●いよいよ番外のアンコールオペラ編もこれで完結。「のだめカンタービレ」第25巻。番外編に入ってからののびのびとした空気は前巻と変わらず、しかもラブコメにふさわしいエンディングも用意されていてすっかり充足。しかも番外編の番外編として「ターニャカンタービレ」が付いてくる(笑)。ターニャと黒木君がどうなるか気になってしょうがない派は必読。
●こういう物語のエンディングって、主要脇役キャラの行方が楽しみなんすよね。登場人物たちのゴール(でありスタートでもある)を描くにあたって、みんなで「魔笛」を上演するという筋を重ねたのも秀逸。これ読んで多くの読者がオペラにポジティブな印象を持ってくれたかと思うと、感謝の気持ちがふつふつとわいてくる。
●クラヲタ的なツボはいくつもあるかと思うが、ワタシゃいちばんインパクトを受けたのは挟み込んであったカラーチラシ。なんのチラシかっていうとラン・ランなんすよ。表には目を閉じて陶然と鍵盤に向かうラン・ランの姿が映ってて、裏面には彼のアルバム「ラン・ラン ライブ イン ウィーン」と「のだめ」関連CDの宣伝が入っている。なんていうか、若者たちにとってのスターなんすよね、ラン・ランは。自分の名前が入ったadidas履いてピアノ弾くし(笑)。頼もしい限り。あまり早くオッサンにならないでほしい、最近なにかで見た映像はかなり丸くなってたけど。
News: 2010年12月アーカイブ
「のだめカンタービレ」第25巻(完) アンコールオペラ編
マゼールの「ベートーヴェンは凄い」がネットで生中継
●もはや恒例となった今年の大晦日のあれ。「ベートーヴェンは凄い!全交響曲全曲演奏会」であるが、今年は大巨匠ロリン・マゼールが来日して岩城宏之メモリアル・オーケストラを振る。それだけでも十分驚きなのであるが(マゼールってもう80歳っすよ)、さらなるサプライズが。なんと慶應義塾大学がこれをネット配信してくれるんである。全曲を3D、高品質映像&音声で、PC、3Dディスプレイ、モバイルなど様々なデバイスで視聴可能な形で配信する(PDFのプレスリリースはこちら)。「学部研究科横断型研究・教育プログラムの一環として」行なわれるということなのだが、それを大晦日にやってくれるというのがすばらしすぎる。ベートーヴェンも凄いがマゼールも慶応も凄い。
●しかしいくら怪傑マゼールといえども体力的には相当大変なんじゃないか。9曲分、ただ立ってるだけでも大変だ、フツー80歳なら。
●大晦日ゆえに見やすいとも見づらいともいえる。マゼール流の大見得を期待。「いつもより余計にタメてます~」的な祝祭感があると吉。
1月に猛烈チェコ音楽祭り。「ヤング・プラハin東京ガラ・コンサート」
●年末ならではのドタバタ進行、年賀状もまだ書けてない、気がつけばクリスマスがやってきて、もう正月より先のことは考えられない状態になりがち。であるが、ひとつ1月のコンサート情報を。「2日間に渡る空前絶後のチェコ音楽オンパレード!」と謳われる「ヤング・プラハin東京ガラ・コンサート」が、1月22日(土)と23日(日)、先日オープンした渋谷区文化総合センター大和田・さくらホールにて開催される。
●これ、演目が相当強力なんすよね。スメタナ、ヤナーチェク、マルティヌー、ドヴォルザークをはじめ、めったに生では聴けない曲がずらり。「ヤング・プラハ」というのは若手音楽家の育成と国際交流をテーマに、日本とチェコの共同文化活動としてはじめられたプラハの国際音楽祭で、今回創立20周年を記念して東京でガラ・コンサートが開かれるんだとか。出演者は日本勢中心にチェコからの来日組も加わった俊英たち。
●公式サイトの演目がPDFなのがなんだが、一部興味深いところを書き出すと、22日がマルティヌーの六重奏曲「キッチンのレビュー」、スロヴァキア民謡による変奏曲、ヤナーチェクのピアノ・ソナタ「1905」、六重奏曲「青春」、イルマルのバーデン・ジャズ組曲他、23日はマルティヌーの「クラリネット、ホルン、チェロ、小太鼓のための四重奏曲」、ヤナーチェクの「民族夜曲」、弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」、コンチェルティーノ、さらにドヴォルザークとスークとフィービヒのヴァイオリン名曲集など……。うーん、スゴいラインナップだ。
