「僕はこれから世界で一番おもしろいディスクを探す旅に出るんだ。ロプロス、宝の塔を探しに出発だっ!」「宝はお家のCD棚にございます、マスター」(「バビル256世の冒険」より) DISC WOW! オンラインCDショップamazon.co.jpにて購入/一部試聴可能!原則国内盤、一部輸入盤。

[NEW!]気前よく楽しませてくれるのだよ、「マンフレッド交響曲」。

 最近聴いたCDのなかでいちばん気に入ってるのが、マゼールの「マンフレッド交響曲」。どちらかといえばチャイコフスキーの標題音楽は苦手なので敬遠してきた曲なんだけど、マゼールの古い録音が復活してくれるっていうんで欣喜してゲット、もう期待通りの強烈な演奏で自分的にはパーフェクト。娯楽度最強。
 「マンフレッド交響曲」と幻想序曲「ハムレット」が収録されてて、71年と65年の録音、つまりマゼールは41歳と35歳だったわけだ。こんな年齢でウィーン・フィルを相手にして自分の印をガキゴキと自在に刻印できる天才がどれほどいるのかと。ありえん。しかもどんな曲かよく知らないで聴いたから(十数年ぶりに聴いたのですっかり忘れてた)、終楽章のコーダでオルガンが登場するというあまりに意表をつかれた展開に動揺し、サービス精神旺盛すぎる趣向に滂沱、聴き終わった頃にはこの曲こそチャイコフスキーの最高傑作だと信じてしまうという魔術、というか詐術にはめられてしまう。もうマンフレッド交響曲はこれだけでいいや。
 それにしてもピッツバーグとかバイエルン(今はニューヨークか)で棒を振ってた人と同一人物とは到底思えない。歳月ってホントにスゴい、スゴすぎる。(04/11/13)

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●チャイコフスキー:マンフレッド交響曲、幻想序曲「ハムレット」
●ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィル
●DECCA



沈黙する完全主義者デュカス〜「ペリ」とファンファーレ。

 デュカスの名曲といえばまず挙げられるのが「魔法使いの弟子」。「ゲーテのバラードによる交響的スケルツォ」という副題が添えられ、快活な曲調と華麗な管弦楽法で人気が高い。
 しかしその簡明な作風からは想像がつきにくいのだが、作曲家デュカスは非常に厳格で妥協を許さない完全主義者だったようである。若くして成功した割には寡作家なのだ。あるとき調べものをしていて気がついたのだが、シベリウスと同様、この人も晩年には沈黙している。1910年(46歳)にバレエ曲「ペリ」を書いて以来、1935年に70歳でこの世を去るまでの間、ほとんど作品らしい作品を残していない。この間、デュカスは作曲をしなかったわけではなく、友人たちには作品を見せていたものの、その多くが破棄された。1910年にパリ音楽院の教授になっているので、社会的に隠遁していたわけではない。
 ちなみに、有名なシベリウスの沈黙と比較してみよう。シベリウスの場合は、1926年(61歳)に交響詩「タピオラ」を書いたあたりから筆が鈍り、1929年(63歳)から1957年に92歳で死去するまで作品がない。30年弱の沈黙ということになるので、デュカスよりも少し長い。時代的にはシベリウスのほうがやや後ということになるが、ともに20世紀前半ではある。時代が難しかったのか、創作意欲の減退なのか、容易には結論付けられないが。
 デュカスが出版した最後の作品、バレエ曲「ペリ」ですら、賭けのために書かれたもので、危うく破棄されそうになったものを友人たちが説得してゴミ箱行きを免れたという。作品を書いては捨てる管弦楽マスター。こうなると残された曲はどれも大切に思えてくる。まちがっても「魔法使いの弟子」が有名な一発屋作曲家などと思ってはいけない。「ペリ」や交響曲はもっと聴かれたっていいだろう。
 デュカスは「ペリ」の完成後、初演の舞台を効果的に開始するために「ファンファーレ」を作品に付け加えている。完全主義者にしてはずいぶん即興的なことをするではないか。たぶん「ペリ」本体よりもこの「ファンファーレ」のほうが現在耳にする機会は多い。芸術家は自らの作品をいくらでも破棄できるが、破棄しなかったものの運命を制御することはできない。(04/07/30)

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●デュカス:管弦楽曲集[「ラ・ペリ」へのファンファーレ、一幕の舞踏詩「ラ・ペリ」、交響曲ハ長調、魔法使いの弟子]
●ジャン・フルネ指揮オランダ放送フィル
●DENON



