●フランスのARTE Live Webが、ザルツブルク音楽祭でのアーノンクール指揮ウィーン・フィル公演を無料映像配信中。7月26日のコンサート。シューベルト(ウェーベルン編曲)の6つのドイツ舞曲D820、ヨーゼフ・シュトラウスの作品数曲、シューベルトの交響曲第8番「グレート」。
●映像のクォリティは低いものの、音質はそう悪くない。どういう仕組み(契約)でこういうのを無料配信できるんすかね。ありがたい。アーノンクールは相変わらずパワフル。極太ゴシック体でところどころ斜体や平体がかかって歪んでるみたいな強烈シューベルト。ラストは拳と空手チョップ入りでむちゃむちゃ盛り上がって、最後の一音は脱力ディミヌエンド。
●こういうのを見ちゃうと有料コンテンツが急に割高に思えてくるという弊害があるなあ(笑)。
●といいつつ、ベルリン・フィル「デジタル・コンサート・ホール」の来季のシーズン・パスを購入してしまった。昨シーズンからの継続申し込み者に対するプレミアムがもう少し何かあってもいいような気もするのだが、これに匹敵するサービスがほかに見当たらないのも事実。
News: 2009年7月アーカイブ
ザルツブルク音楽祭のアーノンクール指揮ウィーン・フィル
映画「パリ・オペラ座のすべて」(フレデリック・ワイズマン監督)
●プレス試写会にて映画「パリ・オペラ座のすべて」(フレデリック・ワイズマン監督)。これは大変おもしろい。おっと、でも最初に注釈を。題名に反して、この映画には一切「オペラ」は登場しない。原題はLA DANSE - LE BALLET DE L'OPERA DE PARIS。つまりオペラ座の「バレエ」だけについてのドキュメンタリーだ。でもワタシはワクワクしながら見た。
●これはフレデリック・ワイズマンの基本的な表現スタイルなのだろうが、画面に映っているものに対して一切説明をしない。ナレーションも入らないし、キャプションも入らない。そして、取材対象者へのインタビューも採らない。撮影されている人間がカメラを意識する場面はゼロで、ただひたすらパリ・オペラ座の内側にもぐりこんで目にできるものを映し出す(それが160分も続く)。
●本番公演の映像もほとんどないと思うのだが、じゃあなにが見られるかといえば、まずは第一にレッスン。ダンサーたちの厳しい稽古だ。それから舞台のリハーサル、ゲネプロ。ミーティング。レセプション。劇場のお客さんが普段目にできないものだけを黙って映す。
●たとえばミーティングの場面では、事務局長がダンサーたちに年金制度について説明している。オペラ座のダンサーは国家公務員で、しかも40歳から年金が支給されるという特別な待遇にある(定年は42歳)。「国家公務員の年金特別制度改革が行なわれるが、ダンサーへの待遇は変わりませんよ、でも危機感を持って職務に向かわないと今後どうなるかわかんないですよ」みたいなニュアンスの話。生々しい。ダンサーたちが少し見当違いなところで拍手をする場面とかがあって、これをワイズマンは見せたかったんだろう。
●アメリカの大口寄付者を招待するのに、どんな特典をつけようかと会議をする場面も印象的。「これならリーマンブラザーズは一口か二口は買うわね」みたいな一言が、いま見ると味わい深い。
●舞台のリハーサルは、「くるみ割り人形」みたいな古典的な演目から、コンテンポラリーなものまでさまざま。ワイズマンは説明を入れないから、見る人の立場でもどうとでも受け取れるんだけど、たぶん、バレエもオペラもなにも知らない人が見ると、こんな感想を持つ可能性がある。「バレエなんて古くさい芸術だと思っていたけど、今はヨーロッパでもモダンなスタイルが試みられているんだなあ。本家パリ・オペラ座でもこんなふうに伝統を打ち破ろうとしている」。一方で、たとえばバレエには通じてないがオペラやコンサートには親しんでいる人が見ればこういう見方もありうる。「コンテンポラリーなバレエってこういう舞台で、あんな感じの音楽が付くのか……。なんだか閉塞感があって、古くさいなあ。こうして並べて見ると、古典はぜんぜん古びていないから、やっぱり偉大なものはいつになっても偉大だ」。バレエ・プロパーの方が見れば、さらにぜんぜん違う視点があるはずで、どんな解釈でも成立しうる。普通のドキュメンタリーにあるはずの説明がないから。
●説明がないといえば、本当になくて、ガルニエ宮の「くるみ割り人形」のポスターがアップで映った後に、ささっとバスチーユでの「ロメオとジュリエット」(ベルリオーズ)の舞台に切り替わったりして、これ、「くるみ割り」だと思われないか、とか(笑)。でもワタシだってバレエのことはまったくわからずに楽しんだわけだから、これでいいのか。