●渋谷区文化総合センター大和田のさくらホールは700席ほどの小ぢんまりしたホールで、渋谷駅から徒歩5分の立地のよさが強み。これを機会に一度足を運んでみるのも手かと。
OEKのバレエ「くるみ割り人形」
●金沢に来ている。オーケストラ・アンサンブル金沢(以下OEK)の定期公演でチャイコフスキーの「くるみ割り人形」。そう、ここはオケの定期公演でバレエをやるんである。これは東京の人にはピンと来ないかもしれないが、人口45万人の街がオケを一つ持つんである。そこががんばって定期会員を集めたら、それとは別口でバレエもオペラもというほど客層に奥行きはない。一つのオケがいろいろな役割を担う。その代わり、オケの定期を複数シリーズに分けて、そのなかの一つでバレエなどバラエティ色豊かなものをやる。お客さんにとってもこれはありがたい仕組みのはず。一つしかない演奏団体から、複数の選択肢を得ることができるから。
●会場はいつもの石川県立音楽堂。ピットがないので客席の前方をつぶしてオケを入れる(するとその席数分だけ定期会員のお客さんが入れなくなる理屈になる。どうするか……実は2公演あるので振り分けれるのだ! 普段の定期は1公演のみ)。通常のバレエと異なり客席からオケがよく見える。響きもピットから聞こえてくるのとは少し違う。かなりシンフォニックなバレエになる。
●で、バレエはドイツ・エッセン市立歌劇場バレエが客演。ただし、これに地元の特別編成バレエ団が加わる。「くるみ割り」は兵隊さんとかネズミ軍団とか妖精さんみたいな人とか登場人物が多いので、出演者数は軽く100人を超えるんじゃないだろうか。おまけに児童合唱も入る。外来バレエ+地元バレエ+OEKという最適解が2公演分の集客を可能にしている。バレエなので、普段の定期とはまったく違うお客さんに音楽堂に足を運んでもらえるという効果も見逃せないだろう。そういう意味ではオケが目立つバレエ公演っていうのは理にかなっているのかも。
●OEKは普段の定期も同一演目で2公演できるようになったらいいっすよね。
●翌日すぐに帰京して通常モードに復帰予定。
寒空ライヴ・ウィーク
●ネトラジ・ミニ情報。France Musiqueのアーカイブで、ミラノ・スカラ座今季開幕公演「ワルキューレ」の音声を公開中。バレンボイム指揮。幕ごとにファイルを分けてあるという意外な親切設計がラブリー。
●先週足を運んだ演奏会から。14日は福間洸太朗ピアノ・リサイタル(津田ホール)。去年だったか一度聴いて衝撃を受けた逸材。今回はオール・ショパン。スケールの大きな演奏ですばらしかった。アンコールはなにかモダンな作品を弾いてくれないかなあと期待したのだが(その前夜がエマールだったので、つい)、そんなはずもなくすべてショパンであった……。いやそれでなにも悪くないはずなんだが、しかし。うぬ、ショパン。
●17日は片岡詩乃ハープリサイタル(王子ホール)。ハープのリサイタルを聴く機会そのものがあまりないので、レパートリー的にも興味深く、新鮮な感動大。マリー=シェーファーの「アリアドネーの冠」はハーピストが多数のパーカッションも操りながら、特殊奏法あり録音との共演ありと短時間に舞台上でさまざまな出来事が起きる。両足に鈴を結びつけて、足でリズムを取りながらハープを弾くとか、幻想味のなかにもユーモアがあって、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさ。ブリテンの「組曲」も初めて聴いた。バロック的なスタイルでありながら途中にノクターンが挿入される。高橋悠治「そしてまた」委嘱新作初演もあり。が、なぜか客席と舞台がうまくかみ合っていない印象も。謎。でも音楽的には最強。
