July 3, 2020

METライブビューイング ヘンデル「アグリッピーナ」MET初演/新演出


●3日は東劇へ。久々に都内の大移動だ。2020年銀座の旅。電車では普通にみんな詰めて椅子に座っているし、駅のホームでも対人距離はとられていない。都内の感染者が三桁に乗ったというニュースが報じられていることもあってか、マスク着用率はほぼ10割。現代のドレスコード。
●で、復活したMETライブビューイングでヘンデルのオペラ「アグリッピーナ」を観た。4時間の長丁場(休憩1回)ともなれば、いかにヘンデルの音楽がすばらしくとも、現代人にとってドラマとして楽しめるだろうか……とやや不安を抱きつつ臨んだが、これはまったくの杞憂。METの底力を見せつけるような最上級の舞台だった。演出、歌唱、オーケストラ、すべてを満喫。
●悪女として知られる主人公アグリッピーナは、ローマ帝国の皇帝となるネローネ(ネロ)の母親。息子を皇帝の座に就かせるために策略を巡らせる。史実に比べるとオペラの物語はマイルド。話の本筋はローマ皇帝という権力を巡る歴史劇だが、演出のデイヴィッド・マクヴィカーは舞台を現代に置き換えて、洗練されたコメディに仕立てた。ラブコメならぬパワコメ。これが実にセンスがいい。ネローネ(ケイト・リンジー)はパンクな若者で、中指を立てるわ白い粉を吸うわの大暴れ。皇帝クラウディオ(マシュー・ローズ)のストリップシーン(?)も巧みで練られている。恋人に見捨てられてやさぐれるオットーネ(イェスティン・デイヴィーズ)が酒場にやってきて歌うアリアで、「湧きあがる泉よ、水はさらさら流れて」(←うろ覚え)みたいな歌詞に合わせて、酒瓶を見つめてからグラスに注ぐあたりとか、なんともシャレていて笑う。
●歌手陣は驚異的。難度の高い歌を楽々と歌いながら、それぞれ演技の面でも芸達者。特にインパクトがあったのはポッペア役のブレンダ・レイ。これだけ歌えて、しかも演じられる人はそうそういないのでは。題名役ジョイス・ディドナートは貫禄。ピットの様子は一切画面に映らないが、ハリー・ビケット指揮のオーケストラはおそらく小編成の弦楽器で鋭くくっきりしたサウンド。重戦車のようなモダンオケ仕様のヘンデルではあるが、これだけ生気に富んでメリハリのある演奏をしてくれれば大吉。メトのピットからリコーダーが聞こえてくるのも新鮮。ちなみに「アグリッピーナ」はメトで上演されたもっとも古い作品なんだとか。1709年初演なので、ヘンデル(1685~1759)のなかでも初期の作品になる。
●終演後、カーテンの向こう側を見せてくれるのはMETライブビューイング名物だが、人々がみなヒシッと抱き合って健闘を称え合う様子に一瞬ぎょっとする。かつての普通もウィルス禍にあっては異様な光景に。いつもは「オペラの今」を伝えてくれるMETライブビューイングだが、今回ばかりは過去を懐かしむ気分になった。

