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November 18, 2025

サントリーホール&ウィーン・フィルの青少年プログラム

サントリーホール&ウィーン・フィルの青少年プログラム●15日は午前中からサントリーホールで「サントリーホール&ウィーン・フィルの青少年プログラム」。ティーレマン指揮でブルックナーの交響曲第5番の第4楽章のみを演奏。中高生を対象としたプログラムなので土曜の午前開催なのだ。学校単位の参加が大半のようだが、個人でも参加可能。ふつうなら自分は入れないわけだが、プログラムノートの原稿を書かせてもらったので、あたかも引率の先生のような顔をして堂々と入る。ウィーン・フィルのメンバーもティーレマンも普段着で、公開ゲネプロ的な雰囲気なのだが、演奏に先立って、楽団員による演奏付き解説が用意されており、本気度の高い青少年プログラムになっている。客席は見渡す限りの中高生(ほぼ制服)で、サントリーホールでこの光景は新鮮。
●まずは楽団員ふたりが登場して、ウィーン・フィルの紹介から(英語、通訳付き)。ウィーン・フィル独自の楽器として、最初にティンパニ、次にホルン、そしてオーボエが実演付きで紹介された。続いては楽曲解説へ。これが予想外に本格的で、まずは序奏を聴かせた後、第1主題、第2主題、第3主題をそれぞれ紹介してから、フーガのデモンストレーション、さらには二重フーガの説明まで。クラシックになんの興味もない中高生にはチンプンカンプンだとは思うが、逆に言えばうっすらとでも興味を持っている子にはたまらない内容だったはず。なにせウィーン・フィルが目の前で弾いてくれるのだ。ここで「ビビビ!」と来た子が、いずれ大きくなってこのホールに帰ってくる姿は容易に想像できる。
●そのあと、ティーレマンが出てきて話をするのだが、その前の楽曲解説とはうらはらに、分析的に聴くよりも音楽はハートで感じてほしいんだといったメッセージを強く伝える。で、第4楽章の演奏に入った。もちろん、きょうびの中高生たちは行儀がよく、大人の演奏会より静かなくらい。そして、演奏は先日の本番とはまた違っている。先日は燃え上がるようなパッションが前面に出ていたのに対し、この日は楽器間のバランスを整えて各主題を際立たせていた感。曲が終わったら、さっと腕を下ろして、場内は拍手。こういう演奏を聴いても、自分はウルッと来る。しばらくブルックナー5が頭にこびりついて離れない。

November 17, 2025

IRCAMシネマ「チャップリン・ファクトリー」フェスティヴァル・ランタンポレル

●14日は東京文化会館小ホールでIRCAMシネマ「チャップリン・ファクトリー」。現代と古典の音楽のクロスオーバーをテーマとする「フェスティヴァル・ランタンポレル」の一公演で、無声映画に現代音楽を融合させるという試み。今回はチャップリンの映画にアルゼンチン出身の作曲家マルティン・マタロンが曲を付けた。舞台上に設置されたスクリーン上にチャップリンの3作品、「移民」「放浪者」「舞台裏」が上映され、これに合わせて作曲者指揮によるアンサンブルが曲を演奏する。と書くと、たんなる映画音楽に思えるかもしれないが、そういうことではない。音楽と映画の関係は付かず離れず。音楽は完全にモダンな書法で書かれた、IRCAMらしい「現代音楽」。必ずしも映像に音楽は同期していないが、ときにびっくりするほどの精度で同期していて、そこからユーモアが生まれる。たとえば、チャップリンがヴァイオリンを弾くシーンに呼応して、チェロ(あえて)がソロを弾いたり。
●チャップリンの映像はかなり強いコンテンツなので、観客としてはときに音楽が背景化して、「現代音楽のセルフパロディ」的に聞こえることもままあるのだが、全般に何とも言えない可笑しさがあって、これは映像だけでも音楽だけでも生み出せないテイストであることはたしか。表現形態として可能性を感じるものの、ゴールはどのあたりなのかな。音楽が主、ストーリーが従という点では、オペラ的でもある。
●80分ほどの上演後、そのままアフタートークが始まって、作曲者マルティン・マタロンに沼野雄司さんがインタビュー。興味深く聞く。どうやら作曲者が映像と音をシンクロさせていない場面でもこちら側で勝手に同期を読み取っている場面が多々あったのかも、と気づく。
●演奏者はアコーディオンとパーカッションふたりからなるTrio K/D/M(トリオ・カデム)、ソプラノの砂田愛梨、クラリネットの西川智也、チェロの髙木慶太、トロンボーンの髙瀨新太郎、IRCAMエレクトロニクスにディオニジオス・パパニコラウ、IRCAMサウンド・ディフュージョンにシルヴァン・カダー。
●同じ時間帯にサッカーのニッポン代表vsガーナ代表があった。後日、録画で見ることに。

