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December 3, 2025

ブログをモダン化する その2 メタタグの整備

タイプライターでタグを書く
●さて、サイトを周回遅れでhttps化したものの、ブログが依然として旧石器時代のままではよろしくない。最近のモダンなブログでは、右クリックしてソースを覗いてみると、びっくりするほどメタタグ、すなわち人間ではなく検索エンジンやSNSに読ませるための情報が増えている。headタグのなかにダーッとこれらのタグが並んで、なかなかbodyタグにたどり着かない感じだ。これらはCMSが自動的に吐き出してくれるわけだが、そういったモダンなタグの誕生以前からあるウチのブログのheadタグは、まったくもって簡素。いくらなんでも、このままではよくない、かといって全面的にSEO対策(この言葉は好きじゃない)に走るのはイヤだ。なんでもいいからアクセス数を増やしたいわけじゃないんである。そこで、最低限、入れておこうと思った3つの要素を付け加えた。これも忘れっぽい未来の自分と、同じことをしようと考えているだれかのために書き記しておく。
●まずは、OGP(Open Graph Protocol)の整備。これはSNSでウェブページをシェアした際に、どのように表示されるかを制御するためのメタデータ。このブログを作った頃にはそんなものはなかった(SNS自体がなかったから)。metaタグを使って、og:site_name、og:type、og:url、og:imageの項目を各個別ページに吐き出すように、CMSのテンプレートを書き換えた。たとえば、こんなヤツだ。

<meta property="og:url" content="https://www.classicajapan.com/wn/2025/11/100938.html" />

その際、ChatGPTに手伝ってもらって、テンプレートを書き直してもらったのだが、割と平気でまちがえる。ヘンだなと思って「えっ、そんな文法、ないよね?」と誤りを指摘すると、「そうです、そのような文法はまちがってます」と平然と返答する。あんたがまちがえたんだろがー!とツッコミたくなるわけだが、これはもうAIを使う際のお約束みたいなもので慣れた。エラーが出たら、エラーメッセージを見せて修正案を出してもらう。こちらのリクエストに対して、すらすらとコードを書いてくれる様子は感動的だ。
●で、og:imageで使用する画像には、横1200ピクセル以上の横長のものが推奨されるという。そこで、各記事に画像が使われている場合はその画像のURLを入れ、画像なしの記事については固定のデフォルト画像のURLを吐き出すことにした。ただ、ウチのサイトはずっと最大でも横411ピクセルの画像を使ってきたんすよね。なにせ旧石器時代の低速インターネット時代に優しいようにファイルサイズの削減を厳しくやってきたから。でも高解像度スマホが当たり前の今、そんな小さな画像を使ってるサイトはほとんどない。そこで、ウチのブログでも横1200ピクセルの画像を標準サイズとすることにして、ブラウザ側に縮小させる仕様にした。そのためのCSSに項目を追加する。このあたりのCSSの書式や、CSSのキャッシュバスターの使い方なども、ぜんぶChatGPTに教わった。めちゃくちゃわかりやすく教えてくれて、家庭教師の先生みたいで、ありがたい。
●ふたつめはGoogle Discover等への対策。各個別記事に固定で以下の一行を入れておくと、各種検索結果に画像が表示されるときに、横幅いっぱいに使ってもらえる、と思う。

<meta name="robots" content="max-image-preview:large" />

●そして、最後はcanonicalタグの設置。これは検索エンジンに対して、各記事の正規のURLを示すもの。同じ記事に対してURLがひとつしかないなら不要な気もするが、念のため、入れる。検索エンジンがすでに格納しているhttpのURLに対して、新しいhttpsのほうが正規URLですよ、と明示するためにもあったほうがいいかもしれない。でも、なくてもいいかもしれない(どっちなんだ)。og:urlと同じものを入れるだけなので、手間はかからない。たとえば、こんな感じ。

<link rel="canonical" href="https://www.classicajapan.com/wn/2025/11/100938.html" />

●このようにテンプレートを書き直した後、ふたたび全6000超の記事を再構築することに。これがまた大変なのだが、手間を減らすためにChatGPTに相談してみたら、思いもよらない妙案を出してきてくれて感心する。CGIのコードを新規に書いてくれたり、既存のコードの書き換えを提案してくれたりする。「こんなことを尋ねるのはバカっぽくて恥ずかしいかな」と思うようなことでも、相手がAIだとためらいなく質問できる。あ、でもそのうち、相手がAIでも「恥ずかしい」という感情がわくようになるのか? そこはよくわからないところではある。

