●7月14日より公開の映画「魔笛」を試写で。監督のケネス・ブラナーの記者会見にも顔を出した。
●えー、この映画「魔笛」、なんと、今どき珍しい本当のオペラ映画なんすよ。昔はオペラ映画っていくつもあったと思う。最近のDVDソフトみたいに劇場の公演をそのまま収録して映像ソフトにするんじゃなくて、全部セットを作りこんで映画としてオペラを撮るっていうやり方。そんなの現在じゃ予算的に「ありえない」ってことになるんだけど、それがありえたのがこの「魔笛」。しかも監督ケネス・ブラナーでメジャー感大あり。
●なので、これ、フツーに映画を見るつもりで劇場に行った人は大変(笑)。モーツァルトのオペラ「魔笛」を序曲からはじめて、最後のフィナーレまで基本的に一通り演奏するし、モーツァルトと無関係な音楽とか一切なし、そして登場人物は全員本物のオペラ歌手で、当人が歌っている(もちろん音声は別に録ってるけど)。たとえばザラストロ役はルネ・パーペ。映画の中でもルネ・パーペが演技してる(オペラだから当然なんだけど)。演奏はジェイムズ・コンロン指揮ヨーロッパ室内管弦楽団。ワタシたちクラシック音楽ファンには大変すんなりと受け入れられる映画なので、映画館ではとまどう非オペラ・ファンをぶっちぎって存分に楽しむべし。
●演出のコンセプトもちゃんとある。もともと「魔笛」というのは、いつの時代のどこの国ともわからない世界を舞台としている。ケネス・ブラナーはこれを第一次世界大戦中に読み替えた(こういうのもおなじみの手法っすね、オペラ者には)。このあたりの演出的な手腕も実に鮮やか。ただ昔のオペラ映画と違うのは、フツーの現代の映画としてCGなんかも使っちゃうところ。たとえば冒頭場面、第一次世界大戦の最前線が舞台なので、地平線の向こうまでずっと続く塹壕が画面に出てくる。これなんかはCGだから簡単に作れる映像で、劇場にはなくて映画館にはあるもの。
●映画館でモーツァルトの「魔笛」を楽しむってことでオッケー、オススメ。ただし2点だけ、フツーのオペラと違う点があるのでそれだけご注意を。1. 劇場で見るオペラと違って幕間に休憩は入らない。まあ映画館だからしょうがないんだけど、第1幕、第2幕とぶっ続けで最後まで行く。2時間19分。フィナーレの後、エンドクレジットのためにもう一度序曲を流すのは違和感あり。 2. 歌詞はドイツ語じゃなくて英語。わざわざあえて英語で歌っているのには理由がある。オペラの普及促進に努めるイギリスのピーター・ムーア財団が資金を提供しているから。この財団はシャンドス・レーベルなんかでも英語訳詞によるオペラ録音を推進していて、イギリスで広くオペラを楽しんでもらうには歌詞は英語であるべきというポリシーみたい。
●ちなみに監督のケネス・ブラナーは、特にオペラ・ファンというわけじゃなくて、この作品のためにモーツァルト漬けになったという人なので、今後劇場でオペラの演出に乗り出すってことはなさそう。
News: 2007年5月アーカイブ
ケネス・ブラナー監督の映画「魔笛」
ラ・フォル・ジュルネ「熱狂の日」音楽祭閉幕
●忘れていたが5月6日は休日ダイヤだ。あれこれ片付けて、終電一瞬危ないかと思ったが無事帰宅。ラ・フォル・ジュルネ「熱狂の日」音楽祭閉幕。
●で、来年のテーマについては公式レポートに掲載したエントリーをご参照いただければと。前からみんな書いてるけど「シューベルトと仲間たち」、しかし当初思っていたよりは幅広いなと。同時代に横に広がるのは予想通りとしても、ベリオの「レンダリング」とかハンス・ツェンダーの「冬の旅」とか、縦にも広がるとは。
●あと公式レポのほうには書きそびれたけど、ルネ・マルタン氏は日本人作曲家への新作委嘱もやりたいといっておりました。もちろんなんらかの形でシューベルトにインスパイアされたものってことなんだろうけど。例として挙げられていたのが、シューベルトの「鱒」と同じ編成(ピアノ五重奏だが第2ヴァイオリンがいなくてコントラバスが入る)で書いてもらうと、同じ演奏会で演奏できるとかいう話。「鱒」は結構長めの曲だから、数分程度の短い新曲を添えて、「ラ・フォル・ジュルネ」の演奏会時間にちょうどいいようなプログラムを組むってことなのかなあ? 委嘱した新作は、ナントなど他の「ラ・フォル・ジュルネ」に持っていくとも。
●なんてことも考えると、シューベルトがテーマでありながらも、あちこちでモダンな響きも楽しめる、かもしれない(過剰にそっち方向に期待してたらスマソ)。
前夜祭「熱狂のプレ・ナイト」
●すでに進行中、ラ・フォル・ジュルネ「熱狂の日」音楽祭2007公式レポート。今日2日は平日なんだけど、「熱狂の日」いよいよスタート。
●で、前日は前夜祭「熱狂のプレ・ナイト」に。えーと、この人たちがタラフ・ドゥ・ハイドゥークスっていうの? なんか周りの人たちが「おおっ!」ってすんごく騒いでるので、とりあえず一緒に「おおっ!」とどよめいておくが、実はぜんぜん知らない自分、もしかして真性クラヲタ?な瞬間。ロマ音楽集団っていうことで、「あっ、この曲はエネスコのルーマニア狂詩曲だ」とか「これ知ってる!バルトークのルーマニア民族舞曲だ!」状態になるのであって、これは日頃クラシックを聴かない人が「あ、ボレロだ」とか「これ、知ってる、パッヘルベルのカノンだ」とか言って喜ぶのと同じ喜びって気がする。
●立ち上がってノリノリで踊りながら熱狂する女のコもいれば、手拍子もせず椅子に座って腕組みしながらじっと聴くクラ者あり。喜びの表現にはいろんなやり方がある。局所的に盛り上がる有楽町の夜。