●「パリ・オペラ座のすべて」は今秋Bunkamura ル・シネマ他で公開。ちなみに、今回の公開を記念して、ユーロスペースでワイズマンの18作品が上映される(9/12-9/25)。日本初公開となる「エッセネ派」をはじめ、上映時間6時間の「臨死」、屠殺を描いた「肉」、「DV-ドメスティック・バイオレンス」、「DV 2」、精神異常犯罪者のための刑務所を題材にしたデビュー作「チチカット・フォーリーズ」他。問題作が並ぶ中でバレエというテーマが浮いて見えるが、現代社会を映し出す切り口として、病院、福祉施設、軍隊、学校、警察、裁判所といったものと並んで「劇場」があると思えばいいのだろう。
バイロイト音楽祭放送中
●バイロイト音楽祭開幕。せっかくの生中継なのでペーター・シュナイダー指揮の「トリスタンとイゾルデ」を途中まで。GMT14:00開演なので、日本(JST+9)では午後11時開幕。週末なのでこれなら一応は聴けるが、さすがに最後まではムリ。生中継だから休憩時間もそのまま付き合うことになるわけで、最後まで聴くと朝になる。バイエルン放送の番組表は7時間の枠を取ってあった。
●こうして毎年第1幕とかだけ聴いてると「トリスタンとイゾルデ」がハッピーエンドの話に思えてくる。二人ともクスリで超ラブラブでおしまい、みたいな。
●バイロイトに関してはハンガリーのBartok Radioも中継をしてくれているので、例によってアーカイブを聴かせてもらう手もあり。このサービスっていつかなくなるだろうと思ってたんだけど、意外と平気なのが謎。このあたりとかで聴ける。
●おっと、二日目の演目「マイスタージンガー」のファンファーレがはじまった。これも第1幕だけでも聴くか。
●バイロイトと言えば、昨年は映像付きの有料中継が話題になった(参考:ネットで聴くバイロイト音楽祭@日経PC)。カタリーナ・ワーグナー演出の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」1公演で49ユーロはありえん価格設定だなと思ったが、今年はどうなったかというと、14.90ユーロで「トリスタンとイゾルデ」が生中継される(8月9日)。生中継ではムリな方は8月10日から23日までオンデマンドで鑑賞可能。ベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホールが一公演10ユーロほどだから、これは妥当な価格設定か……いやいや、この手のものは自分で体験してみないとなんとも言いようがないな。音質画質のクォリティとか、カメラワークはどうか、アクセスしやすいか、混雑してないか等々。うーむ、どうしよう。微妙かも。
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関連リンク:
クラシックのネットラジオと音楽配信リンク
ネットラジオで夏の音楽祭
●そうだった、「夏の音楽祭」のシーズンに入っていたのだった。Proms2009はもう始まっているし、バイロイト音楽祭ももうすぐ開幕する。
Proms2009
すでに開幕。各公演7日間に限りオンデマンドで聴ける。時差を気にしなくていいのがありがたい。
BAYREUTH BROADCASTS 2009 (opera cast)
毎年バイロイト音楽祭の放送日程を特設ページにまとめてくれるoperacast.com。7/25~欧州各局生中継。再放送までおさえてくれる親切仕様。個人運営サイト。
おかか since 1968 Ver.2.0
おなじみ、おかかさんの海外ウェブラジオで聞けるクラシック音楽ライブ番組表(労作に感謝)。ザルツブルク、エクサンプロヴァンス、シュヴェツィンゲン、オールドバラ等々、番組表もすっかり音楽祭の季節。
●特にこの時期は聴きものが多いので、基本、諦めが肝心(笑)。どんなに時間があってもほとんどは聴けないんだし、全部聴いてるヤツはいない。フツーはバイロイト一本聴くのだって大変なわけで。いやそれともどこかに神みたいなネトラジ廃人もいるのか。いるんだろうな。きっといる。
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●本日は日蝕。皆既日蝕は屋久島とか奄美大島に行かなきゃ見れないみたいだが、東京でも75%まで欠けるという。東京で蝕が最大になるのは11時12分。曇り空だとなにも起きないのだろうか?
