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  Wonder Jukeな日々
ある日、そのオファーはやってきた。「クラシック音楽ネット配信サービスのディレクターをしてみませんか?」。Wonder Jukeクラシックで未開の地を切り開く(笑)、山尾敦史の奮戦記。ほぼ隔週更新連載中。


◎バックナンバー
第4回山尾、定番ラインナップ構築をあなどる
第3回
山尾、驚喜乱舞を経て大口を開ける
第2回
山尾、ワンダージュークのなんたるかを知る
第1回
山尾、ワンダージュークに出会う

文=山尾敦史
 


連載第5回山尾、WJCユーザーの姿を見誤る

 当然ではあるが、Wonder Juke Classicにも「アクセス解析」の機能が存在する。……と書き出して、大手プロバイダ「So-net」なのに、なんてことを書くんだと自分にツッコミを入れた山尾です。
 
 このアクセス解析、ユーザーの皆さんがどの曲、どのディスク、どの作曲家に、どれだけアクセスしているかがわかるのだが、スタートして3ヵ月ほどたった頃、その時点での結果(マンスリーの解析とユーザー動向)を出してもらった。その前月にドビュッシーやサティなど、曲のラインナップも少しは形になりつつあるなという体制を揃えたので、多少なりとも自信を持っていたのだ。この時点でわれわれ(山尾と林田さん)の頭の中には、後になって結果的に勝手な妄想だったということが判明する「クラシック音楽ファン像」ができ上がっていて、その方たちがどんな曲を好むのかがようやくわかると信じ切っていたのだった。
 
 手元に配られた解析の結果を見て、思考が停止したかと思った。
 モーツァルト、ショパン、J.S.バッハなどがダントツの人気。しかもわれわれが「うーん、これはちょっと……」と思っていた、「ベスト・オブ・モーツァルト」などのコンピレーション盤(というかセレクト盤ですね)にアクセスが集中しているという現実。まあこれはCD市場でも人気のある作曲家であるし、完全な想定範囲内、いや当然の結果だとも思えるため(自分たちの読みが甘かったなあと反省すれば)意外なことではない。
 しかし予想外だったのは、その他の作曲家、つまりこちらが「これは定番として入れて当然」と思った曲に関して、まったくと言っていいほど人気がなかったことだ。前記の作曲家は1ヵ月で4ケタのアクセス(Wonder Juke Classicの場合は、曲やトラック、つまり第2楽章だけアクセスして聴いたとしてもカウントされるシステムになっている)があったものの、アクセス数が1ケタという曲もリストアップされて出てきた。それが納得できる曲(または作曲家)だったらいい。ところが(あまりにもショックだったもので)今でもはっきりと覚えているのだが、アクセス数3という欄に載っているのが、ドビュッシーの「海」だったりするわけである。「3」ですよ、1ヵ月に3アクセス。3人じゃなくて、同じ人が第1曲だけを3回聴いているかもしれない「3」という数字。わかっていただけるだろうか、このショッキングな瞬間。ブームがあったんだもの入れておかなきゃなあ、と思ったサティのピアノ曲に関しては、あまりにも有名な「ジムノペディ第1番」こそ3ケタのアクセスがあるものの、「グノシェンヌ」や他の曲などはやはり1ケタ。うーーーん(と悩む)。
 
 その反面、どうしてこれがランキングのこんなところにいるの?と思う作曲家もいた。たとえば、プロコフィエフの交響曲やバレエ音楽などからピックアップして1時間ほどにまとめた「先鋭なる舞踊」というチャンネル。これがモーツァルトなどを抑えて、チャンネルのアクセス・ランキング1位なのである。この現象はその後、3ヵ月ほど続いた。なぜ?誰が?何の目的で?……と思わざるをえない。ユーザーの中に、プロコフィエフの大論文でも書こうとした方がいらっしゃったか、熱狂的なバレエ・ファンが(偶然)たくさんいらっしゃるのか……(実はいまだにわからないでいます。当事者の方、読んでいらっしゃたら教えていただけませんか)。
 
 これは侮っちゃならない、もう一度最初からアタマのネジをまき直して取りかからないと大変なことになるぞと思ったのは当然だったし、それを比較的早い段階で目の当たりにしたということは、ある意味でラッキーなことだった。自分の思考がユーザーやマーケットとずれていると思い知らされるチャンスは、クラシック音楽を取り囲む世界の中で意外なほど少ないし、気が付かずに時間だけがどんどん過ぎていくことだっていくらでもあるからだ。図らずもユーザーの皆さんから「数字」という形で、大切なことを教えてもらったという気持ちは強い。45歳にもなって反省できるというのは、きっとラッキーなことなんだろう(と思わないと、情けなくてやっていられないです)。
 
 ……とまあ、なんだか今回は「反省の回」になってしまったが、ビジネスにおいて思いこみは厳禁という、あまりにも基本的なことを忘れてしまった自分に「喝!」を入れる出来事ではあった。

[次回につづく]


[Wonder Juke クラシックとは?]
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