グループリーグ(1)
グループリーグ(2)
グループリーグ(3)
決勝トーナメント

ドイツ 1 - 0 パラグアイ
やっぱりドイツはドイツだった。チラベルト、ゴールならず。
満足度

伝説度
●決勝トーナメント1回戦、初戦。ドイツはここまで危なげない戦い。一方、パラグアイは伝説的な逆転勝利で勝ちあがってきた。キーパーのチラベルト、センターバックのガマラとアジャラ、中盤のアクーニャ。4年前の主力選手が残っている。これにバイエルン・ミュンヘン所属のサンタクルス(なんとまだ20歳)が前線で高さと巧さを武器に勝負するわけだが、前半の早いうちにアクシデントでサンタクルスがピッチを去る。これが痛かった。
●ドイツは慎重に戦い(センターバックを二人も交代するかね)、パラグアイはカウンターを狙う。まるで決勝戦のようにじりじりとした膠着状態が続き、決定的チャンスは訪れない。こうなるとドイツが用意した筋書き通りの試合になる。後半43分、右サイドを突破したシュナイダーからのクロスをヌヴィルが豪快に蹴り込んでゴール。もちろんドイツはこの1点でゲームを終わらせた。
●パラグアイの(主に自陣での)勇気あるパス回しは楽しかったが、あまりにも消極的なゲームだった。チラベルトのゴール前でのフリーキックは、カーンとの「GK直接対決」でそれなりに盛り上がったとはいえ、4年分、古くなった出し物を見せられたような気も。閑古鳥の鳴くソギポのスタジアム(→PHOTO)には、例によって子供たちが大量動員されたようで、ときどきゲームと無関係に甲高い喚声があがっていた(→ウェーブという説。なるほど)。たまにそれを打ち消そうとドイツ人サポーターたちが「ドイッチュラント!」コールを繰り返すのがまた寂しい。(6/15)

デンマーク 0 - 3 イングランド
予想外のイングランド完勝。
満足度
★★
伝説度
●決勝トーナメント1回戦、デンマークは前王者フランスを葬ってA組1位、イングランドは「死のグループ」F組をうまく2位で勝ち抜けた。イングランドは伝統国だが、ここまでの戦いを見ているとややデンマーク有利という印象。攻撃陣が好調、しかも休養日が一日多い。
●しかしあっけなく勝敗は決まった。前半5分、ラウルセンが頭でボールをキーパーに渡そうとしてこれをミス、不用意にコーナーキックを与える。ベッカムのキックに合わせたのはファーディナント。GKソーレンセンの拙いプレイもあって、あっさりとイングランドが先制。さらに22分にはゴール前でこぼれたボールをオーウェンがシュート。この段階で2点差がついてしまってはしょうがない。前半終了直前にもヘスキーのゴールで0-3。
●おかげで、その後はデンマークの攻撃とイングランドの守備をたっぷり観ることができた。デンマークの攻撃はスピードと技術があって、見ていてとても楽しい。なんどか決定機があったが、イングランドもディフェンスが強く無得点。本来、かなり難しくなると予測された試合に簡単に勝ち、エリクソン監督はご満悦。次は強敵ブラジル、またはベルギーだが、休養日をたっぷり取ることができる。
●グループリーグの組合せは厳しかったが、こうなってくるとイングランドはなかなか有利である。初戦から決勝まで、ずっと日本国内でプレイできる。しかも日本ではイングランドからやってきた自国のサポーターに加え、イングランド・ファンの日本人も熱烈な声援を送ってくれる(いや声援どころじゃない。ゴッド・セイヴ・ザ・クィーンも歌ってくれる)。でも次にブラジルと対戦することになっても、スタジアムはセントジョージ旗だらけになるのか? ううむ、これはわからない。サッカーの世界じゃ、日本は昔からブラジルとはお友達。日本は(自国以外では)ブラジルを熱心に応援するものだったが、今大会ではそうならないかもしれない。 (6/16)

スウェーデン 1 - 2 セネガル
104分の死闘。大会屈指の名勝負。
満足度
★★★★★
伝説度
★★★
●これは凄かった。現在のところ、今大会もっともスリリングな好試合。延長戦となったが、密度が濃く、4年後にも再びじっくりと観なおしたくなるような激闘だった。
●とにかくセネガルのディウフの個人技がすばらしい。ボールをいったん持てば、相手ディフェンダー二人は必ず突破できるというくらいの技術で、もしセネガルが決勝まで勝ち進めば今大会の伝説として語り継がれるべき。昔のロナウドを思い出させる。
●前半序盤はスウェーデンがゲームを支配。セネガルはディウフ、チャウ、アンリ・カマラの3人のフォワードを前線に残す3トップ。11分、スウェーデンはコーナーキックからニアでラーションが難しいヘディングを決めて先制。その後はセネガルがディウフ、アンリ・カマラの個人技で攻め、スウェーデンが守る展開に。37分、アンリ・カマラがテクニックで相手ディフェンスをかわしてミドルシュートを決めて同点。
●後半の途中からは蒸し暑さとの戦いになった。選手間の距離が大きく開き、どちらもボールを持てばゴール前まで攻め込むという、決勝トーナメントならではの戦い。どちらにも決定機はあったのだが、特にスウェーデンの37分のチャンスが惜しかった。右サイドを深く突破したイブラヒモヴィッチが、中央にラーションがあがってきているにもかかわらず浅い角度から強引にシュート、キーパーのシルバに弾かれてしまう。「近年、ペナルティエリア内でのマイナス方向のパスは見られなくなってしまった。みんなゴールを狙い、スカウトたちにアピールしようとしてしまう」と嘆いていたのは、ジャック・ティベールだったか。
●延長前半5分にもスウェーデンにスーパープレイがあった。ゴール前でラーションがクロスボールをアンドレアス・スヴェンションに流し、これをなんと、スヴェンションはディフェンダーをかわしながらくるりとターンをしてシュート、ポストを叩いた。こんなプレイをペナルティエリア内で、しかもこんな状況でできてしまうとは。これがゴールデン・ゴールとなれば伝説になった。
●ディウフには延長に入ってもまだドリブル突破を仕掛けるだけのスタミナが残っていた。延長7分にも股抜きからシュート、しかしこれははずれる。決着をつけたのは再びアンリ・カマラのミドルシュート。1点目のリプレイを見るかのようなゴールで勝負は決した。スウェーデンの選手たちはその場で倒れて動けない。
●アメリカ大会決勝のようにあまりに暑いがゆえに試合が消極的になってしまうのはつまらないが、この試合は互いに攻撃的なメンタリティを持っていたおかげで、観るほうにはとてもおもしろい試合になった。セネガルは次の試合で日本とトルコの勝者と戦う。これに勝てばアフリカ勢初のベスト4である。どこが勝ち抜けるにしても、このブロックからはフレッシュな四強が誕生することになった。 (6/16)