駄曲名盤の夢、ベートーヴェンの「オリーヴ山のキリスト」

 名曲名盤ならぬ「駄曲名盤」。これぞ夢と憧れ、男のロマン(笑)。だってスゴいっすよ。クラシック音楽なんてものは淘汰された後に残ってるものなんだから、名曲ばかりなわけだが、そのなかからわざわざつまんなさそーな曲を掘り出して、しかもそいつを猛烈に立派に演奏して名盤に仕立てちゃう。そんな指揮者や演奏家には駄曲王として讃えられる資格がある(讃えられたくないだろうけど)。
 で、そのためにはまず有名駄曲作曲家が必要なわけである。バッハのように高品質な曲ばかり書いてたり、モーツァルトみたいにそれなりの作品にも天才性がうかがえたりする人はダメ。その点、ベートーヴェンは立派である。「ウェリントンの勝利」とか、ぞんざいに扱われがちな作品が結構ある。で、このオラトリオ「オリーヴ山のキリスト」を聴いたんだが、これはかなりツボ突いてくれた。ケント・ナガノ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団はとっても立派な演奏してくれてて、なぜかドミンゴまで共演してて、でも曲が「オリーヴ山のキリスト」。
 なんだか聴いてて、ちょっと「フィデリオ」を髣髴させるところがある曲なんだけど、でもそもそも「フィデリオ」だっていくつか最強にすばらしい場面を除くと全体には駄曲っぽい雰囲気漂ってて、あくまで髣髴させるのはその最強場面以外であって、そのあたりの冴えなさかげんが味わい深い。でもCDとしてはずっしり聴き応え大ありなわけで、すなわちケント・ナガノ偉すぎ。かつて「ウェリントンの勝利」をウィーン・フィルと本気で録音してしまったロリン・マゼールと同じくらい、駄曲王。
 あと、Hybrid SACDと書いてあるCDがフツーのCDで再生できるかどうかイマイチ自信なくてドキドキしてしまった自分はズレすぎ。もちろん再生できる。(04/05/06)

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●ベートーヴェン:オラトリオ「オリーヴ山のキリスト」
●ケント・ナガノ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団、ドミンゴ(T)
●harmonia mudi france (輸入盤)



ほっこり、テレマンの無伴奏オーボエのための12の幻想曲

 テレマンの「無伴奏オーボエのための12の幻想曲」がCDプレーヤーの上に居座ったままで、片付けられない。ホリガーが吹いている79年の録音。夜中に小さな音量でまるまる一枚聴いても、ちょい聴きしても、どっちでもオッケー、疲れたときにボッとしながらでもいいし、少しマジメに耳を澄ましてみてもいい、あるいはBGMとしても活躍できるといったぐあいに、ほとんど万能。なので、防御率1点未満の中継ぎ投手並みに頻繁にCDプレーヤーに登板する。 これで1000円は安すぎる。
 幻想曲、ファンタジーといっても別に幻想的なわけじゃなくて、特定の形式に寄らない自由で即興的な曲くらいの意らしいのだが(実際、各曲はヴィヴァーチェとかアレグロだのとそっけなく指示されただけで題がない)、ワタシの耳には半数くらいは舞曲風に聞こえる。
 あ、ホリガーのディスクを挙げたので「無伴奏オーボエの〜」としているけど、本来はフルート(トラヴェルソ)のための曲っすよ。「無伴奏フルートのための12の幻想曲」と認識するのが普通。ワタシは最初にバルトルド・クイケンのディスクで知った。もちろんそれも悪くないんだけど、やっぱり笛一本でトラヴェルソだとちょっと寒々しいというか、冬向きではないというか、禁欲的すぎるというか。リード楽器のほうが暖まれそうな気がする。(03/12/04)

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●テレマン:無伴奏オーボエのための12の幻想曲
●ハインツ・ホリガー(ob)
●DENON



