●28日、復活したミューザ川崎で「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2013」記者発表会。写真左よりピアニストでホールアドバイザーも務める小川典子さん、東京交響楽団音楽監督ユベール・スダーン、阿部孝夫川崎市長。ほかに日本オーケストラ連盟事務局長の吉井實行さん、東響楽団長の大野順二さんも登壇。
●震災によるミューザ川崎シンフォニーホールの天井崩落にともない「フェスタ サマーミューザ」は昨年まで2年間、川崎の各地のホールで分散開催されていたが、いよいよ今年はミューザに帰ってくる(7/28~8/11)。音楽祭の企画内容はこれまでと同様、首都圏の9つのオーケストラがそれぞれミューザ川崎で公演を開くというもので、通常のフルサイズの公演もあれば、休憩なしの70分のコンサートもあり、夜の公演もあれば平日昼の公演もあるということで、「お好きなものをどうぞ」というのがこの音楽祭のスタイル。オープニングコンサートとフィナーレコンサートはホスト・オーケストラとでも呼ぶべき東響が出演する。
●また、今回は「出張サマーミューザ@しんゆり!」として、テアトロ・ジーリオ・ショウワで神奈川フィルと東響の公演も開かれる。せっかく去年まで2年間、各所で公演があったのが、ぜんぶミューザに戻って何もなくなってしまうのも寂しいということか。
●オープニング・コンサートを振るスダーンは、ふたたびミューザ川崎で公演を開催できることについての喜びと感謝を述べ、また東響での音楽監督時代を振り返り、「10年前から音楽監督を務めて今年で最後になるが、私の音楽人生のなかでももっとも美しい10年間だった」と語った。
●記者発表会の後、希望者はホールで行われている東響のリハーサルを見学できるということなので、中に入れさせてもらった。3/31の名曲全集(本番は川崎市教育文化会館)のリハで三ツ橋敬子さんがベルリオーズの幻想交響曲を振っていた。まるで何事もなかったかのようにホールは復活している。思わず天井を見上げるが、もちろん傷跡もなにもない。お客さんが入っていないのでホールの響きについてはリニューアルオープン後にまた確かめることになるだろうけど、震災直後の無残な写真がウソのように思えるほど、きれいに以前のホールが再現されていた。
News: 2013年3月アーカイブ
「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2013」記者発表
オノフリ with チパンゴ・コンソート Live in Japan 2013
●20日は上野学園石橋メモリアルホールでエンリコ・オノフリ&チパンゴ・コンソート。コレッリではじまり、ヘンデル、ヴィヴァルディ、チャールズ・エイヴィソン、ヴィヴァルディ、バッハと続いて、コレッリで終わるプログラム。6日に金沢で聴いたオノフリ&OEKの共演は記念すべき第一歩、播種の音楽とすれば、こちらは毎年共演を重ねて収穫期に到達した音楽。オノフリとチパンゴ・コンソートの共鳴度がはんぱない。アンサンブルが光彩を放ちながらウネウネと高潮し、白熱した後にしばしば意表をついてふわりと着地するオノフリ節をたっぷりと堪能。生気にあふれ、弾けていた。
●最初のコレッリのソナタop5-1は、コレッリのオリジナルとジェミニアーニが編曲したコンチェルト・グロッソ版を楽章ごとに交代させるという趣向。一粒で二度おいしい。チャールズ・エイヴィソンはD・スカルラッティのソナタを編曲した協奏曲第5番。冒頭楽章はスカルラッティとは異質な音楽でこれはエイヴィソンのオリジナルらしいんだけど、続く3つの楽章はたしかにスカルラッティのソナタ。原曲の箱庭的な情趣に代わってさっぱりと開放的な楽しさが前面に出てくる。最後のコレッリの合奏協奏曲op6第4番ニ長調、おしまいのアレグロを猛烈な勢いで盛り上げて終わるんだけど、あまりの華々しさに思わず笑ってしまう。心のなかの「いいね!」ボタンをクリックしたい。
●チケットは完売。NHKのカメラが入っていて、4/29の「クラシック倶楽部」で放送されるんだとか。写真のジャケはこの日の公演に合わせてリリースされたオノフリの「悪魔のトリル」。あと、会場の物販コーナーにオノフリ・スカーフが売っていた。笑。
カンブルラン&読響のマーラー「悲劇的」
