●これだけネットラジオを話題している一方で、電波ラジオはどうなのか、っていうとこれが環境的にダメダメな今。ミニコンしかない、電波ラジオ(=以下ラジオ、つまりフツーのラジオ←くどい)を聞こうと思ったら。こんなモノでアンテナと呼んでは申し訳ないような、付属のフィーダーアンテナを使うことになる、なんだか懐かしい感じのヤツ。T字型にピンと伸ばせ。NHK-FMの電波を拾え、82.5へ進路を取れ、面舵いっぱーい、ンガガガガガ、と想像上の擬音。遠いな、NHK-FM。ネットだと北欧だろうが南米だろうがクリック一つで目の前なのに、リアル電波を拾うのはなんつうかバーチャルじゃないわけで、額に汗するっていうか、全身で電波を受け止めてる感じで太陽と汗と涙っていうか、非常にフィジカルな感じがするのであった。見えないのにね。
●そんなテンポラリーアンテナ張って、聞こうとしたのはムーティ指揮ウィーン・フィル来日公演の生中継。ブル2の記憶がまだ新しいところで、チャイ5の生中継を聴けばたちまちにしてわが家がサントリーホールになるというビバ妄想力。わが家の残響は幻視の力で2.1秒、それにしても電波拾えません、窓開けてます、でもサーサーとノイズうるさく、ときどきプルとかビュルルとか毒電波成分拾ってます、しかしその向こうには紛れもなく豊穣にして柔らかなウィーン・フィルの響きが。こんなにゴタク並べてるのに、開演7時と勘違いしてたら、休日だから6時開演っぽくて、ワタシが聴けたのはチャイコフスキーの交響曲第5番だけだ。いや、でも放送でよかったっすよー、これがリアルな演奏会で1時間遅刻してたらカラヤン広場で大泣きするしかないっすよ、ウィーン・フィル。溜池が涙池と化す。
●劣悪な電波状況に苦しみつつも、チャイコフスキーを堪能。グシャグシャの音なんだけど美しくて、またピュルピュルにノイズが乗るとかすかに漂う伝説の名演の香り、歴史的録音の歴史とはたった今だったみたいな仮想的なオチ。
●で、もう一つのニーノ・ロータのプロは、あまりにプログラムが「らしくない」気がして聞き逃したわけだが、やっぱり聴きたかった気がする。ヴィスコンティの「山猫」(←音出ます)ってRakastavaさんがおっしゃってるように、映画についてるオリジナルの演奏がやたら熱いっていうか、「それ、録音レベル上げすぎでしょ」みたいな音がして、およそウィーン・フィルとは縁遠いっすよね。で、ぜんぜん話が違うけど、みなさん「山猫」を見て、誰に共感しますか? と尋ねればそりゃバート・ランカスター演ずるサリーナ公爵ドン・ファブリッツオに決まっているわけだ。100%、シチリア貴族の末裔になりきって見る、実際の自分は貴族的と形容するにはほど遠いのに。ポテチをボリボリ食してコーラ飲んで映画見てるのに、空想上の己は新興ブルジョワジーとか赤シャツ隊の連中とかにため息をつきながら、去り行く貴族社会の優雅すぎる日々に身を任せ、時代に背を向け滅び行く者の美学に浸るわけであって、この一度一瞬一時たりとも経験したことのない座標にあっという間にワープさせられてしまう虚構の力の偉大さに圧倒されるばかりなんである。映画の冒頭を目にして耳にするだけでそうなる、とすれば、サントリーホールでムーティ指揮ウィーン・フィルを聴いても、やはり脳内にはサリーナ家の豪邸や絢爛たる舞踏会が甦ったのであろうか?
