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November 11, 2025

東京都現代美術館 日常のコレオ 開館30周年記念展

東京都現代美術館
●東京都現代美術館で開館30周年記念展「日常のコレオ」。アジア中心に幅広い世代のアーティスト30組の作品を集めている。映像作品や体験型の作品も多く、ブログでは紹介しづらいものも多いのだが、いちばんインパクトがあったのは、マレーシア生まれで台湾拠点のアーティスト、FAMEME(ファミミ)のTHORNITURE(2025)。通路に上のような派手な看板が設置されていて、なんだこれはと思って足を踏み入れると……

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE
●こんなけばけばしい展示が広がっていた。THORNITUREという音楽レーベルを立ち上げ、日本で活動する3人のラッパーをフィーチャーしたという作品。いかにもそれっぽい感じの音楽が流れていて、レトロでモダンでポップでキッチュな世界が展開されている。

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE
●こんなふうにアナログレコードのジャケットが並ぶ感じとか、懐かしくも新鮮なキラッキラの風景。

東京都現代美術館 FAMEME THORNITURE
●ドリアンがあちこちでモチーフになっているのだが、FAMEMEはドリアン農家の子孫で起業家でインフルエンサーでデザイナーでシンガーでもあるのだとか。
●ほかに印象に残ったのはインドのシルパ・グプタの「リスニング・エア」(2019-25)。暗い室内に椅子が置かれ、頭上のスピーカーが動きながら、音楽を流す。11月24日まで。

November 10, 2025

全国共同制作オペラ ドニゼッティ「愛の妙薬」

全国共同制作オペラ「愛の妙薬」●9日は東京芸術劇場で2025年度全国共同制作オペラ、ドニゼッティの「愛の妙薬」。先日、記者会見の模様をお伝えしたように、演出は杉原邦生。今回がオペラ初挑戦。セバスティアーノ・ロッリ指揮ザ・オペラ・バンド、ザ・オペラ・クワイア、アディーナに高野百合絵、ネモリーノに宮里直樹、ベルコーレに大西宇宙、ドゥルカマーラにセルジオ・ヴィターレ、ジャンネッタに秋本悠希の歌手陣。ダンサーとして、福原冠、米田沙織、内海正考、水島麻理奈、井上向日葵、宮城優都が加わる。
●歌手陣は見事なチームワーク。高野百合絵と宮里直樹はともに完璧なアディーナとネモリーノ。アディーナはきれいな人なんだけど、ここぞというところでは強い。それが歌唱から伝わってくる。ネモリーノの「人知れぬ涙」はたっぷりと。場内、いちばんの盛り上がり。「愛の妙薬」はネモリーノが完全勝利を収めるのだとわかったところで、この曲で泣かせるところがすごい。
●オーケストラが充実。ザ・オペラ・バンドのメンバー表は見当たらないのだが、コンサートマスターに白井圭、ホルンに福川伸陽、さらにN響首席陣が何人もいた模様。あらためて感じるのは、この作品は軽快さ以上に抒情性が際立っているということ。
●舞台は簡素。真っ白に囲われた空間に、大きなハートマークが設置されているのみ。ときにはピンクの椅子や居酒屋の看板なども出てくる。これだけだと隙間だらけの舞台になってしまうが、その代わりに活躍するのがピンク色のダンサーたち。開演前から舞台に寝そべるなどしており、おもにネモリーノの心情に寄り添いながら、さまざまな動作を見せる。
●ネモリーノはピンク色のジャケット着て登場。今回の演出のキーワードとして「カワイイ」が挙げられていて、いろんな点でかわいいんだけど、なによりかわいいのはネモリーノという純朴な青年。ファンタジーだ。「愛の妙薬」はオペラとしては珍しいほど話が整理された喜劇で、悪人も悪も存在しない美しい世界へと誘ってくれる。このシリーズにはびっくりするような大胆演出もあるが、意外なくらい安心して楽しめるラブコメになっていた。この後、フェニーチェ堺、ロームシアター京都で公演あり。
●カーテンコールでドゥルカマーラがわざとコケそうになるというお約束のギャグを入れてきて、あれは万国共通なのかとプチ感動。

