●最近読んだなかでも抜群におもしろかった一冊が、新国立劇場合唱団指揮者である三澤洋史さんの「オペラ座のお仕事 世界最高の舞台をつくる」(早川書房)。三澤さんがいかにして指揮者になったか、そして新国立劇場の舞台裏で起きた数々のエピソードが率直で軽妙なタッチで綴られている。さらにバイロイト音楽祭やスカラ座で体験した現場の姿、指揮者論など、どこをとっても読みごたえがある。特に印象に残ったのは新国立劇場での指揮者リッカルド・フリッツァとの「戦いと友情の物語」だろうか。合唱指揮者に振らせず、合唱はオレの棒だけを見ろと要求するフリッツァと、それでは合唱が十分に実力を発揮できないという三澤さんの決定的な対立が、やがて信頼と友情で結ばれた関係へと発展する。
●で、先日、FM PORTの拙ナビによる番組「クラシックホワイエ」の収録で、三澤さんをゲストにお招きすることができた。合唱指揮者の役割や、著書「オペラ座のお仕事」について、楽しいお話をたっぷりとうかがった。オンエアの予定は2月14日(土)22時~。新潟県内の方は電波またはラジコで、それ以外の方はラジコプレミアムでお聴きになれます。本を読んだ方も、未読の方も、ぜひ。
News: 2015年1月アーカイブ
「オペラ座のお仕事 世界最高の舞台をつくる」(三澤洋史著)
ソニーの Music Unlimited サービス終了へ。Spotifyと協力し PlayStation Music に
●寝耳に水のニュース。ソニーの定額制音楽配信 Music Unlimited が3月29日をもってサービス終了するという。えっ、まさか。まだまだこれからのサービスじゃないの?? と疑問に思うが、Music Unlimited は終了するものの、代わって Spotify との提携により新音楽サービス PlayStation Music を世界41カ国・地域で提供するというではないか。
●つまりそれって PlayStation のブランドで中身が Spotify っていうサービスに変わるってことなの? だったらそれはそれで歓迎だけど、問題は例によって「国境の壁」だ。日本国内での PlayStation Music の展開については「様々な可能性を検討しておりますが現時点では未定です」という。このなんともいえない、やれるかもしれないしやれないかもしれない感。ああ。Music Unlimited とは違った国内レーベルとの契約が必要になるんだろう。
●現状、クラシックに関して言えば Naxos Music Library が圧倒的に強力で、これがあれば事足りるという面はあるんだけど、ユニバーサル系レーベルの音源を聴くときは Music Unlimited に頼ってきた。PlayStation Music の国内サービスが始まるのかどうなのか、そして始まったとしてその中身がどうなっているのか、目が離せなくなっている。
「Music Unlimited」サービス終了のお知らせ
http://www.sony.jp/music-unlimited/info/201501.html
LFJ2015は「PASSIONS(パシオン)恋と祈りといのちの音楽」
●金沢、新潟、びわ湖に続いて、東京の「ラ・フォル・ジュルネ」も今年のテーマが発表された。PASSIONS という大筋のテーマはすでに告知されていたけど、これをどう日本語表現に落とし込むかというのがなかなか難しいところだなあと思っていたところ、こうなった。
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2015
「PASSIONS(パシオン)恋と祈りといのちの音楽」
●金沢とびわ湖が「パッション(パシオン)・バロック」とバロックをテーマに掲げているのに対し、新潟は「パシオン ~恋する作曲家たち」、東京は「PASSIONS(パシオン)恋と祈りといのちの音楽」といったように、「恋」というキーワードが出てきた。えっ、恋? 愛じゃなくて恋。男子メンタリティ的にはまちがえてうっかり違う場所に来ちゃった感もそこはかとなく漂うふんわりしたキーワードであるが、ショパンとかシューマンとかブラームスといったロマン派の作曲家やオペラ・アリアなどを「恋」という言葉でくくっている模様。「祈り」は主にバロック期の受難曲等を表わしているとして、「いのち」はなんだろう? 2月12日に記者発表が開かれるので、そこでプログラムが明らかになるはず。
●キーワードを「と」でつなげて3つ並べる方式はリズミカルでいいかもしれない。でもなかなか覚えられない。えーと、「パシオン、恋と花火と観覧車」。ちがう、「パシオン、恋とスフレと娘とわたし」「パシオン、酒と泪と男と女」「パシオン、俺とお前と大五郎」……じゃない、「パシオン、恋と祈りといのちの音楽」だ!みたいな。
ノセダ&N響でカセルラの交響曲第3番、Jupiterで新連載
