July 20, 2018
ワールドカップ2018ロシア大会をふりかえる
●さて、ワールドカップ2018ロシア大会を総括してみよう。クロアチアが決勝まで進んだ、ベルギーがベスト4まで来た、ニッポンがあと一歩でベスト8に届きそうだった……各国の力の差はますます小さくなってきた。そんな声が聞こえてくる。いやいや、そうかなあ? むしろ逆なんでは。
●だって、アジア勢は結局ニッポンしかグループステージを突破できなかったんすよ! しかもそのニッポンも相手がいきなりPKをプレゼントしてくれて一人退場したコロンビア戦しか勝っていない。4年前のアジア勢無勝の屈辱に比べればましにはなったけど、94年のアメリカ大会だってサウジアラビアは2勝して決勝トーナメントに進んだよ? あと強いはずの南米勢だって、次々と脱落して、途中からヨーロッパしかいない欧州選手権に変わってしまった。
●アフリカ勢に至ってはグループステージで全滅。一頃、アフリカ脅威論みたいなのがあったのに、どうしてこんなに弱体化してしまったのか。でも、これって前から言われていたことでもあるんすよね。つまり、アフリカのヨーロッパB化。アフリカから、あるいはアフリカの移民の子から、次々と才能は誕生しているけど、もっとも才能のある選手たちはヨーロッパの育成システムに乗っかって、ヨーロッパの代表選手になる。そこまでではない選手はアフリカの代表選手になる。優勝したフランス代表の23名のうち、13名はアフリカにルーツを持つ。その選手の多くたちはアフリカの代表選手になる資格も持っていたけど、フランスを選んでいる。一方、アフリカの代表選手にはヨーロッパで生まれ育った選手もたくさんいる。ワールドカップに出るためにルーツの国の代表選手になる。まるでヨーロッパが優先選択権を持っているような状態で、アフリカの代表がときどきヨーロッパBに見えてしまう……。いや、これは見方の問題かもしれない。反対側から見れば、フランスがアフリカSだったのであり、アフリカの勝利ともみなせるわけだ。
●もうひとつ、ニッポン代表監督の人事問題。西野監督の後任はまだ発表されていない。報道では森保監督になりそうな気配。でも、今大会でもはっきりしたけど、ワールドカップでベスト8とかベスト4に勝ち進むためには、監督以前にいかに選手が高いレベルのリーグでプレイしているかが最重要。もっといえば欧州を代表するビッグクラブの主力が何人いるか。クロアチアが決勝まで行ったのはモドリッチやラキティッチやマンジュキッチがいたから。ベルギーが強かったのはアザールやデブライネ、ルカク、クルトワといったスーパースターたちがいたから。今のニッポンの位置づけはブンデスリーガの中堅クラブくらい。現代の効率化した移籍市場では、未知の才能がワールドカップで発見されることなんてまずなくて、ヨーロッパでの評価というひとつの物差しだけで選手の能力が定められてしまう感がある。現状、「サッカーはますます世界へと広がっている」よりも「サッカーはますますヨーロッパに収斂している」が実態にふさわしいのでは。
●最後にあとひとつ、プレイスタイルの問題について。決勝のフランス対クロアチアが典型だけど、ますますもってサッカーは「ボールを持ったほうが不利」になっている。ワールドカップのような一発勝負になるといっそう顕著。ゴールのほとんどはカウンターとセットプレイで生まれる。流れのなかで攻撃を組み立ててディフェンスを崩すのは、かなり損だ。しかしボールゲームなのに、ボールを持つ側が不利というのは大いなる自己矛盾じゃないだろうか。それって楽しくない。システマティックな守備戦術は進化したけど、攻撃はどう工夫しても結局カウンターがいいって話に落ち着いてしまう。もし今後もこの状況が変わらないようであれば、どんなゴールも一点という等価でいいのかっていう疑問がわいてくる。
July 17, 2018
決勝戦 フランスvsクロアチア オウンゴール+VAR+疑惑のPK+乱入者+GK大チョンボ+土砂降りのドタバタ劇 ワールドカップ2018
●4年に1度のお祭りの最後は「なんでもあり」のドタバタ劇で締めくくられた。今大会を象徴するあれこれがあったという意味では決勝戦にふさわしかったのかも。フランスとクロアチア、ただでさえ決勝戦までの日程が一日クロアチアが不利なのに、彼らは3戦連続で延長戦を戦っている。コンディションの差が否めない。おまけに、どちらに転んでもおかしくないようなほんのわずかな運が試合の行方を大きく左右してしまった。とはいえ、フランスの優勝は実力にふさわしいもの。2回目の優勝。ワールドカップで「自国開催以外で優勝した国」が新たにひとつ誕生した。フランスの優勝はリアリズム、クロアチアの側にあったのはロマンティシズムだったと思う。
●前半、クロアチアがゲームを支配。攻めるクロアチアと守るフランスという構図は両者にとってゲームプラン通りだろうが、前半18分、フランスはフリーキックでグリーズマンがクロスをゴール前に入れると、クロアチアのマンジュキッチが痛恨のオウンゴール。これは不運というしかないのだが、その前のフランスがフリーキックを得た場面でそもそもファウルがあったのかどうかが試合後に物議を醸した。前半28分、クロアチアはフリーキックからモドリッチがファーサイドに走り込んだブルサリコにロングパスを送り、その折り返しのボールの混戦からペリシッチが蹴り込むビューティフル・ゴールで同点。前半34分、この試合で最大の問題の場面が。フランスのコーナーキックでマテュイディが競ったボールがペリシッチの腕に当たった。当初、主審は問題なしと見たようだが、VARのアドバイスでビデオを確認して、PKを宣言。グリーズマンがPKを決めて2対1。実質的に3点ともクロアチアが入れたようなもので、フランスがなにも攻撃しないうちに2対1までスコアが進んでしまった! この場面、手に当たっていることは明らかなのだが、すぐ目の前で高速で飛ぶボールの軌道が変わったため、クロアチア側から見れば腕をどけることなど不可能な話。しかしフランス側から見れば、腕に当たるような姿勢で競り合っている時点でミスということになるのだろうか……。いずれにしても、こんなほとんど避けようもないハンドで試合が決定づけられることが、サッカーの競技性に貢献することは決してない。
●フランスはリアクションサッカーに徹する。後半10分でカンテをエンゾンジに交代したというのが意外だったが、後半14分、ポグバがミドルシュートを弾かれたところに再度狙い澄ましたシュートを打って3点目。もうこれで試合は決まったようなもの。後半20分にはエムバペの鋭いシュートで4点目。クロアチアはがっくりと膝をつくはずだったが、その直後、後半24分にフランスのキーパー、ロリスが大チョンボ。つめてくるマンジュキッチに対してなにを思ったのか足技で交わそうとしたら、そのままマンジュキッチにかっさわれて失点。ワールドカップ優勝国のキーパーですら、ありえないミスをするということか。3点差が2点差になったことで、最後の最後までクロアチアは走り切った。もちろん、ここからなにかが起きるはずもないのだが……。
●4対2という決勝らしからぬスコアでフランスが優勝。しかし派手なゲームではなく、やや後味の悪いゲームだった。結局、ビデオ判定をしてもやっぱり誤審問題がクローズアップされるということを決勝戦で明らかにしてしまったという皮肉。でも一度使えば、ビデオ判定はもう止められない。これがあれば少なくとも2002年のような事件は起きないはず。使い方が難しいのと、そもそもサッカーのルールは客観的事実ではなく経験則で運用されるところが多すぎるがために齟齬が生じているような気がする。おまけにこの試合ではクロアチアの反撃ムードが高まりかけたところで、ピッチ上に複数の乱入者が現われる始末。なんでも反プーチンのバンド「プッシー・ライオット」とかいう人々なんだそうだが、完全に場違い。サッカー・ファンの逆鱗に触れて、いったいなにを共感してもらえると思っているのだろうか。ちなみに、ボール支配率は63%でクロアチアが大きく上回っていた。シュート数も敵陣ペナルティエリアでのプレーもコーナーキックでもクロアチアは勝っていたのだが、現代サッカーではそれはなんの優位も示していない。
●表彰式は土砂降りになった。プーチンもいる。全員がずぶ濡れになっている姿が妙にドラマティックだ。大会MVPはクロアチアのモドリッチ。ニコリともせずにトロフィーを掲げた。彼はスター性ではなく献身性でこの賞を獲得した。フランスのデシャン監督は、キャプテンとして現役時代に優勝し、監督としてまた優勝を果たしたことになる。フランスの選手たちがデシャンを胴上げをする。「ワッショイ!」の声が聞こえてきそうだ(言ってないと思うけど)。98年、開催国フランスが初優勝した際には、新時代のヒーロー、ジダンへの熱狂とともに彼らの勝利を心から祝福できたのだが、今回の決勝ではむしろモドリッチがヒーローになってほしかったという思いが残る。リアルか、ロマンか。決勝戦での勝者と敗者のコントラストはいつだって胸を打つ。
フランス 4-2 クロアチア
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★★
July 15, 2018
3位決定戦 ベルギーvsイングランド グループステージの再戦 ワールドカップ2018
●すでに敗れた者同士が戦う3位決定戦は、ワールドカップにおいて蛇足以外のなにものでもない。この3位決定戦の敗者は、世界4強まで勝ち上がるという快挙を成し遂げたにもかかわらず、最後は連敗して大会を去らなければいけないという不条理。とはいえ、決勝戦までの休養日にほかにどんな試合を組めばいいのかというと、妙案はない。限りなくエキシビション・マッチに近い公式戦。試合が始まってみると、いかにもフレンドリー・マッチ的な雰囲気が漂っている。ベルギーとイングランドの両者はグループステージ第3戦でも、半ば消化試合的な雰囲気で戦っているのだが、それが3位決定戦でも再現されるとは。とはいえ、結果至上主義にならない分、スペクタクルが見られるのも3位決定戦。
●上位進出したチームのなかで、スペクタクル志向という点ではベルギーが抜群だったと思う。アザール、デブライネ、ルカクを中心とした攻撃陣はアイディアも豊富、ドリブルやパスワークも見ごたえがある。クリエイティヴィティという点でイングランドとの差は歴然。イングランドは強いし速いんだけど、なんにもないところからチャンスを創出する選手がいない。得点の4分の3がセットプレイからというのも納得。開始早々、ルカクの完璧なスルーパスからシャドリの低いクロスにムニエがボレーで蹴り込んでベルギーが先制。ルカクは使われるタイプだと思いきや、使うこともできるとは。後半37分にはアザールのキレキレのプレイで追加点。2対0で勝つべきチームが勝ったという印象。
●ベルギーは3位になった。でもワールドカップで3位になったチームを覚えてる人はいない。決勝で見たかったなというのが本音。この3位決定戦はさながらプレミアリーグ対決といいたくなるほど、イングランドプレイする選手が多かったが、やはり現状ではプレミアリーグが最強のリーグだと思う。他の国に比べて最上位チームから下の層が厚い。ベルギーみたいにプレミアリーグのスターを何人もそろえるチームが、過去の実績の有無にかかわらず上位まで勝ち上がってくる。これはサッカー選手の移籍市場の効率性の高さを示すものと理解している。
ベルギー 2-0 イングランド
娯楽度 ★★★
伝説度 ★
July 13, 2018
準決勝 クロアチアvsイングランド 消耗戦の果てに ワールドカップ2018
●スタジアムに響くゴッド・セイヴ・ザ・クイーンの大合唱。南米勢が去った後、ようやくイングランド・サポがスタジアムに熱いムードを生み出してくれた。若いイングランドに対して、ベテランが中心選手のクロアチア。ここまで2戦続けて延長PK戦を戦い抜いてきた。要の選手となるレアル・マドリッドのモドリッチ、バルセロナのラキッチがともに汗かき役としても絶大な存在だけに、ベンチには下げづらい。で、試合が始まってみると、やはりクロアチアの選手に疲労度を感じる。開始5分、イングランドはいきなりゴール前のフリーキックで、トリッピアーが見事な先制点。高い壁の上を超えてゴール右上に吸い込まれた。イングランドのプレイぶりはシンプル。自陣でボールを奪ったら、すぐに前線に残した快足スターリングにロングパスを出すという約束事がある模様。コーナーキックが特徴的で、中央に縦に選手が密集して並び、キッカーが蹴る瞬間にパッとめいめいの方向に散る。これはなかなか良策かも。クロアチアはモドリッチの位置が低く、組み立てでは有効だが、前線での攻撃のバリエーションが少ない。後半に入るとイングランドのプレッシャーにクロアチアが苦しむ場面も見られ、このままフリーキックの1点だけで勝敗が決しそうな勢い。
