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News: 2008年12月アーカイブ

December 24, 2008

「カルメン」~ UKオペラ@Cinema

●メリクリ! 近所中で電飾がやたらと外に向かって明滅している、年々と激しくなり夜道が眩しい。
●新宿のバルト9で見てきたUKオペラ@Cinemaの「カルメン」。最近映画館でやたらとオペラを見てる気がする。このUKオペラ@Cinemaはソニーが配給するLivespireの一環で、オペラをデジタルシネマとして映画館で上映してくれるという企画。ロイヤル・オペラおよびグラインドボーン音楽祭で上演された舞台が対象で、現時点で発表されているのは4演目。まずはビゼー「カルメン」ではじまって、モーツァルト「フィガロの結婚」、フンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」、ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」と続く。
カルメンとドン・ホセ。グサッ! キャーー!●ワタシが見た「カルメン」は昨年のロイヤル・オペラでの公演で、パッパーノが指揮、フランチェスカ・ザンベッロが演出。カルメンがアンナ・カテリーナ・アントナッチ、ドン・ホセがヨーナス・カウフマン。主役に限らず全体に役柄に無理のないルックスの歌手が演じていて、しかも演出が非常に説得力があるというか、オペラ的お約束に頼らずにドラマをきちんと描き出していて、実にリアルな愛憎劇になっていた。特にヨーナス・カウフマンのホセは最高。1幕のマジメな伍長さんぶりと、最後の惨めで未練たらしいダメ男ストーカーっぷりとの対比がとても鮮やか。刺殺シーンとか、「やっぱこう来るよなっ!」と妙に納得。
●あと、ミカエラ(ノラ・アンセレム)の感じが悪いのもいい(笑)。このオペラで最大の性悪はミカエラだといつも思うので。あんた、ホントに田舎のホセのお母さんと会ってるの? 田舎の素朴な少女であることを特権的に利用しようと企む油断のならない女。カルメンよりずっと怖い。
●第1幕の前奏曲の後半、音楽が悲劇を予感させる部分で、舞台上にはすでにボロボロになったドン・ホセが捕まっている。覆面をした執行人がドン・ホセを引き連れる。つまり、これからはじまる舞台は、今まさに死刑を執行されようとするホセの思い出なのだ。残されたほんのわずかな生の時間で、初めてカルメンシータに出会ったあの日から今に至るまでのことを走馬灯のようによみがえらせたのだろう。これは苦い。でも物語中でも「カルタの場面」で示されるように、カルメンとホセの行き着く先は死しかない。
●「METライブビューイング」と似たように、開幕前にパッパーノが簡単な案内をしてくれたり、休憩中に予告編とかグラインドボーン音楽祭の紹介ビデオなんかが流れたりするのがフレンドリー。東京だけではなく、意外と地方都市でも上映されるみたいなので、リラックスしてオペラを観たいという方にはオススメ。生の舞台ともDVDとも違う、別種の楽しみがあると思う。ちなみに「ジュリオ・チェーザレ」は少し古くて2006年の舞台なんだけど、これはあのグラインドボーンでダニエル・デ・ニース(ドゥ・ニース)が歌ってるヤツっすね、ウィリアム・クリスティ指揮OAEの演奏で。

UKオペラ@Cinema上演スケジュール
http://www.livespire.jp/opera/schedule/index.html

photo by Catherine Ashmore © Royal Opera House 2007 Provided by Digiscreen
December 17, 2008

ドイツグラモフォンの 7-day Stream/YouTubeシンフォニーオーケストラ

ドイツグラモフォン●つい最近ドイツグラモフォンのサイトで 7-day Stream っていうサービスが始まったんだけど、これは画期的かも。今までドイツグラモフォンはDG WebShopとして、自社音源を320kbps mp3という好条件でダウンロード販売してて、それだけでも立派だと思ってたら、こんどは7-day Stream。つまり7日間限定でストリームで聴ける。料金は1アルバムで0.99ユーロ(国によっては0.99ドル。ユーロであれドルであれ99セント)。で、99セント払って聴いて、「じゃあこれはダウンロードしたい」と思ったら、普通にダウンロード購入すればいいわけなんだけど、このときに99セント返金してくれるんすよ。
●つまり、どうせ最終的に買うんだったら、試聴料金として99セント払っても損はしないわけだし、買わないんだったら1週間聴く料金として99セント払ったと思えばOK。「期待して聴いてみたけどなんか違ってた」とか「1回聴けば十分」っていうことも多々あるわけで、そういう意味では恐ろしく親切なサービス。逆に「1回聴けばいいだろ」と思って99セント払ったんだけど、聴き出したら予想を超えてすばらしくて、手元に置きたくなってダウンロード購入しちゃうケースも多くなりそう。ダウンロード購入しても1枚10.99ユーロ程度なんだから、円高の現在ではかなり割安に感じる(一時の信じられないユーロ高の頃とは大違い)。ダウンロード購入するとPDFでブックレットが付いてくる(けど付いてないのもある)。
●ただし7-day Streamなら何でも聴けるかっていうとそうでもなくて、一部アルバムは7-day Streamに対応していない。あと、7-day Streamだと一部のトラックは聴けませんっていうのもある。でもまあ、だいたい聴ける。
●なんていうかな、これって何かを根こそぎ変える感があるんだけど、どうなんすかね。極端な話、1枚99セントなら新譜は全部一回聴いてみるっていうのができるわけだ。ストリームだから音源を外に持ち出すことはできないけど、家のスピーカーで聴くことを前提にすると、いろんな広がりが見えてくるなあ。これ、DG以外のレーベルもやってくれないだろか。ステキでもあり、一方で危険でもあり。レーベル側からすると、本当にリスナーに「これ欲しい!」と思わせないと、なんでもかんでも99セントで済ませられちゃうわけだし。自社音源に自信がなきゃできない。いろんなものが問われている気がする。
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●各所で話題の「YouTubeシンフォニーオーケストラ」。オケの方はニューヨークのカーネギーホールで演奏できるチャンス。渡航費滞在費はGoogle社持ち。どなたでも応募可能。曲はタン・ドゥンのオリジナル曲、指揮はマイケル・ティルソン・トーマス。連載「クラシック・ジャンキー」でもご紹介中。

