◎連載第6回[山尾、ネット配信の認知度を考える]
先週末より、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏によるいくつかの音源が、やむなく配信停止になっている。So-netによれば権利関係の調整のため、一時配信停止の措置をとったとのこと。こういう場合、いちばんに割を食ってしまうのはユーザーになってしまうわけで、なんとか早く解決の糸口を探し出してもらいたいところ。
ネットでの音楽配信がなかなか進まない理由のひとつに、最新のネット事情に照らし合わせ、明文化された基準がないということも挙げられるだろう。もちろんそれは当事者同士(たとえば、楽曲管理をしている出版社と配信側、または演奏家と配信側、さらにはソリストや指揮者とオーケストラ、など)の解決によるところがまだまだ多いのだけれど、そろそろ「あらかじめネット配信の可能性についても考えておいてくださいね」という共通認識も、デフォルト事項として必要なのではないだろうか。Wonder
Juke Classicが配信している東京フィルハーモニー交響楽団、そして新しく加わったHakujuホールの場合、演奏者の出演契約時に、ネット配信の可能性を演奏者側(本人、またはマネジメント)へ打診していただいているため、大きなトラブルになることはない。ただし明確に「NO」を表明されることも多々あるので(協奏曲が抜けているケースなどは、まさにそれ。指揮者が「全部NO!、とにかくNO!」という場合もあります)、配信前から「残念!」と叫んでしまうケースも少なくないのだ。まあ、演奏者側にしてみれば「オーケー出して、もしひどい結果に終わったらどうするんだ、おい」という場合の保険みたいな気持ちもあると思うのだけれど、そのときは「あ、今回のはナシね」ということで手打ちにすればいいだけのこと(しかし、自分に厳しい完璧主義者の場合だと、そしてどれも使えなくなった……ということになりかねないのが難儀)。
ところで、なぜネットでの音楽配信は、なかなかクラシック音楽界に浸透していないようだ。いろいろな理由はあると思う。たとえばわれわれ(この文章を読んでいただいている皆さんも含め)のように、インターネットが日常のライフスタイルに溶け込んでいるであるなら抵抗はないだろうが、そうでない人にとってはまだまだ未知の世界。その上、CDならともかく「ネットで音楽を売る」ということに関してまったくイメージが湧かず(当たり前か)、逆にネットのネガティヴな噂ばかりを信じている人だって多い。だから、そんなところで「演奏」を売ったら、そのあとどうなるかわからないと本気で信じている人も、実は少なくないのだ。
Wonder Juke Classicはダウンロード型ではなくストリーミング型なので、ネット・ラジオに近いサービスなのだが(「JUKE
BOX」とうたっている。ジュークボックスも、レコードやCDが手にはいるわけではなく、その場で聴くだけの装置だ)、わからない人にはそういう違いを説明するのもチョモランマ登頂に匹敵するほど難しいだろう。So-netのスタッフもこれまで、いろいろな人にプレゼンテーションを行ってきたのだが、やはり最初は思いきり警戒され、「ストリーミング」という形態を理解してもらった途端、相手がニコニコ顔になるということもあったらしい。要はみんな「データは改ざんされるからなあ」という心配が強いらしいのである。この心配度は、その人のネット認知度と反比例するものだ。
といった裏事情もはらみつつ、ネット音楽配信は少しずつではあるが認知度をアップさせている(と思いたい)。最近はCDを自主制作し、インディーズ・レーベルから発売するアーティストも増えてきた。大がかりな流通がなかなか実現できないことも多いようだが、ネット配信というのは新しいプロモーションのチャンネルとして、もっと活用されるべきだと思う。「ネット配信は、なんだか(CDを手にするみたいな現実感がないだけに)共感できないんですよねえ」などと言わずに、ストリーミング型のメリットも理解していただいて、クラシック音楽業界ももっと活性化してもらいたいものだ。
[次回につづく]
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