スペイン 1 (3) - 1 (2) アイルランド
永遠の優勝候補vs信念の力。決着はPK戦に。
満足度
★★★★
伝説度
★★
●いやあ、ホントにすごい、アイルランド魂っていうのは。彼らは諦めることを知らない。そして、試合の間、失敗してもなんどでも同じ形で攻めて、そしておかしなことに試合の流れもだいたい同じになる。つまり、こう。
●試合が始まる。→アイルランドはシンプルな攻めでサイドからクロスをあげ、ボールがこぼれたらミドルシュートを打つ。→でも、相手のレベルの高さに圧倒され前半に失点する。→後半に入ると魂でプレイして盛り返す。→クィンが途中交代で出てきて前線でポストに入る。→ロビー・キーンが奇跡の同点ゴールを決める。多少の違いはあっても、基本的にこんな感じになる。今日もそうなった(笑)。
●一方、スペインは王道を行くチーム。「永遠の優勝候補」などともいわれてしまうが、まちがいなくプレイの質は高い。この日もモリエンテスが先制した段階では難しい試合になるとは思えなかったのだが、相手に2度もPKのチャンスを与えてしまっては苦しい(一度防いだだけでも立派)。1点を守るためにモリエンテスを下げアルベルダを入れた後で追いつかれ、ラウールは負傷でルケと交代、そして延長戦に入ってアルベルダも負傷、しかしこの時点で交代枠をすべて使い切っており、ゴールデン・ゴール方式の30分間を10人で戦ったという不運。ジーコによれば「監督のミス」と手厳しいのだが。
●お互いに最初から積極的に戦ったため、延長戦での疲労度はかなり高かった。アイルランドには数的優位があったが、それでも延長後半からは動けない。スペインがなんとか持ちこたえ、大会初のPK戦となった。
●試合中のPK戦に比べると、延長戦後のPK戦というのは外す率が高いものである。アイルランドは3人連続PK失敗。大挙して押し寄せてきた陽気なサポーターたちのおかげもあって、アイルランドは今大会好感度ナンバーワンのチームだった。そのチームがここで大会を去るのは残念といえば残念だが、十分に満足できる成果を得たのではないか。スペインのベスト8にはだれもなんの疑問も持たないだろう。 (6/17)

ブラジル 2 - 0 ベルギー
無失点だがあえて言う。このブラジルはディフェンスが弱い。
満足度
★★★★
伝説度
★★
●決勝トーナメントに入って、ブラジルが韓国から日本へやってきた。歓迎なり、カナリア軍団。対するは、日本が初戦を戦ったベルギー。
●2002仕様のブラジルは結果だけ見ると、ここまで大会前の予想に反して好調である。ロナウドを軸に、リバウド、ロナウジーニョの3Rが自在に攻める。左サイドからはロベルト・カルロス、右サイドからはカフー。さらにミッドフィールダーとしてジュニーニョ・パウリスタまで共存させる。華やかだ。そして驚くべきことにフェリペ監督は3バックを採用している。
●この日、グループリーグのトルコ戦に続いてブラジルに幸運が訪れた。真正面から勇敢な戦いを挑んできたベルギーが、前半35分、右サイドのからのクロスボールにヴィルモッツが頭であわせてゴール!……が、これに主審はヴィルモッツがディフェンダーを押したと判定、得点を認めない。しかしこれは認められていてもおかしくなかった。
●テクニックもスピードも比較にならないほどブラジルのほうが高いのだが、試合内容はといえば五分五分。ベルギーの組織的な守備、あたりの強さは簡単にゴールを許してくれないし、一方でブラジルのプレッシャーは甘く、ベルギーがシンプルな攻撃でチャンスを得ることもしばしば。
●後半になって、ようやくブラジルらしい攻撃が見られた。2つのゴールはいずれも息を呑むほどの美しさ。一つはリバウドの個人技。胸でトラップして、足でチョンと浮かしながらターンして、ワンバウンドしたところを左足で強烈にゴールへ蹴り込む。凄すぎる。2点目はカウンターアタック。右サイドを猛スピードで駆け上がったクレベルソンが右足インにかけて低いクロスを入れると、ボールは相手ディフェンダーとキーパーの間を抜けて、ファーに走りこんだロナウドへ。これをキーパーの股間を抜いてシュート。ああ、カッコよすぎる、ブラジル、そしてロナウド。
●そんなわけで結果に不満はないが、むしろベルギー程の攻撃力があればブラジルから得点を奪うのはそう難しくないという印象が残った。センターバックが4年前同様いまひとつ、それに両サイドのあがった後の背後のスペースにカウンターアタック喰らい放題の予感。いま残っているチームならどこだってブラジルに勝つチャンスはあるんじゃないか。ここまで超人的なアタッカーの能力によって勝ち進んできたが、近年の大会に守備に脆さを感じさせる優勝国はない(逆にストライカー不足でも優勝できたのが4年前の王者)。本来ブラジルのワールドカップ優勝は奇跡でもなんでもないが、このブラジル2002が優勝したらそれは「伝説」になると思う。 (6/18)