December 3, 2008

「ご縁玉 パリから大分へ」(江口方康監督)

ご縁玉●しばらく前、ニュースを眺めていたらこの訃報が。「いのちの授業」山田泉さんが死去。山田泉さんは自らの乳がんとの闘病体験を語って命の尊さを伝える「いのちの授業」に取り組んできた大分の元養護教論。山田泉さんのことを知ったのはつい最近で、彼女を題材としたドキュメンタリー映画「ご縁玉 パリから大分へ」(江口方康監督)の試写を見せていただいた。この映画は、山田さんとフランスのチェリスト、エリック=マリア・クテュリエとの交流を描いている。
●この写真にある、チェロを弾いているほうが山田さんで(といっても全然弾けなくて、エリックに教わりながらギ~と鳴らしているのだが)、それを横で見守っているのがエリック=マリア・クテュリエ。外見がアジア系なのはベトナム戦争の孤児でフランス人養父母に育てられたから。彼はご存知パリのアンサンブル・アンテルコンタンポランのチェリストで、普段はバリバリと尖がった現代音楽を弾いているような人だ。映画の中にも少しだけ演奏シーンが出てくる(指揮者のスザンナ・メルッキ[マルッキ]も)。二人の間に音楽的接点はない。エリックは育ての母を乳がんで亡くしている。知人を介したパリでの偶然での出会いがきっかけで、エリックは大分に山田さんを訪ねる。
●エリックは覚えたての日本語を片言で話す。山田さんはじめ、大分の人々はみな日本語で話す。言葉によるコミュニケーションは容易には成立しないはずだが、それを飛び越えて媒体となってくれるのがチェロであり音楽なのだ。エリックはみんなのためにバッハを演奏する。山田さんのために即席の不思議なチェロによる音楽セラピーを施す。片方に「限りある命をいかに生きるか」という答えがあり、片方に「音楽家に何ができるか」という問いがある。
●東京では今月20日より渋谷ユーロスペースのモーニングショーで上映される。その他の地域についてはこちらの公式ブログにて。公開の前に訃報が届いたことが残念でならない。

photo © Inter Bay Films
December 2, 2008

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラによる無伴奏チェロ組曲

寺神戸亮 バッハ●「バッハの無伴奏チェロ組曲は本当はチェロのために書かれた曲ではなかったんじゃないか」という疑問から出発し、失われた楽器ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ復元を経て、ヴァイオリニストが無伴奏チェロ組曲を録音するに至るという鮮烈な音楽史ミステリー。それがCDとして結実したのが6月にリリースされたこの一組、寺神戸亮さんのヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ演奏による「バッハ:無伴奏チェロ組曲」。昨日、2008年度レコード・アカデミー賞器楽部門を受賞と発表あり。祝スパッラなのである。
●もうスパッラは写真だけでもインパクトありすぎで、なにしろ肩掛けチェロなんていうくらいだ、遠目から見てヴァイオリンかな、あれデカいな、ヴィオラかな、いやもっとデカいよ何コレみたいな驚きがあって、遠近感が狂ってるっぽい図になる。CD発売元のコロムビアさんのサイトがステキで、寺神戸さんご本人による充実した映像付き解説がある。さすがにフツーのチェロほど巨大ではないですが。
●それにしてもこれ、重そうだ。肩を鍛えるために星一徹ならヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ養成ギプスとか作ってくれそう。さらに星飛雄馬並の強肩ヴァイオリニストのためにコントラバス・ダ・スパッラが復元されたという凶報がっ! ウソ。そんなものはない。
●で、ちょうどこのタイミングで、実演でスパッラの無伴奏チェロ組曲を聴く機会あり→寺神戸亮ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ、ツアー。12/4(木)~16(火)、東京、所沢、大阪、浜松。16日は初台、近江楽堂にて。生スパッラを体験したい方はどぞ。

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