満足度
★★★
伝説度(ロナウジーニョに)
★★★★ |
●なんと、この試合、生で観戦できたのだ。番狂わせの多いこの大会で、こんな伝統国同士の対戦を観ることができようとは。苦難のチケット争奪戦の最大の成果と思ったのだが、一場面を除いてスペクタクルには乏しく、得点が入った割には守備的なゲームとなった。
●懸案の(?)スタジアム内サポーター率では、日本人と外国人ともにイングランドが勝利。ブラジルの応援がイングランドにかき消されてしまうとは……。イングランドは参加しやすくてインパクトのあるスタイルがいいっすね。
●さて試合のほうは、イングランドはいつもの4−4−2、中盤にベッカム、スコールズ、それにシンクレアとバットを起用。アタッカーはオーウェン、ヘスキー。基本的にセンターバックとキーパーがアーセナル、中盤のベースがマンチェスター・ユナイテッド、アタッカーがリヴァプールという構成。ブラジルはディフェンスにルシオ、ロキ・ジュニオール、エジミウソン、左右はいつものロベルト・カルロスとカフー、中央にジウベルト・シウバとクレベルソンの国内組。攻撃は左にリヴァウド、右にロナウジーニョ、トップにロナウド。前のベルギー戦でも書いたように、ブラジルの弱点は守備。強さでも組織力でも不安大。
●前半23分、さっそくその不安が的中。序盤から押していたブラジルだが、スルーパスに対してルシオが処理を誤り、オーウェンにゴールをプレゼントしてしまう。こうなると大変である。やたらとベッカムに注目が集まるイングランドだが、このチームの強さはなんといっても堅守。とくにセンターバックの二人は強力。さすがのブラジルも横パスばかりが目立ち、なかなか前線へボールを運べない。一対一の勝負でもイングランドが優勢。イングランドは攻撃はヘスキー、オーウェンに任せて、リスクを冒さない。
●ここでブラジルが見せた解決策は、ベルギー戦と同様の「奥の手」。つまり、個人のスーパープレイ。前半終了直前、中盤でボールを奪ったロナウジーニョが単独で中央突破、ディフェンスを4人、5人とひきつけながら、「こりゃ持ちすぎだろう」と思った瞬間、右で待ち構えたリヴァウドにパス、リヴァウドは左足で対角線上のゴール隅にきっちりと決めた(このシュートもかなり難易度高いが)。ロナウジーニョの美技。それまで静かだったブラジル人たちが騒ぎ出す。
●後半5分、再びロナウジーニョのスーパープレイ。ゴールから約30メートル離れた右サイドからのフリーキック。ロベルト・カルロスはキッカーに立たない。当然、エリア内の密集地域へのクロスボールが予測される場面である。イングランドのGKシーマンもこれを予測し、やや前に出ている。なんと、ロナウジーニョはこれを直接ゴールの左上隅を狙って蹴った。意表を突かれたシーマンは、一歩前に出た後で慌てて飛び上がるが、万歳するキーパーを嘲笑うかのごとくボールはその手の上を越えてネットに収まった。テレビのインタヴューによると、ロナウジーニョはカフーからキーパーの位置を確かめろとアドバイスされていたそうである。やっぱり本当に狙って蹴ったんだ、あんなのを。ロナウジーニョの超絶技巧でブラジルが逆転。
●しかし後半12分、いきなりゲームはつまらなくなってしまう。この日のヒーロー、ロナウジーニョが悪質なタックルで一発レッド、退場。スタジアムではリプレイは出ない(場内が荒れるので)。あまりに唐突で皆唖然。これでブラジルは苦しくなった。守るしかない。そして時間稼ぎをしなければ。少々チャンスがあってもゴールなど絶対に狙わない。
●ただし、守るだけといってもそこはブラジル。凡庸なチームにはできないことをやる。ゴール前に張り付いたりはしないのだ(たぶんそんなことをしたらこの守備陣ではかえって失点してしまう)。どうするかというと、ひたすらパスをつないでボールを保持しつづける。人数が一人少なくて、相手はイングランドなのに、こんなことをできてしまうのはブラジルだけだろう。
●エリクソン監督も選手交代で手を打ったが、イングランドにはいまひとつ自力でチャンスを創造する力がない。相手のミスがないとなかなか得点機が生まれないのだ。ブラジルは途中からロナウドに代わってエジウソン(元柏レイソル)が登場。この人、昔「代表に入りたいから」と言ってレイソルからブラジルに帰国しちゃったんだけど、まさか本当に代表入りするとはなあ。当時は「そんなのムリ、絶対」と思ったんだけど、堂々たるワールドカップ・メンバー。でも今こうして目の前で見ていても、セレソンとは認めがたい程度の巧さなんだけど(笑)。
●ブラジルは上手に時間を使い切った。イングランドとしては数的有利を生かせず、悔いの残る試合だったと思う。
●ちなみにこの日、試合以外で記憶に残ったことを2つ。1、日本人イングランド・サポーターの多くは20歳前後の若者である。なるほど。2、静岡の運営はいまひとつ。スタジアムへのアクセスが不便で、会場を出てからシャトルバスに乗るまでに1時間半、山の中のなにもない場所であるにもかかわらず舗装された一本道が狭い。それと、試合終了後、スタジアムのそばに広い芝生がある。ここでみんな寝転んだりしてて、当然のごとくボールを蹴って遊ぶ人たちも出てくるわけだ。イングランド人対日本人でミニ国際交流がはじまった。これを、なんと、警官が飛んできて制止するわけですよ!
もう信じられない光景。これ、ワールドカップっすよ。どうしてサッカーボールを蹴る人にそんな威圧的な態度をとれるのか。あちこちに「人が集まって騒ぐとろくなことにならないから排除しよう」っていう論理が垣間見えて、すごーく感じ悪かったのだ。ボランティアのみなさんがフレンドリーだったのが救い。
(6/22) |