●よくある誤解で、執筆者が自信を持って書いた原稿を編集者に送ったところ「これは難しすぎるから直してほしい、もっと平易な原稿をお願いしているのだ」と差し戻されてしまい、執筆者はいったいどこが難解なのか見当がつかず、ここにはぜんぜん難しい話など書いていない、おたくの読者にとってこの程度の話はまったく問題がないはずであり、これを難解と差し戻すとは編集者としての見識が疑われる、といったような反発が起きてしまい、機嫌を損ねた執筆者と途方に暮れる編集者の間で不穏な空気が漂う、そんな事故はそれほど珍しくないものであるのだが、なぜそんなことが起きるのかといえば、実をいうと編集者側は必ずしも原稿中に扱われる概念や思考の道筋が難解だと感じているわけではなく、本音では日本語が拙くて文章がわかりにくいからもっと上手に書けと要望しているのであるが、それを婉曲的に「易しくしてほしい」と表現しているだけなのではないか、そんな疑念がずっとつきまとっており、実際に記憶をたどってみれば思い当たる節がなくもなく、軽く身震いしながら認めるなら、わかりやすい日本語を書くことは本当に大切で、その内容がかなり込み入ったものだったり論理が飛躍したものであったりしても、日本語がきれいであれば編集者はしばしば「わかりやすい原稿をありがとうございます」と感謝してくれることすらある一方で、たんに目玉焼きのレシピを記したにすぎない原稿が日本語が整えられていないばかりに「難解すぎる」とダメ出しを食らう危険性は十分にあると確信しているわけで、それではどうやったらわかりやすく書けるのか、するりとスムーズに編集者に受け入れてもらえるのかといえば、それについてはかつて絶対的な真実をある偉大な先人から教わったことがあるので、ここに気前よくズバッと大公開しておくと、いわく、一文は長くならないように文章を短く切れ、それだけのことであるがまさしく極意と呼ぶほかなく、これほど有益なアドバイスをワタシはほかに知らない。
Useless: 2019年12月アーカイブ
December 6, 2019