●19日は「ぶるぐ協会」のトーク・サロンコンサートへ(調布・マルシャリンホール)。「ぶるぐ」ってのはブルグミュラーのこと。といってもブルグミュラーには二人いて、ピアノ教本で有名な兄フリードリヒと、26歳で夭折した弟ノルベルトがいるそうなんである。で、その弟のピアノ・ソナタとか、兄のチェロとギターのための3つのノクターンとか、まったく知らない曲をいくつも聴くことができた。これは本当にサロンのノリで、作者を伏せて曲を演奏してから兄弟どちらの作品かを当てるクイズとか本気で楽しい(笑)。企画も演奏者も良かったので。
●今年は秋から怒涛の勢いで演奏会に行きまくった気がする。しかし年内はあと1、2公演。年末か年始のどこかで時間を取って、ベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホール等、ネット系のライヴもたくさん聴きたい。ぬくぬく暖房の聴いた部屋でアイスクリームを食しながらネットでベルリン・フィルとか娯楽度マックスだと思うんだな。
ヤクブ・フルシャ都響プリンシパル・ゲスト・コンダクター就任記念懇談会
●チェコ出身で29歳という若さながら欧州でメキメキと頭角をあらわしつつあるヤクブ・フルシャ。彼が東京都交響楽団のプリンシパル・ゲスト・コンダクターに就任、そのお披露目演奏会の日に音楽ジャーナリスト懇談会が開かれた(12/14 ホテルオークラ)。(えっと、普通は「首席客演指揮者」と訳すところなんだけど、都響表記で「プリンシパル・ゲスト・コンダクター」)。この日のプログラムはヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」がメイン、マルティヌー「リディツェへの追悼」、ドヴォルジャーク:序曲「フス教徒」 、スメタナ:交響詩「ブラニーク」という話題性十分の演目で、演奏会のチケットは完売していた。
●フルシャは言う。「2年前に都響を指揮したとき、最初のリハーサルからお互いの気持ちが通じ合った。もう一度共演したいと思っていたので、このような機会を得て嬉しい」。一方、都響の守屋新チーフ・プロデューサーは「練習の初日からオーケストラをリードして瞬く間に音楽ができあがってしまう。これはすごいと思った。プレーヤーからすぐに次の契約をしろという声が上がるほど衝撃的な共演だった」。相思相愛。フルシャの都響に対する印象は「フレキシビリティが高く、スキルがある。こちらのリクエストしたことが即座に実現してくれる。リズム感やバランス感覚がすばらしく、深い感情を持って演奏してくれる」と。
●会見の受け答えを見ても、フルシャは本当に落ち着いた雰囲気で29歳とは思えない。人間的な成熟や知性を感じさせる。懇談会の後、ゲネプロ見学へ。フルシャの棒はものすごく明快。ていねいな音楽作りだけど、躍動感も十分。これはきっと今晩の演奏会は盛り上がるだろうなと確信しつつ、惜しくもワタシは別の演奏会の予定を入れてしまっていた……。
●もう一公演、20日(月)なんてマルティヌーの交響曲第3番がメインっすよ。すげえ。
●フルシャは日本語名刺作って「振る者」って字を当てると吉、きっと。
●2011年12月には都響スペシャルでドヴォルザークの「スターバト・マーテル」を指揮。2012年12月にも登場、ただしプログラムは未定。
最強に強まるエマール祭り
●オペラシティは熱かった。ピエール=ローラン・エマールのピアノ・リサイタル。圧倒されっぱなしでぼうっとした頭で帰路についた。バルトーク「4つの哀歌」op.9aから第4番、リスト「巡礼の年」第3年から「エステ荘の糸杉に寄せて」、メシアン「鳥のカタログ」から「カオグロヒタキ」、リスト「巡礼の年」第1年「スイス」から「オーベルマンの谷」。ここまでの前半だけでも相当なボリューム感があった。怪物的な威容を誇る「オーベルマンの谷」が醸す凛然たるロマンティシズム。休憩後はリスト「巡礼の年」第3年から「エステ荘の噴水」、ラヴェル「鏡」。光と影の間にある無数の段階の輝度を駆使した「エステ荘の噴水」、「道化師の歌」に聴く重厚な躍動感、陶然たる「鏡の谷」の幻想性。ポマードをベッタリとぬりたくったエマールの髪が乱れるところに女子は萌えないのか?