July 2, 2020

東京フィル 渋谷の午後のコンサート

2019年夏の渋谷
●2日、ついに久しぶりのコンサートへ。尾高忠明指揮東京フィルの「渋谷の午後のコンサート」をBunkamura オーチャードホールで聴いた。曲はエルガーの行進曲「威風堂々」第1番、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(髙木竜馬)、シベリウスの交響詩「フィンランディア」、ジョン・ウィリアムズの組曲「スター・ウォーズ」抜粋。実はこの演奏会、曲目はほぼ当初の発表通り。本来なら満席の公演だったのだが、客席は一席ずつ間隔を開けなければならない。で、どうしたかというと、12時開演と15時開演の一日2公演になった。ただし、休憩なしの一時間公演。全曲が演奏されるはずだった「スター・ウォーズ」組曲は「インペリアル・マーチ」「レイア姫のテーマ」「メインタイトル」の3曲のみの抜粋に。それでも予定通りマエストロやソリストのトークも入り、さらにはアンコールにエルガーの「ニムロッド」まで演奏されて、実際には1時間をだいぶ超えていたと思う。
●この「渋谷の午後のコンサート」、もともとは平日昼間のリラックスムードの演奏会ではあるが、なにしろこの状況で実現したコンサートなので、やはり平時にはない特別な緊張感があったと思う。ワタシ自身にとっては2月以来の生オーケストラ。もう最初の一音からゾクゾクした。なんというぜいたくなサウンドなのか。普段のオーチャードホールの音より響きが豊かに感じられたのは、客席の半分が空いていたからなのか。気持ちのこもった演奏で、オーケストラを聴く喜びをしみじみと味わった。とりわけ「スター・ウォーズ」はキレがあって華やか。
●マエストロのトークは深刻ぶることなく軽妙なのが吉。「朝、電車に乗るときはこ~んなになって揺られているのに、どうしてここは一席ずつ開けなきゃいけないんでしょうね」。客席から笑い。実際、会場よりも渋谷までの電車のほうがよほど感染リスクが高かったんじゃないだろうか、朝でなくても。
●再開後、最初のコンサートで聴いたのが「スター・ウォーズ」。フォースの導きを感じる。しかもプログラムノートの執筆者は自分だ。ジェダイの騎士たちはフォースでウィルスを退けることができるのだろうか。接触感染を避けるために、自販機のボタンを押したりドアノブを回すときは、手を使わずにフォースを使いましょう、みたいなジェダイの感染対策を空想する。くくく。

July 1, 2020

東京アラート、じゃなくて

●今週はいくつか演奏会等に足を運ぶ予定なのだが、ここに来て東京の感染者数が増えてきたというニュースが連日報じられるようになった。緊急事態宣言を解除すれば揺り戻しがあるのは当然のこととして、問題は程度。報道では「今日は58人」みたいに生の人数が伝えられて、これだと規模感がわからないので、人口あたりの感染者数が全国と比べてどうなのかを見てみよう。
6月29日時点のデータによれば、直近一週間の人口10万人あたりの新規感染者報告数は全国では0.5人、東京都では2.6人となっている。おおむね全国平均と比べて、東京は5倍くらいの感染者数ということになる。一週間で2.6人ということは一日平均で0.37人。見慣れた数字にするために、100万人あたりの感染者数に直すと3.7人/日。この数字は正直なところ、意外と多いなという実感。東京の過去の数字と比べると5月5日あたりの水準だが、例によって数字は現実から約2週間遅れる。感染収束局面では「実際にはもっと減っているはず」と安心していられたのに対し、拡大局面では「実際にはもっと増えている」。ゴールデンウイークの頃はかなり楽観的に思っていたが、今の気分はそうではない。
●こんなタイミングに都知事選挙が重なってしまった。投票日は7月5日。ウィルスにとって選挙のタイミングなど知ったことではないが。

June 30, 2020

6月が終わる

●信じがたい話かもしれないが、今日で一年の半分が終わる。ウィルス禍と自粛要請で、もがきながら嵐が過ぎ去るのを待っていたら、何か月も経っていたみたいな前半戦だった。
●本日をもって新潟のFMラジオ局、FM PORTは閉局。同日、名古屋のRadio NEOも閉局するということで、民放FM局が一度に2局減ることに。FM PORTでは10年間続いた拙ナビによる番組「クラシックホワイエ」が6月27日に最終回を迎えた。ひたすら楽しい仕事だったので感謝しかない。終盤は在宅でリモート収録が続いていたが、最後の最後はいつも通り赤坂見附のスタジオで収録することができた。
睡眠時間の調査によれば、20代女性の平均睡眠時間は7時間49分。毎日8時間近く寝るのが普通。20代男性は7時間36分。少ないのは50代男性で6時間31分しか寝ていない。若い女性に比べてオッサンは毎日1時間20分ほど、長く起きている。その1時間20分でなにをしているのだという謎。

