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zombie: 2020年1月アーカイブ

January 29, 2020

ゾンビとわたし その40:「ショパンゾンビ・コンテスタント」(町屋良平著/新潮社)

●書名からして、自分が読まずしてだれが読むのかという一冊、「ショパンゾンビ・コンテスタント」(町屋良平著/新潮社)。だって、ショパンでゾンビでなんすよ! 同じ著者の芥川賞受賞作「1R1分34秒」を以前に読んで、とても好印象を持っていたのでなおさら。
●主人公は音大のピアノ科に入学したものの、すぐに辞めてしまい、ファミレスでバイトをしながら小説を書く若い男。しかし小説も書きあぐね、友人の彼女に片思いをしたまま、煮え切らない日々を送る。時間はたっぷりとあるが、まだ何者でもない若者の不透明な日常が切り取られている。で、登場人物がYouTubeでなんども2015年のショパン・コンクールを見ているのだが(ケイト・リュウやエリック・ルーを見てる)、音楽面の描写に関しては「蜜蜂と遠雷」よりもよほど説得力があり、情景が伝わってくる。しかし焦点はそこに当たっていない。
●で、大事なことを言っておくと、ゾンビは出てこない(えっ!)。出てきません。比喩的な表現としてはともかく。なので老婆心から書いておくと、書名からゾンビ版「蜜蜂と遠雷」みたいなものを期待してはいけない。まさにそこにワタシの勘違いがあったわけで、書名から想像していたのは、たとえば、こんな話だ。
●ワルシャワの聖十字架教会をひそかにポーランドのマッドサイエンティストが訪れる。ここに眠るショパンの心臓からDNAを採取し、ショパンその人のクローンを生み出そうとする。ショパンの音楽を正しく演奏するにはショパンの肉体が必要。オーセンティックな演奏解釈について急進的な思想を持つマッドサイエンティストは、現代にショパンをよみがえらせようとしていたのだ。だが、心臓から肉体を再構築されたショパンはいったんは生命を宿したように見えたものの、再構築時の変成によりゾンビとなって生まれ変わっていた。ガブッ! 噛みつくショパンゾンビ。次々と人を襲いながらショパンゾンビが向かったのはワルシャワ・フィルハーモニー。今まさに開催中のショパン・コンクール本選にショパンゾンビが現われた。あっ、ショパンだ。舞台上で驚愕するコンテスタント。「握手してください」と手を差し出したところ、ショパンゾンビは容赦なくガブリ。そして生前の記憶を留めるショパンゾンビは鍵盤に向かい、やさしいタッチで演奏を始める。これが本当のショパンの音楽だ。一同、演奏に聴きほれるが、ショパンゾンビは納得しない。なんだこのキンキンした音を出す楽器は? エラールはどこだ。プレイエルはないのか。怒り心頭のショパンゾンビは客席に向かう。ガブッ! ガブッ! もはや入れ食い状態、阿鼻叫喚のフィルハーモニー。そして、ワルシャワ発のゾンビ禍は世界へ……。
●と、そんな妄想を爆発させていた自分はどう考えてもまちがっているのであって、このような純度の高い青春小説に対して、まったく申しわけないことである。

>> 不定期連載「ゾンビと私


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