●エンリコ・オノフリ・バロック・ヴァイオリン・リサイタルへ(東京文化会館)。存分に満喫。今回はこれまでのオノフリの来日公演とは違って、彼のリサイタル。これまでだってヴァイオリンを弾く機会はもちろんあったんだけど、指揮者の役割を担っていたから、アンサンブルと組み合わさって何が起きるかわからない、ものすごくステキなことが起きるかもしれないし、思ったよりもすれ違うかもしれないしで、毎回が予測の付かない未知の体験だった。でも今回はそうじゃない。気心の知れた共演者と、得意のレパートリーを弾く。ウッチェリーニ、コレッリ、ヴィヴァルディ……。リラックスしてひたすら楽しんだ。
●びっくりしたのは彼の風貌。このCDのジャケでも十分衝撃的だったのに、本人はさらにこの写真よりも痩せていた! いやー、最初に東京国際フォーラムで目にしたときには丸々とした感じだったのに、いまや修行僧並み。でもスリムになったのは外見だけで、音楽は変わらず豊潤でアグレッシヴ、ときには幽玄で融通無碍。ため息。
●この日のプログラムで異質だったのがバッハ「トッカータとフーガ」ヴァイオリン独奏版。これはCDで聴いたときも思ったけど、トッカータの冒頭がオルガンで知る荘重厳粛で少々威圧的な性格とはまるで違って聞こえて、さりげなくふと湧き出てきましたみたいに響く。ヴァイオリン原曲説がどうかは別としても、よほどこちらのほうがバッハらしく感じる。
●あっという間のように感じたけど、2時間強あったんすよね。楽しい時間が過ぎるのは早い。
News: 2010年9月アーカイブ
エンリコ・オノフリ・リサイタル
ベルリン・フィルDCH昨シーズンのメモ~その1
●もう新シーズンが開幕してしまったが、ベルリン・フィルの定期演奏会有料配信デジタル・コンサート・ホール(DCH)の昨シーズンについて、以下自分用備忘録として。一部未見、全体としては大満足。以下、新しい順に遡って。ホントにメモでスマソ。
●2010年6月。ラトルがウィントン・マルサリスの「ジャズ・シンフォニー」を指揮。会場は盛り上がっていたようだが、自分にはあまりになじみのない音楽で、どうにもならず。知らない外国語で読まれた詩みたいなものか。
●6月。ブロムシュテットが指揮。ベートーヴェンの三重協奏曲とブルックナーの6番。先日来日してN響でブルックナーを振ったときもあったんじゃないかと思うが、なんとベルリン・フィルでもブロムシュテットに対する「一般参賀」が起きた。長老名指揮者とブルックナーは似合いすぎる。「一般参賀」って最初にだれが言い出したのかわからないけど、ホントに秀逸な表現っすよね。ドイツのクラヲタは「一般参賀」のことなんていうのかなあ?と思ったが、よく考えたらフツーに「ソロ・カーテンコール」相当の言葉で済む気が。ていうか日本人以外には意味不明だし→「一般参賀」。
●5月。指揮はキタエンコなのだが、主役はソリストで登場したホルンのバボラーク。バボラークはベルリン・フィルを辞めてしまって、しばらくDCHで姿を見ることがなかったのだが、ソリストとして帰ってきた。グリエールのホルン協奏曲を吹いた。もう神業の域では。オケもいつも以上の集中度。バボラークはすごく幸せそう。アンコール2曲を吹いて、オケが下がった後も独り舞台に残ってもう一曲さらに吹くという珍しいシーンが見られた(まだ前半なのに)。後半はスクリャービンの第3番「神聖な詩」。すごいおトク感。
●5月。ラトルのシベリウス・シリーズ。この日は交響曲第5番と、「第6番&第7番」。つまり前半に5番をやって、後半は第6番と第7番をつなげてあたかも長大な全5楽章の交響曲であるかのように演奏したんである(指揮棒も下ろさずに続けた)。両作品世界に共通するところ大ということなのかもしれないが、正直意味があるのかわからない。ただ演奏そのものは大変すばらしい。第5番は泣ける。
●5月。アバド登場。ブラームスのカンタータ「リナルド」がメインというシブすぎるオール合唱プロ。それにシェーンベルクとシューベルト。
●5月。デイヴィッド・ロバートソン指揮。ルノー・カプソンがリゲティのヴァイオリン協奏曲。ベルリン・フィルはシーズンごとにテーマ作曲家的な人が何人かいるみたいで、昨シーズンはリゲティがその一人。メインはバルトークの「かかし王子」。
●4月。ビエロフラーヴェク指揮。ソリストにエマールでシェーンベルクのピアノ協奏曲。メインはブラームスの交響曲第4番。ここのところラトルでさんざんブラームスを演奏していたのに、客演指揮者も振るのか!?とも思うが。ラトルだろうがビエロフラーヴェクだろうが、ベルリン・フィルのブラームスはよく歌う。聴きほれてしまう。