June 29, 2020

Jリーグ再開! まずはJ2とJ3を無観客で


●週末、ついにJリーグが再開した。まずはJ2とJ3が先に再開(J3はこれが開幕)、次週にはJ1も再開する。まずは無観客試合だが、7月10日から観客を入れる方針がすでに発表されているので、気分的には無観客の寂しさよりも再開の喜びのほうがずっと大きい。不思議なもので、ブンデスリーガやプレミアリーグの無観客試合は練習試合にしか見えないのに、Jリーグだとほとんどそんな気持ちがわかず、中継からまぎれもない本物のパッションが伝わってくる。単に自国のリーグだからなのか、すぐに観客も戻ってくるとわかっているからなのか、閑古鳥が鳴く試合にワタシが慣れすぎているからなのか、理由はよくわからない。ちなみにDAZNのハイライトを見たところ、試合によって音声を加工していないところと、なんらかのバーチャル歓声を入れているところがあって、対応はまちまち。
●ちなみにJ3の福島vs八戸では「リモート応援システム」が導入されていたので、ワタシも参戦してみた。画面を見ながら「拍手」「歓声」「激励」といったボタンをクリックすると、なんだか本当に中継から「いいぞー」とか「行けー」みたいな声が自然な音量で聞こえてくる。えっ、これって現地でも流れてるの? でも試合と中継の時差があると思うけど、どうなってるんでしょ。ビデオゲーム感が半端ないが、楽しかった。
●上の動画は、もっとも熱い試合展開になった四国ダービー、J2の愛媛vs徳島。これはハイライトで見てもスゴい試合。今節は移動距離を最小にするため、近隣チーム同士の対戦が組まれている。感染症対策ゆえのマッチメイクだが、必然的にダービーマッチだらけになっており、そのあたりも「練習試合」感の払拭に貢献していたのかも。今のJリーグは運営が頼もしいなといろんな機会に感じる。
●なお、今シーズンは全カテゴリーで降格はないが昇格はあるという変則仕様。来シーズン、その分、降格チームを増やして帳尻を合わせるということらしい。また、短期間にハイペースで試合をこなすため、選手交代は5人までに増えている。ただし交代の回数は3回までなので、どこかで二枚替え、三枚替えをしないと5人の交代枠を活用できない。これはなかなか使い方が難しいかも。現実的には選手のターンオーバーが必須だろう。数多くの選手が起用される分、若手にはチャンスか。

June 26, 2020

ジョナサン・ノットのリモートワーク

●ジョナサン・ノットの指揮が予定されていた東京交響楽団の7月28日・東京オペラシティシリーズと7月25日定期演奏会だが、かつてない形で公演が開かれることになった。ノットは来日中止。しかし、映像で出演するという。ま、まさかリモートでオーケストラを指揮するのか!?と一瞬期待するが、音声と映像の時差の問題もあってライブ映像による指揮はさすがにできないそう。ノットの映像は事前に収録されたものを使い、リハーサルで「弓使いや演奏上の注意を細かく書かれた楽譜やメモ、あるいはノット氏が過去に演奏した音源などを事前に吟味」する。リハーサルの状況はすべてノットがチェックしたうえでオーケストラにフィードバックするのだとか。ということは、これは指揮なのか、指揮ではないのか。すでに数多くの共演を重ねてきたコンビだけに、リハーサルで十分にコミュニケーションが取れるのなら、ノットの音楽を作れるのかもしれない。(たぶん)かつてないリモートワーク・コンダクターの誕生だ。
●で、プログラムは変更される。7月18日・東京オペラシティシリーズは、ブリテンのフランク・ブリッジの主題による変奏曲 (指揮なし)とドヴォルザークの交響曲第8番。7月25日定期演奏会は14時と19時の一日2公演で、ストラヴィンスキーのハ調の交響曲(指揮なし)とベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。客席は左右一席ずつ空けた座席配置。
●また、7月23日のフェスタサマーミューザKAWASAKIの東京交響楽団オープニングコンサートでも、同様にジョナサン・ノットがベートーヴェンの「英雄」のみで映像出演する。映像出演というものが実際にどんな形になるのか、イメージがわかないのだが、型破りな挑戦が成功を収めてくれることを願う。

June 25, 2020

映画「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」(テリー・ギリアム監督)


