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うまいっ、安いっ、速くないっ! フィッシャーのハイドン交響曲セット

「びっくりするほど安い、しかも内容的にすばらしい」ディスク王は? ジンマン/チューリヒ・トーンハレのベートーヴェン交響曲全集は衝撃的だったが、負けずにスーパーなセットがこのハイドン。アダム・フィッシャー指揮オーストリア・ハンガリー・ハイドン・オーケストラによる第55番〜第69番の疾風怒涛な5枚組。これが$29.97、セールなんかだったりすると$20.98。爆安。が、もちろん今時安いだけじゃダメダメ。中身も最強レベルではなくては。で、ワタシ内的にはもうこいつをこれらの曲のモダンオケ代表としてスタンダード化してオッケーってくらいの満足度なのだ。

 「古楽器演奏大好き、演奏家はみな古楽奏法を学ぶべし」と公言するアダム・フィッシャー、ではそのスタイルは? 今時な古楽畑の影響をふんだんに受けたびっくり系、ではなくて、思いっきりオーストリア=ハンガリーの(今世紀に作られた)伝統に依拠した音楽。ウィーンとブダペストのモダンな反映。しかしハイドンのパワフルさ、切れ味の鋭さ、ユーモア、密度の濃さをもって、個性豊かな交響曲群の楽しみをたっぷりと伝えてくれるのだ。ドラマティックな第61番、唐突にさわやかぶってる第68番、ちょっとオペラティックな第65番、重厚かつ壮大な第69番「ラウドン将軍」等々、ネタ満載な交響曲15曲一網打尽。こんなにたくさん書いてるのに一曲一曲大なり小なり工夫をこらしてくれて、ハイドンっておもしろがらせ好き。 (99/06/07)


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●Haydn : Symphonies Nos.55 - 69
●Adam Fischer / Austro-Hungarian Haydn Orchestra
●Nimbus Records NI 5590/4


コリリアーノだよ。「レッド・バイオリン」オリジナル・サウンドトラック

 しばらくここのページの更新をサボってしまったが、久々に登場するのはこの春に公開予定の映画「レッド・バイオリン」(フランソワ・ジラール監督)のサントラ盤。いや、しかしただのサントラ盤ではないぞ。作曲は、コンテンポラリー・ミュージックな人々には有名な現代アメリカを代表する作曲家ジョン・コリリアーノ。オペラ「ベルサイユの幽霊」(メトの創立100周年委嘱作)や交響曲第1番なんかを耳にしたことがある方もいるはず。で、演奏してるのがジョシュア・ベル、エサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管つう強まりぶりなのだ。半分、映画の主役は音楽といってもいいようなものであり、CDだって映画が公開されるより前にリリース。また、映画での主要動機を元に作られた、独立したコンサート作品「ヴァイオリンとオーケストラのためのシャコンヌ」も収録されている。

 映画「レッド・バイオリン」では、17世紀クレモナの名工がその妻の魂を込めて作った銘器の、4世紀に渡る数奇な時空の旅を描いている。人を虜にするそのレッド・バイオリンは、ある時はウィーンの修道院の天才少年に渡り、ある時は19世紀イギリスのヴィルトゥオーゾの手で奏でられ、さらには中国の文化大革命まで経験する。そして、現代、サザビーのオークションにかけられる……。したがって、コリリアーノが作る音楽は、時にはフェイク・イタリア・バロックだったり、ウソ中国音楽だったり演出の巧みさを堪能できるものになっているが、ベースとなるレッド・バイオリンのテーマはその誕生の逸話を反映した、哀切と神秘性を湛えた深みのあるメロディ。この主題をもとに作られたシャコンヌは、映画とは無関係にコリリアーノ作品として聴けるだけのシリアスな内容を持った佳品なのだ。でも映画も見るべし。 (99/03/29)


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●ジョン・コリリアーノ : 「レッド・バイオリン」サウンドトラック、ヴァイオリンとオーケストラのためのシャコンヌ
●ジョシュア・ベル(vn), エサ=ペッカ・サロネン & フィルハーモニア管
●Sony Classical