●予定された演目だけでも十分心に残る演奏会だったが、ある意味でその後が本当のエマール祭り。会場の熱狂にこたえて現代音楽だらけのアンコールが延々と続く。太くてよく響く声で「クルターク!」と一声発して「ピアノのための遊び」第7巻から「フェレンツ・ベレーニ70歳へのオマージュ」。続いてハリソン・バートウィッスルの「ハリソンズ・クロックス」、ピエール・ブーレーズの「ノタシオン」9~12、ジョージ・ベンジャミン「ピアノ・フィギュア」6,8,9,10、メシアンの前奏曲集から「軽やかな数」、エリオット・カーター「マトリビュート」……。そして最後に「古典」とでも呼ぶべきシェーンベルクの「6つの小品」op19をまるまる弾いて、長いリサイタルを閉じた。このアンコールのほうこそ本編なのか。客席もこちらを目当てにしていたかのように沸く。もっと、もっと現代音楽を聴かせてくれ、でなければオレたちは飢えてしまうのだ、とでも言うかのように。会場内の熱気の総量を人数で割った「祭り指数」なるものを設定して比較するとしたら、ワタシが出会った今年最強の演奏会だった。
●この後、エマールはN響とラヴェルのピアノ協奏曲を共演する。
●花王がエマールのCMにエマールを起用しますように。セーターを着たエマールが「フツウの洗剤では洗えない素材・アイテムも傷めず洗えますよ~」みたいなことをフランス語でしゃべってニッコリ。奥様方はエマールの髪型にくらくら。
日本フィル首席指揮者ラザレフが契約延長
●日本フィル首席指揮者アレクサンドル・ラザレフの契約延長が決定。2011/12シーズンから16/17シーズンまで5年という長期の延長となった。日フィルはラザレフが首席指揮者に就任してから変わったとみんながいう。これまでこのオケを視野に入れていなかった人たちにもかなりアピールしたのでは。そんな中での契約延長。奉祝。
●で、2011/12シーズンの東京定期および横浜定期の内容が速報されている。東京についていえば、10公演中3公演でラザレフが登場、このシーズンからはラフマニノフをシリーズで取り上げる。それと首席客演指揮者を務める若者ピエタリ・インキネンが2公演。こちらは先日よりスタートしたマーラー・シリーズを継続。他に広上淳一、山田和樹、ラン・シュイ、小林研一郎、下野竜也。新時代のヤマカズ氏の2011年以降のスケジュールはスゴいことになってそう。早くオフィシャルサイトを作ってほしいぜー。
●この週末、その日フィル東京定期でサントリーホールへ(11日)。首席客演指揮者インキネンによるシベリウス/組曲「クリスティアン2世」とマーラー/交響曲第1番「巨人」。名前の通り陰気なヤツだったらいいのにというバカすぎる願いはかなえられず、さわやかさ全開の30歳。「巨人」はまっすぐな力演だが、より楽しめたのはシベリウスのほう。落ち着いた柔らかな響きを堪能。好演。「クリスティアン2世」は第2曲の「エレジー」がいいっすね。
METライブビューイング「ドン・パスクワーレ」
●今シーズンのMETライブビューイング、開幕から「ラインの黄金」(←見逃した)、「ボリス・ゴドゥノフ」と、世界やら国家やら歴史やらが動く重量級作品が続いた後で、ドニゼッティの「ドン・パスクワーレ」。なんという落差、軽快さ。他愛のなさマックス全開で、いい人ばかりが登場するほのぼのワールドにやってきた。ああ、こんな世界の住人になってみたいぜ!
●「ドン・パスクワーレ」とはどういう話か……。若い男が女と結婚したがってるんだけど、金持ちの叔父ドン・パスクワーレが賛成してくれない。ドン・パスクワーレは独身の老人。そこで狂言回しの医者が登場して一計を案じる。女は純情な女性を演じて老人を誘惑し、結婚してしまうのだ。結婚が成立したとたん、女は乱暴でわがままな鬼嫁と化し、一瞬にして老人に結婚を後悔させる。老人はこんな嫁に財産を渡すくらいならと甥に結婚を許す。すると甥の結婚相手とは実はこの鬼嫁でした、正体はとってもいい子なんですよーと種明かしをする。老人は「ワッハッハ、そういうことじゃったか、こりゃ一本取られたなあ」的な善人エンディングを迎えてめでたしめでたし。
●えっ、えっ、これ、見ようによってはカネのない若者たちによる孤独な老人虐待大作戦だったけど、みんな笑って許せちゃうの?