●ところが、後半23分、クロアチアは右サイドからブルサリコがアーリー・クロスを入れると、ゴール前でペリシッチが相手ディフェンダーの鼻先スレスレに足を延ばすような力技のシュートで同点ゴール。すると一気に形勢は変わり、クロアチアがイングランドを押し込むようになる。ゴッド・セイヴ・ザ・クイーンで励ますイングランド・サポ。お互い決定機はあったが、両キーパーの好セーブもあって延長戦へ。これでクロアチアは3戦連続の延長戦。疲れ果てた体で走り回る。この試合、一見、可能性の薄そうなアーリー・クロスをクロアチアはなんども入れているのだが、事前の狙いとしてあったのだろうか。1点目に続いて、2点目もアーリークロスから。延長後半4分、クロスボールへの競り合いのこぼれ球にすばやくマンジュキッチが反応して、左足で蹴り込んで逆転ゴール。次々と選手が動けなくなり両チームとも交代枠を使うが、イングランドのトリッピアーが動けなくなった頃にはすでに延長戦の4枚目の交替カードも使った後。トリッピアーは退場し、イングランドは10人で攻めようとするものの、クロアチアに隙はない。まさかの3連連続延長戦でまたしてもクロアチアが勝ち進むことになった。初めての決勝進出。
●これで決勝はフランス対クロアチアに決定。たまたまだが、決勝トーナメントの組合せが決まった時点で予想した通りの対戦カードになった。ワールドカップの優勝国というのは、実はとても限られている。リネカーの名言に「サッカーとは22人の男たちがボールを追いかけまわし、最後はドイツが勝つスポーツ」というのがあるが、端的に言えばドイツかブラジル、そうでなければイタリアか開催国(あるいは最近開催国だった国)が優勝する。例外は2010年のスペイン。フランスはかつて98年に開催国として一度優勝した。クロアチアは初めての決勝だが、やはり98年に3位になっている。どちらが勝っても「開催国ではない優勝国」がひとつ増える。ロシア大会ということを考えると、広い意味でのスラヴ文化圏ということでクロアチアが勝つストーリーも成立する。
●ところで、この試合、クロアチアのビダ(ヴィダ)がボールを持つたびにブーイングが執拗に起きた。イングランドとなんの因縁があるのか、ぜんぜんわからなかったのだが、かつてキエフに所属していたビダが親ウクライナ的な発言をしたということで、どうやらイングランド・サポではなくロシア人たちがブーイングをしていた模様。選手が不用意に政治的発言をするのはよくないが、しかし試合と無関係なブーイングにはがっかり。サッカー的な文脈のなかでのブーならわかるのだが。
クロアチア 2-1 イングランド
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★
July 11, 2018
準決勝 フランスvsベルギー 1998年大会の歓喜は再現されるか ワールドカップ2018
●いよいよ準決勝。フランス、ベルギー、イングランド、クロアチア。すべてのチームに優勝の資格があると納得できる4強がそろった。フランス対ベルギーはどちらも欧州ビッグクラブに所属する選手たちをずらりとそろえる。なので、必然的にチームメイト対決も増える。ベルギーのフェライニとルカク、フランスのポグバはマンチェスター・ユナイテッドの同僚。ベルギーのクルトワとフランスのカンテとジルーはチェルシーの同僚といったように。マンチェスター・シティやトッテナム所属の選手たちも含めて、プレミアリーグ色の強い対決に。
●前半からベルギーが攻めて、フランスが守るという展開。前半15分にやっと最初のシュートがあって、アザールの惜しいチャンス。アザールはキレキレ。前半21分、コーナーキックからベルギーのアルデルワイレルトがシュート、しかしロリスがスーパーセーブ。ロリス、クルトワ、ともにキーパーがすばらしい。ゴールが生まれたのは後半6分。フランスのコーナーキックでニアに飛び込んだウムティティが頭ですらしてゴール。ウムティティは194センチのフェライニに競り勝った。183センチのウムティティが小さく見える。
●コーナーキックから頭で決めた1点で試合が決まってしまうとおもしろくないな……と思っていたのだが、後半17分あたりからフランスは逃げ切り体制に入る。堅守速攻の構え。ベルギーはメルテンス、カラスコといった攻撃の選手を途中から投入して突破口を探す(フェライニを下げてカラスコを入れるというパワープレイに頼らない宣言)。デブライネを中盤に下げて攻撃の起点となり、アザールやルカクが攻めるのだが、攻めきれずにフランスにボールを奪われるとエムバペの高速カウンターが待っている。フランスは堅実に守って、試合を終わらせた。試合終了後にベルギーのクルトワはフランスの守備戦術を非難し、アザールに至っては「あんなフランス代表の一員として勝つくらいならベルギー代表の一員として負けた方がいい」とまで言い放っている。まあ、こういうのを負け惜しみというわけだが。
●なるほど、ニッポンにできなかったのはこれかー。ニッポンは最後まで攻めようとして大逆転されたわけだが、臆面もなく守っていれば2点リードを守った末に、こんなふうに悪口を言われたかもしれない。負けて褒めたたえられるよりも、そっちがよかったなとは思う。
●フランスは自国開催の1998年大会に優勝している。そのときにシラク大統領からワールドカップを手渡されたキャプテンが、現監督のデシャン。あとひとつ勝てば、監督としてふたたびワールドカップを手にすることになる。カッコよすぎでは。
フランス 1-0 ベルギー
娯楽度 ★★
伝説度 ★
July 8, 2018
準々決勝 スウェーデンvsイングランド フットボールの母国に最大のチャンス到来 ワールドカップ2018
●スウェーデンとイングランド、ともに前評判のそれほど高くないチームがここまで勝ち上がってきた。ずばり、イングランドは決勝進出のビッグチャンスを手にしている。強豪がトーナメントの反対側に集中したため、こちらの山の最大の敵と予想されるのはクロアチア。これを逃したら次に決勝を狙えるのはいつになるかというくらいの大チャンス。一方、スウェーデンは堅牢な守備ブロックとパワープレイが持ち味。
●試合開始早々から「もしかして暑いのかな?」と思うような間延びした展開。後で調べたら26℃。さほどでもない。特にスウェーデンの選手の体が重そうに見える。彼らの守備戦術が功を奏して前半はタイトで眠くなるような展開が続くが、30分、イングランドのコーナーキックからマグワイアが頭で合わせて先制。こうなるとスウェーデンも守ってばかりはいられないはずだが、イングランドの勢いに押されて耐える展開に。後半14分、イングランドは右サイドからリンガードがファーにふわりとクロスを入れてデレ・アリが頭で決めて2点目。追うスウェーデンだがセットプレイとパワープレイ以外では得点の香りがしない。だれか創造的なプレイをする選手がひとりふたりいてほしいところ。イングランドはキーパーのピックフォードが圧巻。エバートン所属の24歳。控えのバトランドも25歳で、「キーパーだから経験重視」などという考え方がない。エースのケインだって24歳、スターリング23歳、リンガード25歳、デレ・アリ22歳。この若さは大会最終盤の武器になるかも。
●残るもう一試合の準決勝、ロシア対クロアチアは開催国の予想外の健闘によって2対2でPK戦にまでもつれ込んでしまった。ロシア、開幕前は「史上最弱のホスト国」と呼ばれていたのに……。PK戦はロシア先攻。統計的には勝率60%で有利なのだが、なんとなんと、またまたまたまた後攻のクロアチアが勝ってしまった。いや、開催国のプレッシャーと、そもそも個の技術がクロアチアのほうが高いことを考えれば、不思議はないのだが。トーナメントのこちらの山はクロアチアが決勝に進むというのがワタシの予想だったけど、ここでこんなに消耗してしまうのは誤算。中盤の要、モドリッチとラキティッチの両ベテランがキープレーヤーだが、次に若いイングランドと中三日で戦うことになった。これは見もの。
スウェーデン 0-2 イングランド
娯楽度 ★
伝説度 ★★
July 7, 2018
準々決勝 ウルグアイvsフランス、ブラジルvsベルギー ここから先は欧州選手権 ワールドカップ2018
●さて、中二日の休みをはさんで、ワールドカップは準々決勝へ。おおむねワールドカップは終盤に進むにつれて地味な試合が増える傾向にある。攻撃的でオープンな試合が多かった今大会だが、ここからはどうなるだろうか。
●まずはウルグアイ対フランス。ウルグアイはスアレスと並ぶ二枚看板のカバーニをけがで欠く。フランスは19歳のスピードスター、エムバペが大会最大のスターになりそうな勢い(なにしろメッシもクリスチャーノ・ロナウドももういない)。キックオフからハイテンションな戦いで、走る速度もパスの速度も強烈。エムバペは加速がすごい。ただ、その速さを有効に使えないムダなプレイも目に付く。攻めるフランスとカウンターで対抗するウルグアイという展開で、40分、フランスはグリーズマンのフリーキックにヴァランが頭で合わせて先制ゴール。
●後半16分、グリーズマンは遠目の位置からぶれ球のミドルシュート。これをウルグアイのキーパー、ムスレラがほぼ正面で受けながら後方にボールを弾いてゴールへ。苦悶の表情を浮かべるムスレラ。今大会、キーパーの受難が目立つのだが、使用ボールの影響もあるのだろうか。グリーズマンはニコリともしない。これで2点のリード。ここから試合が荒れだした。ウルグアイは好チームなのだが、全般に汚いプレイが多いのが惜しい。マッチョであることとフェアーであることは両立できないものか。ラフプレイに頼るとゲームはそこまで。フランスは残り時間を慎重に使って、ゲームを終わらせた。依然、優勝候補の筆頭という印象だ。
●もう一試合、ブラジル対ベルギー。こちらはニッポンが2点差をひっくり返されなければベルギーに代わってここにいたのだが、という複雑な思いで観戦。ブラジルはFIFAの規定による短縮版国歌の録音を無視して、曲が終わってもアカペラで延々と最後まで客席と選手が一体となって歌い続ける(結局今大会でも前回に続いてこうなった。短縮版の規定は南米の国歌へのリスペクトを欠いている)。ベルギーはニッポン戦で途中出場したフェライニとシャドリを先発させ、メルテンスとカラスコの攻撃的な選手をベンチに置いた。デブライネのポジションは一列前へ。ニッポン戦でのよい流れを引き継ぎつつ、ブラジルの攻撃力を警戒した布陣。
●前半13分、あっけなくベルギーの先制点が生まれる。コーナーキックで、クリアしようとしたフェルナンジーニョの肩にボールが当たってそのままゴールに吸い込まれるオウンゴール。ベルギーは自信を持ってブラジルに渡りあう互角の展開。ブラジルの攻撃力はたしかに驚異的なのだが、ベルギーはデブライネ、アザール、ルカクらの突出した個の能力に平均188cmにもなろうという高さが加わるのが強み。ルカクはEURO2016で見たときは、たしかに強い選手だけどオフ・ザ・ボールの動きが物足りないなと思っていたのだが、今や完璧なセンターフォワード。前半31分、デブライネがマルセロを交わして低い弾道のスーパーミドルを放って、ベルギー2点目。
●ブラジルはこの試合でもネイマールがたびたび倒れるのだが、ベルギーのプレイぶりはニッポン戦と同様にフェアー。ネイマールがレフェリーとその向こうのVARとの駆け引きをすればするほど、彼からスーパースターのオーラが消えてゆく。後半31分になって、ようやくブラジルにゴール。コウチーニョの浮き球のクロスにレナト・アウグストが頭で合わせた。そこからブラジルの猛攻が始まったが、コウチーニョは決定機に外し、ネイマールのシュートはクルトワのファインセーブに阻まれ、試合終了。1対2でベルギーが試合内容にふさわしい勝利を収めた。
