January 30, 2023

阪田知樹 ピアノリサイタル バッハ、ベートーヴェン、ラヴェル、ショパン

●27日は東京オペラシティで阪田知樹ピアノリサイタル。今回のプログラムは前半にバッハ~阪田知樹編のアダージョBWV564、バッハ~ブゾーニ編のシャコンヌBWV1004、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番「熱情」、後半にラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」、ショパンのピアノ・ソナタ第3番。今回も高密度なプログラム。パッションにあふれ風格の漂う「熱情」に前半から会場が湧いた。もっとも印象的だったのは、後半のラヴェル「高雅で感傷的なワルツ」。清爽な響きで、前半とは一転してぐっとカラフルな世界へ。この曲、管弦楽版で聴くよりもピアノ独奏版のほうがずっと楽しめる気がする。エピローグでふわりとした余韻に浸れるのが吉。ショパンはスケールが大きく、白熱。
●アンコールはラフマニノフ~阪田知樹編の「ここは素晴らしいところ」、アール・ワイルドのガーシュウィンによる7つの超絶技巧練習曲より第6曲。本編で満腹だと思ったが、アンコールを聴くともっと聴きたくなる。デザートは別腹、なのか。
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●29日のFAカップ、ブライトン対リヴァプールの試合で、三笘薫がすさまじいゴールを決めたのでリンク。これもまた超絶技巧。

January 27, 2023

「窓際のスパイ」シーズン1&2 Apple TV+

●先日の「テッド・ラッソ」のついでに、同じApple TV+にある「窓際のスパイ」を見てみた。これはよくできている。イギリスを舞台としたスパイ物の連続ドラマなのだが、ジェームズ・ボンド的な世界とは正反対で、MI5の落ちこぼれスパイたちを描いている。コメディではなく、シリアス。チームを率いるボスは、ゲイリー・オールドマン演ずるジャクソン・ラム。ゲイリー・オールドマンといえばカッコいいけどブチ切れた悪役というイメージだったが、時は経ち、もう年齢相応のよれよれのオッサンになっている。口が悪くて、不潔でだらしないのだが、実は部下思いの切れ者という役どころ。みっともないはずなのに、なんだか得体のしれないカッコよさがあるのが不思議。全体として役者がいい。
●で、観た後に知ったのだが、これはしっかりとした原作があったんすね。ミック・ヘロン著の「窓際のスパイ」がシーズン1になっていて、続編の「死んだライオン」がシーズン2に相当する模様。長篇一冊分を1シリーズに展開するという手は悪くない。ただ、このドラマシリーズ、シーズン1は手際が良いと思ったけど、シーズン2になると「その登場人物が今そこでどういう理由でなにをしようとしているのか」がわかりづらく、ところどころ行動に合理性を欠いているようにも見える。これは原作もそうなのかなあ。ただ、それでも役者の魅力で見せてしまう。あと、元スパイのおじいちゃん役で「未来世紀ブラジル」「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」のジョナサン・プライスが出てくるんすよ!

