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  Wonder Jukeな日々
ある日、そのオファーはやってきた。「クラシック音楽ネット配信サービスのディレクターをしてみませんか?」。Wonder Jukeクラシックで未開の地を切り開く(笑)、山尾敦史の奮戦記。ほぼ隔週更新連載中。


◎バックナンバー
第3回山尾、驚喜乱舞を経て大口を開ける
第2回
山尾、ワンダージュークのなんたるかを知る
第1回
山尾、ワンダージュークに出会う

文=山尾敦史
 


連載第4回山尾、定番ラインナップ構築をあなどる

 日頃からクラシック音楽について仕事をし、自らもクラシック音楽を聴くという人間にとって、その視野と判断材料はどうしても「クラシック音楽界」という枠の中で確立されがちだ。具体的には「ベートーヴェンの、この曲くらいはみんな知っているだろう」「サティはあれだけブームになったものな」「ドビュッシーやラヴェルは定番でしょう」「ショスタコーヴィチの交響曲なら、みんな全曲聴きたいに違いない」などなど、いつの間にか「クラシック音楽界の常識」(それは世間の非常識?)に囚われてしまっているのだ。

 前回ちょっとだけ書いたように、ナクソスのCDをコンピレーション盤中心で約500枚分そろえてスタートしたWonder Juke Classicだったが、その全部を一気に配信できるというわけではなかった。Wonder Juke Classicのスタッフが、提供してもらった音源データをネット上で公開できるようなデータに変換し、曲目の解説を入れて、完全な公開用のデータを作りあげる作業の時間も考えなくてはいけない。これがまた、僕も後から気が付いたことだが、AIFFファイルをMP3ファイルに変換してCD-Rを1枚焼くようなわけにはいかないのである。
 そうした制約もあり残念なことにスタート当初、クラシック音楽ファンが満足できるリストというのには、はるかに遠いものだった。定番の作曲家ともいえるJ.S.バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー……。とにかく、みんな曲が揃わない。僕(と林田さん)がまずやらなくてはいけないのは、この不均衡を「クラシック音楽ファンが満足できるように」整えることだった。
 
 結局のところ「毎月CDに換算して約50枚分」を追加することが決められ、少しずつではあるけれど、定番の曲をそろえながらユーザーに満足してもらうには、どういうラインナップを築いていけばいいのかが課題となった。「CD50枚」というのは、普通の人であれば破格な数字である。考えて欲しい。毎月CDを50枚コンスタントに買っている人が、どれだけいるだろうか。しかしその50枚と、こっちの50枚は根本的に違うのだ。「好きなCDを50枚」選ぶのは楽しく苦労はないのだが、「客観的にバランス良く50枚」を選ぶというのは、簡単そうで実に難しい。
 仮に「モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー、その他」と決めて10枚ずつを選んでみよう。モーツァルトはピアノ協奏曲全曲だけで終わり。ベートーヴェンは交響曲とピアノ協奏曲の全曲。ブラームスは交響曲と序曲など、それに協奏曲全部。チャイコフスキーは三大バレエ音楽だけで8枚くらいになってしまう。その他の10枚って、誰を選べばいいのだろう……。やってみるとわかるのだが、途方に暮れるのである。モーツァルトだったらせめて交響曲第31番(パリ)以降、ピアノ協奏曲も第17番あたりから全部は欲しいだろう。
オペラは?ピアノ・ソナタは?管楽器のための協奏曲は?……。
 そういったわけで、クラシック音楽ファンに満足してもらえるような最低限のラインナップを構築するのは、予想外にたくさんの時間を擁するのだった(これは、クラシック音楽の世界がいかに広大で深いかを証明することでもあるのだが)。
 
 スタートから1年、ようやく最近になって著名な作曲家の作品をほとんどそろえ、中にはちょっとマニアックな曲も聴けるようなラインナップとなった。現在のところ、ナクソスの音源はCDにして約700枚分。「なんとか形になった」というレヴェルである。
 しかしながら、そうした僕たちの思惑とはまったく違ったところで、ユーザーの方々の嗜好というものが存在しているのだということを思い知らされたこともあった。しかも、スタートして間もない時期に。自分たちが勝手に考えていた「クラシック音楽ファン像」と、Wonder Juke Classicのユーザーとの間には、広くて深い河が流れていたのである。

[次回につづく]


[Wonder Juke クラシックとは?]
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