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November 21, 2025

ラファエル・パヤーレ指揮NHK交響楽団のリヒャルト・シュトラウス

ラファエル・パヤーレ NHK交響楽団
●20日はサントリーホールでラファエル・パヤーレ指揮N響。全席完売。プログラムはシューマンの「マンフレッド」序曲、モーツァルトのピアノ協奏曲第25番ハ長調(エマニュエル・アックス)、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。パヤーレはベネズエラ生まれの中堅で、モントリオール交響楽団の音楽監督。5年前にN響とショスタコーヴィチの交響曲第5番他を指揮して以来の再登場。前回も好感度は高かったが、今回も爽快。やはり「英雄の生涯」のような大編成の曲がいい。ダイナミックな指揮ぶりで冒頭部分や戦場シーンをエネルギッシュかつ開放的に鳴らす一方で、「英雄の伴侶」はていねいで陶酔的。N響の弦楽器からしなやかで澄んだ音色を引き出していた。この曲、N響にとっては前任のパーヴォとの録音もあるし、現シェフのルイージとも演奏しているし、遡れば歴代名指揮者たちと名演を重ねてきた「勝負曲」みたいなところがあると思うけど、巨匠芸とはまた違った新風を吹き込んでくれた感。ショスタコーヴィチのときも思ったけど、眉間にしわを寄せる感じではなく、気持ちよくオーケストラの壮麗なサウンドを楽しませてくれるのが吉。コンサートマスターは長原幸太。雄弁な語り口。
●モーツァルトでは久々のエマニュエル・アックス。老巨匠然とした雰囲気になったけど、音楽はみずみずしい。モーツァルトの20番台のピアノ協奏曲のなかでは、23番は別格として、この第25番と第22番が好き。アンコールにシューベルト~リスト編の「セレナーデ」。この編曲はどうなのかなと思わなくもないが、キュンと来る名曲。
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●書店で亀山郁夫著「ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光」(岩波書店)が文庫化されているのを見かけた。この本が文庫化されるとは意外。名著。一瞬買い直そうかと迷ったが、さすがに思いとどまる。

November 20, 2025

クラウス・マケラ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のマーラー

クラウス・マケラ ロイヤル・コンセルトヘボウ
●16日はミューザ川崎、18日夜はサントリーホールでクラウス・マケラ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団。思うところがあり、同じプログラムを2度聴くことに。両日で印象の違う部分もあるにはあるが、基本的な手触りは変わらず、練り上げられたツアーのプログラム。前半がリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」、後半がマーラーの交響曲第5番。弦楽器は通常配置。このオーケストラではいつものように、なぜかファゴットとクラリネットの位置が逆。前半の「ドン・ファン」は明瞭で爽快。オーボエを筆頭に名手たちが妙技をくりひろげる。
●後半は一言でいえば、宝石のようなマーラー。あらゆる角度から見て美麗で、輝かしい。個の高い力量を生かして、細部まで磨き上げられ、アイディアも豊富。瞬間瞬間の壮麗さと緻密な表現力に感嘆する他ない。テンポは遅めで、前へ前へと進むのを拒むかのように、一歩ずつ立ち止まって精妙な音響構築物を築く。熱い魂の叫びではなく、ぜいたくな音の饗宴。キレがあり明快で、健康的。大ブラボーを叫ぶ人もいれば、マーラーに求めるのはこれじゃないという人もいるだろう。ともあれ、終演後の客席の反応は熱狂的で、もちろん、マケラのソロ・カーテンコールあり。マケラは袖からそっと出てきて、舞台の端で拍手を受ける。意外と控えめな様子。
●マーラーの交響曲はいろんな角度から聴けるのが魅力。傑作は重層的に楽しめるもの。自分の基本線は第5番という番号ゆえの「苦悩から歓喜へ、なんちて」。交響曲についての交響曲、メタ交響曲。葬送行進曲化した運命の動機で始まって、歓喜のパロディで終わる。パロディだからこそ最後は真の熱狂が必要。
●一年でいちばんコンサートの多い時期だが、またしても日本代表戦が重なってしまい、ニッポンvsボリビアは後日、録画観戦することに。さすがに結果は目に入った。