News: 2008年9月アーカイブ
聴けるかな、電波ラジオでウィーン・フィル
ムーティ/ウィーン・フィルでブル2
●昨晩はムーティ指揮ウィーン・フィルへ。去年は来日がなかったんだっけ。一昨年のアーノンクールのときに続いて、今回も皇太子殿下ご臨席。
●演目はハイドンの交響曲第67番とブルックナーの交響曲第2番。今回の来日公演は珍しい曲が多くて、他の日のニーノ・ロータの「山猫」の音楽、トロンボーン協奏曲なんかに比べればまだフツーなわけだが、しかしハイドンとブルックナーで組み合わせるのに、67番と2番なんていう選択肢が果たしてあるものだろうか、いやない、でもあった、ここに。
●でもハイドン聴きはじめると、この第67番ほど優雅で洗練されてて創意に富んでる曲があったかなって思える。ビバ67番、これぞハイドンの最高傑作では。続いてブルックナーの2番を聴きはじめると、やはり同じようにこれこそブルックナーの最高傑作ではないかと思える。ビバ2番、ブルックナーは神。第2楽章の美しさなんてこの世のものとは思えない。ああ、こんなオーケストラが近所にあって、いつでも好きなだけ聴けたらなあ。いやでもこれが日常の風景になってしまったら、あまりに多くのほかのものが色褪せてしまうかもしれん、でも待て音楽ってそんな序列的ものじゃないはずだよね、ブツブツ……。ムーティは全身からテラテラとオーラを発しまくっていて、魔神みたいだった。眼鏡をかけるようになってから、さらに一段クラスチェンジして最強に強まってる気がする。
●ヲタっぽくて若い頃からオッサンみたいな雰囲気の人っているじゃないっすか、年齢不詳系の。で、なんかオヤジ臭いなー、浮いてるなーと若い頃は思われがちなんだけど、だんだん歳を取ってリアルにオッサンになると、以前は年齢不詳だったのが実年齢が外見に追いつく。さらに経つと、周りは爺さん化が進行するんだけど、この人は謎のヲタ力で外見上の加齢が停止してるから、むしろ若々しくなってくる。あ、オヤジっぽいと思ってたけど、そうじゃないんだ、この人は若いときから完成形に到達してて、その分、衰えもないんだ、と知る。ブルックナーの交響曲ってそんな感じかなあと勝手に納得しつつ、ますます気分はラブブル2、今日も明日も永遠に毎日聴きたいブルックナー。聴かないけど。
●アンコールはまさかのマルトゥッチ。夜想曲。う、美しい。これぞマルトゥッチの最高傑……。
ポニョの飛行
●たまたま知った、「崖の上のポニョ」に「ポニョの飛行」という曲があるということを。むむ、そういえば「ポニョ」の本名は「ブリュンヒルデ」だという話があったではないか。ということはもしやと思い、試聴できるサイトをササッとググって、聴いてみて爆笑。このアルバムのトラック12だけど、やっぱりワーグナーの「ワルキューレの騎行」のパロディになっていた!
●なるほど、そういえばポニョには妹たちもいたし(みんなワルキューレってことか)、お父さんはフジモトという人らしいが、この人がヴォータンなんだろうか? あ、でもこんなこといまさら気が付いてるのはワタシくらいのものかもしれん、まだ「ポニョ」見てないし。見てないからどんどん想像だけが先行して膨らんできて、どうやら「人間になりたい」話で、しかも「神話的な話である」というだけを前もって承知している。「人間になりたい」という主題がそもそも神話的でもあるか。「人間になりたい」はポニョだけど、「人間になりた~い」だと一文字差で妖怪人間ベムになるのが不思議。
●昨日の井の頭公園でマンガ読み聞かせのお兄さんからちゃんと話を聞いておけばよかったかな~。
●ていうか、ワタシはなぜこうも繰り返しポニョ話をしてしまうのであろうか。そんなに気になるなら早く映画館行けば→自分。
リムスキー=コルサコフ没後100周年と「カスチェイ」
●そういえば今年がリムスキー=コルサコフの没後100周年だったって知ってた? たしかここでも年頭にそう書いたと思うんだけど、すっかり忘れていた。
●なぜそれを思い出したかといえば、またしてもプロムスのネットラジオを聴いていたら、こんなプログラムを発見したからだ、すなわちProm 68のウラディーミル・ユロフスキ指揮ロンドン・フィルの公演で、
Rimsky-Korsakov Kashchey the Immortal (concert performance; sung in Russian)
Stravinsky The Firebird (complete)
っていうのがあったから。リムスキー=コルサコフのオペラ「不死身のカスチェイ」演奏会形式とストラヴィンスキーの「火の鳥」全曲。で、あっ、そうなのか、と。「カスチェイ」って言われたらまっさきに「火の鳥」の魔王カスチェイを思い出すけど、ワタシはカスチェイというのが何者なのか、まったく知らないではないか。たまたまストラヴィンスキーのバレエ音楽に出てくるから名前を耳にするだけで、元ネタのロシア民話かなにかがあるわけで、他にだれかが同じ題材で曲を書いていてもおかしくない。で、この日、並んでいたのがリムスキー=コルサコフのオペラ「不死身のカスチェイ(カシチェイ)」。そんな曲があったとは。これは聴くしか。