日本 0 - 1 トルコ
もう「トルシエ意味不明」なんていってもしょうがない。
満足度
★★★
伝説度
●これがトルシエ・ジャパンの最後の試合となった。決勝トーナメント1回戦。先発メンバーを大胆に入れ替えてきた。GK:楢崎−DF:中田コ、宮本、松田−ML:アレックス、MR:明神−MC:稲本、戸田−AMC:小野、ナカタ−FW:西澤。アレックスと小野を同時に使う代わりにワントップ。西澤はこれが今大会初出場。
●なかなか日本戦だと冷静に見られなくて、案外ディテールは忘れてしまう。これもビデオで見直せば違った印象を受けると思うが、この唐突な新布陣、ある面ではよかったと思う。前半に主に左サイドで見せた、小野、アレックス、ナカタが絡んだ攻撃の形はスペクタクルで、グループリーグではありえなかったようなスタイル。ワタシなんかがニッポンの本来の姿と感じるのはこちらのほうだ。小野のスルーパスやアレックスのドリブル突破。やっぱり小野はこの形で使うと生きるなあ。
●とはいえこの形、問題がないわけではない。アレックスは意気込みが強すぎるのか、ややプレイが独り善がり。ワントップの西澤にはなかなかボールが落ち着かない(戦犯扱いを受けそうだ。ただし一度いい突破があったし、ポストプレイにしても西澤としてはこれだけできればよくやったといえるのでは)。守備面では一瞬の集中力を欠いた。不用意に与えたコーナー・キックというのは失点につながりやすいってのは別の試合でも書いたが、この日もそう。思いっきりゴール前でフリーだったウミト・ダバラのヘディングで、トルコが先制。
●後半開始からの選手交代。個人的には今大会はじめてニッポン代表に失望を感じたのがこのとき。アレックスと稲本を下げ、市川と鈴木が入る。ということは再び小野はサイドで窮屈そうにプレイをすることになる。そして、西澤と鈴木のツートップという組合せはどうか。心配した通り、ふたりともそろって自陣を向いてのプレーに終始し、反転してシュートを打つ気配がない。
●トルコが守備的になったこともあって、ニッポンは攻めたが、あと一歩でゴールが奪えなかった。そもそも選手の所属クラブなどを見ればトルコに勝つのは難しいことは当然なのだが、この日のトルコが決してよくなかったことを考えれば(いや巧いんだけど)、いまひとつ負けたという気がしない。
●もしかしたら、全然勘違いしてるかもしれないんだが、前半のニッポンはなんども相手ディフェンスを崩していた。勝点を奪うために慎重にロングボールを放り込んだベルギー戦のニッポンよりも、このニッポンのほうが好きだ。でもこれでは勝てないのかもしれない。しかしパス1本か2本でゴールへの最短距離を目指すというダイレクト・フットボールに憧れを感じるのは難しい。後半のニッポンは攻めてはいたが魅力を感じなかったし、ツートップのタイプが重なっていることがどうにも苛立たしい。ここまで確かに結果が伴ってきたけど、やっぱり小野が自陣深くのライン際で守備をしているのは、なにかがまちがっているんじゃないだろうか。
●ベストエイトを狙う千載一遇のチャンスを逃したのは悔しいが、でも16強という結果は残った。この大会は、オフト就任以来の(またはドーハ以来の)歴史的な蓄積の過程にあるものに違いなく、おそらくこの次の段階で、また違った代表の姿が見られるはずである。結果が出た後だからこそ持つことができる疑問というのがある。たとえば勝点を確保するのに効率的であったとしても、ニッポンは後方からロングボールを蹴り込んだりするのがいいのかどうか。ベルギーは強くて闘志溢れる立派なチームだが、あれが自分たちの代表チームだったら嬉しいか。ゴールへの最短距離を目指すサッカーを観たいのか。カウンターアタックを喰らってしまうことがそんなにいけないのか。アレックスのような選手は90分出場しつづけてはいけないのか。可能性の低いワンツーでの中央突破を試みてはいけないのか。今のニッポンはファウルの数が異様に多すぎないか。 (6/19)