●22日はジャナンドレア・ノセダ指揮N響へ(サントリーホール)。リストの交響詩「レ・プレリュード」 、ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲(アレクサンダー・ロマノフスキー)、カセルラ(カゼッラ)の交響曲第3番というプログラムで、断然カセルラが楽しい。はじめて聴いた。伝統的な4楽章構成の交響曲で、1940年の曲とは思えない書法。以前ノセダが来日したときは同じカセルラの交響曲第2番(なんと日本初演だった)を演奏してくれて、そのときはどっぷり後期ロマン派な作風に聴衆は大喝采だった。が、この第3番が書かれたのは前作から約30年後。保守的とはいっても熱血シンフォニーではなく、ショスタコーヴィチ風味ありマーラー風味ありで、やはり時代意識の変化が作風にも影響を及ぼしているのか。特に終楽章は思い切りマーラーの5番。パロディなのかシリアスなのか反応に困ってしまう。そんなとまどいも含めて満喫。未知の交響曲を実演で聴けるという喜び。
●お知らせをひとつ。大阪のいずみホールの情報誌 Jupiter で今号より新連載をスタート。前号でひとつ連載が終わっていたんだけど、今度はまったく別のテーマで再登板することになった。「音楽・座右の銘」という、音楽家が残した一言を題材とした気軽なエッセイ。「運命と呼ばないで~ベートーヴェン4コマ劇場」でおなじみのIKEさんに漫画を添えていただいている。作曲家を題材に、だれかに挿画をお願いしよう……となって、まっさきに名前が思い浮かんだのがIKEさん。共演できてうれしい。
アレクサンダー・ガヴリリュクのピアノ・リサイタル
●20日はアレクサンダー・ガヴリリュクのピアノ・リサイタルへ(東京オペラシティ)。前半のモーツァルトのロンド ニ長調、ブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」もさることながら、お目当ては後半。恐るべきヴィルトゥオジティ。リストのメフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」とコンソレーション 第3番、ワーグナー~リストの「イゾルデの愛の死」、リスト~ホロヴィッツの「ラコッツィ行進曲」、サン=サーンス~リスト~ホロヴィッツの「死の舞踏」、リストの「タランテラ」(巡礼の年第2年補遺「ヴェネツィアとナポリ」より)という派手なプログラムで超絶技巧が炸裂。豪快。陰影に富んだ表情だとか詩情だとか、そういう要素もないことはないんだろうけど、メカニカルな雄弁さがあまりに強烈で、ひたすら圧倒される。
●アンコールは5曲、次々と。高速千手観音みたいなリムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」、メンデルスゾーン~ホロヴィッツの「結婚行進曲」他。
●カヴリリュク、がぶり寄り。がぶり寄ってると思う、彼は。今時代はガブッ! ガブリと噛む、噛みしめる。ガブッ(←くどい)。
ノセダ、ロマノフスキー、アジア・カップ2015
●先週のコンサートだけど備忘録的に。16日はノセダ指揮N響(NHKホール)。イタリア人ながらオール・ロシアものというノセダならではのプログラム。組曲「展覧会の絵」は最近&これからなぜか東京で演奏頻度が高い曲目。ラヴェル流の洗練と精緻さに焦点を当てるのではなく、その向こう側にあるムソルグスキーの土俗性をぐいっと引っぱり出して見せるような濃厚な演奏だった。
●17日は彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールでアレクサンダー・ロマノフスキーのリサイタル。少し遠いがこのホールは好き。なぜかいつも与野本町と大宮とどちらが手前かわからなくなる。埼京線に乗って、与野本町に行くのはコンサート、大宮に行くのはサッカー。前半ベートーヴェン、後半ショパンというプログラムで、予想以上に後半の比重を大きく感じたというか。アンコールは盛りだくさんで、ショパン「革命」、バッハ~ジロティ編曲の前奏曲 ロ短調 BWV855(平均律第1巻の曲)、スクリャービン「12の練習曲」より第12番嬰ニ短調、ショパンの夜想曲第20番(遺作)、バッハ~ユシュケヴィチ編曲の「バディヌリ」。ジロティ編曲の容赦のないロマン性が強烈。ユシュケヴィチ編曲は爽快。都内での公演はこれから23日、紀尾井ホールで。
●今回のアジア・カップ2015、グループリーグはニッポン代表を含む残り2戦となったが、なんとこれまでの22戦で引分けが一試合もない! 一般にサッカーの引分け確率は25%程度であるから、22試合で引分けが一試合もない確率は0.75^22ということで0.18%ほどしかない……と、言いたいところだが、これはJリーグやプレミアリーグのように同一リーグでの話。アジア・カップのグループリーグはチーム間の実力差はもう少し大きいと思われるので、引分け確率は違ってくるだろう。しかし、それにしても勝敗が決まりすぎててサッカーらしくないというかなんというか。
阪哲朗指揮東京フィルのドヴォルザーク&ベートーヴェン