夏はサマー、祭りはフェスタ
●東京はいきなり真夏になった。ここ数日、おそろしく蒸し暑かった。外を歩いているとくらくらするほど暑い。吹き出る汗が止まらない。頭がぼうっとする。集中力を欠きがちで、仕事ははかどらないし、かといって遊ぶにも暑すぎる。冷房が効いた部屋に入ると一瞬ほっとするが、今度は体が芯から冷えて、体調がおかしくなる。そういう夏が、わりと好き。春の次くらいに。
●7月26日から8月16日まで、今年もミューザ川崎で「フェスタサマーミューザ」が開催される。首都圏の9つのオーケストラが順次登場するのだが、公演のフォーマットは微妙に普通のコンサートと異なる。原則として公演時間は約70分程度で短めで、平日夜公演は20時開演が多いという川崎近辺の方以外も足を運びやすくなる設定。平日昼の公演もあるし、もちろん休日の公演もある。料金はかなり安価。同じホールで複数のオケを聴き比べるというのも楽しいんではないかと。オススメ。
フェスタサマーミューザKAWASAKI2009(@電子チケットぴあ)
オンデマンドでロスフィル
●今週の親切な方から教えてもらいました情報。KUSCのロサンジェルス・フィル・ライヴは、放送後約1週間ほどはオンデマンドで聴けるのだ(知らなかった……)。現在あがっているのはサロネン指揮のベートーヴェンの交響曲第5番、自作のヴァイオリン協奏曲、リゲティの12人の女声と管弦楽のための「時計と雲」というプログラム。聴くしか。
http://www.kusc.org/classical/ListenNow/ArchivePodcasts/LAPhilStream.php
●自分のかかわった企画なので告知しとこう。「ドライブ・クラシック BEST!」。快適なドライブにぴったり、ステキな名曲を収録したお手軽な一枚。なぜこの選曲がドライブなのかは謎すぎる謎でありもっともな謎。さっそくこのCDをかけながらドライブへ、ハンドル握って海へ山へ仕事へ自分探しの旅へとGO! いや、クルマ運転しないけど。あ、まだ免許の有効期限って切れてないんだっけ!?
映画「クララ・シューマン 愛の協奏曲」他
●音楽系映画ネタをいくつか。
●まずは「クララ・シューマン 愛の協奏曲」から。試写を見た。音楽史的にも有名なシューマンとクララ、そしてブラームス3人の関係を描いたものなのだが、なんといっても目をひくのは監督の名前だ。ヘルマ・サンダース=ブラームス監督。そう、監督がブラームスさんなんである。しかも本当に作曲家ブラームスと遠縁で、ヨハネスの叔父の子孫なんだそうである(ヨハネスには子供がいないので直系の子孫は存在しない)。
●見どころはいくつもある。まずブラームス像が新鮮。どういうキャラかというと「エキセントリックな若者」。微妙にハジけてます。シューマン夫妻のキッズたちからすっかり兄ちゃん扱いされるステキなヤツ。
●クララ・シューマンはロベルトを助けながらも、子育てもするし、ブラームスにも惹かれるし、しかも音楽的才能に恵まれているけど女性であるがゆえに家庭に入らざるを得ないという立場(天才ピアニストとしてヨーロッパを駆け巡っていた後の時代の設定だ)。じゃあロベルトはなにをしているかといえば、デュッセルドルフの音楽監督に招かれて「ライン」交響曲を作曲しているんだけど、頭の中が錯乱してきて、アル中でヤク中のヤバいことになっている。史実通り、ライン川に飛び込んで一命を取り留めた後、病院で怖すぎる治療を受けていた。パスカル・グレゴリーが好演。
●「敬愛なるベートーヴェン」とそっくりなシーンが出てきて仰天。そういえばあれも女性監督だったか。これは知っててなのか、たまたまなのか。ヒント:二人羽織指揮。
●映画なのでもちろん史実とは異なるところもあるわけだが、個人的にはもっと大胆なアイディアに基づいてフィクションを盛り込んでほしかった気もする。クララとブラームスの描き方もやや物足りないが、ロベルトの狂気は見ごたえあり。7月25日よりBunkamuraル・シネマ他で公開。ロベルトの音楽はもちろん、クララの音楽も登場する。
●続いて公開情報。フレデリック・ワイズマン監督のドキュメンタリー「パリ・オペラ座のすべて」の公開が決定。今秋、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー。プレス向けの写真を見ていると、どうもオペラよりもバレエのほうに焦点があたっているようにも見えるが。フレデリック・ワイズマン監督という点でも一部の注目を集めるのでは。
●もう一作。第62回カンヌ国際映画祭クロージング作品の「シャネル&ストラヴィンスキー」が2010年正月に公開。ヤン・クーネン監督。「ココ・シャネルの秘められた愛の物語とストラヴィンスキーの『春の祭典』再演秘話を名曲にのせて美しく描く」という。ストラヴィンスキー役は「007/カジノ・ロワイヤル」(新しいほう)で悪役を演じたマッツ・ミケルセン。期待大。
カメラータ・トウキョウの音源をKRIPTON HQM STOREが超高音質で配信
●音楽配信系の話題は海外でのニュースが多くなりがちなんだけど、久々に国内から意欲的な企画が登場。6月29日より、カメラータ・トウキョウの音源がKRIPTON HQM STOREで24bit/96kHzの高音質で配信されている。これはCDを超える情報量だ。しかもDRMフリーのFLAC (Free Losless Audio Codec) フォーマットで配信されている!