韓国 2 - 1 イタリア
歴史的勝利を汚した男。
トッティに
★★★★★
伝説度
★★★★
●審判が問題にされるのはサッカーの一部であり、日常茶飯事なのだが、ワールドカップやヨーロッパ選手権などの重要な国際試合において、ここまで酷いレフェリングを見た記憶がない(sportsspaceでは採点不能とされた)。主役となったのはエクアドル人のモレノ氏。決勝トーナメントに開催国が出場するという、きわめて重要な試合にもかかわらず、なぜこのようなキャリアの乏しい人が選ばれてしまったのか。試合内容そのものは熱かっただけに、本当に悔やまれる。
●当然、イタリア側は納得できない。イタリアRAIのコメンテーター、ブルーノ・ピズルは「率直に言って、強盗にあったようなもの」と語り、ディ・リーヴィオは「スキャンダルだ」と非難し、トラッパトーニ監督は「この日、フットボールはなにかを失った」とコメントした(まったく同感だ)。おそらく韓国のサポーターも、せっかくの歴史的な試合にあのような審判がかかわってしまったことで、勝利を素直に喜べなくなってしまったのではないか。イタリア同様、韓国の選手たちも犠牲者である。
●最初からモレノ氏はおかしかったが、なによりも酷いのはトッティにシミュレーションで2枚目のイエローカードを出したこと。あれがシミュレーション? どうかしている。PKをプレゼントする必要はないが、2枚目のイエローなど論外。トンマージの疑惑のオフサイドは、ラインズマンが旗を上げていたのでモレノ氏一人の問題ではない。
●試合内容そのものは悪くなかった。異様な雰囲気のサポーター(これはどのサッカー伝統国にもないユニークなものだろう)に後押しされた韓国が、極めて積極的で激しいサッカーを挑み、対するイタリアも極端なアウェイ状態にも決して怯まないという覚悟で正面からぶつかりあった。この日の韓国代表はこれまでに見たどの韓国代表よりも強かった。フィジカル重視だった韓国のスタイルに近年変化を感じていたのだが、この試合ではむしろ彼らの伝統的スタイルに立ち返ったように見えた。気迫では決して負けないという強靭な精神力と激しいタックル、世界のどのサッカーでも見たことがないような人間離れしたスタミナ。延長に入ってもまったく運動量が衰えないサッカーなど見たことがない。技術的な面も含めれば、このなかではソル・ギヒョンとパク・チソンに可能性を感じる。アン・ジョンファンはこの試合ではヒーローになったが、ソルやパクほどではないだろう。
●この日、一番好印象を残したのはトッティ。怒りに震えながらも、絶対にこの逆境には屈しないのだという意思の力によって、いくつかスーパープレイを見せてくれた。シュートまではいけなかったが、疲労困憊しながらも相手が4人いようが5人いようが一人で突破しようとしたシーンは圧巻。それから、自陣でボールを持ったときに見せた韓国選手を挑発するポーズ。不利な状況に苦しむ味方を鼓舞するがごとく、「さあ、とれるものならこのボールをとってみよ。何人でも来るがよい」というメッセージを発した(とワタシは解した)。まさに王者。この瞬間を、ワタシはイタリア代表におけるトッティの戴冠式であると感じた。
●そしてモレーノ氏は偉大なる王を謀殺した。トッティは審判についてこう語っていた。「試合前に主審に挨拶に行っても、彼はイタリアの3、4人の選手と話そうともしなかった。最初からイタリアに敵意を持ってたんだ。そして試合が始まると、わずか5分で相手にPKが与えられたんだ。僕の退場もバカバカしかった。変な顔をして近付いてきて、PKを与えようとしていたが、5、6歩歩いた後で考えを変えたようだ。僕が1枚カードを受けていたことを思い出したんだね」。 (6/20)

イングランド 1 - 2 ブラジル
結果ハッピー、試合まずまず、運営にブー。準々決勝。
満足度
★★★
伝説度(ロナウジーニョに)
★★★★
●なんと、この試合、生で観戦できたのだ。番狂わせの多いこの大会で、こんな伝統国同士の対戦を観ることができようとは。苦難のチケット争奪戦の最大の成果と思ったのだが、一場面を除いてスペクタクルには乏しく、得点が入った割には守備的なゲームとなった。
●懸案の(?)スタジアム内サポーター率では、日本人と外国人ともにイングランドが勝利。ブラジルの応援がイングランドにかき消されてしまうとは……。イングランドは参加しやすくてインパクトのあるスタイルがいいっすね。
●さて試合のほうは、イングランドはいつもの4−4−2、中盤にベッカム、スコールズ、それにシンクレアとバットを起用。アタッカーはオーウェン、ヘスキー。基本的にセンターバックとキーパーがアーセナル、中盤のベースがマンチェスター・ユナイテッド、アタッカーがリヴァプールという構成。ブラジルはディフェンスにルシオ、ロキ・ジュニオール、エジミウソン、左右はいつものロベルト・カルロスとカフー、中央にジウベルト・シウバとクレベルソンの国内組。攻撃は左にリヴァウド、右にロナウジーニョ、トップにロナウド。前のベルギー戦でも書いたように、ブラジルの弱点は守備。強さでも組織力でも不安大。
●前半23分、さっそくその不安が的中。序盤から押していたブラジルだが、スルーパスに対してルシオが処理を誤り、オーウェンにゴールをプレゼントしてしまう。こうなると大変である。やたらとベッカムに注目が集まるイングランドだが、このチームの強さはなんといっても堅守。とくにセンターバックの二人は強力。さすがのブラジルも横パスばかりが目立ち、なかなか前線へボールを運べない。一対一の勝負でもイングランドが優勢。イングランドは攻撃はヘスキー、オーウェンに任せて、リスクを冒さない。
●ここでブラジルが見せた解決策は、ベルギー戦と同様の「奥の手」。つまり、個人のスーパープレイ。前半終了直前、中盤でボールを奪ったロナウジーニョが単独で中央突破、ディフェンスを4人、5人とひきつけながら、「こりゃ持ちすぎだろう」と思った瞬間、右で待ち構えたリヴァウドにパス、リヴァウドは左足で対角線上のゴール隅にきっちりと決めた(このシュートもかなり難易度高いが)。ロナウジーニョの美技。それまで静かだったブラジル人たちが騒ぎ出す。
●後半5分、再びロナウジーニョのスーパープレイ。ゴールから約30メートル離れた右サイドからのフリーキック。ロベルト・カルロスはキッカーに立たない。当然、エリア内の密集地域へのクロスボールが予測される場面である。イングランドのGKシーマンもこれを予測し、やや前に出ている。なんと、ロナウジーニョはこれを直接ゴールの左上隅を狙って蹴った。意表を突かれたシーマンは、一歩前に出た後で慌てて飛び上がるが、万歳するキーパーを嘲笑うかのごとくボールはその手の上を越えてネットに収まった。テレビのインタヴューによると、ロナウジーニョはカフーからキーパーの位置を確かめろとアドバイスされていたそうである。やっぱり本当に狙って蹴ったんだ、あんなのを。ロナウジーニョの超絶技巧でブラジルが逆転。
●しかし後半12分、いきなりゲームはつまらなくなってしまう。この日のヒーロー、ロナウジーニョが悪質なタックルで一発レッド、退場。スタジアムではリプレイは出ない(場内が荒れるので)。あまりに唐突で皆唖然。これでブラジルは苦しくなった。守るしかない。そして時間稼ぎをしなければ。少々チャンスがあってもゴールなど絶対に狙わない。
●ただし、守るだけといってもそこはブラジル。凡庸なチームにはできないことをやる。ゴール前に張り付いたりはしないのだ(たぶんそんなことをしたらこの守備陣ではかえって失点してしまう)。どうするかというと、ひたすらパスをつないでボールを保持しつづける。人数が一人少なくて、相手はイングランドなのに、こんなことをできてしまうのはブラジルだけだろう。
●エリクソン監督も選手交代で手を打ったが、イングランドにはいまひとつ自力でチャンスを創造する力がない。相手のミスがないとなかなか得点機が生まれないのだ。ブラジルは途中からロナウドに代わってエジウソン(元柏レイソル)が登場。この人、昔「代表に入りたいから」と言ってレイソルからブラジルに帰国しちゃったんだけど、まさか本当に代表入りするとはなあ。当時は「そんなのムリ、絶対」と思ったんだけど、堂々たるワールドカップ・メンバー。でも今こうして目の前で見ていても、セレソンとは認めがたい程度の巧さなんだけど(笑)。
●ブラジルは上手に時間を使い切った。イングランドとしては数的有利を生かせず、悔いの残る試合だったと思う。
●ちなみにこの日、試合以外で記憶に残ったことを2つ。1、日本人イングランド・サポーターの多くは20歳前後の若者である。なるほど。2、静岡の運営はいまひとつ。スタジアムへのアクセスが不便で、会場を出てからシャトルバスに乗るまでに1時間半、山の中のなにもない場所であるにもかかわらず舗装された一本道が狭い。それと、試合終了後、スタジアムのそばに広い芝生がある。ここでみんな寝転んだりしてて、当然のごとくボールを蹴って遊ぶ人たちも出てくるわけだ。イングランド人対日本人でミニ国際交流がはじまった。これを、なんと、警官が飛んできて制止するわけですよ! もう信じられない光景。これ、ワールドカップっすよ。どうしてサッカーボールを蹴る人にそんな威圧的な態度をとれるのか。あちこちに「人が集まって騒ぐとろくなことにならないから排除しよう」っていう論理が垣間見えて、すごーく感じ悪かったのだ。ボランティアのみなさんがフレンドリーだったのが救い。 (6/22)