●準々決勝一日目でウルグアイとブラジルの南米勢が敗退して、残る6か国はすべて欧州勢になった。おおむねどの大会でも欧州開催時は欧州勢が強く、その他の地域では南米勢が健闘するという傾向があるのだが、どうやらロシアも欧州にはちがいないようだ。会場の雰囲気はむしろ中南米だったのだが……。あの熱心なサポーターたちが帰国してしまった後はどうなるんだろう。
ウルグアイ 0-2 フランス
娯楽度 ★★★
伝説度 ★
ブラジル 1-2 ベルギー
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★
July 4, 2018
ラウンド16 コロンビアvsイングランド PK戦のジンクスの終焉 ワールドカップ2018
●サウスゲート監督率いる若返ったイングランド代表はこの大会で3バックを採用する数少ないチーム。ハードワークする規律のあるチームという印象だ。エースのハリー・ケインは好調。グループリーグ3戦目で選手を入れ替えるターンオーバー策をとり、コンディションも万全か。一方、コロンビアのエース、ハメス・ロドリゲスはケガで欠場。会場は例によってコロンビアのサポーターでいっぱいに。ロシアは南米から近く、ヨーロッパからは遠いという不思議。
●前半はタイトな戦いでチャンスがほとんど生まれない。後半、ケインが競り合いのなかで倒れてPK。主審は目の前で見ていたが、少し厳しすぎる判定では。コロンビアは激しく抗議。とはいえVARの「物言い」も付かず、ケインが自ら決めて先制ゴール。ここから選手が熱くなって、ラフなプレイが目立ち始める。アディショナルタイムに入るとコロンビアはパワープレイへ。そこから得たコーナーキックで長身のミナが頭で決めて劇的同点ゴールが生まれた。つまらないPKで試合が決まらなくてよかった。
●延長に入るとNHK地上波のサブチャンネル012に放送が移り、ぐっと画質が落ちてしまう。データ圧縮率高すぎ。画質に呼応するかのように運動量もプレイの質も落ち、最後は消耗戦に。イングランドのプレイぶりは堅実だが、流れを変えるようなアイディアが乏しい。途中交代で元気なヴァーディやラッシュフォードをもっと活用したいところ。こうなると期待できそうなのはセットプレイで、延長後半にコーナーキックからダイアーがフリーでヘディングする絶好機があったが、枠をとらえられず。
●120分では決着つかずPK戦へ。先攻はコロンビア。統計的には有利だ。コロンビアのオスピナ、イングランドのピックフォード、ともにファインセーブが一本ずつあったが、コロンビアがひとりバーを叩いて外した差で、イングランドが8強進出。む、またまた不利な後攻が勝ってしまった。もっともイングランドはPK戦も見すえて代表合宿からPK戦の練習を取り入れ、心理学者までスタッフに入れていたのだとか。これもイングランドがずっとPK戦に負け続けているというジンクスがあったからこそ、新監督は対策を打ち出したわけだ。監督の策が実ったのか、単に後攻勝率40%の目が出ただけなのかは、だれにもわからない。
コロンビア 1(PK3-4)1 イングランド
娯楽度 ★
伝説度 ★★
July 2, 2018
ラウンド16 スペインvsロシア、クロアチアvsデンマーク PK戦という変則的抽選 ワールドカップ2018
●グループリーグを通過したものの、むしろひとつのサイクルの終わりを感じさせる黄昏のスペイン、参加国中最低ランクながら波に乗る開催国のロシア。スペイン対ロシアは対照的な両チームの戦いになった。スペインは相変わらず技巧的なパス回しによる詰将棋みたいなポゼッションサッカーだが、ボールを失うことを嫌がり、低リスクの攻撃に徹する。前半12分にオウンゴールであっさり先制して、消極的な「ティキタカ」が続く。前半40分、スペインは不運なハンドを取られてPKを与える。これを決められて同点。これでやっと試合が動き出すと期待したが、偉大なる老巨匠の荘厳なパスワークが延々と続き、PK戦にもつれ込んでしまった。ロシアはパッションの守備。
●統計的にPK戦は先攻の勝率は60%、後攻が40%で圧倒的に先攻が有利とされる。スペインは有利な先攻を引いたが、最後まで追い風が吹かず。開催国がまさかの8強へ。これは伝説の始まりなのだろうか。
●一方、クロアチア対デンマーク、こちらは奇妙な試合展開になった。キックオフ直後、デンマークのロングスローのこぼれ球からマティアス・ヨルゲンセンが先制ゴール。開始1分の先制点。クロアチア優位と思っていたが、これで試合がわからなくなった……と思ったら、4分、ゴール前でデンマークのクリアボールが味方に当たって跳ね返り、これを拾ったマンジュキッチが同点ゴール。たった4分で両者1点ずつを奪い合う激しい展開。ところが、ここから試合の様子は一変して膠着自体に。攻めるクロアチアと堅守速攻のデンマークという図式も次第に崩れ、結局延長戦までやっても次のゴールは生まれず。1対1。クロアチアは3戦目に主力を軒並み休ませたはずなのに、全般に体が重そうで、ダイナミズムを欠く。グループリーグとは別のチームみたい。決勝まで進むと思っていたのだが……。
●PK戦の先攻はデンマーク。クロアチアのスバシッチもデンマークのシュマイケル(岡崎の同僚だ)も止めまくったが(あるいはキッカーが弱気だったか)、クロアチアが勝利を収めた。この日のふたつのPK戦はどちらも不利な後攻が勝ったわけだ。まあ、そんなこともある。
スペイン 1(PK3-4)1 ロシア
娯楽度 ★★
伝説度 ★★
クロアチア 1(PK3-2)1 デンマーク
娯楽度 ★★
伝説度 ★
July 1, 2018
ラウンド16 フランスvsアルゼンチン 超人たちの祭典へ ワールドカップ2018
●さて、いよいよ決勝トーナメントに入ったワールドカップだが、その前にグループリーグについて一言。先日のニッポンvsポーランド戦の終盤の「パス回し」が議論を呼んでいるが、あの件については「残り10分でセネガルが得点しない」ことに賭けたことが自分は信じられないと思った。せめて西野監督が何に賭けたのかを確認しようと思い、コロンビアvsセネガル戦の、コロンビアがゴールして以降を録画で確認してみた。失点直後、もはや攻めるしかないセネガルはダイナミックな攻撃で立て続けにコロンビアのゴールを襲った。その後、時間がなくなると捨て身のパワープレイを仕掛けた。フォーメーションもなにもないパワープレイなので、選手間の距離は開き、最後の数分はセネガルにもコロンビアにもゴールが生まれやすい状況になった。しかし、そのままで終わった。西野監督は後で録画でこの場面を見てどう感じたのか、知りたいものである。ワタシだったら血の気が引く。
●さて、ラウンド16。グループリーグが終わった時点で、自分の決勝の予想はフランス対クロアチア、願望はメキシコvsコロンビアだ。で、いきなりフランス対アルゼンチンがラウンド16で実現。トーナメントのこちらの山に強豪が偏った感がある。とはいえ、アルゼンチンはもはやチームはバラバラで、メッシ頼みももう限界の様子。この試合ではアグエロもイグアインもベンチに置かれて、3トップの中央にメッシ、左にディ・マリア、右にパボン。一部報道によるとサンパオリ監督は前の試合から実質指揮権を剥奪されて、メッシとマスチェラーノで先発メンバーを決めているんだとか。そんなバカなことはないだろうとは思うが、チームが迷走している様子はわかる。
●で、試合が始まってみると、これがスーパーゴールの連発で、今までとはまったく違うステージに入ったことを宣言する派手な打ち上げ花火のような試合に。前半11分、フランスのエムバペが爆発的なスピードでマスチェラーノを置き去りにして、ペナルティエリア内に突進、これをロホが倒してPK。決めたのはグリーズマン。その後、アルゼンチンがディ・マリアの超絶ミドルシュートで追いつき、後半にはメッシのシュートにメルカドが足で触って(あるいは当たって?)コースが変わって逆転、今度はフランスのパバールが技巧的かつパワフルなスーパーボレーをゴールに突き刺して同点、そこからエムバペが立て続けに2ゴールを奪い、終了直前にアグエロが1点を返す。ゴールラッシュで4対3でフランスが勝利した。内容的にはフランスが一枚も二枚も上手だが、アルゼンチンは個の能力で面目を保ったといったところ。むしろこんなエキサイティングな試合で終わって、救われた面もあるんじゃないだろか。
●メッシからエムバペへとスーパースターの座が移ったかのような印象すらある。まだ19歳。メッシでもクリスチャーノ・ロナウドでもネイマールでもない、新たなスターをみんなが待望している。
フランス 4-3 アルゼンチン
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★
June 29, 2018
ヤクブ・フルシャ指揮バンベルク交響楽団、マイスター指揮読響
●26日はサントリーホールでヤクブ・フルシャ指揮バンベルク交響楽団。都響との演奏でおなじみのフルシャが、バンベルク交響楽団首席指揮者として帰ってきた。それにしてもバンベルク交響楽団の指揮者は日本の楽団と縁が深い人が多い。ホルスト・シュタイン、ジョナサン・ノット、ブロムシュテット、フルシャ。このオーケストラ、ルーツの一部をプラハ・ドイツ・フィルに持つということなので、チェコ生まれのフルシャはぴったりともいえる。プログラムもドイツ&ボヘミア・セットでブラームスのピアノ協奏曲第1番(ユリアンナ・アヴデーエワ)とドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。アヴデーエワは意外な選曲ではある。フルシャの音楽は、一言でいえば、土の香りがするんだけど手垢にまみれていない。オーケストラはよく鳴っていて、サウンドは豊麗。ソリストのアンコールはバッハのイギリス組曲第2番からブーレ、オーケストラはブラームスのハンガリー舞曲第17番、同第21番。「新世界より」を新鮮な気持ちで楽しめたのが吉。やっぱりこの名曲、よくできている。
●28日はサントリーホールでコルネリウス・マイスター指揮読響。読響首席客演指揮者という同じタイトルを山田和樹とともに持つマイスターが、マーラーの交響曲第2番「復活」一曲のみのプログラムを披露。前半は前へ前へとさっそうと進む「復活」。第1楽章、低弦の切れ込みの鋭さが印象的。ソプラノにニコール・カベル、メゾ・ソプラノにアン・ハレンベリ、合唱は新国立劇場合唱団。後半は大きなドラマを作り出すパワフルなマーラーに。全体に響きの精緻さよりも熱量が強調されたマーラーで、最後は大迫力のクライマックスが築かれたのだが……。なぜか曲が終わるやいなや客席から大絶叫が聞こえて、あまりの驚きにいったん始まった拍手が止んでしまい、それから拍手を再開する珍しい事態に。なにがあったのかは知らないけど驚いた。
グループH ニッポンvsポーランド 別の試合に運命を預ける奇手 ワールドカップ2018
●なんだろう、この割り切れない気分は。ともあれ、祝、ニッポン、ベスト16進出。ニッポンはこの試合に敗れたが、グループ2位で決勝トーナメント進出を果たした。結果は文句なしにすばらしい。だが、試合終盤に西野ジャパンはこれまで自分は見たことのないような奇手に出た。ポーランドに先取点を奪われ0対1となったニッポンだが、その時点で裏カードはセネガル 0-1 コロンビア。ニッポンはセネガルと勝点でも得失点差でも総得点でも並んでいたのだが、イエローカードの少なさ(フェアプレイポイント)という規定により、セネガルを上回っていた。だが、セネガルがコロンビアに追いついて引分けとなった場合、ニッポンはポーランドに追いつかなければ敗退が決まる。そんな複雑な状況で、西野監督はどうしたか。
●後半37分、武藤に代えて長谷部を投入して、チーム全体に「もう攻めないでボールを回そう、そしてカードをもらわないようにしよう」という指示を浸透させたんである。そこからニッポンはただボールを後方で回して時間を空費させた。ポーランドの側はすでにリードしているのだから、ボールを奪いに行く理由がない(ましてや日陰で36℃もあったというのだから)。客席からの痛烈なブーイングに負けずに、ニッポンはただ後ろで10分間ボールを回し続けて、この試合を戦略的敗北に終わらせて、「残り10分強でセネガルがコロンビアに追いつかない」ことに賭けた。結果、西野監督の賭けは成功し、みんなで胸をなでおろした。