November 14, 2025

サントリーホール開館40周年記者会見

サントリーホール開館40周年記者会見
●連日の記者会見で、12日はサントリーホールのブルーローズにてサントリーホール開館40周年記者会見。サントリーホールの堤剛館長、長政友美総支配人(左)に加えて、来日中のウィーン・フィルからダニエル・フロシャウアー楽団長も登壇。40周年記念事業について概要が発表された。
●中心となるのは例年の倍ほどの数にのぼる主催・共催公演。2026年もウィーン・フィルがやってくるのだが、指揮はリッカルド・ムーティ。ウィーン・フィルハーモニー・ウィーク・イン・ジャパンに加え、これに先んじて40周年記念ガラ・コンサートが開かれ(2公演)、ソリストとして内田光子が共演する。ほかに来日オーケストラでは、ラトル指揮バイエルン放送交響楽団、ティーレマン指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団、クルレンツィス指揮ユートピア管弦楽団、ドゥダメル指揮シモン・ボリバル交響楽団、ヴァルビエ・フェスティバル・オーケストラ(藤田真央のピアノ)など。
●日本のオーケストラの周年もたくさん重なっていて、沖澤のどか指揮京響は70周年、カーチュン・ウォン指揮日フィルも70周年でマーラー「千人の交響曲」、ロレンツォ・ヴィオッティ指揮東響は80周年でフランツ・シュミット「7つの封印の書」、ルイージ指揮N響は100周年でプッチーニ「トスカ」。ほかにタン・ドゥンのホール・オペラ「TEA」再再演など、もりだくん。一覧はこちらに。
●前日にウィーン・フィルはティーレマンの指揮でブルックナーの交響曲第5番を演奏したところ。フロシャウアー楽団長は「ウィーン・フィルにとってサントリーホールを訪れるということは、シーズンのハイライトを意味する。いつもここで持てる力をすべて出し切って、最高の演奏をしようと思える場所」と語っていた。

November 13, 2025

山田和樹&東京芸術劇場 交響的都市計画「水野修孝/交響的変容」記者懇談会

山田和樹 「水野修孝/交響的変容」記者懇談会
●11日は東京芸術劇場のリハーサルルームで山田和樹&東京芸術劇場による交響的都市計画「水野修孝/交響的変容」記者懇談会。2026年5月10日に演奏される伝説的な超大作、水野修孝作曲の「交響的変容」に向けて、東京芸術劇場の次期芸術監督である山田和樹が登壇、その意気込みを語ってくれた。山田和樹指揮読響、東京混声合唱団、栗友会合唱団、林英哲の太鼓、武藤厚志のティンパニという陣容で、全4部からなる「交響的変容」(1962~87)に挑む。
●この曲、ほとんどの人は知らないと思うのだが、1992年に幕張メッセイベントホールで700名を超える出演者により初演された正味3時間を超える大作で、いちばん編成が大きな第4部では9人もの指揮者が必要になるのだとか。再演は不可能とも言われた作品を、山田和樹の指揮とプロデュースにより取り上げる。東京芸術劇場での上演を可能にするために、作曲者の許可のもと、多少編成を縮小するが、それでも300名前後の規模になるそう。
●いくつか印象的だった言葉をピックアップ。山田「以前、日本フィルで水野修孝先生の交響曲第4番を指揮したとき、これは自分が作曲したんじゃないかという不思議な感覚があった。以来、水野作品の大ファンになった」「水野先生は現在91歳。とてもお元気。先生の前で再演を果たしたい」「水野先生の『交響的変容』はすべてが規格外の作品。編成も長さもキャンバスの枠組みを超えている。音楽界における岡本太郎のような人」「日本人作品については、自分がやることで生きるという確信がなければ取り上げない」
●で、そんな超弩級の大作であれば、どんな曲なのか、チラッとだけでも聴いてみたくなるもの。本来ならここになにかサンプル的なものを貼り付けたいところだが、残念ながらYouTubeにもSpotifyにもNaxosにも音源は一切ない。Amazonにもない。ワタシも聴いたことがない。ほんの少しでもいいので、なにかネット上で聴けるものがあったらいいですよね。