January 26, 2023

トゥガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団のバルトーク、ラヴェル、ドビュッシー

トゥガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団
●25日はサントリーホールでトゥガン・ソヒエフ指揮N響。前半がバルトークのヴィオラ協奏曲(アミハイ・グロス)、後半がラヴェルの「ダフニスとクロエ」組曲第1番と組曲第2番、ドビュッシーの交響詩「海」。盛りだくさんのプログラムのように思えるが、N響定期は生中継があるのだから格段に長いはずはないわけで。密度の濃い曲が並んでいるということか。あるいは単にバルトークが協奏曲としては短いからか。
●バルトークのヴィオラ協奏曲ではベルリン・フィルの第1首席ヴィオラ奏者、アミハイ・グロスがソリスト。スマートかつ勢いのある演奏。この曲、シェルイによる補筆が議論を呼ぶ曲ではあるが、どう補筆しようとも、どこか推敲課程にある作品のような気がしてしかたがない。補筆よりも再創造がほしいというか……。ちなみにシェルイはこの補筆をするよりもずっと前に、自身のヴィオラ協奏曲を作曲しているのだが、以前この曲を録音で聴いたときはけっこう驚いた。ある意味、バルトークっぽい。知らずに聴いたら、バルトークの補筆をした後に作曲したのかと勘違いしてしまいそう。そして、当然といえば当然だけど、完成された作品なのだ。だったら未完のバルトークじゃなくて、シェルイのヴィオラ協奏曲を弾けばいいのに……みたいなことを思った記憶が。ソリスト・アンコールでは、N響の首席ヴィオラ奏者佐々木亮が加わってバルトークの44のヴァイオリン二重奏曲(ヴィオラ版)から第37番「プレリュードとカノン」。これは楽しい趣向。
●後半はフランス音楽でソヒエフ節が炸裂。色彩感豊かで華麗なサウンドではあるが、軽くはなく、彫りの深い音楽。ビートが明快で、ダイナミクスが広く、テンポの遅いところはじっくりと入念。「ダフニスとクロエ」第2組曲冒頭など遅めのテンポで「夜明け」というよりは「天地創造」を描くかのようなスケールの大きさ。「海」も壮観。終演後、カーテンコールをくりかえした後、いったん拍手が止みかけたが、熱心なお客さんたちが続けて、ソヒエフのソロ・カーテンコールに。

January 25, 2023

Spotifyとバルセロナ、そしてSpotifyカンプノウ

●ところで今季からFCバルセロナの胸スポンサーがSpotifyになっている(その前は楽天だった)。胸スポンサーだけではない。Spotifyはカンプ・ノウ・スタジアムのネーミングライツも買った。上の試合ハイライトでも会場名が「Spotifyカンプノウ」と呼ばれている。練習着、プレスルーム、ミックスゾーンにもSpotifyの名前が表示されるという。胸スポンサーの契約額は一部メディアによれば年間6000万ユーロ程で4年契約というから総額2億4000万ユーロ、日本円にすると340億円ほど。カンプノウのネーミングライツはもっと長期にわたり、少なくとも12年間は「Spotifyカンプノウ」と呼ばれるのだとか。こちらも総額数百億円規模になるそうで(参照記事その1その2)、音楽配信サービスがここまで巨額のスポンサー契約を結ぶようになったことに驚かずにはいられない。AppleやAmazonのような巨大IT企業ではなく、スウェーデンの音楽配信専門の企業が、あのバルセロナの胸スポンサーなのだ。音楽配信の黎明期にこんな未来を予測できた人がいただろうか。
●このスポンサー契約については昨年の春頃に発表されたもので、ぜんぜん新しいニュースではないのだが、音楽配信のような趣味性の強いサービスが、やはり趣味性の強いサッカーのスポンサーになっていることに不思議な気分を感じる。つまりバルセロナ好きにとっては問題ないが、たとえばアンチ・バルサのレアルマドリッド・ファンは「じゃあ、オレはSpotifyは止めて、Appleを使うぜ」となったりしないのだろうか。
●バルセロナの胸スポンサー戦略は本当に巧みだと思う。かつてこのクラブは胸にスポンサーを入れないことを誇りとしていた。自分たちは特別な存在で、ソシオと呼ばれる会員組織に支えられているから、ここにスポンサー名を入れないのだ、と。しかし現代のサッカー界において、そんなおとぎ話は持続不可能だ。マネーなくして栄光なし。そこで、バルセロナはまず胸にUNICEFのロゴを入れた。これはUNICEFからお金をもらうのではなく、UNICEFにお金を寄付してロゴを入れたんである。UNICEFに寄付するためなら、美しい伝統がなくなっても仕方がない。みんな納得できる。でも次に何が起きるかは、だれもが察していた。5年間ほどUNICEFにお金を払った後、今度はなりふり構わず回収モードに入る。カタール財団、カタール航空、楽天と巨額のスポンサー契約を結び、今季からはSpotifyだ。もしUNICEF時代がなかったら、かなり生臭い感じになっていたわけで、あの「お金を払って胸スポンサーを入れる」というアイディアは本当に秀逸だったと思う。