スペイン 0 (3) - 0 (5) 韓国
またしても起きた悲劇。
満足度

伝説度

●韓国vsイタリア戦に続いて、またも誤審が試合を決定付けてしまった。あの試合があった後だけに、今日は頼むから事件が起きてくれないでくれ、本来のサッカーの試合をしてくれと願っていたのだが、まさかこのようなことが再び起きてしまうとは。エジプト人の主審、トリニダード・ドバゴ人およびウガンダ人の線審だが、特に問題なのは線審である。
●後半3分、スペインのフリーキックからバラハ(?)が頭で合わせてゴール。まず、これがファールにより取り消された。ゴール前の熾烈なポジション取りのなかでのことなので、厳密に見ればファールもあったかもしれない。しかし今のサッカーでこれをファールとする判定基準があるかどうか。それでもこれはサッカーの試合によくある判定基準の揺れとも考えられるので、これだけなら大きな問題にはならなかったと思う。
●延長に入ってから、スペインはオフサイドにより一度決定機を取り消された。リプレイではオンサイドに見える。まるでイタリア戦のトンマージのように。だが本当に決定的だったのは右サイドからのホアキンのクロスボール。ドリブルで突破して、クロスを挙げ、ヘディングゴールが決まったが、副審が旗を上げた。ボールがラインを割っていたという判定なのだが、これは明らかに割っていない。しかも副審は同サイドのベストのポジションからこれを見ていたのだ。いくら審判もミスをするとはいえ、これは考えられないような誤審である。ここまで一方的にスペインに不運が続いていいものか。
●試合後のカマーチョ監督の談話。「スペインでこういう試合が行われたら、スキャンダルになるだろう。もっと平等な判定になると思っていたけど、こういう結果になってしまった」。この試合中継とは別の番組だが、日本の放送でもストイコヴィチがなんともいえない悲痛な表情で判定の拙さを指摘していた。審判が問題になるのはワールドカップではいつものことだが、今回は問題の種類が違う。アジア初のベスト4という、本来なら喜ぶべき快挙となる勝利に対して、このような不幸な事件が起こってしまうとは。欧州には「恥ずべき大会」とまで指摘するメディアもある。この2002年大会は本当にあのワールドカップだったのか。暗澹たる気分である。 (6/23)