November 19, 2025

新国立劇場 ベルク「ヴォツェック」新制作 リチャード・ジョーンズ演出

●18日昼は新国立劇場でベルクの「ヴォツェック」新制作。演出はイギリスのリチャード・ジョーンズ。ピットに入ったのは大野和士指揮東京都交響楽団。歌手陣はヴォツェックにトーマス・ヨハネス・マイヤー、マリーにジェニファー・デイヴィス、鼓手長にジョン・ダザック、大尉にアーノルド・ベズイエン、医者に妻屋秀和、アンドレスに伊藤達人、マルグレートに郷家暁子。休憩がないので全3幕といっても全部で100分程度。無調の長大な声楽付き交響曲を聴くかのような趣もあって、雄弁なドラマを紡ぎ出すという観点から言えば、主役は都響だったかもしれない。強靭で重い響きが尋常ではない緊迫感を作り出す。稀有。歌手陣もマリーのジェニファー・デイヴィスをはじめ、どの役も好演。
●リチャード・ジョーンズの演出はぶっ飛んでた。がらんとした殺風景な舞台に小ぶりな部屋がいくつか用意され、これが代わる代わる前に出てくる。簡素だが、その分、群衆の動きが緻密で目を見張る。大尉や鼓手長、医者ら「持てる者」は赤、ヴォツェックら兵士の「持たざる者」は黄色の衣装を着用して、権力構造を視覚化する。このオペラには自分のお気に入りのモチーフとして、ヴォツェックが医者から人体実験として豆だけを食べるように命じられているという設定があるが、今回の演出では冒頭からいきなりヴォツェックが豆の缶詰をすくってモグモグと食べている。舞台下手の棚から好きなだけ豆缶を取り出すことができ、食べ終わったら上手のゴミ箱に空き缶を入れる。これを偏執的にくりかえす。ビバ、豆缶、食べ放題。
●「ヴォツェック」は救いのないオペラ。疎外された男を描いた20世紀の土左衛門オペラの二大傑作は「ヴォツェック」とブリテン「ピーター・グライムズ」だと思うが、「ピーター・グライムズ」を観ると「自分はピーターだ。同時に自分はピーターを追いつめる町の人々でもある」と何人もの登場人物に共感できるが、「ヴォツェック」にはだれひとり共感可能な人物はいない。みんな狂ってる、最初から。とくにこの演出では、そう感じる。ずっと狂気が支配していて、それを際立たせているのがある種のユーモア。群衆のダンスシーンとか、シュールな笑いがある。社会の底辺の起きる悲劇をブラックな笑いに包み込んだ「ヴォツェック」というか。痛烈で、そうだなー、意地悪とも言えるかな。
●まだ上演中なのでぜんぶは書かないが、おしまいの「ホップホップ」の場面に新機軸がある。賛否両論だと思うが、なるほど、そう来たか、とは思った。あと、子どもがテレビの画面から離れられない、というのも育児放棄感が出ていて切ない。

November 18, 2025

サントリーホール&ウィーン・フィルの青少年プログラム

サントリーホール&ウィーン・フィルの青少年プログラム●15日は午前中からサントリーホールで「サントリーホール&ウィーン・フィルの青少年プログラム」。ティーレマン指揮でブルックナーの交響曲第5番の第4楽章のみを演奏。中高生を対象としたプログラムなので土曜の午前開催なのだ。学校単位の参加が大半のようだが、個人でも参加可能。ふつうなら自分は入れないわけだが、プログラムノートの原稿を書かせてもらったので、あたかも引率の先生のような顔をして堂々と入る。ウィーン・フィルのメンバーもティーレマンも普段着で、公開ゲネプロ的な雰囲気なのだが、演奏に先立って、楽団員による演奏付き解説が用意されており、本気度の高い青少年プログラムになっている。客席は見渡す限りの中高生(ほぼ制服)で、サントリーホールでこの光景は新鮮。
●まずは楽団員ふたりが登場して、ウィーン・フィルの紹介から(英語、通訳付き)。ウィーン・フィル独自の楽器として、最初にティンパニ、次にホルン、そしてオーボエが実演付きで紹介された。続いては楽曲解説へ。これが予想外に本格的で、まずは序奏を聴かせた後、第1主題、第2主題、第3主題をそれぞれ紹介してから、フーガのデモンストレーション、さらには二重フーガの説明まで。クラシックになんの興味もない中高生にはチンプンカンプンだとは思うが、逆に言えばうっすらとでも興味を持っている子にはたまらない内容だったはず。なにせウィーン・フィルが目の前で弾いてくれるのだ。ここで「ビビビ!」と来た子が、いずれ大きくなってこのホールに帰ってくる姿は容易に想像できる。
●そのあと、ティーレマンが出てきて話をするのだが、その前の楽曲解説とはうらはらに、分析的に聴くよりも音楽はハートで感じてほしいんだといったメッセージを強く伝える。で、第4楽章の演奏に入った。もちろん、きょうびの中高生たちは行儀がよく、大人の演奏会より静かなくらい。そして、演奏は先日の本番とはまた違っている。先日は燃え上がるようなパッションが前面に出ていたのに対し、この日は楽器間のバランスを整えて各主題を際立たせていた感。曲が終わったら、さっと腕を下ろして、場内は拍手。こういう演奏を聴いても、自分はウルッと来る。しばらくブルックナー5が頭にこびりついて離れない。