November 12, 2025

クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルのブルックナー

●11日はサントリーホールでクリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル。ブルックナーの交響曲第5番、一曲のみ。全席完売。これはもう鉄板プログラム。コンサートマスターにライナー・ホーネック。弦は対向配置。第1楽章が始まってすぐにウィーン・フィルのまろやかで芳醇な音色に聴き惚れてしまう。やはり唯一無二。屹然として、荒々しい造形美を誇る交響曲第5番とウィーン・フィルの壮麗な響きの組合せがたまらない。たとえるなら、アイスクリームに熱々のエスプレッソをかけたような(違うか)。後半から一段ギアがあがって、第4楽章は怒涛の勢いでクライマックスに向けて突き進む。宗教的な恍惚感よりもパッションが前面に出た火の玉のようなブルックナー。第1楽章と第4楽章でティンパニをふたりで叩く場面が視覚的にも熱い。曲がおわると、完全な沈黙が訪れた後、地響きのような「うぉ~」とともに大喝采。今季最大の盛り上がり。やはりブルックナーにはおじさんたちの「うぉ~」がよく似合う。楽員退出後も拍手が鳴りやまず、ティーレマンのソロカーテンコールに。場内スタンディングオベーション。
●ブルックナーの交響曲第5番って、第4楽章の終盤に一瞬、「かわいい」が出てくるじゃないすか。4小節だけ、ヴァイオリンがスピッカートでうれしそうに駆け上がってくる場面。あそこでいつも、スキップしながらこっちに近づいてくるブルックナーの絵が思い浮かぶのは自分だけじゃないと思う。
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●先週、サーバーの問題で当サイトにつながりにくい状況がときどきあったが、ようやく復旧した模様。原因はもうひとつ、はっきりしない。

November 11, 2025

東京都現代美術館 日常のコレオ 開館30周年記念展

東京都現代美術館
●東京都現代美術館で開館30周年記念展「日常のコレオ」。アジア中心に幅広い世代のアーティスト30組の作品を集めている。映像作品や体験型の作品も多く、ブログでは紹介しづらいものも多いのだが、いちばんインパクトがあったのは、マレーシア生まれで台湾拠点のアーティスト、FAMEME(ファミミ)のTHORNITURE(2025)。通路に上のような派手な看板が設置されていて、なんだこれはと思って足を踏み入れると……

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE
●こんなけばけばしい展示が広がっていた。THORNITUREという音楽レーベルを立ち上げ、日本で活動する3人のラッパーをフィーチャーしたという作品。いかにもそれっぽい感じの音楽が流れていて、レトロでモダンでポップでキッチュな世界が展開されている。

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE
●こんなふうにアナログレコードのジャケットが並ぶ感じとか、懐かしくも新鮮なキラッキラの風景。

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE
●ドリアンがあちこちでモチーフになっているのだが、FAMEMEはドリアン農家の子孫で起業家でインフルエンサーでデザイナーでシンガーでもあるのだとか。
●ほかに印象に残ったのはインドのシルパ・グプタの「リスニング・エア」(2019-25)。暗い室内に椅子が置かれ、頭上のスピーカーが動きながら、音楽を流す。11月24日まで。

