●カウンター席に座って手打ちうどんを賞味していると、隣の男から独り言が聞こえてきた。「案外そうでもない」。しばらくすると、男はまた言った。「案外そうでもない……(ツルルルッ)案外そうでもない……フフッ」。男は麺をすすりながら、なんども同じ言葉を繰り返す。うーむ、困った人の隣に座ってしまった。面倒なことにならない内に、早く食べてしまわなければ。ズズッ。
●男は執拗に反復する。「うん、案外そうでもない」。いったいなにが案外そうでもないと言うのか。たとえばこういうことか。おいしいお店だという評判を聞きつけてやってきたが、食べてみたら案外そうでもなかったということか。そっと横目で観察するが、男の食べっぷりは特にうまいものを食べているという雰囲気でもなく、かといって味に落胆している様子でもない。でも、なにかが期待と違ったのだろう。ずっと言ってる。「案外そうでもない……(ツルルルッ)うんうん、案外そうでもない」。
●男のほうが先に食べ終わった。男はレジで会計を済ませる間も、まだ「案外そうでもない」とつぶやいている。で、その時、男の耳にイヤホンが入っているのに気がついた。あ、なんだ、この人、イヤホンマイクを使ってずっとハンズフリーで通話をしてたのか。独り言じゃなくて会話だったんだ。スマン、てっきり危ない人かと。
●と、合点してからはたと思ったのだが、延々と「案外そうでもない」を繰り返す会話って、どんな話なのか。「ヤバい」と「マジで」の二語だけで会話する男子高校生を効率性で上回っている。そんな反復で大人の会話が成立するとは到底思えないのだが、案外そうでもない?
Useless: 2016年7月アーカイブ
July 13, 2016