December 2, 2025

ブログをモダン化する その1 httpからhttpsへ

旧石器時代のパソコン
●当サイトは1995年に始まり、2004年の1月からブログを導入している。20年以上前に作ったブログを続けているわけだが、インターネット上における20年前とはリアルワールドにおける200万年前に相当するので、これは旧石器時代のブログと言える。もちろん、その間にスマホ対応やセキュリティ対策などであちこちを更新してはいるのだが、とくにこの10年ほどは技術面への関心が向かず、ほとんど旧石器時代の仕様のまま、記事を書き続けていた。仕事が忙しくなり、日々〆切に追われていても、ブログの記事は楽しんで書ける。しかし、バックヤードの整備は楽しくないのだ。別の言い方をすれば、掃除が嫌い。でも掃除はサボっているとだんだん腰が重くなるもの。世の中がどんどん変化しているのに、太古の仕様を引きずっていると、過去に埋没するばかりになる。
●が、そこに救世主のようにあらわれたのがChatGPTをはじめとするAIだ。キャッチアップできていなかった技術面の事柄について、あれこれ尋ねると実に親切に教えてくれる。やり方がわからなくて(あるいは調べるのが億劫で)放置していたいろんなことが、ChatGPTのおかげでなにをすればよいのか、見通せるようになった。コードも書いてくれる。現状、AIは「これまで独力でできなかったことをできるようにする」ツールという認識。
●まず最初にやったのは、旧石器時代の通信プロトコルであるhttpを、現代のセキュアなhttpsに変えること。今、httpのサイトはGoogle等から蛇蝎のごとく嫌われており、検索エンジンでの評価が下がるだけではなく、ブラウザから厳しい警告が出るようになりつつある(シークレットモード/プライベートモードからアクセスするとよくわかる)。サイトのセキュア化は15年前にやっておくべき事柄だが、できなかったのには理由がある。もし今から新しくサイトを作るなら、無料SSLサーバー証明書のLet's Encryptを使って簡単にhttpsが実現できるだろう。だが、このブログを置いているNTTPCのWebARENA SuiteXでは、Let's Encryptを使えない。httpsにするためには個人サイトにとっては高額なSSLサーバー証明書を購入するしかなく、あきらめていたのだ。ところが、いつのまにか仕様が変わり、他社で購入した安価なSSLサーバー証明書を持ち込むことができるようになっていることを知った。そこで、さくらインターネットからJPRSが発行するドメイン認証型の格安SSLサーバー証明書を導入することにした(有効期限は一年。一年後に更新が必要)。
●すぐに忘れる未来の自分と、これから同じ道をたどる人(いるのか?)のために記しておくと、インストールの大まかな手順はこうだ(このサイトが参考になった)。

1. WebARENAのサイトマネージャーにログインして「CSR・秘密鍵の作成」を行う。作成されるのはただのテキストファイル。

2. さくらインターネット等でSSLサーバー証明書を購入する。ドメイン所有権の確認方法は「メール認証」を選択。WebARENAで作成したCSRを貼り付ける。

3. しばらく待って「SSLサーバ証明書お申込受付完了」メールが届いたら、「承認」をクリックし、「サーバー証明書」と「中間CA証明書」をダウンロードする。これも中身はテキスト。