●そう、許せるんである。これは若い男女が機転を利かせたっていう話ではないだろう。むしろ未熟な人間の考える悪知恵というのはこの程度のもの、つまり大人から見た子供の企みがなんと浅はかで、無自覚に残酷なものであるかが描かれている。主役はドン・パスクワーレだ。彼もきっと若いときはブイブイ言わせてた。でも年を取って、財産はあるけど孤独だ。そんな老境にあって、若者の愚かさに付き合ってやれる彼の寛大さ、度量の大きさこそがこの話の主題と見たい。爺は愉快に転がされるべし、という。
●題名役のジョン・デル・カルロは歌も演技も見事。ノリーナはネトレプコ。「若くて美しい女性」から「気立てのいいおばちゃん」に移行中。頼まなくても大盛りにしてくれそうな雰囲気(なにそれ?)。指揮はレヴァイン。オケうまい。うらやましい。
●2幕の終わりの四重唱とか実に鮮やかで思わず拍手したくなるんだけど、映画館だから誰もしないんすよね。
●例によって幕間の舞台裏映像がおもしろい。舞台転換の様子の「現場感」とか。表側の華やかさとは逆に、裏側で必要なのは「安全管理」だなって強く思う。軽く機械萌え。
●東劇は今晩まで上映。
ネットで聴ける、あれとかこれとか
●秋からずっとリアル演奏会が多くてしばらくごぶさたしていたネットで聴ける情報。
●まずフォルカーさんのところでも紹介されていたように、france musique のアーカイブでティーレマン指揮ウィーン・フィルのシャンゼリゼ劇場でのベートーヴェン・チクルスを聴くことができる。交響曲第4番&第5番と交響曲第6番「田園」&第7番。いい時代になったなあ。ティーレマンがどうとかはともかく。
●france musique のアーカイブ一覧はこちら。ここのいいところは比較的長くアーカイブを公開してくれるところ(とはいえいずれ期限が切れるが)。惜しいところはストリームの安定度がイマイチってことなんだが、これは環境依存かもしれない。
●もう一つ、最近リリースされた新譜CDを無料で試聴させてくれるオランダRadio4の Plaatpaal 。ずらっと並ぶCDのBeluister(= Listen)と書かれたところをクリックすると聴くことができる。なんとなく「試聴」って言っちゃうけど、おおむねまるまる聴けるわけで気前がいい(ただしたまにトラックからトラックに移る際に止まることがあるのが謎。あと組物だと用意された1枚しか聴けない)。CDのラインナップはときどき入れ替わるっぽい。リザ・フェルシュトマンのベートーヴェン、スゴい切れ味だな……。
●ネット上で無料で聴けるものだけでもその気になれば延々と聴いていられる。とはいえ実際にはそれだけじゃなかなか満足できなくて、聴けば聴くほどCDを買いたくなったり演奏会に足を運びたくなったりするもんだとは思う。
ショパン・コンクール2010&アヴデーエワ(+サプライズゲスト)記者会見
●昨晩のワールドカップ開催地決定のニュースに衝撃を受けて今かなり動揺してるんすが(ロシア2018、カタール2022!)、そちらは一日かけて消化するとして、昼の記者会見から。今年のショパン・コンクールの優勝者ユリアンナ・アヴデーエワも登場する「第16回ショパン国際ピアノ・コンクール/ショパン生誕200年」記者会見(帝国ホテル)。写真は左からN響常務理事古谷邦雄氏、ユリアンナ・アヴデーエワ、ヴァルデマル・ドンブロフスキ氏(コンクール主催者代表、ショパン・インスティトゥート所長)、スタニスワフ・レシュチィンスキ氏(同副代表、同副所長)。他にポーランド大使館からも登壇。
●ポーランド大使館からは、まずロドヴィッチ大使の新作能「ショパン」についての案内。これ、今年のラ・フォル・ジュルネ金沢で上演しましたよね? 東京でも上演されるんだとか。
●で、コンクール主催者代表からは「今回のショパン・コンクールはこれまでになく水準が高かった」「審査員には教育者よりも実際に演奏活動で活躍する人を優先した。これは目覚しい成果を上げた」ことなどが述べられ、開始時間から50分以上経って、ようやくユリアンナ嬢にマイクが。アヴデーエワ「今回の受賞を名誉なことだと思っています。NHK交響楽団と共演することをとても楽しみにしています」と簡単な挨拶。むむ、これでタイムアップなのか、うーん……と思っていたら! ここで超サプライズ・ゲストが2名あらわれた。これはびっくり。