伝説の前説付きライヴ。グールドとバーンスタインのブラームス/ピアノ協奏曲第1番

 「これからみなさんがお聴きになるのは、正統的とは言いがたいブラームスのニ短調協奏曲です。実は私はグールド氏の構想に完全に賛成というわけではありません……」と、演奏に先立ってバーンスタインが語った、あの演奏会のライヴがようやくソニークラシカルから正規リリースされた。まあ、このライヴの模様はもう何年も前に実は非正規の音源でCDが出まわってたので、そっちの劣悪な音質で聴いちゃってる方も多いだろうとは思うんだが、ちゃんとした形で出てくれたのはやっぱり嬉しい(モノラルで音質もそんなに良好とは言えないんだけど)。件のバーンスタインのコメントも、しっかりCDに収録されている。
 で、この演奏会、エピソード的には「やたらとテンポが遅くて、ピアニストと指揮者の間で意見の一致を見ないまま本番となってしまい、バーンスタインが客席に向かって事態を釈明した上で指揮棒を振った」ってのが有名で、話だけ聞くと「ほー、こりゃ大変だ。バーンスタインは怒ってたのかなー、こんなトラブルになっちゃって」なんて思ってしまうんだが、実際にこれを聞けば分かる、対立の構図があったわけじゃないんである。グールドは舞台裏でクスクス笑いながらスピーチを聞いていたそうだし、バーンスタインの口調は親しげでユーモアに満ちている(客席は大爆笑かつ拍手大喝采。伝説の演奏会を作るための正しい道筋ここにあり)。意見の相違は確かに存在したが、両者にとってこの共演がエキサイティングなものだったのは明らか。
 「協奏曲においては誰がボスなのか。独奏者、それとも指揮者?」(客席大ウケ)。ええい、ボスは独奏者じゃ。オケ、少し静かにすれっ! もっとピアノを聴きたいんだっつーに。一番うるさいのは客だ、客。62年のニューヨークはそんなに風邪が流行してたのかよ、みんな遠慮レスにゴホゴホやりやがって。グールドの唸り声より大きな音を出してるぞ。テンポが遅く、まるでその晩年のように重厚なバーンスタインに続いて登場するピアノは、もう紛れもなくグールド。重戦車級の分厚い和音やダブルオクターヴの激烈大進行もすべてが叙情的に響く歌の世界へ突入、まるでブラームスのインテルメッツォのアルバムを聴いてるんじゃないかと錯覚してしまう。ロマンティックなドラマ、鮮烈なコントラストを求めることなかれ。なんだか、ロマン派風コンチェルト・グロッソな世紀の共演なり。
 最後の和音が鳴り終わるのを待ちきれず、客席から大拍手。ハロルド・ショーンバーグがニューヨーク・タイムズで痛烈に批判してくれたのも、伝説の物語誕生への貢献度極めて大だったんではないかと。 (98/10/25)


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●Brahms: Piano Concerto No.1
●Glenn Gould (p), Leonard Bernstein & New York Philharmonic
●Sony Classical 60675 (国内盤はSRCR2278)




モーツァルト、ソナタ自由自在。何者?

 ジャケットを見ると「うわー、おすぎがモーツァルト弾いてるぞ」と思っちゃうんだが、そうではなくてトルコ生まれのファジル・サイ(Fazil Say)ってピアニストなのだ。27歳の若者で作曲もこなす。ジャケット的には絶対欲しくならないディスクなんだが(笑)、ちょっとだけショップで試聴して驚嘆。硬質で高音域が輝度高めの独特の音で、没入系。これは聴くしか。

 で、曲はソナタ第13番K333、第10番K330、第11番「トルコ行進曲付き」K331、あとキラキラ星変奏曲。凝り性な人がやりたい放題やりましたみたいなメリハリの効いた元気系。細部まで結構挑発的な設計図を描いてパリパリとクールに弾くんだが、時々盛り上がってくると精巧ミニチュア作りを忘れて鍵盤叩いちゃう。うーん、カッコいい。それでいて安っぽいロマンティシズムの罠にはまってるって感じは全然せんぞ。しっとり派多めの非オーセンティック系モーツァルトのソナタの世界から眺めると、適度に品の悪さもあって(笑)違和感も強いかもしれんが(第10番の終楽章がなかなかスタンドプレイ満載)、こりゃ今後の録音も相当楽しみっす。ひょっとして一歩間違えると笑えちゃうモーツァルトって可能性もあるけど、この自在さには共感度大なのだ。

 でも微かに聞こえる鼻歌(?)はいやでもグールド思い出しちゃうので(ただでさえその危険大ありなのに)、この悪癖だけは今は亡き天才の追従者呼ばわりされないためにも止めたほうが吉かも。(98/08/28)


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●Mozart: Piano Sonata K333, K330, K331'Alla Turca', Variations on 'Ah, vous dirais-je, maman' K265
●Fazil Say (p)
●Warner Music France WE885


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