●19日、サントリーホールでカンブルラン&読響。マーラーの交響曲第6番イ短調「悲劇的」のみのプログラム。同一演目ですでに3日目だったので、すでにSNS上で絶賛されているのを目にしてから足を運ぶことになったが、期待を上回るおもしろさ。早めのテンポできびきびと前進するマーラーで、猛烈にカッコいい。響きの美しく、明快で端正、ぜんぜん悲劇的ではないところがすばらしい。第2楽章にアンダンテ、第3楽章にスケルツォの順番。ティンパニは両サイドに配置、中央にハンマー。張りつめた空気に固唾をのんでじっと聴き入る。世界が崩壊するみたいなマーラーではないので、客席の評判はどうかなと思ったら、大いに沸いた。
●カンブルラン&読響で、今までで特にスゴいなと思ったのは「ダフニスとクロエ」と「ペトルーシュカ」(もちろん聴いた限りではってことなんだけど)。それに匹敵する印象深さ。特にアンダンテがこんなに美しい音楽だったのかと目ウロコ。
●読響は少し前にセゲルスタムとド演歌みたいなマーラー5番やってたのに、カンブルランとはこんなに明るくスタイリッシュなマーラー。脱帽するしか。
サントリーホール「チェンバーミュージック・ガーデン2013」とボロメーオSQのMacBook Pro
●東京は春になると毎月音楽祭がやってくる。ちょうど先日開幕して4月半ばまで続く東京・春・音楽祭。続いて5月はもちろんラ・フォル・ジュルネ。で、6月はサントリーホールの「チェンバーミュージック・ガーデン」。ブルーローズ(小ホール)を使用する室内楽のお祭りで、今年で3年目になる。目玉企画はベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会で、今年はボロメーオ・ストリング・クァルテットが出演する。その他、オープニングコンサートの「堤剛プロデュース2013」、クァルテット・エクセルシオとサントリーホール室内楽アカデミー・フェローによる「ENJOY! ウィークエンド」など多彩な企画が並ぶ。
●で、ボロメーオ・ストリング・クァルテットのベートーヴェンなんだけど、曲の割り振り方が思い切ってる。5日間あって、最初の1日でOp18の全部、つまり第1番から第6番までを一挙に演奏しちゃう。6曲も聴けてお得だ(笑)。あと、第13番変ロ長調が4日目にも5日目にも入っている。これは4日目が差し替え終楽章が入ったバージョンで(ただし「大フーガ」は冒頭に独立した作品として演奏する)、5日目は終楽章が「大フーガ」のバージョンで演奏するという趣向。
●あとボロメーオ・ストリング・クァルテットは印刷された楽譜の代わりに、みんなでMacBook Proを使って演奏するというのがおもしろい。下の動画で実際の演奏風景が見れる(ら抜き)んだけど、USBでつながったフットスイッチを踏んで譜めくりをする(「進む」と「戻る」の2ボタンらしい)。楽譜データは単なるPDFを利用しているそうで、書き込みにはAdobe Acrobatを使用。OS等に依存しない汎用性のあるプラットフォームを利用している。
●なぜ楽譜をデジタル化するかについては、まずはスコアを見ながら演奏したいというのが出発点だったとか。ヴァイオリンのニコラス・キッチンによれば、パート譜で演奏していたころは、練習時間の多くが他人が何を弾いているのかを確かめるために費やされていたけど、4人がスコアを見れば効率的である、と。さらに「作曲家がアンサンブルに同一性を求めなかった場合でも自信が持てる」ということで、ベートーヴェンがそれぞれの楽器に異なる弾き方を要求しているときに、すぐに発見できるのが利点。さらに練習では手稿譜もデータで参照しているそう。
●画面の大きなラップトップが譜面台?にのっかているのがクールかどうかは微妙なところではあるけど、iPadやタブレットPCでは画面サイズが足りないか。
トッパンホール「エスポワール」新シリーズ記者会見
●14日の昼はトッパンホールで記者会見。若手演奏家に飛躍の機会を提供するシリーズ「エスポワール」の話題が中心で、シリーズ10としてピアノの北村朋幹さん(写真右)、シリーズ11としてヴァイオリンの山根一仁さん(左)が登場。西巻正史企画制作部長による企画趣旨説明と、お二人のアーティストによる演奏を一曲ずつ、さらに公演への抱負が語られた。