●PC経由の音楽配信の世界では、256kbpsのmp3みたいな圧縮音源で「十分高音質」とされてきた(ワタシもそう思ってる)。でもよく考えてみれば、PCで音源を配信するということはCD規格よりももっと高音質のものだって流通させられるってことだ。クリプトン社のリリースによれば、HQM STOREで配信されるデータは「CDと比較して約500倍の情報量を有する」という。これはCDの16bit/44.1kHzに対して、24bit/96kHzは、(2^24*96)/(2^16*44.1)= 557 っていうことで約500倍?
●で、これを可逆圧縮のフォーマットであるFLACで配信している。可逆圧縮だからmp3のような情報の省略はなく、再生時に100%で復元する(ワタシの大ざっぱな理解ではzipやlhaと同じような圧縮。だから圧縮率もその程度なのでファイルサイズは大きくなる)。そして、ワタシはここが一番すばらしいと思うのだが、これほど高音質なデータであるにもかかわらず、DRM(著作権管理技術)フリー、つまりいくらでも自由にコピーができるファイル形式になっている。これは圧倒的に正しい。
●何度も繰り返して書いていることだが、音楽ファンにとってDRMの付いたファイルというのは「いつなんどき聴けなくなってしまうかもしれない」憂鬱なファイルだ。仕様や制限もファイルごとにバラバラで困ったもの。なので、最近はamazon.comだろうがiTunesだろうがインターナショナルにはDRMフリーの音源を販売しており、この問題は決着が付いているはずなのだが、国内市場に関してはなぜかまだそこまでは至っていない。でもここでカメラータ・トウキョウは「DRMフリー、しかもCDより高音質」という英断を下してくれた。快挙。
●と、激しく拍手をしておいた上で、いくつか留意すべき点を。KRIPTON HQM STORE はまだ誕生したばかりのサイトなので、現在カタログに載っている音源はアルバム3点分のみ。これに関しては今後次々拡充されていくようで、年内は毎月おおむね3点程度のペースで増えていくとのこと。クォリティを反映して、価格はやや強気の設定。
●また、個別アルバムのページに Play と書かれた試聴ボタンが付いているが、この試聴で聴ける音源はmp3であって、24bit/96kHz FLACの超高音質ファイルではない。「じゃあ買わないと24bit/96kHzは試聴できないのか」というとそんなことはなく、環境テスト用も兼ねてのサンプル・ファイルがサポート・ページの最下部からダウンロードできるようになっている。
●関心のある方は、まずこのサンプルを一度再生してみるのが吉。特にハイエンド志向の方にオススメ。「FLACなんて知らない」という方は、まずこれを再生できる環境を整える必要がある。いくつか方法はあるが、ワタシはなるべく何でもWindows Media Playerで再生したい派なので、CoreFLAC Decoderをインストールした。簡単にインストールできる。
>> KRIPTON HQM STORE
http://www.hqm-store.com/
「ありがと~う!」
●あるピアニストのリサイタルで、アンコールが終わった後に客席から飛び出したかけ声がこれ。「ありがと~う!」。これは正しい、圧倒的に。「ブラボー」でも「ブラ~ボ」でもなく「ありがとう」。女性だった。ステキな音楽を聴かせてくれてありがとう、楽しい時を過ごさせてくれてありがとう。
●「ブラボー」は完璧完全100%十分にすでに客席に定着してるけど、なんかフツーの日本人としては照れくさい感が大アリなわけで、感極まったからツルッと出るかと言えば出ない。そこで「ありがと~う!」。これならツルツルッと出る。感謝の気持ち、すばらしいですね。
●じゃあ「ブー!」はどうなんだっていうと、これは前にも書いたけど、日本人の多くはうまくできないので、代わりに「エーッ!?」がオススメ。ブーイングならぬ、エーイング。
●これから東京のコンサートホールには「ありがと~う!」が流行する予感。さあ、アーティストへの感謝の気持ちを込めて、恥ずかしがらずに大きな声で言いましょう。「ごちそうさま~!」、あっ、ちがった!