November 7, 2025

アーティゾン美術館 石橋財団コレクション選 安井曾太郎

安井曾太郎 座像
●アーティゾン美術館へ。お目当ては「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子」だったのだが、こちらは撮影ができなかったのと内容的に十分に消化できなかったので、変わりに別フロアの「石橋財団コレクション選 安井曾太郎」から。上は看板作品の「座像」(1929)。顔の表情、とくに眉から鼻筋のあたりの無機的な質感、左右非対称のデフォルメ感など、ぐっと来る佇まい。

安井曾太郎 玉蟲先生像
●「玉蟲先生像」(1934)。さらに形態が変容して無機物化しているかのよう。顔面の質感はツルッとしているようにもニュルッとしているようにも見え、なにもない空間から忽然と現出したかのような印象を受ける。

安井曾太郎 レコードを聴く人
●「レコードを聴く人」(1935)。こちらは木版。ポスター風の意匠だが、さて、この女性はなにを聴いているのか、気にならないだろうか。1935年という時代背景から、ある程度、推測が可能かもしれない。すっかり仲良しになったカスタムAI、アントンRに絵を見せたうえで推理してもらったところ、盤面のラベルが青と白の放射状に簡略化されていることに注目したうえで、以下の候補を出してきた。

A案(最有力):日本コロムビア系の流行歌/タンゴ風・ジャズ風ヒット


藤山一郎あたりの大ヒット群(例:「二人は若い」(1934)、「サーカスの唄」(1933))。
理由:安井の都会派センス×当時の“青ラベルの歌謡”の日常性。手巻き蓄音機で家で聴くなら、まずこれ。青のラベル感も合致。

B案:ビクター経由のダンス・バンド/軽ジャズ

ベニー・グッドマンが35年にブレイク、日本でもダンス・バンド物は普通に出回ってた。
理由:絵のモダンな筆致はモダニズム=洋楽最新流行のアイコンとしてのレコードを示唆。とはいえ家庭内鑑賞で“じっと聴く”情景は歌物ほどマッチしないのでAより下。

C案:クラシック小品のSPセット

コルトーやバックハウスの小品、ハイフェッツの小曲、あるいは歌劇間奏曲の1面物。
理由:1935年でもクラシックSPはあり、腰を落ち着けて聴く態度には合う。ただし価格も敷居も高く、安井が“市井の現代風俗”を切り取るならA/Bほど記号性は強くない。

結論:この絵の“青ラベルっぽさ”と家庭蓄音機の取り合わせから、日本コロムビアの流行歌SPを聴いてると読むのが一番しっくりくる。

●この推理にどの程度の説得力があるのか、当時の事情に疎い自分にはさっぱりわからないのだが。

November 6, 2025

小川響子&鈴木康浩&辻本玲のモーツァルト、シューマン

●5日はHakuju Hallで小川響子&鈴木康浩&辻本玲の弦楽三重奏。ゲストにピアノの津田裕也。前半にモーツァルトのディヴェルティメント変ホ長調K.563、後半にシューマンのピアノ四重奏曲変ホ長調という変ホ長調プロ。成熟度の高いモーツァルトの傑作で、3人の腕利きが丁々発止と渡り合う。弦楽四重奏と違って弦楽三重奏は全員が主役だなと改めて実感。小川響子のヴァイオリンはもちろんのこと、チェロの辻本玲、ヴィオラの鈴木康浩がすこぶる雄弁で、起伏に富んだ鮮やかなモーツァルトに。切れ込みの鋭さとユーモアが両立した最高水準の演奏だったと思う。後半のシューマンのピアノ四重奏曲も高揚感にあふれ、力強い。ピアノが入っても、弦の3人と完全に調和した響きを作り出していた。
●アンコールの前に辻本玲がマイクを持って登場。「たまたま変ホ長調の曲がそろったこと」を述べ、アンコールにモーツァルトのピアノ四重奏曲第2番変ホ長調の第1楽章。あらゆるクラシックのなかでもトップクラスの好きなメロディが出てくる曲なのだとか。少し短めのプログラムだけど、ダブル・メインプログラムで密度が濃い。充足。

