいところだろう。
「族長の秋」(ガルシア・マルケス) 騾馬の群れの悲鳴と谷底に落下するピアノのためのデュオ
●ガルシア・マルケスの「族長の秋」(集英社)を再読中。「百年の孤独」と並ぶガルシア・マルケスの代表作。ラテン・アメリカの架空の国における大統領を描く。テーマは「愛の欠如」(ってのに最初に読んだときはピンと来てなかったのだが)。この物語に登場する印象的な音楽シーンは二つある。一つは、毎夜繰り広げられる死の拷問に覆いかぶさる大音響のブルックナーの交響曲。もう一つは「騾馬の群れの悲鳴と谷底に落下するピアノのためのデュオ」。
●大統領は権力を掌握すると、旧来の恥ずべき悪習を一掃しようと考えた。たとえばコーヒー農園の仮装パーティのために、騾馬たちがグランドピアノを背負って断崖絶壁の道を辿るなんてのは止めさせようと、高地に鉄道を建設した。なぜか。
つまり、彼は奈落の底でめちゃくちゃに壊れている三十台のグランドピアノの惨状を、やはりその目で見ていたのだ。このグランドピアノのことは外国でも話題になり、大いに書き立てられたけれど、その真相を知っている者は彼ひとりであった。たまたま窓から外を見たまさにその瞬間に、最後尾の騾馬が足をすべらせ、ほかの仲間を巻き添えにして谷底へ落ちていったのだ。したがって、転落していく騾馬の群れの恐怖の悲鳴と、その道連れになり、虚空に侘しい音をいつまでも響かせながら、谷底へと落下していくピアノの音楽を聞いた者は、彼以外にはいなかったのだ。
●このインパクトはシュトックハウゼンのヘリコプター弦楽四重奏曲を超えるな。いや、実在してないんだけど。
CD「ワールド・サッカー・クラシックス」、06/21に堂々W杯便乗発売ただいま予約受付中!
●というわけで、先日もチラリとご紹介した、日本初の(笑)サッカー・クラシック・コンピレーション・アルバム、「ワールド・サッカー・クラシックス」が今月21日にリリースされるのだ。様々なサッカー・シーンで耳にするクラシックの名曲を集めたこのアルバム、日本代表vsブラジル代表戦の前日に発売されるのだが、もちろんFIFA全然非公認! よく見りゃどこにも「ワールドカップ」の文字なし! FIFAアンセムもオレンジレンジも収録してません! 「ユルネバ」も「オレオレ・チャンピオン」もアレンジものも一切なくて、全曲純粋にクラシックの名曲を収録、音源はTeldecとかEratoなのでフツーにクラシックの著名アーティストが演奏してます。そして選曲と解説原稿は不肖ワタシだ!(笑)
●ところで、「サッカー・クラシック」などという括りで一枚のアルバムが作れるだけの曲があるのかと思われる方もいらっしゃるだろう。たしかに1、2曲、ムリめの選曲もなくはないのだが、ちゃんと作れるのだ。ラインナップはこんな感じ。
ヴェルディ:歌劇「アイーダ」より「凱旋行進曲」
エルガー:行進曲「威風堂々」第1番
プロコフィエフ:バレエ「ロメオとジュリエット」より「騎士の踊り」
オルフ:「カルミナ・ブラーナ」より「おお、運命よ」
プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」
ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」~「行け、わが 思いよ、黄金の翼にのって」
シャルパンティエ:「テ・デウム」より「イントロダクション」
ヘンデル:「戴冠式アンセム」より「司祭ザドク」
R・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」冒頭
ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第一幕前奏曲
ハイドン:弦楽四重奏曲第77番「皇帝」第2楽章
パリー/エルガー編:エルサレム
●実はこの企画、選曲する時点で本家イギリスのCD事情を調べてみた。すると「サッカー・クラシック」という企画で何点もCDが出ているのである。曲目一覧を見ると、ワタシにもどうしてこれがサッカーなのかよくわからないものもあったりして、一点、amazon.co.ukから取り寄せてみた。そしてブックレットを開けてみてビックリ。なんと、曲一覧と少し写真が載ってるだけで、一言も解説文がない(笑)。げげっ、そんなんでいいのかよっ!
●その反動もあってか、このCDの解説原稿は饒舌になってしまい400字で16枚もある。大いに楽しんで書いてしまった。ありがたいことである(関係各位に深く感謝)。クラヲタ向けではなくて、サッカー・ファンにクラシックを楽しんでもらおうっていう趣旨なのでナンであるが、ワールド・サッカー・クラシックス、よろしければぜひ。サッカー好きのお友達にも教えてあげよう!