●虹が空に架かっていた。雨が止んで、北東の空を眺めると、見たこともないほど鮮やかな一本の虹が、さらにその外側にはうっすらと二本目の虹が浮かんでいる。北の分厚い雲に橙色の太陽光が映える。人が集まり、カメラを取り出す者もいた。しかし虹はみるみるうちに鮮やかさを失ってゆく。子の虹はもはや見えず、かろうじて親の虹が残るのみ。虹の寿命がこんなに短いものだったとは。後日写真で見せてもらった空の残花は、平凡な水滴のプリズム効果にすぎなかった。
Useless: 2004年8月アーカイブ
August 24, 2004
二本の虹
August 10, 2004
バス車内の惨劇
●数人しか乗っていない静かなバスの車内で、突然後方から大声が聞こえてきた。
「ねえっ、ちょっと! この交差点、いつも乗るときのバス停よね、さっき降りなくてよかったの!?」
「……ああ、乗り過ごしちゃったな」
「どうするのよ、どうして気がつかなかったのよ、いつもここの駅前で乗ってるじゃないの!」
「いや……バス停の名前が地下鉄の駅名と違ってたから、気づかなかったよ……」
「ダメじゃないの、本当に困ったわねえ、だいたいバス会社だってどうしてそんなわかりにくいことするのよっ!」
「さあ……」
「さあじゃないでしょ、どうするのってあなたに言ってるの。終点の新宿まで乗る? こんなところで降ろされたって、道なんかわからないわよ」
「(さらに小声で)……わかるよ、バス停一つくらい歩けばいいじゃないか」
「歩くだなんて、本当にこの道わかるの、ねえ、わかるの!? もう困るわねえ、新宿で電車に乗ったほうがいいんじゃないの」
「……そこまでしなくたって、近くなんだから道くらい……」
「わかるんでしょうね、わからなかったらどうするの、本当にどうしてさっき降りなかったのよ、もう困ったわね、いつも乗ってるバス停だったじゃないの」
「……。降りるよ」
「(降りながら)どうしてあなたはいつもこんなに不注意なのよ、ほらもうどこかわからないわよ!」
●地には平和を。