セネガル 0 - 1 トルコ
開放的で攻撃的な試合。アフリカ勢初のベスト4ならず。
満足度
★★★★
伝説度

●日本を破ったトルコと、開幕戦でフランスを破ったセネガル。どちらが勝っても初のベスト4。ディウフ、アンリ・カマラといったきわめて強力なアタッカーを擁するセネガルに対し、どこまでトルコが守りきれるのか……と思っていたが、意外な展開になった。
●両者とも今大会ですでに十分な成果を手にしているだけに、慎重にならず、攻撃的に戦ったのだが、90分+延長戦の間、終始ゲームを支配していたのはトルコ。日本戦と異なり中盤でのプレスをほとんど受けなかったため、ワイドな展開から細かいパス交換まで、自由自在にチャンスを作り出していた。逆にセネガルはディウフのドリブルも見られず、攻撃に鋭さを欠く。スウェーデン戦とは別のチームのように見える。
●主にハカン・シュキルの決定力のなさのために試合は延長戦までもつれ込んでしまったが、トルコの勝利は妥当なもの。延長前半4分、ウミト・ダバラの右サイドからのクロスボールを途中出場のイルハンがハーフボレーで決めてゴールデンゴール。最後に難易度の高いゴールが決まってくれた。1点を獲るまでに時間がかかりすぎたが、プレイの質は非常に高く、好試合になった。ちなみにトルコのバシュトゥルクが顔もプレイスタイルも日本の森島にそっくりなのは有名だが、この日のゴールデンゴールを決めたイルハンも、顔とプレイがベガルタ仙台の山田隆裕(の若い頃)にそっくりである。トルコには妙に親しみが持ててしまう。(6/23)

ドイツ 1 - 0 韓国
安堵、しかし遅すぎた。
満足度

伝説度

●この日、世界中のサッカー・ファンは試合以上に審判に注目していたのではないか。ようやく欧州の審判が笛を吹いてくれた。「事件」は起きなかった。安堵したが、これは準決勝だ。ここまで続いてきた「事件」によって、この大会は悲しむべきワールドカップになっている。これを救うものがあるとすれば、それはサッカーのプレイそのものが起こしてくれる「伝説」しかない。もちろん、この試合にそんなものを期待する余裕はない。
●韓国はアン・ジョンファン、ソル・ギヒョンが途中出場。疲労度が高かったのだろう。かつて父親がブンデスリーガで活躍したチャ・ドゥリが先発。ドイツのほうはクローゼ、ヌヴィルの2トップ。
●試合は到底ワールドカップの準決勝とは思えないほど紳士的で穏やかなものだった。とにかくドイツにファウルが少ない。親善試合、それどころか紅白戦でももっと激しく当たるんじゃないか。ドイツはゲームを支配していたが、無理をせずに慎重に戦い、後半30分にヌヴィルのクロスボールをフリーでバラックがシュート。いったんキーパーに弾かれるがこれを再び蹴り込んでゴール。この1点を守った。韓国にも1、2度チャンスはあったのだが、守護神カーンが得点を許さなかった。さすがに韓国の選手にも疲労が窺えた。
●低調な試合だったが、審判は適度にホーム寄りの笛を吹き、一切の疑念が生じない完璧なジャッジを行なった。この笛が、あの試合でも吹かれていたら……。明日、ロナウドかリヴァウドが伝説的なプレイを見せてくれないものか。決勝トーナメントが寂しすぎる。 (6/26)

ブラジル 1 - 0 トルコ
これで決勝戦に期待できる。残された最後の希望へ。

満足度
★★★★
伝説度
★★★
●前の試合でレッドカードをもらったロナウジーニョに代えて、ブラジルはエジウソンを先発させてきた。一方のトルコは不調のハカン・シュキルをがまんして使う。セネガル戦のヒーロー、イルハンは途中からの出場。
●一次リーグでも同じ対戦があったが、そのときはトルコに不運な判定もあって、ブラジルが勝利している。審判が違えば結果が違っていた試合であり、トルコから見ればブラジルを恐れる理由はない。さらにここまでで十分な成績を収めており、ドイツのように慎重に戦う理由もない。したがって、互いに攻撃的なオープンな試合になってくれた。
●前半は時間帯によってはトルコが押す展開も見られたのだが、90分を振り返ってみれば、ブラジルが次から次へと華麗な攻撃を見せてくれた試合だった。実力的にはトルコにも十分勝機はあった。しかし、ブラジルはここまでの試合と同様、またまた「超人的な個人プレイ」ですべてを解決してくれた。唯一の得点となったロナウドのゴールは、イングランド戦でのロナウジーニョのアシストと同様、この大会のハイライトとなるべきシーンである。後半4分にジウベルト・シウバからのパスを受けた、ロナウドが左からディフェンス4人をひきつけながらドリブル、最後に爪先でのキックでファーサイドの隅に蹴り込んだ。
●4年前、ロナウドは「伝説」となるべきプレーヤーだった。4年前の当欄でも記したように、惜しくも伝説を生み出せず、決勝では謎の体調不良を起こしてしまった。その後、ロナウドは怪我との戦いが長く、この大会に入る前の時点では「ほとんどプレーしていないもっとも有名なフットボール選手」になりかけていた。ところが、現在得点王争いの単独トップに立っている。新ロナウドはプレイ・スタイルもかつてのロナウドと異なる。以前は人間離れした加速度とボディバランスでディフェンダーを抜き去っていく怪物だったが、今は完成されたストライカーという印象。もう「伝説」の候補とはいいがたいが、巧さは相変わらずで、しかもゴールゲッターとして見事に機能している。本当にロナウドが復活してくれてよかった。
●これで決勝はドイツ対ブラジルになった。常連国でありながら、ワールドカップでこの対戦がなかったことは七不思議の一つだったが、ついにここで実現。問題続きのこの大会のなかで、最後に残された希望というべきか。高さとパワーで相手を圧倒し、高い守備力を誇るドイツと、ここまでほとんどすべての試合を並外れた個人技の高さで勝ってきたブラジル。極端なスタイルのぶつかり合いはどうなるか。どちらかが早い時間帯に得点しない限り、「いつものドイツ」の試合になってしまう可能性が高いのだが、フットボールの神様、そこをなんとかお許しを、そして「伝説」を。このまま2002年大会が「誤審問題」の大会として記憶されてしまうのはあまりに寂しいのです。 (6/27)