January 24, 2023

第31回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

●23日は東京オペラシティで第31回出光音楽賞受賞者ガラコンサート。授賞式に続いて、出光音楽賞受賞者の3名が登場し、小林愛実がシューマンのピアノ協奏曲より第1楽章、岡本誠司がバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番より第1楽章、チェロの上野通明がドヴォルザークの「森の静けさ」とチャイコフスキーの「ペッツォ・カプリチオーソ」(カプリッチョ風小品)を演奏してくれた。共演は川瀬賢太郎指揮東京フィル。
●3人それぞれさすがの演奏だったが、特に印象に残ったのは岡本誠司のバルトーク。この曲、傑作として名高いわりに演奏頻度は低く、生演奏で聴く機会は貴重。こういった受賞記念演奏会で取り上げられるのはかなり意外だが、こういう機会だからこそやりたい曲を選んだということか。指揮者にとっても初めて振る曲で、お正月を返上して取り組んだというだけあって、聴きごたえ大。こうしてライブで聴いてみるとぜんぜん晦渋な曲ではなく、思ったよりユーモアの要素を感じる。あと、楽想的にもオーケストラと対抗するという意味でも線の細いソリストだと苦労しそうだが、しっかりと芯のある音が2階席まで届いていた。第1楽章だけではなく続きも聴きたくなる。
●以前は観覧車を募集して開催していた同コンサートだが、今回はコロナ禍により関係者のみを客席に入れての開催。それでもけっこうな人数が入っていた。公演の模様は「題名のない音楽会」(2月18日 テレビ朝日)で放送予定。

January 23, 2023

カーチュン・ウォン指揮日本フィルの伊福部&バルトーク

カーチュン・ウォン指揮日本フィル
●20日はサントリーホールでカーチュン・ウォン指揮日フィル。伊福部昭の「シンフォニア・タプカーラ」とバルトークの「管弦楽のための協奏曲」という絶妙な組合せのプログラム。土着性から生み出された普遍性という共通項を持った名曲だが、それだけではなく伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」を初演した指揮者セヴィツキーが、バルトーク「管弦楽のための協奏曲」を委嘱初演したクーセヴィツキーの甥だという縁もある。そして、どちらもアメリカのオーケストラによって初演された曲。
●バルトークにはもっと農村的な作品がたくさんあるけど、「管弦楽のための協奏曲」はモダンでスペクタクルも満載、都会的なきらびやかさすらある。なので、なんとなく伊福部の土俗性にバルトークを寄せるようなイメージを抱いて臨んだが、むしろバルトークに伊福部が寄せられていた感。強靭なビートが生み出す直線的な推進力は、熱いけれどもスマート。グローカル伊福部。前半で大いに盛り上がったが、後半のバルトークも細部まで神経が行き届き聴きごたえ十分。勢い任せではなく丹念。
●同じ会場で前夜の山田和樹指揮読響と二晩続けて、日本と欧州の20世紀オーケストラ曲を並べたプログラムを聴いたことになる。自然発生的シリーズが誕生する東京クラシック音楽シーン「あるある」。
●伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」は古くからの友人であった音楽評論家の三浦淳史さんに献呈されている。三浦淳史さんは先日ご紹介した「英国音楽大全」の著者。