●北村さんは今年10月12日にソロでシューマン、ホリガー、ベートーヴェン、バルトークからなるリサイタルを開き、さらに2014年10月には室内楽プログラムでダニエル・ゼペック(vn)、オリヴィエ・マロン(vc)とベートーヴェンで共演、そして15年にはあるピアニスト(調整中)と共演する。一方山根さんは14年3月にいきなり無伴奏のリサイタルを開き、15年にデュオ、トリオ、16年にリサイタルが予定される。いずれもホールがアーティストの成長や挑戦を積極的にサポートしていこうという企画意図に基づき練られたプログラム。
●で、北村朋幹さん21歳、山根一仁さん17歳という若さなんだけど、もうホントにスゴい、二人とも。演奏がすばらしいだけじゃなくて、話し方、話す内容もしっかりしていて、その年齢からは考えられないほどの成熟度。北村さんはLFJでもすでに活躍していて、R・シュトラウス「メタモルフォーゼン」を自身のピアノ・デュオ用編曲で披露してくれたのが印象に残っている。この日はブラームスの創作主題による変奏曲を演奏。一つ一つのフレーズが豊かな詩情を湛え、音楽があふれ出てくる。楽器のピアニスティックな機能性を発揮させることに対して関心が薄そうなところも好感度大。山根さんはサラサーテのカルメン幻想曲。すさまじい切れ味。おっさんおばさんには不可能なアスリート的な敏捷性を見せつけてくれたというか。観客が入るとさらに大胆さが発揮されると予想。若くて優秀な人が次々と現れるのだなあ……。
●最後に新リーズ「室内楽マイスターへの道」が今年7月からスタートすると発表、第1回に出演するピアノの津田裕也さんが登場し、演奏とメッセージを一言。公演ではイェンス=ペーター・マインツのチェロと共演する。第2回は14年1月にピアノの佐藤卓史さんで、ヴォルフラム・クリストのヴィオラと共演する。
●以前から感じていることだけど、トッパンホールって本当にリソースに恵まれているなあとあらためて実感。凸版印刷偉大すぎる。
インキネン&日本フィルの公開リハーサル&記者懇談会
●13日、ピエタリ・インキネンと日本フィルの公開リハーサル&記者懇談会が開かれた(杉並公会堂。司会進行は奥田佳道さん)。フィンランド出身の日フィル首席客演指揮者インキネンが明日15日からシベリウス・チクルスをスタートするということで、その話題が中心。7曲の交響曲を3回に分けて指揮するのだが、まずは第1番&第5番、続いて第4番&第2番、最後に第3番&第6番&第7番という組み合わせ。インキネンによれば、曲の割り振り方は「そんなに選択肢はない」。「時系列で順に並べるという考え方もあるが、そうすると第1番&第2番はロマンティックで長大な曲が並んでしまう、第3番と第4番、第5番~第7番と分けるとバランスが悪い。第4番は作風が変わって特別な曲なので、人気曲の第2番と組み合わせたかった。第6番と第7番には類似性がある」。
●第6番と第7番についてはつなげて一曲として演奏したいとか。6番と7番をセットで考えるのであれば、曲の長さからいっても性格からいっても、その前に第3番を置くのは納得。で、1番&2番のロマンティック・セットを避けようとすれば、たしかに自然とこんな割り振り方になりそう。
●インキネンがシベリウス以外に最近力を入れている作曲家はワーグナー。現在パレルモのテアトロ・マッシモで「リング」進行中。日フィルとは9月の定期演奏会で「ワルキューレ」第1幕(演奏会形式)をとりあげる。歌手陣はエディス・ハーラー、サイモン・オニール、マーティン・スネル。
●来年2月の日フィル九州ツアーはインキネンが指揮。シベリウスの交響曲第2番他、2プログラムを予定。
METライブビューイング「リゴレット」マイケル・メイヤー演出
●METライブビューイングのヴェルディ「リゴレット」、舞台はなんとラスヴェガス。演出はマイケル・メイヤー(ミュージカルの演出家なんだとか)。どぎついネオン、カジノ、ダンサーたちが舞台を極彩色で飾るド派手演出。で、マントヴァ公爵の役どころはフランク・シナトラをイメージした業界のドン「デューク」。チェプラーノ伯爵やマルッロはシナトラの取り巻きたち「ラットパック」のメンバーだ。60年代アメリカのポップ・カルチャーにまったくなじみがないワタシたちにも言わんとするところは伝わる。女なんて遊び相手に過ぎずあたかもオモチャのように扱う権力者がいて、あわれな道化がいて、殺し屋がいて、カネと欲望が渦巻く街。ラスヴェガスが舞台でなんの齟齬もない。幕が開いてすぐにデューク(公爵:ピョートル・ベチャワ)がセクシーなダンサーたちを携えてマイク片手に「あれかこれか」を歌う。テンションあがる!