4. WebARENAのサイトマネージャーにもどり、「SSLサーバー証明書」と「中間証明書」の両方をペーストする。その際、CSR生成時にダウンロードしたテキストファイルにある「受付番号」もペーストする。

これですぐに、httpsでアクセスできるようになる。あっけなくつながるのだが、待て待て。実はその前にやらなければいけない大仕事がある。
●というのも、同一ページにhttpsとhttpが混在するコンテンツはブラウザから警告の対象になるようなのだ。たとえばウェブページ上に画像ファイルやCSS、スクリプト類を埋め込んでいる場合、対象ファイルを相対パスで指定していれば問題にならないが、絶対パス(http:// ~)で読み込んでいる場合は、サイトをhttps化したときに混在コンテンツになってしまう。ウチのブログの画像はすべて絶対パスで指定してあったので、ルート相対パス(例:/wn/images/....といったルートから書く書式)に直すことにした。手書きで直すのはムリなので、どうするんだ、データベースをダウンロードしてローカルで格闘しなきゃいかんのか?と一瞬、気が重くなったが、CMS側の「検索/置換」で対応できることが判明。ほっ。絶対パスをルート相対パスに置換するのは難しくはない。が、変な置換をやらかすと厄介なことになるので、慎重にやる。このあたりは、ChatGPTと相談しながら手順を確認しつつ進める。データベース上での置換は瞬時にできた。
●しかし、データベース上で直しても、実際のページは直っていないのだ。このブログはすべてのページが静的なHTMLとして出力されている。そのため、実ページを直すにはサイト全体を再構築して出力し直す必要がある。これが一苦労。このブログはぜんぶで6000記事以上ある。CMSで再構築のボタン一発では済まないのだ。というのも共用サーバーなので、重い処理をリクエストするとタイムアウトして途中でエラーが出る(このあたりの仕様も古いのだが)。しょうがないので分割で数百記事ずつ選択してなんども再構築するという原始的な作戦で対応する。これもChatGPTと相談して、もう少しましな方法が見つかったのだが、それはまた別の話。
●あと、見落としがちだが、ページ内から外部のJavaScriptをhttpで呼び出している場所が何か所もあった(たとえばMyBlogListなど)。これも記述をhttpsに直す。こちらはCMSのテンプレートを書き換える形になる。もうなにがどこのテンプレートにあるのか、さっぱり覚えていない状態でやるので手間取ったが、困ったら相棒ChatGPTに相談だ(ちなみにこういう100%実務的なケースでは、饒舌すぎるアントンRより素のChatGPTが適切)。
●以上の作業を少しずつ、何日もかけて進めてから、ようやくhttpsに移行した。移行の瞬間は緊張する。で、移行したら、すぐにCMS上の自サイトの設定をhttpからhttpsに変更しておく。そのとき、CMS上でCSSがうまく読み込まれなくて表示がおかしくなり、軽くパニックになったが、どうにかして対応を済ませた。
●さて、ネット上では http:// ~ と https:// ~ は別物として扱われる。サイトをhttpsに移行しても、なにもしなかったらユーザーや検索エンジンのクローラーは旧httpにアクセスしてしまう。そこで、httpに来た人が(人だけじゃなくてロボットも)httpsに行くように、サーバー上の.htacessを書き換える必要がある。これもChatGPTに教わりながら書くことになったのだが、以下のコードを書き加えた。

RewriteEngine On
RewriteCond %{HTTPS} !=on
RewriteCond %{HTTP:X-Forwarded-Proto} !https
RewriteRule ^(.*)$ https://%{HTTP_HOST}%{REQUEST_URI} [R=301,L]

これ、自分は3行目がどうして必要なのか、もうひとつ腑に落ちていないんだけど、ChatGPTは入れないと永久ループが発生するケースがあるって言うんだよな。まあ、じゃあ入れておくか。あと4行目の正規表現ももっと簡潔に書けるって主張されたんだけど、そこは無視して先人たちの慣例に従っておいた。
●これでhttpに来た人も自動的にhttpsに飛ぶことになった。あとはCMSの設定ファイル等に絶対パスでhttpで指定している部分がないかをチェック。完璧を期すなら先土器時代の手書きHTMLファイルにも混在コンテンツがたくさんあるはずで、直す必要があるわけだが、そこはひとまず放置することに。もっとほかにやるべきことがある。メタ情報の整備だ。