●なんと、今回のコンクールの審査員でもあり過去の優勝者でもあるマルタ・アルゲリッチ(中央)とダン・タイ・ソン(右)が登場。急にこちら側の出席者たちが浮き足立って、みんな目が覚めたかのように突如カメラを掲げて右往左往。一瞬軽くカオス、一瞬だけ。
●アルゲリッチ「今回のショパン・コンクールのレベルの高さには本当に驚いた。審査をしに来たというよりは、発見をしに来たのだと感じる。多くの若者たちがショパンに献身的に取り組んでいることに感銘を受けた」
●ダン・タイ・ソン「ファイナルに残った10名にアジア人がいなかったのは、アジア人として残念。近年ずっとアジア人入賞者がいたのに。10名全員欧州人で、特にロシア勢の躍進が目立った。アジアが低調だったというよりは、欧州が巻き返したのだと思う。今回のコンクールのレベルは高かった」
●(優勝はプレッシャーになる、アルゲリッチさんらにアドバイスを求めるなら?という質問を受けて)アヴデーエワ「優勝は栄誉であるがたしかにプレッシャーもある。音楽家として人間として成長しなければいけない。どうやってバランスよくそれを実現するかを尋ねたい」。
●アルゲリッチ「申しわけないけど、私は優勝したときもぜんぜんプレッシャーに感じませんでしたよ(笑)。私にとって、コンクール優勝は自然なことだった。でもコンサートにプレッシャーを感じることはある。あなたがこれからやらなければいけないのは、人生そのもの。プレッシャーと戦うのが人生そのものになる。そこでどうやってバランスを取るか、生き方が問われる」
●アルゲリッチはアヴデーエワの演奏に対しては「最初から終わりまで、バランスが完璧に取れていた」と評していた。
●アヴデーエワはN響との共演以外に、12月8日オペラシティでリサイタルを開く。
ジュリアーノ・カルミニョーラ with ヴェニス・バロック・オーケストラ
●この前の日曜日、28日に三鷹市芸術文化センター・風のホールにて、ジュリアーノ・カルミニョーラ with ヴェニス・バロック・オーケストラ。オール・ヴィヴァルディ・プロ。2年前も同じホールで聴いた。
●猛然と楽しんだ。もうほとんど「信者」かも。ヴィヴァルディを聴きに来たというよりは、カルミニョーラを聴きに来たモード。アグレッシヴだったりよく歌ったりするコントラスト振れ幅最強に強まったカルミニョーラ節を堪能。あのオッサンの弓、ときどき弧を描いて、しなって見えないっすか、指先で鉛筆つまんでゆらゆらすると曲がって見えるのと同じ理論で。
●カルミニョーラのステージって、いい意味で演出され切ってると思うんすよ。前半5曲あるんだけど、そのうち最初の3曲は本人出てこなくてヴェニス・バロック・オーケストラ(以下VBO)だけで演奏する。シンフォニア、コンチェルト、シンフォニア。これがなんとも冴えないというか大人しいんだけど、これワザと説。で、カルミニョーラが出て来ると、とたんに舞台がギラついて、生命力あふれすぎるヴィヴァルディが炸裂。聴衆はカルミニョーラが出てきた時点でもうオーラに圧倒される。ホントにカッコよすぎる。プロポーズしちゃいそう(しません)。
●ヴァイオリンは立って弾くのと座って弾くのとじゃカッコよさが段違いだなー。もちろんみんな立って弾く。VBOには内緒のルールがあるにちがいない。ヴァイオリン奏者は太ってはいけない、立ち姿が映えるように。ただしカルミニョーラより長身ではいけない。男性に限る。ヴィオラ奏者は痩身の女性に限る。太ってはいけない。しかし通奏低音部隊はシブいオヤジであることが求められ、痩せていてはいけない、貧相に見えるから。←あ、これワタシの妄想だから。
●休憩後に3曲しかないんだけど、アンコールは大サービス。タルティーニのヴァイオリン協奏曲D96第4楽章があって、ヴィヴァルディ「四季」の「夏」第3楽章。これは今日はもうおしまいの合図かなと思ったんだけど、ノリノリの客席にこたえて、「四季」の「秋」第1楽章をやって、第2楽章をやって、結局第3楽章もやる。あー、笑いが止まらない、この愉快さ。カルミニョーラとVBOは、演奏中も演奏の合間も舞台上でのお互いのコミュニケーションが多いのがいいっすね。たとえ、楽譜にカルミニョーラの指示で「ここでリュートとヴィオローネが目配せしてニッコリする」と書いてあったのだとしても、ワタシは信者になって楽しむから!(←いやそれ妄想ですから)。