●14日は阪哲朗&東京フィルへ(東京オペラシティ)。ドヴォルザークのチェロ協奏曲(堤剛)、ベートーヴェンの交響曲第7番という名曲ど真ん中プロ。堤さんがドヴォルザークを弾くのを聴くのは何回目なんだろうか。風格漂う気迫のソロ。独奏者のオーラが客席まで届いていた。オーケストラのサウンドも豊麗で潤いが感じられる。アンコールにカザルス「鳥の歌」。定年退職する首席チェロ奏者の黒川さんに捧げて演奏された。後半のベートーヴェンの交響曲第7番は歯切れよく躍動感に富んだ快演。どことなくクライバーを連想させる。客席の反応はもう少し熱くなるかなとも思ったが……。
●終演後、いったん拍手が止んでオーケストラが舞台から退出しているところで、ふたたび客席から黒川さんへの拍手。舞台袖に引っこんではいないからこれはソロ・カーテンコールとは言わないだろうけど、なんて呼べばいいんだろう。心温まる光景だった。
OEKのニューイヤーコンサート2015
●年末年始モードが終わって、今週は一気にコンサート・ラッシュ。13日はオーケストラ・アンサンブル金沢のニューイヤーコンサート2015へ(紀尾井ホール)。井上道義さんの東京での復帰公演になる(鎌倉ではN響公演があったけど)。なにも知らなければ「少し痩せられたのかな」と思うくらいで、指揮ぶりは闘病以前の姿とまったく変わらない。放射線治療の影響で声はさすがにしわがれてはいるものの、昨年10月の復帰会見より格段に復調している。
●プログラムは新年らしく、ワルツ&ポルカとミュージカルを半々くらいで合わせたもので、ミュージカルの部分は島田歌穂さんが歌ってくれた。歌はPAありで、普段のコンサートとはずいぶんちがった雰囲気に。シュトラウス・ファミリーもあればロイド・ウェッバーもあるという多彩さ。帰宅してから島田歌穂さんが「がんばれ!! ロボコン」のロビンちゃんだったと知って、軽く震撼している。ハートマーク、没収。
●今、金沢は3月の北陸新幹線開通という歴史的大イベントを迎えようとしているのだが、これにちなんでヨハン・シュトラウス2世のポルカ「特急」(急行列車)が演奏された。19世紀風のレトロなスピード感が表現されていて、速いんだけど速くない。「ビュンビュン走る」様子が描写されているんだけど、現代の新幹線くらいまで高速化するともう速すぎて「ヒューン」でおしまいだから。今ヨハン・シュトラウス10世くらいが生きていたら、金沢市とJR西日本は北陸新幹線開通記念「かがやきポルカ」を委嘱していたはず。
LFJ2015、金沢、新潟、びわ湖でのテーマ
●以前にもお伝えしたように、次回のラ・フォル・ジュルネはナントも東京もみんな「パッション」というテーマで開催される。とはいえ、この「パッション」(情熱、キリストの受難)という言葉をどう日本語のテーマに反映させるかは悩みどころで、いったいどうなるかなと思っていたら、東京に先んじて金沢、新潟、びわ湖で正式名称と思われるテーマが発表されている。
●ぜんぶ「パッション」にはちがいなんだけど、それぞれ微妙にニュアンスが違うので以下に並べてみよう。
LFJ金沢:パッション・バロック ~ バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディ~
LFJ新潟:パシオン ~恋する作曲家たち~
LFJびわ湖:パシオン・バロック ~バッハとヘンデル~
●金沢とびわ湖ははっきりとバロックを打ち出している。金沢はバッハとヘンデルとヴィヴァルディが主役。びわ湖ではそこからヴィヴァルディが抜けてバッハとヘンデルの二人になる。ただ金沢は「パッション」だけど、びわ湖は「パシオン」なんである。パシオン……。これってフランス語風ってこと? 主役となる作曲家がはっきり示されているので、実は従来とテーマ設定の仕方自体は変わっていないわけだ。
●一方、新潟は「パシオン ~恋する作曲家たち~」と、まるで女性誌の特集タイトルみたいなノリになっている。この副題からすると、バッハやバロック中心というわけではないということなんだろうか。バッハは「恋する作曲家」っていうにはあまりに家庭的なイメージで、むしろ「繁殖する作曲家」って気もするし。恋を題材とした曲は無数にあり、色恋沙汰と無縁の作曲家というのもほとんどいないわけだから、どんな可能性でもありそう。期待して待つしか。
謹賀新年2015
●あけましておめでとうございます。秒速1秒の速度で2015年が堂々の到来。心のなかにしっかりと刻みたい、今年はもう2015年。ひつじ年といわれて思い浮かぶのは、羊頭狗肉、羊の皮をかぶった狼、羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……Zzzzz。
●はっ。新年早々に告知を。本日1月3日22:00より、拙ナビによるFM PORT「クラシックホワイエ」では、ゲストにヴァイオリニストの枝並千花さん(写真右)とピアニストの須藤千晴さんをお迎えしました。新春にふさわしい華やかな雰囲気が伝われば幸い。収録時にスタジオ内がパッと明るくなった気が。
●いやというほど雑煮を食いたい。正月の甘美な夢。