●(承前)しつこく、ガルシア=マルケスの「百年の孤独」(新潮文庫)について。ゆっくりと再読を進めていたが、さすがにもう読み終えた。よく言われることだが、この小説は同じような名前の登場人物がなんども出てきて混乱しやすい。一族で名前を引き継いでいくので、どうしてもそうなる。そこで役に立つのが「百年の孤独」読み解き支援キット(池澤夏樹監修)。ウェブページで見てもいいが、PDF版がダウンロードできるので、そちらのほうが高密度で便利かもしれない。家系図とともに、だれがどうしたという一族の歴史が順を追って記されている。これは最後まで読んでしまうと結末を知ってしまうので、読んだところまでを確認用に目を通すのが吉。自分は再読なのに、わざわざ先を読まないように気を付けた。
●マコンドの町を作り出したブエンディア一族の祖は、ホセ・アルカディオ・ブエンディア。その息子にはホセ・アルカディオとアウレリャノ(大佐)がいる。一族の男子はおおむねホセ・アルカディオかアウレリャノの名前を受け継いでいる。半分近くまで来たところで、一族の祖ホセ・アルカディオの妻ウルスラはこう考える。
長い一家の歴史で似たような名前が執拗にくりかえされてきたという事実から、彼女はこれだけは確実だと思われる結論を得ていたのだ。アウレリャノを名のる者は内向的だが頭がいい。一方、ホセ・アルカディオを名のる者は衝動的で度胸はいいが、悲劇の影がつきまとう。どちらとも言えないのは、ホセ・アルカディオ・セグンドとアウレリャノ・セグンドのふたりの場合に限られていた。
このふたりは双子の兄弟で、子どもの頃はそっくりで見分けがつかなかった。ときどき、お互いが入れ替わって周囲の人間をだましたりした。しかし時が経ち、成長するとそれぞれはまったく違った男になった。アウレリャノ・セグンドが祖父ホセ・アルカディオに似た巨漢になり、ホセ・アルカディオ・セグンドはアウレリャノ(大佐)にそっくりのやせすぎな男に成長した。この名前と風貌の交錯を見て、ウルスラは双子が子どもの頃に入れ替わっているうちに、どこかでまちがいを犯して、入れ替わったまま大人になったのではないかと疑う。
●双子の兄弟はまったく別の人生を歩んだ後、同じ日の同じ時刻に世を去る。遺体は瓜二つで、棺桶を埋める際にどちらがどちらかわからなくなってしまい、まちがった穴に埋められることになる。ウルスラが疑ったように、ふたりは子ども時代のどこかで入れ替わっていたにちがいない。
●それで思い出したのだが、ワタシの知人の双子の兄弟も、子どもの頃に入れ替わって大人をだまして遊んでいたと言っていた。これは双子にとって定番の遊びなのだろう。実際に、入れ替わったまま大人になってしまった双子がいるのかもしれない……。(つづく)