●4月。指揮者兼ピアニストとしてアンドラーシュ・シフが登場。モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」+ピアノ協奏曲第20番(弾き振り)をつなげて一曲のようにして演奏。しかしつなげるというアイディア以前に、重々しいバッハ、ハイドン、モーツァルトに挫折。
●4月。ラトル指揮、ピーター・セラーズ演出の(!?)バッハ「マタイ受難曲」。なんと、「マタイ」に演出が付いている。コーラスの人とかが演技するし、ときには楽団員までそれに絡む……ようなのだが、超絶違和感があって始まってすぐに退却。音だけなら心揺さぶられる音楽のはずなんだが、視覚的要素が雄弁すぎてどうにも歯が立たず。いずれ改めて再視聴できればと。
●3月。ヤンソンス指揮でヴェルディの「レクイエム」。テノールのデイヴィッド・ロメリの声が甘い。合唱が入るからもあるだろうけど、指揮中のヤンソンスってこんなに表情豊かな人だったんだ。
●3月。ドホナーニが降板して、急遽ネーメ・ヤルヴィが登板。プログラムもさしかえられて、グリーグ「ペール・ギュント」組曲とかウェーバー「オベロン」序曲とかブラームス「大学祝典序曲」とか。これが猛烈に楽しい! 最近ヤルヴィといえばまずパーヴォだけど、パパ・ヤルヴィ健在。豪放磊落、よく鳴る。凝ったプログラムもいいんだけど、たまには名曲小品プロでスカッとしたい。ていうか、こういう曲こそベルリン・フィル級じゃないとなかなか楽しめない。アンコールにシベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォ。
●以下、その2につづく。
「シューマンの指」(奥泉 光)
●同じ生誕200周年なのにショパンがあちこちで華やかに祝ってもらえるのに対して、どうしてシューマンはこうもジミな扱いになるんでしょかねー、と思っていたのだが、この本を読んで溜飲が下がった。これぞ記念の年にふさわしい快作。「シューマンの指」(奥泉光著/講談社)。もし「音楽小説」っていう言葉があるなら、この小説こそその呼び名にふさわしい。
●十代にして将来を嘱望される才能あふれる美少年ピアニストと、彼に憧れと畏れを抱く音大受験生の主人公の関係を描く。二人の関係はシューマンへの音楽的共感で結ばれ、かつてシューマンがそうしたように「ダヴィッド同盟」を結成したり、「音楽新聞」を発行する真似事をしてみたりする。二人の若者はシューマンを弾き、シューマンについて語る。これが小説という形態でしか成立しえないような美しく見事なシューマン論になっているところが並の小説とは違う。完全に脱帽。しかもシューマンが題材とされるのに必然性がある話なんすよね。唖然。
●読むとますますシューマンが好きになる。シューマン猛烈ラブ! ていうか、シューマン知らない人が読んでも平気なのかと心配になるほどの音楽密度の高さ。たまらずに読書中に「幻想曲」とかピアノ・ソナタ第2番とか、次々にシューマンのCDを取り出してしまった。この一冊をもって、シューマン・イヤーがショパン・イヤーを凌駕したのだ。ショパン聴いてる場合じゃないぜっ!
ネットでライヴ動画
●Medic.tvでルツェルン音楽祭でのドゥダメル指揮ウィーン・フィル演奏会の映像が無料公開中。バーンスタインの「ディヴェルティメント」、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」「ボレロ」他。再生中にログインが求められるのでアカウントだけ作っておけばOK。きっと期間限定。このサイト、今までもいくつか映像を見せてもらっているが、有料のサービスを利用したことはない。これってビジネスになってるのかなあ。
●そういえばベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホールで昨季、ユーザーアンケートを採っていた。うろ覚えだけど、設問のひとつに「ベルリン・フィル以外で同様のサービスを欲しいと思うオーケストラを選んでください」っていうのがあったっけ。ワタシはウィーン・フィルとLAフィルって答えたような気がする。他にコンセルトヘボウ管弦楽団とかバイエルン放送交響楽団とかロンドン交響楽団等々の選択肢があって、どこもそりゃ見たいかと言われれば見たいんだけど、でも「じゃあ定期演奏会をワンシーズン有料中継したら買うか」って言われたら、そういくつもYesって答えられない。個別の演奏会ならともかく。
●上記設問には日本からも2つのオケが選ばれていた。どこでしょか。まあ察しがつくんではないかと思うんだが、サイトウ・キネン・オーケストラとNHK交響楽団なんである。デジタル・コンサート・ホールの海外からの契約者は日本人がもっとも多いそうなので、わざわざ日本のオケも含めてくれたんだろう。でも前者は常設オケではないし、後者はネットで有料中継してくれなくてもNHKで結構放送されてるわけで、その辺の事情は伝わってるのかなと気にならんでもない。