●自分は本気で驚いた。ウソでしょう。ニッポンがボールを回し始めたとき、「あ、これはコロンビアが2点目を取ったのかな?」と思ってチャンネルを変えたが、そうではなかった。じゃあ、セネガルに退場者が二人くらい出たのかなと思ったが、だれも退場していない。唖然。この展開に納得のいかない人には2種類いて、ひとつは「観客の楽しみを奪う行為、サッカーというエンタテインメント性の否定、スポーツマンシップに欠ける行為」、もうひとつは「まだ時間が十分にあるのだからセネガルがコロンビアに追いつく可能性はそんなに低くない」というものだろう。ワタシは後者の立場。前者の嘆きもよくわかるのだが、サッカーの国際試合ではこのような無言の交渉が成立した退屈な談合試合はまったく珍しくない。無言の交渉をきちんと戦略の一環として実行できるかどうかも競技性のひとつだという考え方もあるし、ルールに難があるならルールを変えるべきで、既存ルールを戦略的に利用するアイディア(人によってはチートと呼ぶだろう)は、しばしば競技に意外性をもたらす。だが、今までにたくさん見てきた「談合試合」は、どれも他の試合の結果に左右されないケースばかりだったんじゃないだろうか。ほかのチームが10分間守り切ることに賭けて、時間を空費させた例は記憶にない。
●もしニッポンが普通に戦ったら、さらに失点したりイエローカード2枚以上をもらうかもしれない、それだったらコロンビアがセネガル相手に守り切るほうに賭けたほうが確率的に有利なんじゃないの、っていうのが西野監督の判断。まあ、セネガル対コロンビアがどういう状況だったのかは知らないっすよ。1点差とはいえセネガルに得点の気配がまるっきりないゲーム展開だったのかもしれない。でも、「ドーハの悲劇」をあげるまでもなく、今大会だってアディショナルタイムにまさかのゴールが生まれることはいくらでもある。まして10分もあれば。もし、セネガルが1点取ってたら、ニッポンのボール回しはワールドカップ史上に残る珍試合として長く記憶されるところだった。選手たちも戦って敗れたなら実力が足りなかったといえるけど、戦わないことを選択して敗退してたらどうやって結果を受け入れれればいいのか。この賭けは、勝って得られるものと負けて失うものの大きさが釣り合っていなかったと思う。
●一応記録。西野監督は選手を6人も入れ替えた。先の日程や気温の高さを考えれば、選手の入れ替えは英断だと思うが、キープレーヤーの乾や大迫まで下げたのは意外。GK:川島-DF:酒井宏樹、吉田、槙野、長友-MF:山口、柴崎-酒井高徳、宇佐美(→乾)-FW:岡崎(→大迫)、武藤(→長谷部)。4-4-2。中盤の右サイドに酒井高徳が入るのは初めて見たかも。右サイドはダブル酒井が前後に並んだ。川島はファインセーブを見せてくれた。岡崎は後半開始早々に座り込んでしまっての負傷交代。序盤にニッポンに大きなチャンスがあって、武藤が中にいる宇佐美にボールを出せばフリーでシュートを打てたはずだが、強引に自分で中に切れ込んだ結果、シュート・チャンスがなくなってしまった。オーバーラップした長友にボールを出して、クロスを岡崎がヘディングして惜しいチャンスにはなったのだが……。
●ここまでアジア勢は個別の試合ではかなり健闘して勝利も挙げているのだが、結果としてニッポンだけがベスト16に進むことになった。BBCの番組で北アイルランド代表のマイケル・オニール監督には「別の試合に運命を預けるとはあぜんとする。日本にはここまでいい意味でスポットライトが当たっていたが、次戦ではボコボコにされてほしい」とひどい言われようだ。次はセネガル戦のような果敢な戦いを見たい。熱くてエキサイティングで美しいゲームを。
ニッポン 0-1 ポーランド
娯楽度 ★
伝説度 ★★★★★
June 28, 2018
グループF メキシコvsスウェーデン メキシコはドイツに2度勝つ ワールドカップ2018
●グループFは第3戦目の時点ですべてのチームに可能性が残っている。メキシコはドイツと韓国に勝って勝点6とトップを走る。スウェーデンとドイツは勝点3、韓国は勝点0。メキシコ対スウェーデンは、同時開催の韓国対ドイツの結果を気にしながら進むことに。
●好調メキシコは前の試合と同じメンバーを先発させて臨んだが、これまでとは勝手の違った展開に。スウェーデンが圧倒的な体格差を利用してパワー勝負に出た。ロングボールやセットプレイを武器にメキシコを攻め、一方で守る場面ではこれまでの爆守備速攻モードで対応。メキシコはドイツ戦で体格差をはねのけたが、この試合ではかなり苦しんだ。前半は耐えたものの、後半にアウグスティンソン、グランクビスト、オウンゴール(不運)と次々と失点。3失点目の後半29分ですでに決着はついた。喜びの雄叫びをあげるスウェーデンの選手たちと監督。スウェーデンは勝点6でメキシコに並び、得失点差でも上回る。3ゴール目で勝ち抜けを確信したはずだ。
●で、問題はメキシコだ。ここまで優位に立っていたはずなのに、スウェーデンに追い抜かれてしまった。裏の試合でドイツが韓国に勝てばメキシコが敗退する。選手たちは3失点に意気消沈。とはいえ、この時点で韓国対ドイツは0対0。そのまま韓国が耐えきって引分ければ、メキシコは勝ち抜ける。スタジアムを埋め尽くしたメキシコ・サポたちは目の前の試合よりも手元のスマホの画面を見るようになった(なぜかこの大会はロシアで開かれているのに、スタジアムは中南米のホームゲームのようになる)。だって、そうだろう。あとわずかな残り時間で3点差を跳ね返せるわけがない。でも、韓国がドイツと引分ける番狂わせをやってくれれば、オレたちは勝ち抜ける。今そこにワールドカップの試合が行われているのに、観客たちはスマホの画面しか気にしていないという奇妙な事態が発生した。そして、アディショナルタイムに入ると、ワァーーー!とメキシコ人たちが喜びの声をあげた。韓国が耐えきったのか? いや、違う。韓国がゴールを決めたのだ! メキシコにとって願ってもない最良の展開。もうこれで安心だ。
●観客席ではお祭りムードにわきあがっているが、ピッチ上の選手たちは3失点でうなだれている。試合終了の笛が吹かれたが、選手たちに喜ぶ様子はない。泣いている選手までいる。裏のゲームはまだ続き、なんと韓国が2点目をあげた。最後の最後にドイツはキーパーのノイアーを前線に上げて捨て身の攻撃をした結果、無人のゴールにソン・フンミンがゴールしたらしい。結果として、この組は1位スウェーデンと2位メキシコが勝ち抜け、3位韓国と4位ドイツが敗退することになった。王者ドイツがよもやここで消え去るとは。どんな逆境でもいやらしいほどしぶとく戦うドイツがまさか、まさか……。お祝いをしよう、メキシコのために。
メキシコ 0-3 スウェーデン
娯楽度 ★★
伝説度 ★★★★
June 27, 2018
グループD ナイジェリアvsアルゼンチン 歓喜と孤独 ワールドカップ2018
●「ナイジェリア対アルゼンチン……って、また?? いったいこのカードをなんどワールドカップで見ているのだろうか」と4年前にここに書いたが、またまたこのカードが実現してしまった。2試合を終えて、ナイジェリアは勝点3、アルゼンチンはわずか勝点1。アルゼンチンがグループリーグを勝ち抜けるためには、最低でも勝利が必要。そして同時刻のクロアチア対アイスランドでアイスランドが勝ってしまうと、アルゼンチンは得失点差でアイスランドを追い越すゴール数が必要になる。ちなみにクロアチアはすでに決勝トーナメント進出を決めているので、大胆に選手を入れ替えて3戦目に臨んでいる。アルゼンチン、大ピンチ。
●本当は名監督なのに選手たちからの信頼を失ったと伝えられるサンパオリ監督。チームは空中分解を起こしているというが、ともかくスタメンを変えてきた。アグエロはベンチに、イグアインとディ・マリアが先発。大チョンボをしたキーパー、カバジェロを下げてアルマーニを起用。スタジアムはアルゼンチン・サポでいっぱい。試合が始まると猛然とアルゼンチンが攻撃する。前半14分、アルゼンチンはメッシが神トラップから右足でのゴール。喜ぶアルゼンチン。ナイジェリアは若いチームだが、爆発的なスピードも見られず、押される展開。前半はアルゼンチンが1対0でリード。もう一方のクロアチアとアイスランドは0対0。
●後半4分、ナイジェリアのコーナーキックの場面で、競り合いでマスチェラーノがファウルを取られてPK。主審はチャンピオンズリーグ決勝の笛を吹いたこともあるトルコのジュネイト・チャキル。マスチェラーノは猛抗議。ここでVARから助言があって、主審はビデオを確認。どうだろう、たしかにマスチェラーノは手を使って相手を抑える瞬間があったが、強く引っ張っているわけでもないし、慣習的にはこの程度は見逃すのでは……と思ったが、主審は判定を変えずにPK。まあ、ファウルはファウルかもしれないが。今大会、ビデオ判定のおかげか、とてもPKが多い。モーゼスが決めて同点ゴール。こうなると、がぜん元気が出てくるのがナイジェリア。ムサのキレキレの突破など、アルゼンチンを苦しめる。
●後半31分、またもVARの場面がやってくる。アルゼンチンの守備の場面で、ロホが頭でボールをクリアする際に、ミスをしてボールが手に当たってしまいPKの疑いが。主審はPKを取らなかったのだが、VARの助言によりビデオ判定に。もしPKならアルゼンチンは万事休す。映像を見るとたしかにまあ、当たってはいる。ヘディングをミスった結果、ボールが手に触れたという偶発的な事故なので、これでPKというのはどうなのか。と思っていたら、主審は判定を変えずにセーフ。え、今大会の流れだと、PKかと思ったけど? 判定は妥当だとは思うが、このあたりの基準がわかりづらい。
●その後、アグエロも入れてアルゼンチンは攻勢を強めるが、ゴールが遠い。イグアインが決定機を外す。後半41分、右サイドからメルカドがクロスを入れると、中央でロホがきれいな右足のボレーでゴール。なぜそこにディフェンダーのロホが! スタジアムは歓喜の渦に。アルゼンチン・サポの子供が泣きじゃくっている。と思ったら大人も泣いている。こんな環境でプレイする選手たちの重圧はどれほど恐ろしいものか。しかしアイスランド対クロアチアは1対1なので、もしもアイスランドが最後に決勝ゴールを上げたりしたら、このアルゼンチンの喜びも無に帰してしまうのだが。アルゼンチンは追加点を獲りに行くのではなく、時計を進めるプレイ。むしろカウンターでヒヤリとする場面も。どうなるのか、やきもきしていると、クロアチアがゴールを決めてリードしたという情報が。アルゼンチンは救われた。そのまま試合は終わって、アルゼンチンはかろうじて2位で勝ち抜け。ベンチでガッツポーズを取っていたサンパオリ監督は、歓喜の輪に加わらずすぐにロッカールームに消えた。なんという孤独。チリを南米王者に導いたあの名将が……。
ナイジェリア 1-2 アルゼンチン
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★
June 26, 2018
グループB イラン対ポルトガル ビデオ判定はどこまでも ワールドカップ2018
●さて、今日からグループリーグ第3戦。毎日4試合の開催、同グループの試合は同時キックオフでサクサクッと決勝トーナメントに向けて決着が付いていく。グループAは第3戦を前にウルグアイとロシアの勝ち抜けが決まっているのが、グループBのイラン、ポルトガル、スペイン、モロッコは前三者に可能性が残されている。で、イラン対ポルトガル。ここまで1勝1敗のイランは勝てば勝ち抜ける。引分けた場合、同時開催のスペインがモロッコに2点差以上で敗れれば勝ち抜けるし、スペインがモロッコに1点差で負けた場合はイランとスペインが得失点差で並び、総得点の争いになる(現状スペイン有利)。まあ、複雑な状況だが、基本的にはイランは勝たなければ可能性は薄い。イランは欧州チャンピオンを相手に本気で勝とうと立ち向かった。