●もう一つ「リゴレット」の物語でキーとなるのが「呪い」の言葉。モンテローネがかけた呪いがリゴレット父娘にふりかかえるわけだが、現代において呪詛の言葉が本当に意味を持つ場所はどこかといえば、それはやはりラスヴェガスみたいな街なんじゃないかな、という点でも納得。このマイケル・メイヤー演出ではリゴレット(ジェリコ・ルチッチ)は明確に不具者として描かれてはいない。かろうじて背中にこぶがあるかどうかというくらい。業界のお調子者で毒舌をまき散らすが、家に帰れば優しいパパ。
●ジルダ役のディアナ・ダムラウ、スパラフチーレ役のステファン・コツァンらの好演もあり、大いに楽しめる舞台だった。指揮はミケーレ・マリオッティ。
●さて、ここからはワタシなりの理解なんだけど、ダムラウが歌うジルダはどう見えただろうか。歌唱は最高だが、ダムラウおばちゃんはどう見ても純朴な少女には見えない、と思われるかもしれない。だが、違うんである。「オペラは(脚本家や演出家の意図に合わせて脳内補正するのではなく)見たままに解しよう」キャンペーン実施中のワタシは、ジルダはあの通りの40代女子であると受け取った。つまり、リゴレットは子離れのできなかった父親なんである。娘に「お前は教会だけに行け。ほかに外出は許さない」と言い続けてきたので、娘は世間に触れることなく40代の純朴な女子になった。リゴレットは60代。つじつまはあう。リゴレットが世間に対して築いた不信の壁が、ジルダに囚われの人生を送らせた。デュークはジルダに一瞬本気の恋をする。彼にとって若くてきれいなだけの女性はありふれた存在だが、ジルダは違う。未知の存在、設定外の存在だ。デュークは征服欲を刺激される。
●ジルダの「私がデュークの身代わりになって殺し屋に殺されましょう」という奇天烈な自己犠牲は、父リゴレットに自らの謀略で娘を死に至らしめるという最大の罰を与える。人生を檻に閉じ込められた娘の父親への復讐劇とも読める。この物語で共感可能な人物がいるだろうか。いるとすれば、それはのびのびと放蕩にふけった若者デュークかもしれない。
ロンドン交響楽団「魔法の冒険」
●来日中のロンドン交響楽団による「子供たちに贈るスペシャル・コンサート~魔法の冒険」へ(サントリーホール)。主催はソニー音楽財団。いやー、これは感動。企画がよく練られたキッズ・コンサートで、アイディアも本気度もさすがのクォリティ。
●とにかく客席を参加させるのがいい。リズム遊びみたいに手を叩いたり足踏みしたり声を出したりしながら、コンサートが進む。ベートーヴェン「田園」の第4楽章を演奏する前に、オケで実際に音を出してこれが嵐、これが雷……と説明するだけでなく、「手の甲を叩いて雨の音を出してみよう」「次は口で嵐の音を出そう」とかやってから、曲を演奏する。目鱗。
●司会のおねえさんはレイチェル・リーチという若い女性で、子供さばきも見事なんだけど、実は作曲家なんだとか。客席参加型の自作として Inoh' Pokak(イン・オー・ポカク)という曲を持ってきてて、みんなで拍手、足踏み、発声でオケと共演する。キッズも大人も楽しんでた。「Inoh' Pokakというのは意味のない音です」と説明してスタートして、最後はネタばらしというか、この言葉を後ろから読むと「カコフォニー Cacophony」(不快な音)になるという仕掛けなんだけど、さすがにこれは日本人にはわからない(笑)。でもいいの、みんな満足してたから。
●指揮は注目の若手ダーヴィト・アフカム。最後に「ハリー・ポッター」の「ヘドウィグのテーマ」を演奏してくれた。すげー、ロンドン交響楽団の「ハリー・ポッター」、本物だ~的な。
●こういうのを体験すると、単に司会が曲の説明をしてオケが演奏するだけのキッズコンサートがすべて色褪せて見えてしまう。
エンリコ・オノフリ&オーケストラ・アンサンブル金沢
●6日は急遽金沢へ。石川県立音楽堂でエンリコ・オノフリとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の初共演。バッハとヴィヴァルディのみの今日のモダンオケの定期公演ではなかなかないバロック音楽プロが実現した。オノフリは指揮をするだけではなくて、ずっとヴァイオリン弾きっぱなしでアンサンブルをリード。オノフリのヴァイオリンや濱田芳通さんのリコーダーと並んでOEKのプレーヤーたちもソロを務めるという異種格闘技でもあり、なおかつ定期公演というフォーマットに収まっている以上OEKのお客さんのための公演であるので、どんな雰囲気になるのかもぜんぜん予測がつかなかったんだけど、大成功だったと言っていいんじゃないだろうか。特に後半、ヴィヴァルディの「調和の霊感」第11番ニ短調、バッハの管弦楽組曲第3番ではスリリングでしなやかなオノフリ節が炸裂。終演後のオノフリのサイン会も盛況。OEKには近年ミンコフスキも客演してるけどそのときは20世紀前半プロだったので、今回のプログラムは貴重だったのでは。この定期に先立って、オノフリとOEKメンバーによる室内楽公演も交流ホールで開かれたそうなので、これを機にさらに先が開けることを期待するしか。