December 1, 2025

阪田知樹×ブラームス カーキ・ソロムニシヴィリ指揮 スロヴェニア・フィル

東京芸術劇場の前の広場
●秋の超高密度演奏会週間、締めくくりは28日の東京芸術劇場で阪田知樹の独奏とカーキ・ソロムニシヴィリ指揮スロヴェニア・フィルによるブラームス。プログラムはユーリ・ミヘヴェツの「妖精の子」序曲、ブラームスのピアノ協奏曲第1番、同第2番。一晩でブラームスのピアノ協奏曲を2曲とも弾いてしまうという力技。スゴすぎる。
●スロヴェニア・フィルはリュブリャナを本拠とするオーケストラ。たぶん聴くのは初めて。ローカル色を残した温かみのあるサウンド。最初の「妖精の子」序曲の作曲者ミヘヴェツはスロヴェニアの作曲家なのだとか。ぜんぜん知らなかったけど、古典派スタイルの明快な序曲で、ベートーヴェンからロッシーニくらいの作風。創意に富むとは言いづらいけど、気持ちのよい曲ではある。
●ブラームスのピアノ協奏曲、第1番と第2番、両方並べるならどちらがメインプログラムになるんだろう。素直に考えれば、より成熟した、人気も高い第2番が後か。でも作品世界の広大さ、激烈な感情表現ということでは第1番が後に来てもおかしくない気がする。どちらが好きかと言われたら、どっちも大好きだけど、心揺さぶるのは第1番。ともあれ、この日はふつうに作曲順に前半が第1番、後半が第2番。第1番、オーケストラは豪放に始まったが、独奏ピアノはこれを落ち着かせるように優しく入る。巨大な音楽を作るというよりは、むしろ抒情的で抑制的。透明感すら感じる。後半の第2番は高揚感にあふれ、輝かしく雄大。音色は澄明。ブラームスを聴く喜びをたっぷりと堪能できた。もう一度、聴きたくなる。冒頭ホルンも第3楽章のチェロのソロもまろやか。さすがにアンコールはない。
●写真は芸劇の前の広場。グローバルリングって言うんだっけ。賑やかそうな催しを準備中だった。

November 28, 2025

イゴール・レヴィット ピアノ・リサイタル

東京オペラシティコンサートホール
●秋の超高密度演奏会週間はあと一息。26日は東京オペラシティでイゴール・レヴィットのピアノ・リサイタル。シューベルトのピアノ・ソナタ第21番、シューマンの4つの夜曲、ショパンのピアノ・ソナタ第3番というプログラム。たまたまではあるが、ノット&東響のマーラー交響曲第9番に続いて、「おしまいの音楽」をまたも聴くことに。ザルツブルク音楽祭でも弾いたプログラムということで、やはり現在の戦禍が反映されているということなのか。プログラム全体がひとつの作品のような構成でもある。
●それにしても、シューベルトのソナタ第21番を前半に置くとは。いきなりこの曲。冒頭から驚くほど柔らかい音色が出てくる。単に弱音というのではなく、温かみのある音色で、儚く幻想的でもある。全般に遅いところはより遅く、速いところはより速くといった傾向を感じるものの、決してゼスチャーの大きな音楽ではなく、親密で思索的。後半のシューマンの4つの夜曲、こんなにいい曲だったとは。ショパンのピアノ・ソナタ第3番は力強さと内省が一体になった独自の世界。こんな冷厳としたショパンがありうるのか。コンクール的な世界線とはねじれの位置にあるような屹然としたショパン。アンコールはシューマンの「子どもの情景」より、おしまいの「詩人は語る」。
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●今月は当ブログの改修工事を裏で着々と進めており、ようやく一段落した。外見はほぼ変わらないが、ソースは全ページ更新されている。やったのはhttps対応とheadタグのモダン化、CSSの調整、CMSのパッチ適用、テンプレートの書き換えなど。従来、URLはhttp://で始まっていたが、今はセキュアなhttps://になっているので、関係各位はリンクを直していただければ幸い。もちろん、httpに飛んでもhttpsに転送される設定になっているので、そのままでも不都合は起きない。