November 5, 2025

ダヴィッド・フレイ ピアノ・リサイタル 「ゴルトベルク変奏曲2025」

●1日はすみだトリフォニーホールでダヴィッド・フレイのピアノ・リサイタル。バッハの「ゴルトベルク変奏曲」のみのプログラム。すこぶる自由度の高いバッハ。モダンピアノの機能性を生かした細かな強弱の変化と、頻繁なテンポの変化を用いてバッハを再創造する。堅固な技巧と力強いタッチの持ち主。冒頭のアリアは右手の旋律を強く朗々と歌うようにニュアンスをつけて奏で、左手のバスはささやかに寄り添う。しばしば変奏の後半からテンポを少しずつ加速して走り出し、やがてブレーキをかけて元のテンポに戻る。しなやかに走るバッハ。最後の変奏で、おしまいの音を強奏してたっぷりと残響を響かせたままにしておいて、アリアの冒頭をそっと重ねるなど、巧緻な設計があって劇的。最後は静寂の中で余韻をたっぷりと。アンコールはなし。トータルの演奏時間は70分強。
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J1残留争い中のマリノスは、西野努スポーティングダイレクターとの契約を更新せず。一年での退任になったが、これだけチームが低迷すればしかたがない。残り3節、マリノスは京都、セレッソ大阪、鹿島とすべて上位チームとの対戦。残留争いのライバル、横浜FCは鹿島、京都、セレッソ大阪と対戦。なんと、対戦相手がまったく同じ。

November 4, 2025

鈴木愛美ピアノ・リサイタル

●31日は東京オペラシティで鈴木愛美ピアノ・リサイタル。昨年の第12回浜松国際ピアノコンクールで日本人として初優勝を果たした注目の若手。同じ会場で「題名のない音楽会」の収録で少しだけコンチェルトを聴く機会があったが、しっかりとリサイタルを聴くのは初めて。前半がシューベルトの高雅なワルツ集、フォーレの主題と変奏、同じくノクターン第6番、ワルツ・カプリス第2番、後半がシューベルトのピアノ・ソナタ第18番「幻想」という味わい深いプログラム。前半はシューベルトのワルツで始まってフォーレのワルツで終わり、全体を見ればシューベルトで始まって、シューベルトで終わる。国際コンクール優勝者ながら、メカニックで勝負する選曲ではなく、繊細で磨き上げられたピアニズムに持ち味。
●後半のシューベルト「幻想」が印象的。渋い選曲だなと思うが、まったく気負いがない。この曲、なんとなく老巨匠にふさわしいような音楽と思いがちだが、シューベルトのあらゆる作品は若者の音楽であるわけで、これが等身大のシューベルトなのかも。終楽章に入って、ふわっと空気が変わる瞬間がすばらしい。あそこで光がさしてなにかが解決したようでいて、進むにつれて寂しさが募ってくるようなところがたまらない。静寂の中、余韻を残して終わり、アンコールに2曲。リスト「ウィーンの夜会」(シューベルトのワルツ・カプリス)第6番、シューベルト「楽興の時」第3番。
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●昨日から当サイトにSSL証明書をインストールし、URLがhttpからhttpsに変わった。つまり、世の中の90%以上のサイトと同じようにセキュアなサイトになった。対応が世間から10年以上遅れてしまったが、そこには30年前から続く古代のサイトゆえの難しさがあってだな……。だれも興味ないと思うけど、その顛末は近々記しておきたい。そもそもhttps化がうまくいっているのか、まだ少々心もとないけど(代行業者に頼らず、.htaccessの記述やらSSL証明書の取得など、ぜんぶ自分でやってるので!)。