刷新「フィルハーモニー」
●NHK交響楽団の機関誌「フィルハーモニー」がリニューアル。デザインが一新されて、落ち着いた雰囲気はそのままだが、とても美しくて読みやすい紙面になった。新連載、新コーナーもたくさん登場。ワタシも「クラシック~日本語のお作法」という連載で末席を汚すことに。編集視点で見たクラシック音楽系日本語の謎を取り上げるという読み物です。ほかに青澤隆明さん、藤田茂さんとの座談会も。
●しかし刮目すべきは秋岡陽さんの新連載、構造で聴く「名曲のしくみ」~グラフィック・アナリシスの世界。第1回はベートーヴェンの「運命」を題材にソナタ形式を解説してくれるんだけど、これが猛烈にわかりやすくておもしろい! 手描きの図を載せるというアイディアも秀逸で、こういうのはPCで作っちゃうと伝達力が著しく弱まるんすよね、目がオートマティックに素通りしちゃうから。第2回も楽しみ。
●昨日の東京は寒かった。ずっと真夏の延長戦が続いていて、連日35℃とか37℃とかが当たり前になり、冷房で30℃に冷やした部屋に入ると少し肌寒いなと思っていたのに、いきなり終日20℃前後だったんすよ。どうなってるんだか。せっかく耐暑型亜熱帯仕様に肉体が進化しようとしてたのに。今日は最高気温30℃ということなので、大変すごしやすい。このまま次の春になんないすかね。
ボイスケアのど飴
●カンロが国立音楽大学と共同開発した「ボイスケアのど飴」。小林一男教授(おお!)と学生さんたちが開発に携わったんだそうです。60種類以上の試作品を作ったとか。
●次は演奏会で咳が出なくなる「演奏会用のど飴」とかどうかな。包み紙をむいても音が出ません、とか。
●ついでに中身を開けてゴソゴソしても音が出ないカバンも……(ありません)。
●今日からバーガーキングの30分「おかわり自由」キャンペーン。これ一個でも相当大きいと思うんだが。なんか大食っていうこと自体がもはや驚異。
●ダイエットワッパー、カロリーゼロを夢想。
3Dベルリン・フィル
●以前、ロイヤル・オペラが「カルメン」を3D映像で収録したって話題を紹介したじゃないですか。みんな、そんなにオペラ歌手を3Dで見たいのかよっ!的な驚きとともに。
●そしたら、ベルリン・フィルも3Dとか言い出した。 The Berliner Philharmoniker in 3D 。サイモン・ラトルとのリハーサルの様子を3D収録した映像が無料ダウンロードできるようになっている。……というのでワタシは慌てて猛速ダウンロードしたわけだが、ファイルを開くと画面が左右に分割された妙な映像が出てくるではないか。えっ、なにこれ? なになに、これを見るためには、NVidia の 3D glasses が必要だって?
●うーむ、3D専用メガメが必要であったか。惜しい。ウチにそんなものはない。NVidia の 3D glassesとかいうのをお持ちの方はぜひお試しを。3Dでラトル。3Dでオーケストラ。嬉しいのか?
女子クラ
●お、これは興味深い。働く女子にうれしい情報サイト「escala cafe」(というのがあるんですね)の「20代女子に聞く、好きな有名クラシック音楽家ランキング」。第1位にショパンとモーツァルトが同票数で並んだというのがあまりにも納得できる結果なのであるが、続く第3位ベートーヴェンは女子対象としては大健闘では。上位のみ以下引用。
第1位 モーツァルト 37.2%
第1位 ショパン 37.2%
第3位 ベートーヴェン 17.2%
第4位 チャイコフスキー 16.2%
第5位 バッハ 14.1%
●5位のバッハ以下はシューベルト、ヴィヴァルディ、ドビュッシー、リストと続く。意外とシブい。シューベルト好きの20代女子ってなにを聴いているんだろう。「冬の旅」を聴いて「この男子、キモい!」って喜んでるとか? ていうか、シューベルトのジメジメ感が好きって、なんだか心強いぞ。ピアノ・ソナタ第21番遺作ラブ!♥ みたいな世界(想像図)。
●これ、選択肢から選ばせてるのかなあ。音楽好きの女子に尋ねればきっと入りそうなラフマニノフとかラヴェルの名前は見当たらず。しかしいちばんの驚きは、こんな設問がフツーに20代女子サイトで成立しているってところか。参考になります。
●このescala cafe、「もっと、なりたい私に。働きウーマンのポータルサイト」っていうキャッチも秀逸。「もっと、なりたい私に」は、私は私であるのにさらになりたい私になることでより私になれるというくらいにビバ私。見習いたい。
●街で風に吹き飛ばされそうなくらいの薄型女子を見かけた。彼女は同じくらい薄い友人に「やっと1キロ痩せた」と話していた。きっと鳥になる。