●前半はポルトガルが攻め、イランがカウンターを狙うという展開が続く。前半9分、イランのキーパーとセンターバックで連係ミスがありひやりとする場面があったが、ここでキーパーのベイランバンドが味方のセンターバックの胸を突いて一触即発の雰囲気に。それくらいイランは気合いが入っていた。技術ではポルトガルが優位だが、体格はイランが勝っている。お互いになんどかチャンスを迎えて拮抗した展開が続いたが、前半終了直前の45分にポルトガルのクアレスマのスーパーゴールが生まれた。ペナルティエリア手前右から右足のアウトサイドにかけたシュートがきれいな弧を描いてゴール左隅に入るという技巧的なシュート。クアレスマは34歳。トリッキーな独特のドリブルを得意として、若くして才能を嘱望されバルセロナで脚光を浴びるも、プレイに安定感を欠きその後はあちこちのクラブを渡り歩いたクアレスマ。代表では常にクリスチャーノ・ロナウドの陰に隠れてしまう運命にあったが、魅せるテクニックへの職人的なこだわりは今でも異彩を放っている。もっとも体形はすっかり丸くなってしまったが……。
●後半はVAR(ビデオ判定)が大活躍。後半7分、クリスチャーノ・ロナウドがペナルティエリアぎりぎりの付近で倒される。主審は笛を吹かなかったが、直後に微妙な待ち時間。VARだ。スロー映像を見ると、まあ、ファウルといえばファウル。エリア内といえばエリア内。伝統的にはこういう微妙なプレイはギリギリラインの外とみなしてフリーキックという玉虫色判定もありうると思うが、ビデオを使う以上厳密な判定が必要になる。主審はPKを宣言。もちろん、クリスチャーノ・ロナウドが蹴る。だがこれをベイランバンドがスーパーセーブ! どういうわけかイラン・サポで染まる会場は大歓声。ブブゼラが鳴り響く。そして、それまで先制されてシュンとしていたイランが、このPKセーブをきっかけに息を吹き返した。激しいプレイの応酬で、互いにイエローカードが飛び交う展開に。イランのアズムンがエリア内で倒れ、ケイロス監督はしきりVARを要求するが、主審は耳を貸さない。これも今大会よく見かける場面だ。きっと、ビデオ・レフリーたちはスロー映像を見てVAR不要と判定しているのかもしれない。でもわれわれにはその経緯がわからない。恣意的な判断がされているのかどうか、不信感を残してしまうこの仕組みには改善の余地があるんじゃないか。
●後半36分、またもVARの登場だ。プーラリガンジがクリスチャーノ・ロナウドを罠にはめようと体を当て、これに対してクリスチャーノ・ロナウドの肘が出てしまう。主審はビデオを確認して、クリスチャーノ・ロナウドにイエロー。レッドにならなかったのは妥当だが、試合がなかなか進まない。後半40分あたりから、さすがのイランも走れなくなる。しかし、後半44分、またまたVARの出番がやってきた。ゴール前の競り合いで、ポルトガルにハンドがあったという疑い。スロー映像で見ると、ヘディングをした後のボールが腕に触っているようにも見えるが、かすったのかかすっていないのか、判然としない。これに笛を吹いても意味はないような気がするのだが、ビデオを見てしまったら白黒つけなければならない。主審はPKを宣言。イランのアンサリファルドがこれを決めて同点ゴール。
●アディショナルタイムは6分もある。だが、イランの選手たちは同点ゴールに喜びを爆発させている。ケイロス監督はすぐにプレイに戻れと必死に要求する。引分けじゃなくて勝たなければ! ゴール・セレブレーションをしている場合じゃない、お祈りをしている場合じゃない、と叫んでいたのか。ようやくイランの選手が戻ってキックオフ、そこからはフィジカル勝負のパワープレイに徹する。後半49分、ゴール前のこぼれ球にイランのアミリが決定機、だがシュートを外してビッグチャンスが消える。場内は異様なムード。このまま1対1で引き分けた。実は試合途中にモロッコがなんどかスペイン相手にリードを奪う場面があり、場合によっては引分けでもイランに可能性が残ったが、スペインがアディショナルタイムに同点ゴールで追いついた。どうやら、あちらの試合もドラマティックな展開だったらしい。なにせイランが勝ち抜けば、スペインが落ちていたわけだから。
●イランは勝点4で大会を去ることになったが、欧州王者相手に引分けは立派。グループAの消化試合となったサウジアラビア対エジプト戦はサウジが勝っている。4年前とは打って変わってアジア勢が健闘している。ただ、決勝トーナメント進出は依然として難関。
イラン 1-1 ポルトガル
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★
June 25, 2018
グループH ニッポンvsセネガル 捕らぬ狸の皮算用 ワールドカップ2018
●ニッポンとセネガル、ともに前の試合を勝利して臨む第2戦。セネガルは監督が2002年日韓大会に出場していたシセ。そのときも「もうひとつのフランス」のように言われたが、今回もクリバリやニアンのように若いカテゴリーでフランス代表経験のある選手や、フランスのクラブでキャリアをスタートさせてビッグクラブへと飛躍した選手が多数。エースのリヴァプールのマネは、サウサンプトン時代に吉田の同僚。フォワードのニアンはミラン時代に本田の同僚だった。ニッポンはコロンビア戦とまったく同じ先発メンバー。GK:川島-DF:酒井宏樹、昌子、吉田、長友-MF:柴崎、長谷部-原口(→岡崎)、香川(→本田)、乾(→宇佐美)-FW:大迫。
●序盤からセネガルは圧倒的な個の能力で攻めてくる。すさまじいスピード。おまけにパスのスピードも速くてダイナミック。マネなどの能力の高さを見ていると、まるで別のスポーツのよう。ニッポンが後方から組み立てる際にも、少しでも球離れが悪かったりパスのスピードが遅かったりすると、あっという間にボールを奪われてしまうそうなプレッシャーなのだが、これを落ち着いて交わすニッポンの技術の高さに感心。しかし前半11分、セネガルのクロスボールに対して原口がコーナーキックを与えまいとバックヘッドでそらすが、このクリアが小さすぎてサバリに拾われてシュート、これを川島がパンチングで弾いたところ目の前にいたマネに当たって、リフレクトしたボールがゴールへ。半分オウンゴールみたいな居心地の悪い失点を喫してしまった。
●この1点で崩れてしまうのが代表のありがちなパターンなのだが、ここで浮足立つことのないのが今のニッポン。前の試合に続いて、大迫のポストプレイの成功率が高く、長谷部か柴崎が下がってきて後方から組み立てるスタイルが効果的。前半34分、後方の柴崎から飛び出した長友にロングパスを供給、これを受けた長友が中に切れ込み乾とスイッチ、乾は右サイドからファーサイドのポスト付近に巻いて入る得意の形でシュートを決めて同点。この角度からのシュートは後半にもう一度あったがバーを叩いた。
●後半26分、セネガルは左サイドから個人技で崩して、グランダーのクロスを右サイドへ。ここで乾のマークが遅れてワゲがフリーでシュートを決めて、ふたたびセネガルがリード。乾はその前にもボールを奪われて覚悟のファウルからイエローをもらう場面があって、このサイドは攻めると強いが、守ると厳しい。ニッポンは香川を本田に、続いて原口を岡崎に交代。右サイドに本田が入って、大迫と岡崎の2トップになる形に。後半33分、大迫が右から入れたクロスに、岡崎と相手キーパーが競り合い、これがファーの乾にこぼれてダイレクトで折り返したところで本田がフリーで冷静にシュート。2対2の同点に。セネガルは2失点ともキーパーにやや問題を感じる形(人のことは言えないわけだが)。最後までお互いに攻め合ったが、このままドローに。互いに1勝1分になった。
●ニッポンはハイボールの競り合いにも意外と負けていないのが印象的。ここまではセントラルミッドフィルダーに展開力とキープ力のある長谷部と柴崎を並べる形がとてもうまく行っていて、特に柴崎は視野の広い長いボールを出せるのがいい。攻撃的な布陣を敷いて、結果的に得点も失点も多いゲームになっている。右サイドバック酒井のパワーは貴重。吉田と昌子もタフ。本田は2試合ともあまりコンディションがよいとは思えないのだが、結果が付いてきている。
●さて、もう一方の試合だが、ポーランド0-3コロンビアで大差がついてしまった。これでランクでは最強位のポーランドが敗退決定。次にニッポンはポーランドに勝つか引分ければ決勝トーナメント進出が決定するが、複雑なのは負けた場合。もし負けた場合でも、セネガル対コロンビアの結果が、セネガルの勝利ならニッポンは2位通過、コロンビアの勝利ならニッポンとセネガルの得失点差勝負、引分けならコロンビアとの得失点差でニッポン敗退(で、合ってるかな?)。次戦は中三日しかないので、コンディションを優先して選手を入れ替えるか、うまく行っているチームは変えないの原則に従うのかが、悩みどころ。選手を変えて敗退すれば監督批判は必至だが、その先、3戦目からラウンド16までは、1位通過なら中四日、2位通過なら中三日。西野監督はどう判断するだろうか。
ニッポン 2-2 セネガル
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★★★
June 24, 2018
グループF ドイツ対スウェーデン 反伝説的フリーキック ワールドカップ2018
●メキシコに敗れていきなり背水の陣を敷くことになった王者ドイツ。対するはスウェーデン。欧州予選でオランダやイタリアを沈めて本大会にやってきた堅守速攻のチーム。ドイツはエジルをベンチに置くなど何名か選手を入れ替えて、開始早々からハイテンションでスウェーデンのゴールに襲いかかる。簡単にゴールを奪えそうな雰囲気もあったが、スウェーデンのカウンターが想像以上に鋭い。ドイツが一方的に攻めて、スウェーデンがひたらすらカウンター狙いという極端な展開に。前半25分にスライディングをしたドイツのルディに対して、飛び越えたトイボネンの足が顔面を蹴ってしまい、ルディは鼻血で顔面を真っ赤に染める。結局、ルディはギュンドアンと交代になってしまったのだが、あれは故意に蹴ったとしか思えなかった。カードは出ない。この種のプレーには、たとえスローで見ても故意か偶然かの見分けがつかないグレーゾーンがあるのはわかるのだが……。
●前半32分、クロースのパスミスを奪ったところからスウェーデンのショートカウンター。クラエソンのシンプルなクロスを中央でトイボネンが受け、これをループシュートでゴール。カウンターしか狙ってないスウェーデンがものの見事に先制。
●後半3分、右サイドからの低いクロスをロイスが押し込んで同点ゴール。徐々にスウェーデンの鉄壁の守備にもほころびが見えてくるが、後半37分、ドイツのボアティングが危険なスライディング・タックル。イエローカードが出れば2枚目だが……主審はカードを出さない。しばらく沈黙の時間があって、ようやくカードが出てボアティング退場。これはビデオ判定で主審の判定が覆ったということなのだろうか? 判定は妥当だが、わかりにくい。
●さて、ドイツは一人減って万事休す。このまま引分けで終われば、ドイツは2試合で勝点1。いつも憎らしいほど強すぎるドイツが、グループリーグで敗退するのだろうか。だとしたら、これは伝説だ。ふふ、でも悪役のいない大会も寂しいものかもね。アディショナルタイムに入り、あとは笛を待つだけの後半50分、ドイツのフリーキックでクロースが横のロイスにボールを預けて位置をずらしてから思いきり右足を振り抜いて、これがゴール。鮮やかな幕切れ。ほんの一瞬だが、ドイツに同情してしまったら、決勝ゴールを奪われてしまった。あーあ。ドイツはいつだってそんなチームだ。このチームに同情は不要。
ドイツ 2-1 スウェーデン
娯楽度 ★★
伝説度 ★★
June 23, 2018
グループE ブラジル対コスタリカ ネイマール対主審対ビデオ ワールドカップ2018
●前回大会でもそうだけど、国歌の「持ち時間」が少なくなって、ブラジルとかアルゼンチンとかラテン諸国の長い国歌がばっさりカットされてしまっている。だれなんすか、こんな乱暴なことをするのは。前回大会はブラジルが開催国だったので、ブラジル代表の選手たちも観客たちもFIFAに抗議するかのように、曲が短縮バージョンで終わっても、録音を無視して勝手にみんなでフルバージョンを歌い続けた。正しい。が、ここはロシア。第1戦のスイス戦ではわずかに抵抗の意思が見られたものの、第2戦、ブラジル対コスタリカではさっさと短縮版で切り上げられて、すぐにコスタリカの国歌が始まってしまった。あー、盛り上がらない。全宇宙の大半のサッカーファンにとって、ブラジルとは自国が敗退したり不参加だったりした場合に応援する憧れの「王国」であり、ブラジル国歌は第2の国歌みたいなものではないの。