●魔王カスチェイって何者なんだろ。「魔王」というのは曲者で、悪魔だとか妖精だとかさまざまな超自然の生命が「魔王」と呼ばれている。音楽的に有名なのはシューベルトの「魔王」だけど、原題Der Erlkönigの意味は「ハンノキの王」あるいは「エルフの王」なんて書かれていて、案外弱そうな気がする。ていうか大概、魔王は戦っても負けるものと決まっている。「ドラゴンボール」のピッコロ大魔王、「クレヨンしんちゃん」のハイグレ魔王、古いけど「ハクション大魔王」、古典的には「西遊記」の牛魔王、そしてドラクエのラスボス、魔王オルゴ・デミーラとか大魔王ゾーマとか、みんなだいたいレベル99じゃなくても倒せそうな感じがする。だからカスチェイも弱いのかなーと思ったら、「不死身のカスチェイ」なんて言うくらいだから、実は強いのかもしれん。
●そんなわけで、これからユロフスキ指揮ロンドン・フィルを聴こうとしているのだが、未知のオペラを聴く前にこっそり調べてみようと思ってググッてみて気がついた。なんと、このオペラ、つい最近演奏会形式で日本初演されてるじゃないですか(笑)。アシュケナージ指揮EUユース・オーケストラ日本公演、神奈川で。げげ、そうだったのか。
●おかげで簡単なあらすじを読むことができた。なるほど、カスチェイは醜い老魔王なのか。あとリムスキーダイスキーさんのページでもこのオペラについて紹介されているのを発見。なかなか地味そうなオペラである(笑)。プロムスの公演はあと2日くらい聴けるので、これを機に「不死身のカスチェイ」聴いてみようって方は、こちらからどぞ。1時間ほどの短いオペラ。
思い立ったらクリックしてプロムス
●今年のProms 2008も終盤に差しかかってきた。ラストナイトは9月13日。それほど熱心に追いかけてはいないんだけど、たくさん魅力的な公演が並んでいるので、ついついPCであれこれ作業しながら聴いてしまう。オンデマンドで聴けるって楽チン(死語)。
●Prom 55はスザンナ・マルッキ指揮フィルハーモニア管弦楽団。ヴァイオリン独奏に諏訪内晶子でエトヴェシュ作曲のヴァイオリン協奏曲「セヴン」。つまみ聴く。スペースシャトル「コロンビア」号の事故によって亡くなった7人の宇宙飛行士を追悼して書かれた曲ということで、ルツェルン音楽祭(初演)とNHK交響楽団の共同委嘱作品。今月、N響で日本初演されるんだけど、もう各地で何度か演奏されているようでPromsにも登場。一足先に一応聴いておこうかと。まだ記憶に新しいあの悲劇とエトヴェシュに何の接点があるのかぜんぜんわからないけど、名曲の予感、ネトラジでなんだけど、とりあえず。
●このコンサート、「セヴン」に続いてヴォーン・ウィリアムズの「揚げひばり」なんすよ。それって、宇宙船は落ちるけど、ひばりは飛ぶって話? よくわからん。ちなみにスザンナ・マルッキ(アンサンブル・アンテルコンタンポラン音楽監督のフィンランド人女性指揮者)は体調不良のエトヴェシュの代役。
●あとはメジャーどころで、マゼール指揮ニューヨーク・フィルの2公演(スティーヴン・スタッキーの新作、ハルサイ他/バルトーク「中国の不思議な役人」組曲、チャイコフスキー5番)、ラトル指揮ベルリン・フィルのワーグナー「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と「愛の死」、メシアンのトゥランガリラ交響曲/ショスタコ10番)など、ラジオなのでデレデレと。この前、ドゥダメルのコンサートで「うわ、お客さんの盛り上がりがスゴい!」と思ったけど、実はマゼールが「春の祭典」をやっても、ラトルがショスタコ10番やっても、いつも同じくらいお客さんは盛り上がっていた。毎回、空前絶後の伝説のコンサートみたいな感じ。うらやましい。ような気がする。
オンラインでピアノ
●なんと、ウェブブラウザでピアノを弾くというサイトが登場。
ePiano
http://epiano.jp/
●単に鍵盤を弾いて音が出るだけなら珍しくもないが、これは鍵盤を誰かと共有できるというのがミソ。いくつか部屋があるんだけど、入ってみるとどこかの知らないだれかがすでに弾いていたりする。なんだかドキリとするぞ、これは。同時アクセスする者でチャットしながら演奏することもできるし、知り合い同士だけで演奏する部屋も作れるっぽい。
●自分で弾いた曲を録音して投稿することも可。だれですか、ラモーの「タンブラン」とか置いてるのは。すばらしすぎます。PCだから弾きにくくてどうしてもズレたり間延びしたりするところが微妙にバロクーで良さげ。ってことはないだろか。