January 20, 2023

山田和樹指揮読響の矢代秋雄&シュトラウス

●19日はサントリーホールで山田和樹指揮読響。プログラムは矢代秋雄の交響曲とリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」で重量級。今月の山田和樹&読響コンビは3プログラムあって、最初がポゴレリッチとのラフマニノフ+チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」、次が黛敏郎「曼荼羅交響曲」+マーラー交響曲第6番「悲劇的」、そして掉尾を飾るのが今回の矢代秋雄の交響曲+シュトラウス「アルプス交響曲」。大作交響曲連峰の最後にアルプス挑戦みたいなタフな大縦走だったと思う。
●矢代秋雄の交響曲、生演奏で聴くのは初めてだが、思った以上に大編成の曲で、ピアノ、チェレスタ、ハープ2、多数の打楽器群を要する3管編成。第1楽章からストラヴィンスキー「春の祭典」の影響が色濃い。第3楽章はメシアン風。全般にストラヴィンスキー、メシアン、スクリャービン風か。作曲は1958年。お囃子風の第2楽章スケルツォが楽しい。演奏はきわめて充実。どちらかといえば前半に力点の置かれたプログラムだったと思う。後半の「アルプス交響曲」は超然とした大自然の威容よりも登山者の感情の起伏にフォーカスしたような演奏。遠くのガルミッシュ・パルテンキルヒェンよりも近くの高尾山トレッキング的な親しみを覚える。バンダが2階後方から聞こえてきたのはびっくり。終演後は拍手が止みそうで止まず、しばらく待った末に指揮者のソロ・カーテンコールに。
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●宣伝を。ONTOMOの連載「心の主役を探せ! オペラ・キャラ別共感度ランキング」第8回はモーツァルト「魔笛」。キャラ視点によるオペラガイド。打倒ザラストロ。

January 19, 2023

「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」シーズン1 Apple TV+

●あまりの評判のよさに、ついに「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」シーズン1を観てしまった。Apple TV+で配信されているアメリカのドラマ・シリーズで、アメリカンフットボールのコーチだった主人公テッド・ラッソが、イングランドのプレミアリーグの監督に抜擢されるというコメディ。なにをどうまちがってもアメフトからプレミアリーグへの転向などありえないのだが、そこはコメディなのでとことん荒唐無稽だ。主人公はオフサイドすら理解していないサッカーのド素人。でも、だれもが好きになれずにはいられないナイスガイで、最初はまったく相手にされていないが、次第にみんなのハートをつかむようになる。
●主人公が監督に就任したのはAFCリッチモンドなる架空のチーム。対戦相手にはマンチェスターシティなど実在のチームが出てくる(もちろん役者が演じている)。このドラマ、最初はプレミアリーグが舞台だからサッカー・ファンとして見どころがふんだんにあるのではないかと期待して見始めたのだが、これは大きなまちがいで、本格的な試合シーンなどは出てこない。それどころか、選手たちは到底プレミアリーグのアスリートには見えない体型だし、まれに出てくる試合場面も世界最高峰のフットボールリーグのゴージャスさはかけらもなく、全米大学選手権地区予選くらいの規模に見える。しかもドラマの設定がアメリカ人的な発想で作られていて、どうやらAFCリッチモンドを万年弱小チームとして描こうとしているのだが、野球界と違ってサッカー界に万年弱小チームは存在しない(降格があるから)。でも、そのあたりのピントのズレ具合を全部うっちゃって、このドラマはおもしろい。いいヤツ、いやなヤツ、いろんな人物が出てくるけど、悪人がひとりもいないのがよい。
●主人公がカンザスからロンドンにやってきたという設定なので、米英の違いがしばしば笑いのネタになる。たとえば主人公が記者会見で水を飲んだら、プーッと噴き出すとか(炭酸入りだから)、紅茶を勧められて「オエッ!マズッ!これホントにうまいのか?」みたいになる場面とか(カンザスの人は紅茶を飲まないの?)。いちばん笑ったのは「プレミアリーグから降格したらチャンピオンシップを戦うんだぜ!?」っていう場面。そう、イングランドの2部リーグは「チャンピオンシップ」と呼ばれるのだ。たしかにこれはわけがわからない。

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飯尾洋一(Yoichi Iio)

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