●都内でも上映館が少なくあっという間に終わってしまった映画「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」(テリー・ギリアム監督)だが、やっとAmazonのprime videoで見ることができた。原題は「ドン・キホーテを殺した男」(本来この題で呼ばれるべき作品)。テリー・ギリアムは長年にわたりドン・キホーテの映画化を試みてきたものの、そのたびに数々の災難が降りかかり、企画は暗礁に乗り上げていた。一度はジョニー・デップ主演で撮影開始にまでたどり着くも、悪天候や役者の体調不良、保険を巡る経済的問題などで途中で制作中止に追い込まれてしまう。その様子はドキュメンタリー映画「ロスト・イン・ラマンチャ」に描かれており、これ自体、テリー・ギリアムの生々しい苦悩を描いた作品として一見の価値がある。で、月日は流れ、テリー・ギリアム(1940年生まれ)もすっかり老いてしまった……と思っていたら、なんと、今年、ついに映画「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」として公開されたんである。主演はアダム・ドライバー。そう、「スター・ウォーズ」悪夢の最新シリーズでカイロ・レン役を務め、先日のジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画「デッド・ドント・ダイ」にも出ていた彼だ! もしこれで「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」が駄作だったら、ワタシはアダム・ドライバーの駄作三連発を見ることになってしまう。だが、もちろん、そうはならない。これはまぎれもなく傑作だ。あの「未来世紀ブラジル」の、そして「モンティ・パイソン」のテリー・ギリアムにふさわしい名作が誕生した。
●で、これはもう徹頭徹尾テリー・ギリアム的な映画で、思い切っていってしまえば「未来世紀ブラジル」と同じことを言っている。夢と現実、正気と狂気、聖女と娼婦といった二項対立に加えて、「過去との対峙」というテーマが加わっているのが印象的。ちなみに「未来世紀ブラジル」で主人公の役人を演じていたジョナサン・プライスが、この映画では老いたドン・キホーテとして帰還している。アップデイトされた「未来世紀ブラジル」、年輪を重ねた「未来世紀ブラジル」といってもいいかもしれない。ワタシは最後の場面に声を上げて笑ったし、ウルッと来た。

June 24, 2020

ディズニーランド再開、アジア・オセアニア問題、COCOAリリース

東京ディズニーランドが7月1日から再開されるそう。ついにというべきか、やっとというべきか。混雑を避けるために一定程度入場者数を制限するというのだが、ディズニーランドといえば混雑と行列のシンボルのような場所。いったいどんな雰囲気になるんだろう。ディズニープリンセスたちはマスクを着用して登場するのだろうか。
●さて、今回のウィルス禍で、欧米とアジア・オセアニアでは極端に被害が違うという話を何度かここで書いてきた。6月23日時点での各国100万人あたりの累計死者数を見ておくと、ベルギー837名、イギリス628名、イタリア573名、スウェーデン507名、フランス454名、アメリカ364名、ドイツ106名、日本7.6名、韓国5.5名、ニュージーランド4.6名、シンガポール4.4名、オーストラリア4.0名(参照元はourworldindata.org)。おおむね欧米とアジア・オセアニアでは死者数が2桁違う。アジアだけが少ないのなら人種や生活習慣が原因かもしれないけど、オセアニアも少ない。どうしてこうなるのか不思議に思っていたのだが、その件について神戸大学の岩田健太郎氏が「なぜ、国ごとに差が出たのか。そして第二波がどうなるか」で見解を書いている。結論部分の一言を抜き書きしてしまうと「気づくタイミングの違い」なのだが、この長文は最初から最後までとてもためになる内容だと感じた。
●厚労省の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA) がリリースされた。これはGoogleとAppleが共同開発したAPIに基づくもので、GPSによる位置情報を使わず、Bluetoothを用いて「15分以上かつ1m以内の距離を維持したとき」のみ記録される(ITmedia該当記事参照)。多くの人がインストールしないと意味をなさないアプリだが、将来的にはAndroid・iOSともにOS自体にこの機能を搭載する方向で検討中だとか。ひとまずインストールしてみた。現状、街中で感染者と接触する確率はものすごく低いと思うが、第2波が来たときに意味を持つかもしれない。

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飯尾洋一(Yoichi Iio)

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