November 17, 2025

IRCAMシネマ「チャップリン・ファクトリー」フェスティヴァル・ランタンポレル

●14日は東京文化会館小ホールでIRCAMシネマ「チャップリン・ファクトリー」。現代と古典の音楽のクロスオーバーをテーマとする「フェスティヴァル・ランタンポレル」の一公演で、無声映画に現代音楽を融合させるという試み。今回はチャップリンの映画にアルゼンチン出身の作曲家マルティン・マタロンが曲を付けた。舞台上に設置されたスクリーン上にチャップリンの3作品、「移民」「放浪者」「舞台裏」が上映され、これに合わせて作曲者指揮によるアンサンブルが曲を演奏する。と書くと、たんなる映画音楽に思えるかもしれないが、そういうことではない。音楽と映画の関係は付かず離れず。音楽は完全にモダンな書法で書かれた、IRCAMらしい「現代音楽」。必ずしも映像に音楽は同期していないが、ときにびっくりするほどの精度で同期していて、そこからユーモアが生まれる。たとえば、チャップリンがヴァイオリンを弾くシーンに呼応して、チェロ(あえて)がソロを弾いたり。
●チャップリンの映像はかなり強いコンテンツなので、観客としてはときに音楽が背景化して、「現代音楽のセルフパロディ」的に聞こえることもままあるのだが、全般に何とも言えない可笑しさがあって、これは映像だけでも音楽だけでも生み出せないテイストであることはたしか。表現形態として可能性を感じるものの、ゴールはどのあたりなのかな。音楽が主、ストーリーが従という点では、オペラ的でもある。
●80分ほどの上演後、そのままアフタートークが始まって、作曲者マルティン・マタロンに沼野雄司さんがインタビュー。興味深く聞く。どうやら作曲者が映像と音をシンクロさせていない場面でもこちら側で勝手に同期を読み取っている場面が多々あったのかも、と気づく。
●演奏者はアコーディオンとパーカッションふたりからなるTrio K/D/M(トリオ・カデム)、ソプラノの砂田愛梨、クラリネットの西川智也、チェロの髙木慶太、トロンボーンの髙瀨新太郎、IRCAMエレクトロニクスにディオニジオス・パパニコラウ、IRCAMサウンド・ディフュージョンにシルヴァン・カダー。
●同じ時間帯にサッカーのニッポン代表vsガーナ代表があった。後日、録画で見ることに。

November 14, 2025

サントリーホール開館40周年記者会見

サントリーホール開館40周年記者会見
●連日の記者会見で、12日はサントリーホールのブルーローズにてサントリーホール開館40周年記者会見。サントリーホールの堤剛館長、長政友美総支配人(左)に加えて、来日中のウィーン・フィルからダニエル・フロシャウアー楽団長も登壇。40周年記念事業について概要が発表された。
●中心となるのは例年の倍ほどの数にのぼる主催・共催公演。2026年もウィーン・フィルがやってくるのだが、指揮はリッカルド・ムーティ。ウィーン・フィルハーモニー・ウィーク・イン・ジャパンに加え、これに先んじて40周年記念ガラ・コンサートが開かれ(2公演)、ソリストとして内田光子が共演する。ほかに来日オーケストラでは、ラトル指揮バイエルン放送交響楽団、ティーレマン指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団、クルレンツィス指揮ユートピア管弦楽団、ドゥダメル指揮シモン・ボリバル交響楽団、ヴァルビエ・フェスティバル・オーケストラ(藤田真央のピアノ)など。
●日本のオーケストラの周年もたくさん重なっていて、沖澤のどか指揮京響は70周年、カーチュン・ウォン指揮日フィルも70周年でマーラー「千人の交響曲」、ロレンツォ・ヴィオッティ指揮東響は80周年でフランツ・シュミット「7つの封印の書」、ルイージ指揮N響は100周年でプッチーニ「トスカ」。ほかにタン・ドゥンのホール・オペラ「TEA」再再演など、もりだくん。一覧はこちらに。
●前日にウィーン・フィルはティーレマンの指揮でブルックナーの交響曲第5番を演奏したところ。フロシャウアー楽団長は「ウィーン・フィルにとってサントリーホールを訪れるということは、シーズンのハイライトを意味する。いつもここで持てる力をすべて出し切って、最高の演奏をしようと思える場所」と語っていた。

