◎連載第8回[山尾、選曲の秘密を(ちょっとだけ)語る]
先日、朝の情報番組のひとつ『とくダネ!』で、若者にクラシック音楽がウケているらしいという特集(といっても、10分ほど)をやっていた。例の大ベストセラー「ベスト・クラシック100」(東芝EMI)が売れているというネタを軸として、「X-JAPANのファンだったのにいきなりクラシック音楽好きになり、チェロを買って今では大学オケに入った人」とか「立川駅前でストリート・ライヴをするグループと、足を止めて楽しむオーディエンス」などが紹介されていたが、共通するのは「ポップ感覚でクラシック音楽をとらえていること」だろう。そして彼らはきっと、ディープなクラシック音楽ファンにはならないかもしれない、ということも。
Wonder Juke Classic(以下WJC)の仕事をしていく中で、僕がもっとも印象的に感じたのもまた、同様のことかもしれない。もちろん、WJCのユーザーがクラシック音楽を深く掘り下げない“お気楽リスナー”だということではなく、現にモンポウだのアーノルドだの、クラシック音楽シーンでマイナー・コンポーザーとされる作曲家であっても、きちんと紹介をすれば聴いていただけることがわかっている(毎月、数字できちんとアクセス数が出るものですから)。ただ傾向としてとても興味深かったのは、気分で楽しむラインナップへの反応(アクセス)がとても多いということ。パソコンで聴くということもあるのだろうけれど、時間を作ってWJCにアクセスし、じっくりと音楽に耳を傾けるというよりも、気分良く“ながら聴き”が、どうやらWJCリスナーの主流らしかった。
たとえば梅雨の時期に合わせた「Rain Drops:雨だれをぼんやり眺めながら」とか、クラシック・ギターをBGM感覚で聴ける「Guitar
Nostalgia:懐かしい記憶を呼び覚ますギター」とか、そういった“気分次第でせめてちょうだい”的ラインナップは、たくさんの方に聴いていただいたのだが(この場を借りて、お礼を申し上げます)、ナクソスのCDをそのまんま丸ごと聴くという方は、意外に少ないようだった。ということは、考えられるのが「試聴機としてのWJC」ということ。または「ネットラジオとしてのWJC」でもいい。つまみ聴きをしながら、自分のお気に入りを探していくということなのだろう。でも、そうしていながらお気に入りの曲が偶然に見つかればいいのだし、実は選曲・構成しているこちら側も「この曲をたくさんの人に知って欲しいな」と思いながら、「こんなんどうですか?」という控えめな態度で(笑)こそっと紛れ込ませたりしているのである。1時間のラインナップであれば、前半の15分以内にいち押しの曲を置いておく。そうすればほぼ確実に聴いていただけるので(30分くらいだと、聴き飽きて飛ばされる可能性があるのだ。それもまた聴き手の自由)、選曲者としては当初の目標をクリアできる。
まったく個人的な話で申し訳ないのだけれど、山尾はNHK-FMで放送していた「クロスオーバーイレブン」という番組が大好きで、そのクラシック版とも言える「夜の停車駅」という番組も、ほぼ欠かさず聴いていた。後者は江守徹さんのナレーションだったので、覚えていらっしゃる方も多いだろう。そういったわけで、1時間くらいの選曲・構成をするときには、どうしてもそういったラジオ番組を意識してしまう。だからアタマの1曲目と、中間の曲(アナログ・レコードでいうところのB面1曲目)、そして最後の2曲(映画にたとえると「ラスト・シーンとエンド・タイトルの音楽ですね)には、ついつい命をかけてしまうのだ。もちろんリスナー全員がそんなことを受け止めているとは考えにくいし、こちらも「いや、実はですね……」とわざわざことわるのはかっこ悪いと思っているので、絶対にやらない。
……と書いておきながら、ついにここでバラしてしまったではないか。WJCユーザーの方、よろしければチェックしてみてください。
[次回につづく]
|