DVD「グレン・グールド 27歳の記憶」。あまりにも有名なあの……。

 はうう。堪能した。「グレン・グールド 27歳の記憶」、はるか昔の十数年前に一度見たきりになっていたのだが、また観ることができてよかった。昔、レーザーディスクでは「オン・ザ・レコード/オフ・ザ・レコード」という原題のままで出ていたと思うのだが、今は「27歳の記憶」の邦題でDVD化されている。
 で、ピアノの前でグルグル頭部を回転させながら、歌いつつ、そして片手が空けばもう一方の手を指揮して、憑依状態で弾くグレン・グールドっつう原型が、この映像にあったことを思い出した。バッハのイタリア協奏曲第2楽章のあまりに有名なレコーディング風景っすね。ニューヨークのスタインウェイでピアノを試弾する場面も思い出したし、「ウェーベルンがシャイな音楽? シャイな音楽ってのはこれだよ!」といってシューベルトの交響曲第5番を弾くのも思い出した。なんか、ワタシの頭では後半からカラー映像になる気がしてたんだけど、全部モノクロなんすね。時間も1時間しかない。でもこれは絶対に観ておいたほうがいい。
 で、個々の場面を見るとたちまちに自分の記憶が鮮明に甦ってくるのだが、一つ、ワタシはきわめて重要なポイントを忘れていたようだ。これは、ワタシが(そしてたぶん多くの人が)最初にこのドキュメンタリーに圧倒された理由でもある。すなわち、ここにいるグレン・グールドはまだ27歳の若者だってこと。グールドだけど未グールド。映像がたくさん残っているから、晩年のグールドがすぐに頭に浮かんじゃうんだけど、ここにいるのは「カッコよすぎる変人で天才な若者」なんすよ。だから若い頃に見ると、もうインパクト強烈で絶対に忘れられない。
 ちなみにワタシらは「グールドが何歳までどんなふうに生きて、そして死んだか」、このドキュメンタリーの登場人物のだれも知らない未来を知っている。だから、ますますこの映像が感慨深い。(03/09/19)

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●DVD「グレン・グールド 27歳の記憶」
●音楽ドキュメンタリー
●紀伊國屋書店発売

>> グールドのDVD一覧



イギリス人の好きなクラシック音楽第1位だってよ→ブルッフ

 たぶん10年ぶりくらいにブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番を聴いた。五嶋みどりの新譜が出てて、しかも伴奏がベルリン・フィルだからっていう理由があったんだけど、もうひとつ、どこかでイギリス人の好きなクラシック音楽ベストなんとかみたいな企画で1位に挙がっていたのを見かけたから。へー。日本じゃ絶対ベスト100にも入らないぞ、この曲。
 なんか、ブルッフとかってもうカッコ悪くないっすかー、もっさりしててー、なんつうのは久しく聴いてないせいで捏造された記憶、もう聴き出したら止まらない。毎日のように聴く。こういうボリューム感のあるロマンティックな曲のほうがホントは癒し系(死語としたい)だったんじゃないの。ちょっと腹の立つことがあったり、疲れたりしてると、無性にこの曲を聴きたくなるんすけど。ああ、10年聴かなかった甲斐があったー(←屈折した自己矛盾的名曲愛の典型)。
 カプリングがメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲で、こっちは日本人的には超超超有名曲っすよね。ワタシはあまり好きじゃない。メンデルスゾーンだったら、これよりもずっとカッコいい曲が少なくとも10曲はあると思っている。イチ推しは交響曲第5番「宗教改革」だな。えっ、それこそカッコ悪いって? うーん、冴えた曲だと思うがなあ。(03/09/09)

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●ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
●五嶋みどり(vn)、ヤンソンス指揮ベルリン・フィル
●SONY




全身からオーラ出まくってます! DVD「レオポルド・ストコフスキー」
 EMIのDVD「クラシック・アーカイブ・シリーズ」Vol.5「レオポルド・ストコフスキー」を観た(東芝EMIamazon)。これはいいっすねー。このDVDシリーズ、ジャケットがみんなモノクロ写真だから、中身も全部モノクロかと勘違いしている人がいるかもしれないんだが、ストコフスキーはカラー映像である(ボーナス・トラックを除く)。「運命」とか「牧神」とか、みんないいんだけど、特に「未完成」が力強くてすばらしい。
 映像で観たストコフスキーのいいところって、奇抜さと気品と両方が同時に存在してるところっすね。やっぱり「ヘンな爺さん」っていう先入観を持って見てるんだけど、独特の指揮ぶりからはオーラが出まくっている。もし現在、こんな人がいたら絶対にマニア/オタク層にはウケるだろうな。「優秀な音楽家」は大勢いるけど、「ヘン」と「気品」の両方を持った人ってほとんどいないから。(03/08/29)

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●DVD「クラシック・アーカイブ・シリーズ」Vol.5「レオポルド・ストコフスキー」
●EMI



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