●で、試合だ。ブラジルは青のセカンド・ジャージで登場。明るく鮮やかな青でなんだかブラジルっぽくない。コスタリカの選手たちはブラジル代表ブランドをまったく恐れていない。前半13分、右サイドでガンボアが爆発的なスピードでブラジルのディフェンスを置き去りにして駆けあがる。マイナスの折り返しに中でボルヘスが合わせるも惜しくも外れる。前半はスコアレス。堅守のコスタリカに対して、攻めるブラジル。コスタリカは最後の砦、キーパーのナバスが好セーブを連発。なんといってもこの人はレアル・マドリッドの正ゴールキーパー。最高水準のキーパーがいると、こんなにも頼もしいものなのかと感心。時間とともにブラジルに焦りが見えてくる。特にネイマールは相手のファウルをなんども主審にアピール。たしかにスイス戦ではずいぶん削られて気の毒だったが、これではコスタリカと戦ってるのか審判と戦ってるのかわからなくなってくる。
●そしてついてに後半33分、ペナルティエリア内でネイマールは倒れてPKを獲得! ウオッッシャー! そんな雄叫びが聞こえてくるかのようなネイマールの顔。だが、ここで登場するのがVAR、ビデオ判定だ。テレビでスローで見ても、ネイマールは触れたか触れていないかくらいの相手の寄せに大げさに倒れ込んでいるのがわかる。主審だって同じ映像を見るわけだ。PKは取り消された。ネイマールは主審に勝つだけではだめで、ビデオにも勝たなければいけない。もっと倒れ方を工夫するべきだろうか。それとも、倒れるのではなく、プレイしてみてはどうだろうか。ネイマールからスーパースターのオーラが消えるのはこういう瞬間だ。
●スコアレスのままアディショナルタイムに入り、もうこれでブラジルの2試合連続引分けは確定したかに思われた。だが後半46分、クロスボールの折り返しをジェズスが落として、コウチーニョが豪快に蹴り込んだ。ナバスの股を抜いてゴール。ついに1点リード。ブラジルは喜びを爆発させる。そして、こうなるとそれまでの試合展開がウソのようにブラジルはリラックスした美しいボール回しを披露して、相手にボールを触らせない。ネイマールのヒールリフトも飛び出す始末(これがまたスーパースターらしくない余計なプレイだと思う)。後半52分、華麗なパスワークからついにネイマールもゴールを決めて2点目。ブラジルはプレッシャーから解放されてのびのびとプレイ。ブラジルには勝ち進んでほしいので、まあ、よい結果に終わったんだけど、このチームへの共感度はもうひとつ高まらない。
ブラジル 2-0 コスタリカ
娯楽度 ★★
伝説度 ★★
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●ところで、当サイトは1995年から続いているのだが、4年に1度ワールドカップがやってくるたびに、延々と観戦記を書くことになっている。過去の大会の観戦記へのリンクを以下に置いておこう。
ワールドカップ2014ブラジル大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2014.html
ワールドカップ2010南アフリカ大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2010.html
ワールドカップ2006ドイツ大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2006.html
ワールドカップ2002日韓大会
http://www.classicajapan.com/wc2002/index.html
ワールドカップ1998フランス大会
http://www.classicajapan.com/france98.html
June 22, 2018
グループC フランス対ペルー、グループD アルゼンチン対クロアチア スーパースターの使い方 ワールドカップ2018
●前夜のデンマーク対オーストラリアは1対1で引分け。アジアが勝点1をゲット。後半途中から見た限りでは、オーストラリアが勝つべきゲームだったと思う。オーストラリアはフランス相手でもそうだったが、内容に結果が追い付いていない感じ。ここまではアジアがまずまず健闘している。
●で、フランス対ペルー。フランスは若い選手が大勢いて、しかもビッグクラブ所属の選手だらけのタレント軍団。ただ前のオーストラリア戦にしても、このペルー戦にしてもそこまでの強さは感じない。優勝候補の一角だからこそ、大会後半にコンディションのピークを持っていくということなのか。一方のペルーは欧州組もいるが、北中南米組が主体というアメリカ(大陸)色の強いチーム。個の能力はかなり高くて、フランス相手でも五分で戦う。特に右サイドが強烈で、スピードのあるカリージョとアドビンクラのコンビでなんどもフランスの守備を崩していた。
●試合は前半34分、ショートカウンターからエムバペのゴールでフランスが先制。ペルーは後半から選手をふたり替えたが、かえってボールを持てなくなってしまった。質の高いチャンスは作れるものの、最後の決定力を欠いてゴールならず。フランスがうまくゲームをコントロールして逃げ切った。格段によい内容ではないのに2連勝できたのは大きい。3戦目は控え選手を起用してモチベーションを高めながら、主力を休ませることができる。決勝まで進むためには理想的な展開では。
●一方、アルゼンチン対クロアチア。アルゼンチンはタレントの宝庫にもかかわらず、極端にメッシ頼みのチームになっていて、前の試合でアイスランド相手に引分け。スター選手たちが難しい局面になるとメッシにお任せするという、やや珍妙なサッカーになっている。草サッカーの素人集団に経験者がひとり入ったチームに似てる。普通のチームならエースになる選手たちが、メッシのために滅私奉公するという使い古されたダジャレを言いたくなる極寒のフットボール。クロアチアはナイジェリアに勝ってモチベーションは上がっている。もともとこちらもラキティッチやモドリッチらが顔をそろえる実力者集団。前半はクロアチアが押す展開ながら拮抗した戦いに。
●事件が起きたのは後半8分。アルゼンチンのキーパー、カバジェロがバックパスを蹴り返そうとして痛恨のキックミス、ボールはふわりと不思議な軌道を描いてレビッチの目の前に。レビッチはこれを華麗なボレーでゴールに蹴り込んで先制ゴール。嘆きながら崩れ落ちるカバジェロ。これは事故といえば事故。ただし、クロアチアはカバジェロの足元が弱いと見ていたのか、再三にわたってカバジェロに蹴らせるように前線からプレッシャーをかけ続けていたフシがある。ここからアルゼンチンの怒涛の反撃が始まるべきだったのだが、逆境でまとまれないのがこのチーム。後半35分、ペナルティエリアより手前の中央でモドリッチが、対面するオタメンディを交わして豪快なミドルシュート。これがゴール右側から巻いて突き刺さるスーパーゴール。伝説級のシュートだが、しかしオタメンディの守備が緩慢すぎでは。クロアチアが懸命にプレスをかけ続けるのとは対照的に、アルゼンチンには献身性が足りない。後半46分、カウンターからラキティッチが持ち上がってシュート、弾いたボールをコバチッチが拾い、冷静にフリーのラキティッチにボールを渡してゴール。アルゼンチンの守備陣は帰ってこない。これで3点目。0対3。1分1敗。不必要な失点を重ねて、得失点差でも苦しくなってしまった。
●サンパオリ監督という戦術家を招いておきながら、結局は「戦術はメッシ」になってしまうというアルゼンチン。メッシもしきりにセンターライン付近まで戻ってディフェンスからボールを受けて、自分で組み立てようとする。チームはバラバラ。メッシがいないほうが勝てるんじゃないかと思ってしまうほど。前回ブラジル大会でそろって健闘していた南米勢が、今大会はひとつ残らず不調。ブラジルはスイスに引き分けるし、コロンビアは日本に負けるし、ペルーは連敗。どこもサポーターは驚くほど大勢来ているのだが。
フランス 1-0 ペルー
娯楽度 ★★★
伝説度 ★
アルゼンチン 0-3 クロアチア
娯楽度 ★★
伝説度 ★★★★
June 21, 2018
グループB イランvsスペイン 幸運の女神 ワールドカップ2018
●各グループ2試合目に入る。イラン対スペイン、力の差は明らかかもしれないが、この時点ではイランが勝点3、スペインが勝点1。イランは引分けでも悪くはないのに対し、スペインは引分けると一気に苦しくなる状況。イランのケイロス監督は当然のごとく、堅固な守備ブロックを敷いて全員で守るという戦い方を選択。これは正しい選択だったと思う。アジアでは驚異的なディフェンス力を誇ったイランの鉄壁の守備は、スペイン相手にも十分に通用した。膠着状態が続き、前半はスコアレス。注目すべきはイランはただサンドバッグになって耐えたわけではなく、スペインにボールを持たせても決定機は作らせない守備に成功していたということ。前半にスペインの枠内シュートは1本しかなかったと思う。イラン、狙い通りの展開。
●後半8分、イランはロングスローからのこぼれ球にアンサリファルドがシュート。一瞬、入ったかと思ったのだが、サイドネットだった。惜しい。これはもしや……と思った、その直後、後半9分のスペイン、前線のジエゴ・コスタが縦パスを巧みにトラップして前を向いたところで、イランのレザイーアンがタックル、蹴ったボールがジエゴ・コスタに跳ね返ってこれがきれいなゴールになってしまう。不運としかいいようがない。ほとんどオウンゴールだが最後にジエゴ・コスタに当たっているのでジエゴ・コスタのゴール。ずっとボールを回して意図をもった攻撃でチャンスを作れなかったスペインが、こんな形でゴールをプレゼントしてもらえるとは。トホホ。
●先制された後のイランは前に出る。ここからはお互いに攻め合うスリリングな展開に。後半17分、イランはフリーキックからエザトラヒが豪快なゴール。これで同点と思われたが、主審はビデオ判定(VAR)を待つ。そしてオフサイドでゴールは取り消されてしまった。スローで見るとなるほどわずかにオフサイドかもしれないのだが……。このビデオ判定、これ自体を適用するかどうかで恣意的な判断が紛れ込む余地はないのだろうか。その後、後半37分、イランのアミリが相手陣内深くでピケの股抜きに成功してクロス、中で合わせるも惜しくもゴールならず。決まっていれば伝説のプレイになりえたが。
●終盤、スペインは巧みにボールを回して、1点を守り切って勝利。しかしこれは薄氷の勝利というべきだろう。1試合中、枠内シュートは3本のみで、しかもゴールに入った1本は偶発的なものだった。あと、前半にあった場面なんだけど、イランのゴールキーパー、ベイランバンドがボールを持っているときに、そばを通ったジエゴ・コスタの足が一瞬つま先をかすっただけで、ボールを外に投げ出しながら、顔をしかめて倒れ込んだ。はいはい、それね、ワタシらはよく知ってる。主審はそんな三文芝居をまるっきり相手にしない。ジエゴ・コスタは苛ついた表情を見せていたので、なんらかの効果はあったかもしれないが、もう中東勢はこんな戦い方を止めるべき。普通に戦って、スペインと五分で渡りあえていたじゃないの。
イラン 0-1 スペイン
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★
June 20, 2018
グループH コロンビアvsニッポン 大迫半端ない ワールドカップ2018
●ようやくグループHまで来た。ニッポン代表が登場。初戦の相手はコロンビア。4年前の大会では3試合目でコロンビアと対戦し完敗したのだが、まるでその続きをするかのよう。会場はロシアのサランスクというところにあるモルドヴィアアリーナ。圧倒的にコロンビア・サポーターが多い。ニッポンからもコロンビアからもサランスクはものすごく遠いと思うけど、どうしてこんなに差が付くんすかね。