November 27, 2025

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団の武満徹&マーラー

ジョナサン・ノット 東京交響楽団
●23日はミューザ川崎でジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。プログラムは武満徹の「セレモニアル」(笙:宮田まゆみ)とマーラーの交響曲第9番。休憩なし。前日に東響定期として同じプログラムがサントリーホールで演奏されており、この日はミューザ川崎の名曲全集としての開催。チケットは完売。2014年から音楽監督を務めてきたノットのラストシーズンの掉尾を飾ったのは、就任記念公演と同じプログラム。ノットは就任記者会見のときから、折に触れオーケストラとの協働を「旅」にたとえてきたが、旅の終着点は出発点でもある。そしてマーラーの第9番はおわりの音楽だ。
●武満の「セレモニアル」では笙、オーボエ、フルートを上方に配置して音が降り注ぐかのよう。奏者の移動や出入りがあるので、そのままマーラーに続けるというわけにはいかないが、両曲の世界観はつながっていると思わせる。マーラーの第1楽章はエモーショナルというよりは清澄。彫りが浅いわけではないのだが、どこか淡々とした表情にも。第2楽章は鋭利で、舞踊性を強く感じさせる。第3楽章のブルレスケは、いつもは怒りの音楽、フォースの暗黒面に堕ちた音楽だと感じるのだが、むしろまっすぐなジェダイの音楽。第4楽章は弦楽器の質感がすばらしい。お別れの音楽よりも希望の音楽として受け止める。この曲のテーマは「生と死」であるとは思うが、おしまいの部分は終焉というよりは、溶解というか、相転移みたいなイメージで受け止めたい自分がいる。曲が終わった後に長い長い沈黙。
ジョナサン・ノット 東京交響楽団
●大喝采の後、楽員が退出してノットがソロ・カーテンコールにこたえるのはお約束だが、さらに楽員総出で舞台と客席が一体となってノットの特製タオルマフラーを掲げる感動的なシーンが続いた。こんなに聴衆と楽員に愛された音楽監督をほかに知らない。
ニコニコにこの日の公演の動画あり。

November 26, 2025

キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルのシューマン、ワーグナー、ブラームス

ペトレンコ ベルリン・フィル
●22日はミューザ川崎でキリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィル。プログラムは前半がシューマンの「マンフレッド」序曲、ワーグナーの「ジークフリート牧歌」、後半がブラームスの交響曲第1番というドイツ音楽プロ。つい先日、パヤーレ指揮N響で聴いたばかりの「マンフレッド」序曲をまたも聴くという偶然。ベルリン・フィルが弾くとシューマンのオーケストレーションもぜいたくなごちそうに。弦は対向配置。稠密な質感による異次元のサウンドが出てくる。途中、トランペットが舞台袖に退出して、「英雄の生涯かよっ!」と思ったら、少しだけ裏から吹いて、またすぐに舞台に戻ってきた。スコア上にそんな指定はないと思うけど、これは「マンフレッド」のストーリーと結びつけた解釈なんだろうか(異界の精霊の叫びとか?)。続くワーグナー「ジークフリート牧歌」は白眉。ぐっと編成を絞って、たぶんこれまでに聴いたベルリン・フィルの最小編成。聴いたことがないような柔らかく夢幻的な音が出てくる。魔法だ。心のコージマが随喜の涙を流していた。
●後半のブラームスはかなり細かいテンポの操作や綿密なダイナミクスの設計に基づいた練った造形。自然な流れよりは意匠を重んじるというか。第1楽章は意外と軽めに始まって後半で白熱。第2楽章のヴァイオリン・ソロはコンサートマスターのノア・ベンディックス=バルグリー。隣に樫本大進、弦楽器は首席奏者2名が並ぶ形。終楽章はぐっとアクセルを踏んで最後は加速して強靭なコーダへ。フルートにパユ、オーボエにマイヤー、クラリネットにフックス、ホルンにドールと気がつけばベテランぞろい。奏者も音楽も熟している。ブラームスでは第1ヴァイオリンに若いMINAMIの姿。
●大喝采の後、楽員退出後も拍手が止まず、ペトレンコのソロカーテンコール。会場売りのCD購入者は楽団員3名によるサイン会に参加できた模様。