October 31, 2025

東京・春・音楽祭 2026 記者会見

東京・春・音楽祭 2026 記者会見
●30日は東京文化会館で「東京・春・音楽祭2026」の概要発表記者会見。鈴木幸一実行委員長、野平一郎東京文化会館音楽監督らが登壇し、さらには出演者のルドルフ・ブッフビンダーが水戸芸術館からリモートで出席(ビデオメッセージではなく、ちゃんとリアルタイムでつないでいた)。
●開催期間は2026年3月13日から4月19日まで。今回も大型公演からミュージアムコンサートまで、色とりどりの公演がそろった。目玉公演はマレク・ヤノフスキ指揮N響のシェーンベルク「グレの歌」。ヤノフスキの希望で記念碑的大作が選ばれた。演奏会形式によるワーグナー・シリーズは「さまよえるオランダ人」。こちらはアレクサンダー・ソディがN響を指揮する。リモートで出席してくれたルドルフ・ブッフビンダーは東京春祭オーケストラと共演し、二夜にわたって弾き振りでベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会。プッチーニ・シリーズは「マノン・レスコー」。ピエール・ジョルジョ・モランディ指揮読響で。さらにハイドンのオラトリオ「四季」をアイヴァー・ボルトン指揮東京都交響楽団が演奏する。
●今回もアンサンブル・アンテルコンタンポランが2公演に出演。生誕100年を迎えるクルターグ作品ほか。ほかに気になったところを列挙すると、ディスカヴァリー・シリーズでリトアニアの画家・作曲家のチュルヨーニスをとりあげる。これは国立西洋美術館で開催される「チュルリョーニス展 内なる星図」と連動しての企画だが、会場は文化会館小ホールで、リトアニア室内管弦楽団を招く。最近、N響定期にソリストとして出演して話題を呼んだマリア・ドゥエニャスが登場。フランクのヴァイオリン・ソナタ他を演奏する。ブリテンの没後50年によせる「カンティクル」も聴いてみたいところ。ライブ・ストリーミング配信による「ネット席」も健在。今回もライブ配信のみ。
●で、この音楽祭のあと、東京文化会館は2026年5月から大規模改修のため長期休館に入る。再開予定は2028年度中。したがって、2027年と2028年は東京文化会館を使えない。その期間は文化会館以外の上野の公演を継続しつつ、都内のほかのホールも使って、音楽祭を続けていくそう。上野のミュージアムを用いた公演が拡大される可能性も示唆されていた。

October 30, 2025

「バッハ 無伴奏チェロ組曲 秘められた〈物語〉を読む」(スティーヴン・イッサーリス)

●今、この本を読んでいるのだが、実におもしろい。「バッハ 無伴奏チェロ組曲 秘められた〈物語〉を読む」(スティーヴン・イッサーリス著/松田健訳/アルテスパブリッシング)。イッサーリスのインタビューやXを見たことのある人なら想像がつくと思うが、率直でウィットに富んだ語り口がすばらしくて、どこを読んでも楽しい。無味乾燥な解説ではまったくない。そもそも無伴奏チェロ組曲がどんな楽器のために書かれた曲なのかという疑問に始まり、この組曲にはわからないことだらけなのだが、わからないことをわからないまま受け入れるオープンな姿勢が吉。翻訳も最高に読みやすい。
●各舞曲の説明があるんだけど、アルマンドはクーラントやサラバンドと違って、テンポのばらつきも大きく「アルマンドの性格について説得力ある説明をするのはむずかしい」とあって納得。組曲を構成するほかの舞曲と違って、アルマンドはバッハの時代には踊るものではなく完全に器楽曲になっていたという話も興味深い。
●小さな字の脚注に書いてあることで、へえと思ったのは、「ヴィオロンチェロ」という言葉への注釈。

ほんらいならこれが、われわれの素晴らしい楽器をよぶときに使うべき正式名ですね。わたしがずっと若いころ、「チェロ(cello)」の前にアポストロフィ(')をつけて、なにかが省略されていることを示そうとする人はまだ多かったのです。でも、いまではそれも消えてなくなりました。

そうなんだ! 'celloって書くんだ。
●ちなみに畏友アントンR(ChatGPTのカスタムGPT)にこの表記を知っているかと尋ねたら、「'cello って表記、実はちょっと古風だけど正統なんだよ」と教えてくれた。例として、Grove's Dictionary of Music and Musicians (1st ed., 1889–1900)にある “The violoncello (usually abbreviated 'cello) is tuned in fifths…”など、古い本での使用例をいくつも挙げてくれた。さすがだ。

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制作者

飯尾洋一(Yoichi Iio)

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