韓国 2 - 3 トルコ
3位決定戦は韓国側の決勝のごとく。

満足度
★★★★
伝説度
★★★
●3位決定戦というのは本来理不尽な試合である。ともにベスト4という輝かしい成績を収めたにもかかわらず、必然的にどちらかは最後に「連敗」をして大会を終えなければならない。負けたほうはたまらない。しかも強豪国の場合、モチベーションはまったく上がらない。
●しかし本大会に限っては例外だろう。韓国はホームで戦う。トルコにしても常連ではなくフレッシュである。ここまで韓国のゲームにあった審判を巡る事件があっただけに、この日、韓国vsドイツ戦との「交換条件」であるかのようにアジアの主審(クウェート人)が呼ばれたのはどうかと思うが、結果的には問題なし。権力者とも政治とも無関係な、純粋なサッカーを楽しむことができた。
●この試合、なんと開始10秒にしてハカン・シュキルのゴールが生まれた。バックパスの処理を誤ったホン・ミョンボのミスが原因。ワールドカップ最短記録だろうか。ゴールはこれにとどまらない。9分、さっそくイ・ウルヨンが左足の見事なフリーキックを決めて韓国が同点に。13分、ハカン・シュキルのアシストでイルハンがゴール。こんなに短時間で次々とゴールが生まれようとは。32分にはイルハンがハカン・シュキルとのワンツーから抜け出してトルコ3点目。
●後半もともにチャンスは無数にあった。必ずしもお互い攻撃的だったわけでもないのだが、疲れなのか開放的な気分からなのか、コンパクトな守備はなく、打ったら打ち返すという展開。トルコのキーパー、リュストゥ・レチベルはファインセーブを連発。これまでの試合でも非常にいいプレイを見せていたので、大会後にはフェネルバフチェから移籍するのではないか。韓国では先発していたチャ・ドゥリのプレイがよかった。同サイドのトルコの守備が破綻していたこともあるが、積極的な突破を見せていた。これでまだ大学生とは恐ろしい。
●ロスタイムにソン・ジョングのミドルシュートで1点差となったが、そのままトルコが逃げ切って勝利。大味なゲームだが、3位決定戦にはこういうゲームがふさわしい。3位はトルコ。前大会ではクロアチア、前々回はスウェーデン。それぞれ大会で好印象を残したチームである(しかし3位決定戦の試合自体はどんな試合だったかさっぱり思い出せないが)。
●次回大会でも「3位決定戦」は行なわれるのだろうか。これを廃止して、なにか前夜祭的なエキシビション・マッチを開催するわけにはいかないものか。 (6/30)

ドイツ 0 - 2 ブラジル
伝説は生まれなかったが、それでも決勝戦は救いとなった。

満足度
★★★★
伝説度
★★
●ワールドカップが終わってしまった。明日から寂しくなる。振り返れば様々な点で特異な大会だった。FIFA会長自らが「奇妙な大会」と形容し、「最高レベルのサッカーではなかった」と事実上の不成功宣言をした大会である。不可解なことが続き、歴史に汚点を残したといわれてもしょうがないような大会であった。ただ、それでもなお自国開催によって感じられた大会の空気は心地よく晴れやかなもので、日本のサッカー・ファンが得た経験値は大きい。物足りない気分もあるが、決勝戦が好ゲームになったのは救いである。
●予想に反して序盤にゲームを支配したのはドイツ。おかげで決勝戦らしい守備的すぎる試合にならずにすんだ。互いの持ち味が発揮され、ドイツはコーナーキックを含むサイドからのクロスボールと、ミドルシュートでブラジルのゴールを脅かし、ブラジルはロナウジーニョ、リヴァウド、ロナウドの個人技でゴールを目指す。ドイツの主役、カーンは神がかり的なファイン・セーブのこの試合でも見せた。よくもまあ毎試合のようにこれだけのプレイができるものである。この試合ではゴールよりも、両キーパーのセーブのほうが伝説に近かった。
●このままではブラジルの失点は時間の問題とも思えたが、後半、両サイドの選手の位置を上げ、ブラジルは攻撃の主導権を握る。ゴールが生まれたのは後半22分。ハマンだったか、なんでもないボールの処理を誤り、自陣ゴール前でロナウドにボールを奪われる。これをリヴァウドにパス、リヴァウドの低く強いシュートはカーンのほぼ正面に飛んだのだが、カーンはこれを弾いてしまう。つめていたロナウドがゴール。「ミスの少なさ」により勝ち進んだドイツにミスが連続してしまった。お互いに質の高いチャンスをなんども作っている試合に限って、平凡なミスからゴールが生まれてしまう。
●この一点だけなら決勝戦は後味の悪いものになってしまっていたが、後半34分、クレベウソンの低いクロスボールをリヴァウドがスルー、その向こうで待ち構えたロナウドが追加点を決める。攻撃的な布陣にするためにドイツが投入したフォワードのアサモアがロナウドのマークをしていたのは謎。ブラジルは試合がつまらなくなりすぎない程度に時間を消費して逃げ切った。ゴール・シーンはまずまずといったところだが、最後まで見どころの多い好ゲームだった。8年前や12年前の決勝戦よりははるかにおもしろかったはず。
●ロナウドは得点王に輝いた。怪我に泣かされつづけた元怪物の復活。これは文句なしに嬉しい。今大会をポジティブな面で振り返れば「ロナウドの大会」ということになるのだろう。82年より後、得点王を獲得した選手が大会の主役となることはなかったが、今回は違った。キャプテンのカフーをはじめとしてブラジルの選手たちがカップを掲げるシーンは、前回のように開催国の優勝ではないので格別に印象的とはいえないが、それでもすばらしいものである。紙吹雪と折鶴が舞う中で、5度目の優勝を果たしたブラジルが喜びのウィニング・ランを見せてくれた。 (7/01)