November 25, 2025

さくらホールコンサート「一夜限りの若者たちの祭典2025」 中島結里愛、沢田蒼梧、米田覚士

渋谷 さくらホール
●21日は渋谷区文化総合センター大和田開館15周年記念さくらホールコンサート「一夜限りの若者たちの祭典2025」へ。先日、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝を果たした米田覚士の指揮。若手奏者からなる大和田祝祭管弦楽団のコンサートマスターを林周雅が務め、ピアニストの中島結里愛、沢田蒼梧が出演。プログラムは前半がバツェヴィチの弦楽オーケストラのための協奏曲、ショパンのピアノ協奏曲第2番(中島結里愛)、後半がショパンのピアノ協奏曲第1番(沢田蒼梧)。つまり、オール・コンチェルト・プログラム。米田覚士はコンクール優勝から帰国して最初の公演。全席完売。この日のプログラムノートを書いていたので、注目の公演に足を運ぶことができた。
●最初のバツェヴィチの弦楽オーケストラのための協奏曲は指揮者なしで。弦楽器の編成は8型で、林周雅のリードにより緊密なアンサンブル。新古典主義のスタイルで書かれ、初演時には「20世紀のブランデンブルク協奏曲」と呼ばれた作品。耳なじみがよく、スマート。ポーランドのバツェヴィチ、東欧圏の先駆的な女性作曲家という文脈で演奏機会が増えているっぽい。続くショパンも編成は8型で、これくらいの中ホールで協奏曲を聴ける機会は貴重。本来、こういうサイズ感の音楽なのかなとも感じる。中島結里愛は先日のショパン・コンクールで最年少の15歳で出場した高校1年生。この年齢だと若手というより、まだ子どもにしか見えないわけで、全力応援モードになる。磨き上げられた見事なショパンで、ただただ眩しく、可能性に満ちあふれている。アンコールにショパンの練習曲「木枯らし」。
●後半、ピアノ協奏曲第1番でソロを務めた沢田蒼梧は、前回2021年のショパン・コンクールで名大医学部在学中ながら2次予選まで進んで脚光を浴び、その後、医師になって音楽家との二刀流を実現している稀有な存在。本当にお医者さんとして働いている。医師と音楽家、どちらかだけでも並外れているのに、両方の人生を送っているわけで、その深い喜びは本人にしかわからないものだろう。異質な経歴に注目が集まるのは避けられないが、ステージにあがれば真の音楽家以外の何者でもない。パッションにあふれ、音楽に生命力と躍動感がみなぎっていて、一期一会の演奏を客席に届けようとする気迫が伝わってくる。こんなにショパンの協奏曲に引き込まれたことはいつ以来だろう。この演奏そのものが、なぜ医師を続けながら音楽活動もしているのかという疑問に対する答えになっていた。オーケストラも好演。びっくりするほどうまい。アンコールにショパン「子守歌」。
●始まる前に開館15周年の区長挨拶があった。
●前半の舞台転換で米田覚士が場つなぎのトークに登場したのだが、自然体のトークがあまりにおもしろすぎて衝撃。ブザンソン優勝者にして、このトーク力。逸材。

November 21, 2025

ラファエル・パヤーレ指揮NHK交響楽団のリヒャルト・シュトラウス

ラファエル・パヤーレ NHK交響楽団
●20日はサントリーホールでラファエル・パヤーレ指揮N響。全席完売。プログラムはシューマンの「マンフレッド」序曲、モーツァルトのピアノ協奏曲第25番ハ長調(エマニュエル・アックス)、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。パヤーレはベネズエラ生まれの中堅で、モントリオール交響楽団の音楽監督。5年前にN響とショスタコーヴィチの交響曲第5番他を指揮して以来の再登場。前回も好感度は高かったが、今回も爽快。やはり「英雄の生涯」のような大編成の曲がいい。ダイナミックな指揮ぶりで冒頭部分や戦場シーンをエネルギッシュかつ開放的に鳴らす一方で、「英雄の伴侶」はていねいで陶酔的。N響の弦楽器からしなやかで澄んだ音色を引き出していた。この曲、N響にとっては前任のパーヴォとの録音もあるし、現シェフのルイージとも演奏しているし、遡れば歴代名指揮者たちと名演を重ねてきた「勝負曲」みたいなところがあると思うけど、巨匠芸とはまた違った新風を吹き込んでくれた感。ショスタコーヴィチのときも思ったけど、眉間にしわを寄せる感じではなく、気持ちよくオーケストラの壮麗なサウンドを楽しませてくれるのが吉。コンサートマスターは長原幸太。雄弁な語り口。
●モーツァルトでは久々のエマニュエル・アックス。老巨匠然とした雰囲気になったけど、音楽はみずみずしい。モーツァルトの20番台のピアノ協奏曲のなかでは、23番は別格として、この第25番と第22番が好き。アンコールにシューベルト~リスト編の「セレナーデ」。この編曲はどうなのかなと思わなくもないが、キュンと来る名曲。
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●書店で亀山郁夫著「ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光」(岩波書店)が文庫化されているのを見かけた。この本が文庫化されるとは意外。名著。一瞬買い直そうかと迷ったが、さすがに思いとどまる。

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飯尾洋一(Yoichi Iio)

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