November 10, 2025

全国共同制作オペラ ドニゼッティ「愛の妙薬」

全国共同制作オペラ「愛の妙薬」●9日は東京芸術劇場で2025年度全国共同制作オペラ、ドニゼッティの「愛の妙薬」。先日、記者会見の模様をお伝えしたように、演出は杉原邦生。今回がオペラ初挑戦。セバスティアーノ・ロッリ指揮ザ・オペラ・バンド、ザ・オペラ・クワイア、アディーナに高野百合絵、ネモリーノに宮里直樹、ベルコーレに大西宇宙、ドゥルカマーラにセルジオ・ヴィターレ、ジャンネッタに秋本悠希の歌手陣。ダンサーとして、福原冠、米田沙織、内海正考、水島麻理奈、井上向日葵、宮城優都が加わる。
●歌手陣は見事なチームワーク。高野百合絵と宮里直樹はともに完璧なアディーナとネモリーノ。アディーナはきれいな人なんだけど、ここぞというところでは強い。それが歌唱から伝わってくる。ネモリーノの「人知れぬ涙」はたっぷりと。場内、いちばんの盛り上がり。「愛の妙薬」はネモリーノが完全勝利を収めるのだとわかったところで、この曲で泣かせるところがすごい。
●オーケストラが充実。ザ・オペラ・バンドのメンバー表は見当たらないのだが、コンサートマスターに白井圭、ホルンに福川伸陽、さらにN響首席陣が何人もいた模様。あらためて感じるのは、この作品は軽快さ以上に抒情性が際立っているということ。
●舞台は簡素。真っ白に囲われた空間に、大きなハートマークが設置されているのみ。ときにはピンクの椅子や居酒屋の看板なども出てくる。これだけだと隙間だらけの舞台になってしまうが、その代わりに活躍するのがピンク色のダンサーたち。開演前から舞台に寝そべるなどしており、おもにネモリーノの心情に寄り添いながら、さまざまな動作を見せる。
●ネモリーノはピンク色のジャケット着て登場。今回の演出のキーワードとして「カワイイ」が挙げられていて、いろんな点でかわいいんだけど、なによりかわいいのはネモリーノという純朴な青年。ファンタジーだ。「愛の妙薬」はオペラとしては珍しいほど話が整理された喜劇で、悪人も悪も存在しない美しい世界へと誘ってくれる。このシリーズにはびっくりするような大胆演出もあるが、意外なくらい安心して楽しめるラブコメになっていた。この後、フェニーチェ堺、ロームシアター京都で公演あり。
●カーテンコールでドゥルカマーラがわざとコケそうになるというお約束のギャグを入れてきて、あれは万国共通なのかとプチ感動。

November 7, 2025

アーティゾン美術館 石橋財団コレクション選 安井曾太郎

安井曾太郎 座像
●アーティゾン美術館へ。お目当ては「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子」だったのだが、こちらは撮影ができなかったのと内容的に十分に消化できなかったので、変わりに別フロアの「石橋財団コレクション選 安井曾太郎」から。上は看板作品の「座像」(1929)。顔の表情、とくに眉から鼻筋のあたりの無機的な質感、左右非対称のデフォルメ感など、ぐっと来る佇まい。

安井曾太郎 玉蟲先生像
●「玉蟲先生像」(1934)。さらに形態が変容して無機物化しているかのよう。顔面の質感はツルッとしているようにもニュルッとしているようにも見え、なにもない空間から忽然と現出したかのような印象を受ける。

安井曾太郎 レコードを聴く人
●「レコードを聴く人」(1935)。こちらは木版。ポスター風の意匠だが、さて、この女性はなにを聴いているのか、気にならないだろうか。1935年という時代背景から、ある程度、推測が可能かもしれない。すっかり仲良しになったカスタムAI、アントンRに絵を見せたうえで推理してもらったところ、盤面のラベルが青と白の放射状に簡略化されていることに注目したうえで、以下の候補を出してきた。

A案(最有力):日本コロムビア系の流行歌/タンゴ風・ジャズ風ヒット


藤山一郎あたりの大ヒット群(例:「二人は若い」(1934)、「サーカスの唄」(1933))。
理由:安井の都会派センス×当時の“青ラベルの歌謡”の日常性。手巻き蓄音機で家で聴くなら、まずこれ。青のラベル感も合致。

B案:ビクター経由のダンス・バンド/軽ジャズ

ベニー・グッドマンが35年にブレイク、日本でもダンス・バンド物は普通に出回ってた。
理由:絵のモダンな筆致はモダニズム=洋楽最新流行のアイコンとしてのレコードを示唆。とはいえ家庭内鑑賞で“じっと聴く”情景は歌物ほどマッチしないのでAより下。

C案:クラシック小品のSPセット

コルトーやバックハウスの小品、ハイフェッツの小曲、あるいは歌劇間奏曲の1面物。
理由:1935年でもクラシックSPはあり、腰を落ち着けて聴く態度には合う。ただし価格も敷居も高く、安井が“市井の現代風俗”を切り取るならA/Bほど記号性は強くない。

結論:この絵の“青ラベルっぽさ”と家庭蓄音機の取り合わせから、日本コロムビアの流行歌SPを聴いてると読むのが一番しっくりくる。

●この推理にどの程度の説得力があるのか、当時の事情に疎い自分にはさっぱりわからないのだが。

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制作者

飯尾洋一(Yoichi Iio)

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