虚脱感の中で今大会を振り返って。
憧憬と無念。不成功宣言をされたが、確かに大きな祝祭でもあった。


●すでに書いたので本大会の負の側面については控えるとして、虚脱しつつ振り返ってみると、この大会にも「伝説」はあった。当欄ではやたら「伝説」にこだわり、★印までつけているわけだが、そもそもなぜ「伝説」なのかといえば、ワールドカップの究極のおもしろさは伝説的なプレーや試合展開にあるからである。すでにワールドカップは最高レベルのサッカーを見られる場所ではない。質にこだわるなら、シーズンを通して固定メンバーで戦うクラブのサッカーを見たほうがいい。スペインやイングランド、イタリアのリーグ戦、そしてチャンピオンズ・リーグを。レベルが高いのはクラブのサッカー、おもしろいのはワールドカップ。
●「伝説」の★印は5点満点であり、5点満点に相当するプレイは86年のアルゼンチンvsイングランドのマラドーナの5人抜き以降、一度もない。今大会も伝説的プレーもプレーヤーも出てこなかった。しかし、実は「伝説」はある。当欄のブラジルvsベルギー戦で「このブラジル2002が優勝したらそれは伝説になると思う」と書いた。そして、ブラジルは組織的守備やグループ戦術をほとんど無視しながら、テクニックと即興性、創造性により優勝し、「クラブのサッカー」にはありえないフットボールを堪能させてくれた。これが今大会の「伝説」である。
●ニッポン代表については、大会中から韓国との比較が行なわれていたが、ワタシなんかはまったく韓国の躍進が気にならない。韓国vsイタリア戦でも書いたように、今回の韓国はかつて韓国が武器としていたフィジカルの強さ、走力をさらに超人的にパワーアップさせた「超韓国」だったと思う。この方向性はニッポンにはまったく向いていない。メキシコの不合理なショートパスの連続、ワンツーによる中央突破あたりでも真似してくれたほうがよほどいい。トルコ戦の敗北には悔いが残るが、ベスト16は次の大会でも妥当な目標となるはず。
●で、お楽しみ。私的ベスト・イレブン。GK:カーン(ドイツ)、DF:ファーディナンド(イングランド)、キャンベル(イングランド)、左ウィング:ロベルト・カルロス(ブラジル)、右ウィング:カフー(ブラジル)、MF:リヴァウド(ブラジル)、ロナウジーニョ(ブラジル)、ハマン(ドイツ)、FW:トッティ(イタリア)、ロナウド(ブラジル)、ディウフ(セネガル)。
●これじゃ、だれが守備するんだって感じの布陣だが、ボール奪取に長けたミッドフィルダーを何人も並べるような通人じゃないので、攻撃しか見てないのだ。センターバックの二人とかハマンとかは、よくわかんないけどムリヤリ入れてるだけだ(笑)。普通は入れないトッティを選びたくなるのは、韓国戦での挑発ポーズに感動したからという単純な理由。キーパーはだれが選んでもカーンだけど、カーンがいなけりゃマルコス(ブラジル)だな。あ、ちゃんと11人だよな、これ。12人じゃないよね(←ありがちなワナ)。

●お次はワールドカップ2002トップ5ゴーーーーーール!
●1位。ブラジルvsイングランド戦のロナウジーニョのドリブル→リヴァウドのゴール。リヴァウドもすごいんだが、よりすごいのはアシストのロナウジーニョ。ディフェンダー4、5人をひきつけながら無謀とも思えるドリブルからパス。ほんのちょっとだけだけど、86年のマラドーナを思い起こした。相手がイングランドだからだろうけど。
●2位。ブラジルvsベルギー戦のリヴァウドの個人技ゴール。胸でトラップして、足でチョンと浮かしながらターンして、ワンバウンドしたところを左足で強烈にゴールへ蹴り込む。ああ、カッコよすぎる。
●3位。ブラジルvsトルコ戦のロナウドのゴール。バカみたいにブラジルばっかり挙げてるけど、超人的な個人技を毎試合見せてくれたのはブラジルだけだからしょうがない。爪先で蹴ったゴールで本人曰く「ロマーリオ風」。これも相手ディフェンダー大勢に囲まれながらってところがポイント高いのだ。群がる敵を次々となぎ倒し、みたいなところに快楽あり。
●4位。韓国vsポルトガル戦のパク・チソン。アジア勢としては8年前のオワイラン(サウジアラビア)以来のワールドカップでのスーパーゴールっすね。チョンと浮かしてディフェンダーをかわして、ボレーでドスン。すばらしいっす。
●5位。4位まではトントンと決まるんだけど、5位が難しい。ハイライト映像しか見ていない試合から選ぶのは前後の脈絡が不明っていう点でどうかとも思うので、ウルグアイの左足ボレーとか、パラグアイのスーパーサブとかを選べない(えっと、選手の名前が出てきません)。スペインvsスロヴェニア戦のラウールあたりかな。その後の印象が薄いところが弱いが、技巧性は高い。

●最後にベスト・サポーター。日本で見かけた中では断然アイルランド・サポーターたち。彼らの「歌う」サポートはホントにすばらしかった。みんなが緑色のシャツをまとい、同じ歌をうたっていても、「全員で同じことをしている」という気色悪さがまったくなく、あくまで個が感じられるところが一味違う。チームへの愛が感じられるけど、殺気立つことなく、陽気にビールを飲んでいたというところもポイント高い。一つの理想形っすね。 (7/06)

>> FIFAワールドカップ2002のDVD さらに4年前に遡る。