●東京みたいに「一年中なんでもやってる」のを普通だと思うとピンと来ないかもしれないんだけど、金沢クラスの都市の人口規模だと、そこのオケのシーズンが実質的にその街の音楽シーズンの幹にならざるをえない(定期会員っていうベースがあるから)。なので、OEKは二管編成の室内オケにできる限られたレパートリーだけじゃなくて、たとえばオノフリの直前には地元学生オケとOEKが合同演奏でチャイコフスキーの「悲愴」みたいな曲もやってるし、4月には金聖響指揮大阪フィル(当初はベルギー・フランダース交響楽団の予定だった)の演奏会がOEKの定期公演のひとつとして開催される(OEKは出演しないのに、OEKの定期公演のシリーズに組み込まれている)。だったら、シーズンのなかにバロック・ウィーク、古楽ウィークみたいなものも年に最低1回くらいは欲しいと渇望してる方も多いと思うんすよね。しかもレパートリー的には広大な沃野が広がってるわけだし。
BunkamuraのN響オーチャード定期、飯森範親指揮、シュテファン・ドール
●3日はBunkamuraでN響オーチャード定期。飯森範親指揮でウェーバーの「オイリアンテ」序曲、R・シュトラウスのホルン協奏曲第2番(シュテファン・ドール)、チャイコフスキーの交響曲第5番。ベルリン・フィルの首席ホルン奏者シュテファン・ドールがシュトラウスを吹くのだから、もちろんすばらしい。ほれぼれと聴きほれる。とはいえ、せっかくドールを聴けるのにこれだけでは物足りないかな……と思っていたら、アンコールでメシアン「峡谷から星たちへ」の「恒星への呼び声」を演奏してくれた。これがもう強烈。ホルンからこんな多彩な音色、表情が出せるなんて。そして恐るべき安定感。
●で、少し感動したのは、「恒星への呼び声」で(フツーに聴けば)風変わりな音が出るわけだけど、そこで客席から「フフフ……」って小さな笑い声が起きたんすよ、何度か。そそ、これ笑うよね!と心のなかで膝を打った。N響オーチャード定期って「休日の午後、渋谷でゆっくり過ごしましょう、コンサート聴いて、それからおしいものでも食べてね♪」っていうノリのシリーズなので、お客さんの年齢が幅広い。若い人もたくさんいる。曲目は名曲中心。どういうニュアンスにせよ、コンサートで笑えるというのは理想。笑いたい。
●チャイコフスキーはさすがの完成度。炸裂するロマンティシズム。第1楽章からほとんどアタッカで第2楽章に入った。終楽章で客席のお客さんがみんな頭を上げているのに気づいた。舞台に集中して、食い入るように見つめている。チャイコの5番って、そういう曲なんすよね。これは相当客席が沸くだろうと思ったが……やや予想ははずれたか?
スダーン&東響のオール・モーツァルト・プロ
●2日はスダーン指揮東京交響楽団の「オール・モーツァルト・プロ」へ(東京オペラシティ)。前半に「フィガロの結婚」序曲、ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」(戸田弥生)、後半に「フィガロの結婚」からのアリア「さあ、ひざまづいて」「恋人よ、早くここへ」とコンサート・アリア「あなたは今、忠実ね」K217(新垣有希子S)、交響曲第38番「プラハ」という晴れやかなプログラム。スダーン&東響のコンビのモーツァルト、久しぶりに聴いたけどこんなにすばらしかったとは。ヴィブラートを抑制して、バロック・トランペット、バロック・ティンパニを用いた澄んだ響きと穏健なフォームで描かれる精彩に富んだモーツァルト。新垣有希子さんも華があって爽快な気分に。
●今日の17時から、同じプログラムで新潟定期があるんすね。これだけ完成度の高いモーツァルトは都内でもめったに聴けないので、ブルーノ・ロペスの太腿並みの力こぶでオススメしたい。
●同日、Jリーグ開幕。Jリーグタイムでマリノスの勝利を知る。これで安心して?試合の録画を再生できる。