●で、西野監督率いるニッポン代表の先発だが、トップ下に香川を起用し、本田をベンチに置いた。あとは山口ではなく柴崎をセントラルミッドフィルダーに置いたのが予想外。両サイドは乾と原口で、ずいぶんと攻撃的な布陣を敷いたなというのが第一印象。GK:川島-DF:酒井宏樹、吉田、昌子、長友-MF:長谷部、柴崎(→山口)、原口、乾、香川(→本田)-FW:大迫(→岡崎)。コロンビアは前回大会と同じくペケルマン監督。もっとも怖いハメス・ロドリゲスはベンチ、しかしトップにはファルカオがいる。
●開始早々の前半3分、まさかの事件が起きる。後方からのボールに抜け出した大迫が相手ディフェンダーと入れかわりキーパーの一対一でシュート、これをキーパーのオスピナがはじくが、こぼれたボールを香川がシュート。すると、カルロス・サンチェスが手で阻止してPK。しかもカルロス・サンチェスにレッドカードが出てしまった。これを香川が決めて先制ゴール。コースは甘かったが、キーパーが重心を動かす方向を見定めてから逆に蹴ったのだと信じたい。そんなわけで、ほとんど最初から11人対10人で1点リードした状態で始まるハンディマッチのような試合になってしまった。まるで福引で大当たりをひいてしまったようなもの。こういうこともあるからこそ、「ランクで決まるなら試合はいらない」。
●当初、個の能力で勝るコロンビアはひとり少ないながらも果敢に立ち向かってきた。なんだかこちらがひとり多いとは思えないくらいに、ボールが落ち着かない。人数が多いのにボールを持てないというのはなかなか屈辱的なのだが、しかしベテランぞろいのニッポン代表がさすがと思うのは、むしろ相手が前に出たところをカウンターで仕留めようという狙いが見えたところ。一方、コロンビアもしばらくすると失点リスクを恐れて攻勢を弱め、攻撃的なクアドラードを下げてバリオスを投入して試合を落ち着かせる。前半37分、ファルカオが長谷部ともつれて倒れるとファウルに。長谷部はなにもしていないと思うのだが、好位置からコロンビアのフリーキック。ここでキンテーロが、なんと、ジャンプしたニッポンの壁の下を通すグラウンダーのキック。これがゴール隅に決まってしまう。ボールをかきだした川島は抗議するが、ゴールライン・テクノロジーに教えてもらうまでもなく完全に入っていた。これで1対1。
●後半、展開次第でどんな状況もありえたと思うが、後半14分にキンテーロを下げてエース、ハメス・ロドリゲスを投入したところで潮目が変わった。4年前は同じ選手の途中出場でニッポン代表は大混乱に陥ったが、今回はまったく逆。ただでさえ人数が少ないのに、運動量の少ない選手が入ってしまい、以後ほとんどの時間帯でニッポンがボールを持つことになってしまった。ハメス・ロドリゲスは体にキレが感じられない。常に中盤の長谷部か柴崎のどちらかがフリーになるという楽な状況になったので、ミスさえしなければ容易にボールを回せる。後半28分、本田のコーナーキックに大迫が頭で合わせてゴール。ふたたび勝ち越す。大迫は再三にわたって足元にボールが吸い付くようなポストプレイを披露、運動量もすさまじかった。リードしてからも、ニッポンは落ち着いたボール回しで、ゲームを支配。コロンビアはなんどかカウンターでチャンスを迎えたが、決めきれない。終盤はファウル覚悟のタックルを連発してきて難儀するも、5分のアディショナルタイムを乗り切ってニッポンが前評判を覆す勝利。ワールドカップでニッポンが南米のチームに勝ったのは初めて。というかアジア全体でも初めて。大金星といってもいいだろう。大迫以外では乾の好調ぶりも印象的だった。
●もちろん、これは最初に福引で大当たりを引いたおかげなのだが、勝つこと自体がチームに自信を与えて、調子を上げるというのはままあること。ワールドカップはなにが起きるかわからない。
コロンビア 1-2 ニッポン
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★★
June 19, 2018
グループG チュニジアvsイングランド 若返った「母国」 ワールドカップ2018
●いま各国のリーグ戦でもっともレベルの高いのはおそらくイングランドのプレミアリーグ。スペインやドイツも最上位は強いんだけど、プレミアリーグは1部リーグ中位から下位でも資金力豊富なところが強み。なのに、ワールドカップとなるとイングランド代表を優勝候補に挙げる人はまずいない。プレミアのスターは外国人ばかりということだろうか。でも、今大会の「サッカーの母国」は期待できるかもしれない。サウスゲイト監督のもと、すっかり世代交代を進めて、前回から残っているのは5人のみ。選手の所属クラブはそうそうたるもの。ハリー・ケインやスターリングなど前線にスターもいるが、むしろチーム全体としてはタフな選手が多い印象。今大会では珍しい3バックのチーム。シンプルで力強い攻撃が信条か。一方、チュニジアはアフリカ勢としては国内組が多い。次いでフランス組。プレイスタイルはかなりヨーロッパ的。というか、近年、アフリカのなかでも北アフリカ勢が優勢で、その多くはプレイスタイル的にも選手の出自や所属クラブ的な意味でも、かなり「ヨーロッパB」化している感。ヨーロッパの代表チームもどんどん才能豊かなアフリカ系の選手を取り入れている以上、アフリカ勢ならではの「驚異の身体能力」なんていうのは昔話で、チュニジアのように組織的な守備を鍛えないと大陸予選を勝ち抜くのは難しい時代なのかも。
●で、チュニジアvsイングランド。前半11分にコーナーキックからキーパーが弾いたボールをハリー・ケインが決めてあっさりと先制。ワンサイドゲームの予感もあったが、35分にやや幸運なPKをもらって(ビデオ判定はなし)、サシが決めて同点。イングランドはなんどか決定機が作り出したが決めきれず。次第にチュニジアが自信を回復したかのように、ボールをつなぎ出す。特に後半は後ろからでも恐れることなくボールをつなぎ、なおかつ前から相手にプレッシャーをかけて、試合の主導権を握ろうとしていた。フォーメーションも相手に応じて柔軟に変化させ、つぶし合いの多い膠着状態に。こうなるとイングランドの攻撃はクリエイティビティに乏しい。引分けがふさわしい試合だろうと思ったが、後半46分、またしてもコーナーキックから中でマグワイアがボールをすらして、ファーサイドでフリーのケインが頭で2点目。イングランドが辛勝。結局どちらもコーナーキックからのケインのゴールだった。
●このグループ、もう一方のベルギー対パナマは順当にベルギーが勝利。チュニジアは志の高いチームだったが、前評判通りにイングランドとベルギーが勝ち抜く無風区となってしまうのだろうか。
チュニジア 1-2 イングランド
娯楽度 ★★
伝説度 ★
June 18, 2018
グループF ドイツvsメキシコ、グループE ブラジルvsスイス 反予定調和 ワールドカップ2018
●いったいロシアまでどれだけのメキシコ人が来ているのか。ドイツ対メキシコ。どう考えてもドイツ人のほうが多そうなものだが、スタジアムの雰囲気はまるでメキシコのホームゲーム。自然発生的に歌声が広がって最高のムード。ドイツの選手たちが後ろでボールを回すとブーイングが起き、メキシコのパスに「オーレ」の声がかかる。そんなムードを反映して、立ち上がりから超ハイテンションの試合に。
●中盤構成力の高いドイツだが、メキシコは細かいパス回しで対抗。激しい当たりにも負けない。お互いにオープンに攻め合って、枠内シュートが異様に多い展開に。ミスが少ない。メキシコのキーパーはオチョア、ドイツのキーパーはノイアー。ともにセービング技術が高く、引きしまった好ゲームになった。ドイツのキーパーにはバルセロナのテアシュテーゲンもいるが、レーブ監督はバイエルンで出場機会を失っているノイアーを正キーパーに据え置き、チームの継続性を重視。メキシコは前線のエルナンデスがビッグスターだが、オランダPSVで売り出し中の若手ロサーノが希望の星。
●メキシコの監督はコロンビア出身のオソーリオ。かなりの策士のようで、ドイツのフリーキックのチャンスにも前に3人残してカウンターを狙うというリスキーな戦い方。左サイドをワイドに開いてカウンターの起点にするのも、ドイツの右サイドのキミッヒに攻めさせないという戦略か。意外と細かい約束事の多いチームなのかもしれない。
●メキシコは長い距離のカウンターに迫力がある。カウンターでボールを持って上がる選手が簡単にサイドのフリーの選手に出さず、ギリギリまで自ら突進する。前半35分、ついにカウンターが実を結んで、ロサーノが鮮やかな先制ゴール。なんという切れ味の鋭さ。前半は内容的にもメキシコが勝っていた。
●後半途中からドイツはケディラをロイスに代えて攻撃の枚数を増やす。エジルを少し下げて中盤の展開力を上げようという構え。前へ前へと怒涛の攻めが始まる。一方、メキシコは思い切りよく早めに選手を交代して、守備的な布陣へ。ついには39歳のレジェンド、マルケス(まだいたの!!)まで投入して、5バックで鉄壁の守りを敷く。ドイツはマリオ・ゴメスを投入して高さの勝負を仕掛ける。前半とは打って変わって、一方的にドイツが攻める展開へ。だが、メキシコもエネルギーは残っていて、ときどきカウンターが発動して、ラジョンが惜しい決定機を迎える。メキシコは足が止まらず、終盤になっても組織的な守備を忠実に実行する。後半43分、途中出場のドイツの若手ブラントが強烈なボレーシュートを放つがポストに弾かれる。47分、ドイツはコーナーキックでキーパーのノイアーが前線に上がり、グループリーグとは思えない捨て身の攻撃を仕掛けるが、それでもメキシコは耐えきった。爆発的に喜ぶメキシコの選手たちとサポーター。あの、憎たらしいほど用意周到なドイツが、まさか初戦で負けるとは。メキシコは最後は守りに賭けたわけだが、あくまで自分たちで主導権を握って選んだ展開であって、「守らされた」感がまったくない。オソーリオ監督のプラン通りの完璧な試合で、ドイツを強引にねじ伏せたといってもいい。選手たちのマッチョ性に知将の戦略が融合した恐るべきチーム。
●さて、ドイツと並ぶ優勝候補がブラジル。前回は地元開催でドイツに屈辱的大敗を喫したわけだが、予選途中でチッチ監督を迎えてからは好調が続く。攻守ともに前回より選手層も厚くなっていると思う。ブラジル対スイス。スイスは大会前にニッポン代表相手にレッスンをしてくれたわけだが、ブラジルが相手となると余裕はない。ネイマールに対してはガツガツとファウルで止めにゆく。前半20分、ブラジルはコウチーニョがこぼれ球を拾って強烈なミドルを叩き込んで先制。ここまではよかった。しかしリードをすると、淡白な攻撃が続き、どこか気の抜けたムードに。後半5分、スイスのコーナーキックで、フリーになったツバーがヘディングシュートを決めて同点。これでブラジルの目が覚めるかと思いきや、ボールはつながるもアイディア不足の攻撃が続いて、スイスを崩しきれない。一方のスイスも主導権を握れないまま、守りに追われる。ブラジルのシュート20本のうち、枠内はわずか4本。その前のドイツvsメキシコがやたらと枠内シュートの多い試合だったこともあるが、どうにも締まりがない展開が続いて、そのままドロー。ブラジルは常に決勝までの一か月の長丁場を前提に調整しているのだ、と考えれば初戦はこれくらいでいいのか。しかしこのグループ、他がセルビア、コスタリカ(前回8強)で、まったく気を抜けない。
●今大会、ここまでを見たところ、消極的な試合がほとんどなく、攻め合いの多いエキサイティングな試合が目立つ。どうしてなんでしょ。
ドイツ 0-1 メキシコ
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★★★
ブラジル 1-1 スイス
娯楽度 ★★
伝説度 ★
June 17, 2018
グループC フランスvsオーストラリア、グループD アルゼンチンvsアイスランド 南北対決 ワールドカップ2018
●うーん、始まってみたらおもしろすぎるぞ、ワールドカップ。で、フランス対オーストラリアだ。続々登場するアジア勢。さて、オーストラリアといえば、アジア予選で「つなぐサッカー」にバージョンアップした結果、ニッポン相手に敗れたわけだが、そのときの監督が現マリノス監督のポステコグルーだった。彼の戦術はマリノスで格段に先鋭化して毒々しく花開いているわけだが、それはさておき、新監督ファンマルワイク率いるオーストラリアはやはりパスワークを重視しているよう。特にゴールキーパーからパスをつなぐというスタイルは変わっていないのだが、これがもう見ていてハラハラドキドキ。いや、ウチの(マリノスの)飯倉、貸してあげようか? そう思ってしまうくらい、ぎこちない。