November 13, 2025

山田和樹&東京芸術劇場 交響的都市計画「水野修孝/交響的変容」記者懇談会

山田和樹 「水野修孝/交響的変容」記者懇談会
●11日は東京芸術劇場のリハーサルルームで山田和樹&東京芸術劇場による交響的都市計画「水野修孝/交響的変容」記者懇談会。2026年5月10日に演奏される伝説的な超大作、水野修孝作曲の「交響的変容」に向けて、東京芸術劇場の次期芸術監督である山田和樹が登壇、その意気込みを語ってくれた。山田和樹指揮読響、東京混声合唱団、栗友会合唱団、林英哲の太鼓、武藤厚志のティンパニという陣容で、全4部からなる「交響的変容」(1962~87)に挑む。
●この曲、ほとんどの人は知らないと思うのだが、1992年に幕張メッセイベントホールで700名を超える出演者により初演された正味3時間を超える大作で、いちばん編成が大きな第4部では9人もの指揮者が必要になるのだとか。再演は不可能とも言われた作品を、山田和樹の指揮とプロデュースにより取り上げる。東京芸術劇場での上演を可能にするために、作曲者の許可のもと、多少編成を縮小するが、それでも300名前後の規模になるそう。
●いくつか印象的だった言葉をピックアップ。山田「以前、日本フィルで水野修孝先生の交響曲第4番を指揮したとき、これは自分が作曲したんじゃないかという不思議な感覚があった。以来、水野作品の大ファンになった」「水野先生は現在91歳。とてもお元気。先生の前で再演を果たしたい」「水野先生の『交響的変容』はすべてが規格外の作品。編成も長さもキャンバスの枠組みを超えている。音楽界における岡本太郎のような人」「日本人作品については、自分がやることで生きるという確信がなければ取り上げない」
●で、そんな超弩級の大作であれば、どんな曲なのか、チラッとだけでも聴いてみたくなるもの。本来ならここになにかサンプル的なものを貼り付けたいところだが、残念ながらYouTubeにもSpotifyにもNaxosにも音源は一切ない。Amazonにもない。ワタシも聴いたことがない。ほんの少しでもいいので、なにかネット上で聴けるものがあったらいいですよね。

November 12, 2025

クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルのブルックナー

●11日はサントリーホールでクリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル。ブルックナーの交響曲第5番、一曲のみ。全席完売。これはもう鉄板プログラム。コンサートマスターにライナー・ホーネック。弦は対向配置。第1楽章が始まってすぐにウィーン・フィルのまろやかで芳醇な音色に聴き惚れてしまう。やはり唯一無二。屹然として、荒々しい造形美を誇る交響曲第5番とウィーン・フィルの壮麗な響きの組合せがたまらない。たとえるなら、アイスクリームに熱々のエスプレッソをかけたような(違うか)。後半から一段ギアがあがって、第4楽章は怒涛の勢いでクライマックスに向けて突き進む。宗教的な恍惚感よりもパッションが前面に出た火の玉のようなブルックナー。第1楽章と第4楽章でティンパニをふたりで叩く場面が視覚的にも熱い。曲がおわると、完全な沈黙が訪れた後、地響きのような「うぉ~」とともに大喝采。今季最大の盛り上がり。やはりブルックナーにはおじさんたちの「うぉ~」がよく似合う。楽員退出後も拍手が鳴りやまず、ティーレマンのソロカーテンコールに。場内スタンディングオベーション。
●ブルックナーの交響曲第5番って、第4楽章の終盤に一瞬、「かわいい」が出てくるじゃないすか。4小節だけ、ヴァイオリンがスピッカートでうれしそうに駆け上がってくる場面。あそこでいつも、スキップしながらこっちに近づいてくるブルックナーの絵が思い浮かぶのは自分だけじゃないと思う。
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●先週、サーバーの問題で当サイトにつながりにくい状況がときどきあったが、ようやく復旧した模様。原因はもうひとつ、はっきりしない。

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制作者

飯尾洋一(Yoichi Iio)

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