●とはいえ、守備になればオーストラリアは堅い。フランス相手によく耐えた。前半をスコアレスで乗り切る。しかし後半13分、リズドンのスライディングタックルがグリーズマンの足にひっかかってPK。判定には今大会から導入されたビデオ判定が活用されたのだが、うーん、これってスロー再生してもかなり微妙。ともあれ、グリーズマンがPKを決めてフランスが先制。後半17分、今度はフランスが自陣ゴール前でハンドしてしまい(これは明白)、オーストラリアがPKを獲得。ジェディナクのキックは甘いコースに飛んだが、キーパーは逆に飛んでいた。これで同点。後半36分、フランスのポグバのシュートがクロスバーを叩く。ボールはいったん下に落ちてから枠外に跳ね返った。ゴールラインテクノロジーの判定によりゴールが認められてふたたびフランスがリード。これが決勝点となって2対1でフランスが勝った。ボール支配率は半々程度。アジア勢が強豪相手に勝点1を得るかと期待したが……。
●フランスは2点ともテクノロジーの助けで得たゴール。1点目のPKはあまり納得できない。2点目はもちろん疑いもなくゴールなのだが、あれがゴールラインを超えるかどうかは運の世界だろう。昔は主審の判定に委ねられていた運が、今は真実という判定に委ねられているのであって、どちらも運には違いないというのがワタシの理解。サッカーではしばしば幸運の女神が弱いほうに味方することがあるが、同じ回数だけ、強いほうにも味方しているのだという当然のことに思い当たる。つまり、一言でいえば、悔しい。
●メッシのアルゼンチンは、前回のEUROで躍進を遂げたアイスランドと対決。たくましい大男たちが集まるアイスランド代表は、ひたすらシンプルで力強い。小国の代表でありながら大国を打ち破る姿が共感を呼ぶ。が、どうなんだ、このサッカー、おもしろいのか? 好感度は高いけど、正直いって、ワタシはぜんぜんおもしろくない。一方、アルゼンチンはスペクタクルだ。パスワークに酔いしれるように狭いところを通して、つないで、突破する。メッシは相変わらずうまい。しかしプレイはすっかり枯れていて、極限まで最適化された効率的フットボール。前半19分、ロホのミドルシュートを、アグエロが足元でぴたりとトラップして(人間離れした超絶技巧!)、一瞬で反転してシュート。先制ゴール。これで楽勝かと思いきや、すぐ後の前半23分、アイスランドのダイナミックな左右の揺さぶりから、こぼれ球をフィンボガソンに蹴り込まれて同点。その後、アルゼンチンはほれぼれするような球回しを見せるのだが、アイスランドの堅い守備を崩せず。パスは回るがシュートが遠い。
●結局、アルゼンチンは74%という極端なボール支配を得ながら、1対1でドロー。なにかこう、みんながメッシに遠慮して安全なプレイを続け、一方でメッシはムダのない職人芸の世界に耽溺しているように見えてしまう。なるほど、これだけタレントがそろいながらアルゼンチンが南米予選であわや敗退直前まで追い込まれたのもなんとなくわかる。気が付けばベテラン化も著しい。このチームには、だれか火をつける存在が必要。求む、空気を読まない若者。
フランス 2-1 オーストラリア
娯楽度 ★
伝説度 ★★
アルゼンチン 1-1 アイスランド
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★
June 16, 2018
グループB モロッコ対イラン、ポルトガルvsスペイン 2強2弱の行方 ワールドカップ2018
●グループBはだれがどう見ても結果が見えているというポルトガル、スペイン、モロッコ、イランの2強2弱。2強を脅かすためには、モロッコ対イランはお互いにどうしても勝点3が欲しい試合。モロッコはアフリカ勢ではあるが、選手のほとんどはフランスやオランダなど国外で生まれ育った選手。アフリカなんだけど実質「もうひとつのヨーロッパ」という、ワールドカップあるある状態。一方、イランはアジアの最強国。名将ケイロス監督が8年も率いているという継続性が実を結んで、アジア予選ではぶっちぎりの1位、異常なまでに失点が少ない。
●で、試合が始まってみるとモロッコが猛然と攻めてきて、イランはたじたじ。アジアでは鉄壁の守備がワールドカップではこんなにも脆く見えてしまうのか……。特にモロッコは左サイドからの攻撃が強い。ところが、前半の途中から次第にイランのカウンターアタックが冴えはじめ、すっかりとイラン・ペースの試合になってしまう。お互いに体と体がガツンとぶつかる音が聞こえてくるような激しい試合。
●両者ともに高い位置でボールを奪ってカウンターを決めたいという展開。前半42分にイランに惜しい決定機。後半はほとんどイラン・ペース、後半34分、モロッコに決定機が訪れるもイランのキーパー、ベイランバンドがスーパーセーブ。終盤はともに足が止まって魂の消耗戦になった。長いアディショナルタイムがあり、後半50分、イランは好位置でフリーキック。ハジサフィがクロスを入れると、中に飛び込んだ選手の頭にドンピシャでゴール! いや、スローで見ると、これはモロッコの選手のオウンゴールだった。イランが勝点3をゲット。前回大会1勝もできなかったアジアだが、エースがようやく勝利をもぎ取った。イランの勝利は20年ぶり。つぶし合いながら、熱いバトルという点で見ごたえあり。
●同じグループBでも世界の大半が注目しているのはこちらのイベリア半島ダービー、ポルトガルvsスペイン。ヨーロッパ・チャンピオン対元世界チャンピオン。クリスチャーノ・ロナウドをはじめスターたちがずらり。スペインには楽天、じゃない、神戸にやってくるイニエスタが先発。ポイント2倍、メール・マガジン増量級の華麗なテクニックを披露。これが欧州トップのスタンダードだというハイレベルな試合で、互いにオープンな戦いを仕掛けたことから、エキサイティングなゲームになった。クリスチャーノ・ロナウドはハットトリック。3点目のフリーキックは完璧。スペインはエースのジエゴ・コスタが2点、ナチョ・フェルナンデスが1点。ジエゴ・コスタの1点目が圧巻で、前線で1対2の不利な状況ながら強引なドリブルとシュートフェイントで相手を交わして右足で叩き込んだ。怪物。華やかな打ち上げ花火のような3対3。ワールドカップでこれだけ景気のいい試合はめったに見れないが、2強2弱がわかり切っているからこその打ち合いか。アジア勢としては、この予定調和をイランにぶち壊してほしいものである。
モロッコ 0-1 イラン
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★
ポルトガル 3-3 スペイン
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★
June 15, 2018
ロシア対サウジアラビア 華やかな開幕戦は最弱対決 ワールドカップ2018 グループA
●いよいよモスクワのルジニキ・スタジアムでワールドカップ2018が開幕。FIFAランキングで大会参加国中最低であることから史上最弱の開催国とも呼ばれるロシアだが、相手はサウジアラビア。こちらは参加国中下から2番目。つまり最弱対決だ。しかし、そうは言ってもこれはワールドカップ、プーチン大統領やFIFA会長の挨拶ではじまる華やかな開幕戦であり、このお祭り感は格別。
●サウジアラビアは代表監督人事が迷走した結果、昨年から元チリ代表監督のピッツィ監督を招聘。堅守速攻のイメージが強いが、始まってみると細かいパスを交換するポゼッション重視のスタイルに。ロシアはもちろんハイテンションでキックオフ直後から激しいプレッシャーをかける。前半12分、ロシアはコーナーキックの後の流れで左サイドからゴロビンがクロスを入れ、これにがら空きのファーサイドでガジンスキーが頭で合わせて先制ゴール。サウジは足元の技術は高いのだが、こねくり回すようなスタイルがかえってミスを増やし、不用意に相手にチャンスを与えてしまう。もっとシンプルなプレイをしたいところ。
●43分、サウジのやや怠慢な守備から手薄の守備陣を突かれて、チェリシェフが決めてロシアに追加点。サウジはここから精神的な強さを発揮するチームではないことをアジアの戦いでワタシたちは知っている。案の定、集中力を欠いてしまい、後半は大崩れ。後半26分、途中交代で入ったロシアの長身フォワード、ジュバがスローインの流れからクロスに頭で合わせて3点目。アディショナルタイムに入り、後半46分はチェリシェフが左足のアウトにかける技巧的なシュートで4点目、もう笛が鳴る直前の後半49分にゴール前のフリーキックをゴロビンが直接入れて5点目。サウジは次々と余計な失点を喫してしまった。開催国ロシアが5対0で勝つというのは、大会としては理想的なスタートかもしれない。
●しかし、前回大会でも弱さが際立っていたアジア勢が、今回いきなり大敗してしまったわけで、まあ、これはがっかりする。サウジから見ると、大会唯一の「格下」だったのに。ポゼッションは60%で相手を大きく上回った結果の惨敗。ピッツィ監督によるモデルチェンジが間に合っていない。カミソリのような鋭いカウンターアタックを見たかった。
ロシア 5-0 サウジアラビア
娯楽度 ★
伝説度 ★★
(満点は星5つ)
June 14, 2018
いよいよワールドカップ2018ロシア大会開幕へ
●さて、本日深夜にワールドカップ2018ロシア大会が開幕する。ニッポン代表の大会直前の練習試合、スイス戦とパラグアイ戦についてはあまり気にしていない。西野ジャパンはスイス戦に主軸選手、パラグアイ戦に控え選手たちを先発させたと思うが、スイス戦は完敗、パラグアイ戦は快勝。しかし、今のスイスは世界最強クラスの一角、一方パラグアイはワールドカップに出場しないのにわざわざシーズンオフにチームを組んでくれたスパーリングパートナー。当然の結果ともいえるわけで、これで選手の序列が変化するのもおかしな話。ただ、なんであれ、勝てたのはいいこと。
●この試合から中6日でワールドカップのコロンビア戦がやってくる。まだまだトレーニング中にも選手のフィジカル・コンディションは変化するはず。4年前のザッケローニ・ジャパンは絶好調時にはかなりの水準までクォリティが高まったが、肝心のワールドカップに向けて次々とケガ等で主力選手のコンディションが落ちていった。もう個の能力は急に上がりも下がりもしないわけで、今後はコンディションを優先するか、監督の戦術を優先するか(たとえばトップの選手に守備を求めるなら岡崎、ポストプレイを求めるなら大迫といったように)の選択になるのだろう。
●意味不明のままハリルホジッチ監督が解任されてしまい、かつてないほどニッポン代表に期待が持てないワールドカップになってしまったが、サッカーはなにが起きるかわからない。実力通りなら3戦全敗だが、「ランクで決まるなら試合はいらない」(岡田武史の名言)。
●それにしても、昨日スペイン代表監督が解任されてしまったのにはびっくり。 代表チームとの契約を延長したばかりのロペテギ監督が大会後にレアル・マドリッドの監督に就任すると発表し(つまりジダンの後を継ぐ)、これを不快としてサッカー協会が解任。明日からワールドカップなのに後任監督を決めなきゃならなくて、協会のスポーツ・ディレクターのイエロ(懐かしの名選手って感じだ)が新代表監督になった。少しニッポンと状況が似てる。
●本日深夜の開幕戦はロシア対サウジアラビア。開催国なのに前評判はもうひとつのロシアとはいえ、これは勝利を義務付けられた試合といっていい。ロシアの人々がサウジアラビアをどう思っているかは知らないが、ワタシたちはこのチームの気質をかなりよく知っている。地力はあるのだが、内弁慶だ。彼らのお家芸はしばしばアジアで通用しても、世界ではまるで無力だったりする(人のことはいえない)。しかし、できることならサウジにはロシアをイラつかせるような試合を期待したい。徹底した堅守から切れ味鋭いカウンターアタックでサウジが先制し、以降、露骨な時間稼ぎで相手の冷静さを失わせて、ロシアにも「アジアの戦い」テイストを少しでも味わってもらえたら。そう願っている。